警察の社会史 (岩波新書 新赤版 271)

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  • 岩波書店
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  • / ISBN・EAN: 9784004302711

作品紹介・あらすじ

日露戦争直後、東京市の警察署の八割が襲撃される日比谷焼打事件がおきた。だがわずか十数年後、関東大震災では「自警団」が登場し、民衆はすすんで「治安」に協力する。この変化は何を意味するのか。「民衆の警察化」が典型的に押し進められた大正デモクラシー時期を中心に、社会生活のすみずみにまで及んだ「行政警察」の全体像を解明する。

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  • 関東大震災時の自警団による蛮行の一因は警察にもあった。
    その責任を追求させないために、朝鮮人虐殺に関する裁判は茶番に等しく、加害者たちはほぼ無罪放免で終わった。

    関東大震災時の朝鮮人虐殺が後の特高や隣組に繋がっていったのに、この本を読んではじめて気付いた。

  • 警察廃止をめぐる二つの事件◆行政警察の論理と領域◆変動する警察◆「警察の民衆化」と「民衆の警察化」◆「国民警察」のゆくえ◆戦後警察への軌跡

  • 著者:大日方純夫[おおびなた・すみお] 日本近代史

    【書誌情報】
    通し番号 新赤版 271
    ジャンル 岩波新書 > 社会
    刊行日 1993/03/22
    ISBN 9784004302711
    Cコード 0221
    体裁 新書・並製・カバー
    在庫 品切れ
    https://www.iwanami.co.jp/book/b268090.html

    ※私がつけたルビは全括弧[ ]で括った。また、旧字体はそのまま残した。
    【目次】
    目次 [i-iii]

    序章 警察廃止をめぐる二つの事件 001
    一 首都の警察署が壊滅――日比谷焼討事件 002
      空前の大暴動
      「警察こそが加害者」
      警察忌避の民心
      警視庁を廃止せよ
      市会・府会が廃止意見を可決
      警視庁廃止の論理
      廃止論の敗北
    二 「警察復活に身命を賭すべし」――長野県「警廃」事件 015
      暴動化した県民大会
      警察署統廃合の波紋
      警察署が復活する
      地方警察の制度と機能
      事件の背景にあるもの

    I 行政警察の論理と領域 029
    一 民衆生活の管理――東京府下の場合 030
     (1) 売娼の取り締りと娯楽空間の規制 032
      公娼制度と貸座敷
      「醜業婦の巣窟」とされた浅草
      制限された劇場数
      寄席演芸流派の数々
      きびしい見世物興行規制
      遊技場・待合茶屋・芸妓[げいぎ]
     (2) 免許営業をめぐって 043
      古物商と質屋
      宿屋取り締りがなぜ重要だったか
      口入[くちいれ]業・代書業・案内業
     (3) 路上の風俗規制と安全対策 048
      「醜態」を取り締る
      人力車・馬車・自転車

    二 あたらしい社会問題への対応――熊谷警察署の場合 053
     (1) 工場設備と労資関係の監視 055
      工場事故報告
      工場の安全管理
      認可申請の具体例
      職工酷使・虐待を監視する
      雇傭口入業者の取り締り
      処罰された口入業者
     (2) 海外渡航者の素行調査 068
      渡航・移民業務を担当
      渡航申請にどう対応するか
      素行調査の実例
      「転航」防止の注意

    三 衛生行政の実態 077
      尾崎三良[さぶろう]と中浜東一郎の日記から
      伝染病予防の法規
      清潔法を制定する
      食品衛生行政への関与
      衛生組合の誕生
      衛生組合長の「始末書」
      衛生組合と聯合組合

    II 変動する警察 093
    一 原敬の警視庁大改革 094
      人事に大なたをふるう
      首相の直接指揮権の停止
      高等課の新設
      「民衆あっての警察」
      「警察思想」の普及をめざす
      典型的警察官=松井茂

    二 「細民」対策――貧民警察の登場 104
      急増する犯罪件数
      本所太平署の実験
      警視庁指導下の「細民救護」機関

    三 民衆騒擾にどう対応するか――米騒動前後 109
      「社会的犯罪」対策
      「正兵・奇兵」という戦術
      「米騒動」おこる
      「自衛団」の活動
      「国民警察」の提唱

    四 巡査の待遇改善と精神的統制 118
      生活難に追いつめられる巡査
      「階下の警察官」精神

    III 「警察の民衆化」と「民衆の警察化」 121
    一 欧米に学ぶ 122
      内務官僚、ヨーロッパへ
      堀田貢のみやげ話
      警察関係の新聞・雑誌

    二 宣伝する警察 127
      交通安全キャンペーンの開始
      道路取締令を契機とした活動
      安全週間の実施
      各地の動向
      小学生の警察署参観
      愛知県の警察展覧会
      和歌山県の「社会奉仕日」
      埼玉県の場合
      千葉県の場合
      全国的な展開
      ある教員の感想

    三 人事相談所の開設 152
      狙いは何か
      愛宕署がまず開設
      相談内容は何であったか
      「帰るときはぐんにゃりさせる」

    四 「自警」の組織化 162
      「自衛自警」の構想
      民間の治安維持組織とは
      警察への共鳴盤づくり

    IV 「国民警察」のゆくえ 169
    一 「帝都の暗黒時代」――関東大震災 170
      戒厳令がしかれる
      流言現象の実態
      「民衆警察=自警団」が行ったこと
      自警団をどう統制したか
      自警団員の裁判

    二 自警団とは何であったか 186
      自警団設立は自然発生か
      神奈川県の場合
      埼玉県の場合
      警察関係者の自警団評価

    三 「国民皆警察」の構想 194
      松井茂の「国民皆警察」論
      「力」の立場の浮上
      「皇室中心主義」が強調される
      世論はどうであったか
      「力士会」事件にみる世論
      欺瞞と化す便宜的「自治」
      日本全国の「警察化」
      「国民警察」構想の到達点

    終章 戦後警察への軌跡 211
    一 近代警察の歩み 212
      警察機構の成立過程
      予防こそが使命
      社会変動のなかの再編成

    二 戦後警察の成立と問題点 218
      解体された警察
      ふたたび集権と膨張の道へ
      『警察白書』を読む
      問いつめられるべき「現在」

    あとがき [227-230]



    【抜き書き】
    ※本書のルビは全括弧[ ]で、二重引用部は二重山括弧《 》で括った。
    著者による省略は (中略)、私による省略は 〔……〕で示した。


    □181-185頁 やや長め。まず、自警団員の裁判(が杜撰ということ)について個人が振り返った記録。そして著者が、警察と自警団との関係がその一因と指摘する部分。

    ―――――――――
     警備部は〔……〕司法上、「変災」に際して行われた「傷害事件」を放任することはできない、とようやく決定した。しかし、〔……〕取り締まりはするものの、その範囲を最低限にとどめようとしたのである。
     以上のような方針がかたまったことによって、横浜・東京・群馬・埼玉などで、「事件」にくわわった自警団員の検挙がはじまった。

      自警団員の裁判
     検挙者数は、吉河光貞検事の『関東大震災の治安回顧』(一九四三年に調査・研究したもの)によれば、検挙一三九件(検挙者七四五人)、ただし、東京市発行の『東京震災録』では、東京市だけで検挙一三〇〇件となっていて、大きなずれがあり、いずれが正確かはっきりしない。
     検挙者は殺人罪・騒擾罪などで起訴されたものの、裁判には裁判官と被告とのなれあいという色彩が濃かった。当時、埼玉県本庄警察署に勤務していた新井賢次郎巡査はつぎのように証言している。

    《裁判もいいかげんだった。殺人罪ではなくて騒擾罪ということだった。刑を受けたのは何人もいたが、ほとんど執行猶予で、つとめたのは三、四人だったと思う。私も証人として呼ばれたが、検事は虐殺の様子などつとめてさけていたようで、最初から最後まで事件に立合っていた私に何も聞かなかった。そして、安藤刑事課長など、私に本当のことを言うなと差しとめ、実際は鮮人半分、内地人半分だったと証言しろ、それ以上の本当のことは絶対に言うな、と私に強要した。私も言われた通り証言した。》
    (関東大震災五十周年朝鮮人犠牲者調査・追悼事業実行委員会編『かくされていた歴史――関東大震災と埼玉の朝鮮人虐殺事件』)

     このような構えで行なわれた裁判では、いったい、どのような審理となったのか。たとえば一〇月二二日、浦和地方裁判所における熊谷の虐殺事件についての公判はつぎのようであったという(同前)。

    《裁判長は被告の一人に元に余る日本刀を示して、「夜警の為にはチト大業[おおわざ]ではないか」と笑いかける。被告も笑いながら、「外にいいのがありませんでしたから。(中略)熊谷寺にゆくと誰ともなく「やっちまえ」というから、たおれていた鮮人を刺しました」と述べる。これは予審での申し立てとちがったので、裁判長が「お前は首を落とす積[つ]もりで再びやったというじゃないか」と叱ると、被告は「そうです。そうですが、首は落ちませんでした」という。そして、石を打ちつけたことについて、「黒い石はこの位でした」と大きな輪をつくる。法廷全体にクスクスと笑いがおこる、云々。》

     これが虐殺事件の裁判であった。『東京日日新聞』(一〇月二二日付夕刊)がいうように、それはまったくのところ、「事件をさばく廷とは思われぬ光景」だったのである。
     裁判はいずれも、「自警団の傷害罪は悉[ことごと]く之を免ずること」、「過失により犯した自警団の殺人罪は悉く異例の恩典に浴せしめること」という自警団側の要求をいれて、ほとんどが無罪、または執行猶予付となった(姜徳相『関東大震災』)。しかも、翌年一月の摂政(昭和天皇)の結婚にともなう減刑と、それを口実とした裁量によってほとんどが実刑をうけなかった(関東大震災五十周年朝鮮人犠牲者追悼行事実行委員会編『歴史の真実――関東大震災と朝鮮人虐殺』)。
     こうして、自警団の「犯罪」は免除された。それは、この「犯罪」行為そのものが警察側のあり方と密接にかかわっていたからであった。一〇月二二日の『東京日日新聞』で、東京の三田四国町自警団の一員はいう。

    《私は三田警察署長に質問する。九月二日の夜、××来襲の警報を、貴下の部下から受けた私どもが、御注意によって自警団を組織した時、「× ×と見たらば本署へつれてこい、抵抗したらば○しても差し支えない」と、親しく貴下からうけたまわった。あの一言は寝言であったのか、それとも、証拠のないのをよいことに、覚えがないと否定さるるか、如何。》
    (「○○」「× ×」は原文のまま)

     また、巣鴨の住人もいう。

    《われ/\が竹槍やピストルを持って辻を堅めていると、巡回の警官は禁じもせず、かえって「御苦労様」とあいさつしてあるいた。
     今さら責任を自警団にのみ負わせるとは何事だ。》

     このような発言、およびすでにあきらかにした一連の経過からみて、自警団の責任を徹底的に追及すれば、それは当然のことながら警察官憲の責任に及ばざるをえなかった。したがって、「事件」を自警団員の個別的な責任として処理するため、ほどほどのところでお茶をにごしたのである。しかも、自警団と警察のあいだには、つぎにみるように、さらに深い関係があった。
    ―――――――――


    □205頁。第IV章・第3節、松井茂の〈国民皆警察〉論を詳しくた見たのち、著者がこの構想の(理想とした)手本と、(実際の)中央集権と自治の食い違いについて論じた部分。

    ―――――――――
      欺瞞と化す便宜的「自治」
     ところで、「警察の民衆化と民衆の警察化」が提唱される際、つねにひきあいにだされたのはイギリスやアメリカであり、両国における警察と民衆の関係が羨望をこめてしきりに紹介されていた。しかし、日本警察の中央集権性を変えようという主張はあらわれなかった。この点ではイギリス、アメリカにならおうとはしない。フランスやドイツにならってつくり上げた大陸型警察の基本構造をそのままにして、イギリスやアメリカの自治的警察のもとでの警察と国民の関係をまねようというのである。中央集権性を誇り、自治的な警察のあり方を否定しつつ、「自治」が要求される。とすれば、それはもっぱら中央集権的警察の下支えとしての官治的「自治」、警察にとって役だっかぎりでの便宜的「自治」でしかない。したがって、それは一種の欺瞞に化するのである。
     一九二二年三月、自由主義的な言論人石橋湛山は、『東洋経済新報』誌上で、労働運動・政治運動に対する警察の干渉を批判しつつ、これを正すためには警察制度を根本的に改造して、政府の手から警察を奪い、地方自治体の管轄に移す以外にないと主張していた。同様な意味で、警察を民衆が支持し、後援するためには、本来、その根本的改造がなければならなかったはずである。民衆が自らの警察を回復するためには、国家の警察から自治体の警察へと転換させることが前提でなければならなかった。しかし、それは警察当局者によってはまったくかえりみられることがなかったのである。
    ―――――――――

  • 1993年刊行。著者は東京都立商科短期大学教授。日比谷焼打ち事件においては民衆の怨嗟の対象となり、派出所などが焼打ちにあった警察。本書は、その警察の民衆への浸食を、建前とその存立基盤との乖離を描写しつつ、関東大震災後までの経緯を論じていく。本書の意味は、警察が発行している文書(例えば、「警察叢書」(埼玉県警察署の銘)、「警視庁令・各種規則」「警視庁編大正大震火災志」外)に基づいて叙述する点。また、司法警察面ではなく、行政・衛生・民事司法に警察が関わるという、現在とは少々乖離した実態が開陳される点だ。
    後者は身体拘束に影響力を行使できる官憲に情報集約される実相が垣間見れ、建前で標榜される「警察の民衆化」とのスローガンが、末端警察官の反体制派化の抑止の方法論と完全に乖離している状況も明快に。なお、本書の感想とは離れるが、本書のような戦前の文献を丹念に渉猟・集積し、裏面を解読していく作業は、立花隆著「日本共産党の研究」など、ジャーナリストにかつて広く見られた手法。本書のテーマこそジャーナリストが良くなしうるところだが、昨今の現状では見受けられず。気骨と力量を備えたジャーナリストはいないのかな…。
    本書で残念なのは、戦後直後や現代(刊行当時でいいが)と彼の時代との制度上の比較が余りない点。一覧表にでもしてくれたら実に意義深いのだが

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  • 新書文庫

  • なるほど日本の法体系も大陸型であるのに欧米系に
    するのは無理があるのでは?

    警察→民衆の警察化
    →天皇の警察

  • 日本の警察の2つの大きな事件として
    1905年、日比谷焼き討ち事件
    1926年,長野県警廃事件
    を紹介している。

    行政警察の今の制度になるまでの紆余曲折の説明がある。

  • 近代警察のお仕事入門書。引用にもあるように、元々警察行政は風俗を幅広くかつ細部まで取り締まるものだったということを具体的に説明。その後時代の変化に対応しどのように民衆に接近していったのかを追う。
    原敬内務時代の警視庁大改革が気になるぞ。

  • [ 内容 ]
    日露戦争直後、東京市の警察署の八割が襲撃される日比谷焼打事件がおきた。
    だがわずか十数年後、関東大震災では「自警団」が登場し、民衆はすすんで「治安」に協力する。
    この変化は何を意味するのか。
    「民衆の警察化」が典型的に押し進められた大正デモクラシー時期を中心に、社会生活のすみずみにまで及んだ「行政警察」の全体像を解明する。

    [ 目次 ]
    序章 警察廃止をめぐる2つの事件
    1 行政警察の論理と領域
    2 変動する警察
    3 「警察の民衆化」と「民衆の警察化」
    4 「国民警察」のゆくえ
    終章 戦後警察への軌跡

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著者プロフィール

1950年、長野県生まれ。1973年、早稲田大学第一文学部卒業。1978年、早稲田大学大学院文学研究科博士課程修了。現在、早稲田大学名誉教授、博士(文学) ※2022年9月現在
【主要著書】『小野梓 未完のプロジェクト』(冨山房インターナショナル、2016年)、『「主権国家」成立の内と外』(日本近代の歴史2、吉川弘文館、2016年)、『世界の中の近代日本と東アジア』(吉川弘文館、2021年)

「2022年 『唱歌「蛍の光」と帝国日本』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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