シュンペーター: 孤高の経済学者 (岩波新書 新赤版 273)

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  • Amazon.co.jp ・本 (216ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004302735

作品紹介・あらすじ

「不況は"お湿り"」と喝破したシュンペーター。ケインズと並び20世紀を代表するこの経済学者は、ヨーロッパ、アメリカでの生涯を通して、資本主義の本質を問い続けた。三度の結婚、大蔵大臣としての挫折など起状に富んだ軌跡を追いながら、今こそ光彩を放つそのイノヴェーション論、景気循環論、企業者像、さらには社会主義観を描く。

感想・レビュー・書評

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  • シュンペーターというと、あまり「人となり」が知られていない。本書を読むまでは自分もよくは知らなかった。

    シュンペーターのステレオタイプなイメージというと「イノベーションという概念を提唱」というくらいしかないのだが、本書を読むとその人となりと思想から、かなり具体的なイメージとして浮かび上がってくる。

    シュンペーターとマックス・ウェーバーとの確執、ケインズへの挑戦、マルクス主義への「読み」など、他の経済学者や理論との対比で読ませるところがかなり面白いし、最終章ではヴィトゲンシュタインまで登場する。くわえて世紀末のウィーンで青年時代を送ったことなどもいろいろな面で「おもしろい」一冊となっている。

    100年単位で経済を考える、というシュンペーターの経済に対する考え方はどちらかというと「哲学」の考え方である。彼は経済学者というよりも哲学者寄りの考えをもち、「第三者」としての「孤高の経済学者」というタイトルにある「シュンペーターの立ち位置」が後年に強く立ち現れたという印象を持った。

    この世に経済というものが存在する限りシュンペーターの影響は免れないことがよくわかった一冊。

  • イノベーション

    この言葉を聞かない日は無いと言えるくらい、よく聞く言葉だ。特に会社で、ニュースで、何かしらのプレゼンテーションで、つまりは仕事をする上で何か指針となる言葉、目標とすべき価値観としてその言葉は存在する。
    イノベーションは技術革新とも言われる。
    技術の革新。
    技術は日々進歩し、改善され、無数の商品が生産されている。

    シュンペーターは資本主義の本質をそのイノベーションと捉えた。イノベーションとは企業者の「新結合」の遂行である、と。

    新結合、つまり今まで使われていた生産手段が別の経路において使用される様な、示唆に富んだ概念だ。単純な技術革新という言葉では掴みきれない訳語の素晴らしさがこの本にはある。

  • 20世紀の偉大な経済学者であるシュンペーターについて、その生涯と彼の経済理論をまとめた本。

    シュンペーターは、同時代のもう1人の偉大な経済学者であるケインズとは、多くの面で対照的な人物である。20代の若さで主著をものしたシュンペーターに対して、ケインズは非常に遅咲きで、その主著は50代になって書かれた。ケインズはその生涯を通じて経済政策の現場に関わり続けたが、シュンペーターは直接経済政策に関わったのは一時期だけであり、多くの時期をアカデミズムの中で過ごした。

    シュンペーターが見たのは、重工業化を進め、変化のただ中にあるドイツ・オーストリアの経済であり、ケインズが見たのは、すでに産業革命を経て高い生産能力を持ちながら不況にあえぐイギリス経済だった。

    しかし、これらの違いに加えて、両者は経済を見る視点に決定的な違いがあった。ケインズが産出量の水準に変化のない「静態」の経済に対象を絞り、不況の原因を明らかにしようとしたのに対して、シュンペーターは生産関数自体が常に変化する動態的なプロセスを描き出そうとした。

    シュンペーターは、ワルラスの一般均衡理論を学び、その理論によって記述することができる不況からの連続的な回復の過程といった経済の静態的な変化を徹底的に理解していた。一方で、マルクスの『資本論』も研究し、経済システムの構造的な変化という視点も、彼の中に植え付けられていった。ただし、マルクスとは異なり、シュンペーターが考える経済の変革を行う主体は、新しい技術を想像し、新しい製品を作りだし、新しい市場を開拓し、新しい経営組織を生みだしていく企業者であった。

    このような背景のもとに、「新結合(イノヴェーション)」と彼が呼ぶ「生産的諸力の結合の変更」を動因とする経済発展の理論を、シュンペーターは構築する。

    新結合は、既存の生産ストックを新しい生産方法や製品へと転用することで生まれ、静態的経済では生まれることのなかった企業者利潤を創造する。経済の成長を労働人口や貯蓄などの利用可能な資源の増加ではなく、それらが転用されることによって生まれる新結合に求めたということが、彼の経済学のこれまでにない新しい視点である。

    新結合は、一時的に既存の生産手段の生産量を減らす。また、新結合が必ずプラスの企業者利潤を生むとは限らない。これらのリスクと負担を担うのは、「銀行の信用創造」である。銀行のこのような機能を重視したのも、シュンペーターの理論の特徴である。

    シュンペーターは、『経済発展の理論』を完成させた後、『景気循環論』や、帝国主義論に関する論考である『諸帝国主義の社会学』などを著している。これらの著書は、『経済発展の理論』ほど注目されることはなく、経済学者の大きな流れもケインズ学派へと移っていった。

    しかし、シュンペーターは教育者としては非常に大きな足跡を残し、1930年代のハーバード大学経済学部の黄金時代を作り上げた。シュンペーターは、具体的な処方箋としての経済政策を語ることからは距離を置いていたが、経済学を使って現実社会で起きていることをどれだけ理解できるかということには、非常に大きな関心を持っていた。ハーバードでの教師時代を通じて計量経済学の発展に大きく貢献し、また表面的には激しく対立していたケインズ理論についても、多くの教え子と議論し、その現実社会に対する説明力を評価していた。

    このような教育者としての面でも、シュンペーターは20世紀の経済学の巨人と言ってよいであろう。

    彼が理論と教育の両面を通じて経済学に残した影響の大きさを、非常によく理解できる本だと思う。

  • 伊東光晴 根井雅弘 
    シュンペーター

    シュンペーターの経済学の体系、思想背景、キーワードがまとまった本。


    資本主義の本質を企業者のイノベーションとして、資本主義の発展から消滅、ポスト資本主義の社会主義までのプロセスを論理的に展開する凄さ。経済は生きていることが よくわかる


    組織の巨大化により、企業者が組織に埋没し、資本主義が消滅していく姿は 現在の姿を予言している感じ


    ケインズとシュンペーターの比較は面白い
    *シュンペーターがケインズを敵視していたのに対し、ケインズはシュンペーターに無関心
    *出自の違い(世界国家イギリスのエリートと多民族国家オーストリアのエリート)
    *経済のアプローチの違い(静態論と動態論)
    *現実政治への関与度の違いなど


    資本主義の本質
    *静態的な資本主義はありえない
    *資本主義の本質は 企業者による創造的破壊(新結合)

    資本主義の発展から消滅のプロセス
    *好況、恐慌、不況を通じて資本主義は発展〜不況は 新結合(イノベーション)によって創造された新事態に対する経済体系の正常な適応過程である
    *組織の巨大化と資本主義に批判的な中産階級を生み、企業者は組織に埋没し、組織と制度に代わり、資本主義が消滅


    静態=産出量に変化がなく、生産、交換、消費が常に同じ規模で循環する状態。動態=それらが変化する状態

    資本主義経済の動態的分析
    外的諸要因に依存しないで、経済体系を一つの均衡から、もう一つの均衡へ推進させることを説明する

    資本主義の発展過程1
    *自由市場の下で 企業は最小費用で最大生産を実現し、消費者主権を実現する経済をつくる
    *消費者利益は 公共の福祉の実質的内容となる

    資本主義の発展過程2
    資本家が株所有者にすぎなくなり、官僚による管理が標準化され、技術革新が巨大企業の組織内により行われる

    社会主義
    *人間の生活において最善のものを経済的な配慮から解放するために社会主義が見られる
    *社会主義は 資本が飽和し官僚化され、人口が不変で、支配と権力の本能が消滅した経済から生まれる

    社会は社会主義の方向に進むとしても〜そのことは私が社会主義を望んでいることを意味しない

    ケインズへの批判
    *政府の政策介入は 企業者の行動を抑え込む
    *大衆政治の中、拡大した公共投資は 利益を受ける企業の力によって縮小できず、不況期の財政赤字を好況期の財政黒字により償還できない

    経済発展の本質
    以前に定められた静態的用途に充てられていた生産手段が、経路から引き抜かれ、新しい目的に役立つよう転用されることにある〜この過程を新結合の遂行という

  • 気にはなっていたが読んでなかったシュンペーターを読むための導入として
    ただ、ケインズの熱狂の影にいた
    くらいしか分からなかったが
    シュンペーターの著作と類書を読み続ける

  • 本書は若いときにウィーンで一番のドン・ファン,ヨーロッパで一番の馬乗り、世界で一番の経済学者になる野望を持っていたシュンペーターの生涯と理論をえがく。世界一の経済学者になる野望は、ケインズの出現により打ち砕かれる。ところが、経済の発展は、革新的企業家だという彼の主張、現代に生き返る。

    大阪府立大学図書館OPACへ↓
    https://opac.osakafu-u.ac.jp/opac/opac_details/?reqCode=fromlist&lang=0&amode=11&bibid=2000244959

  • 34110

  • 目次
    序章 シュンペーターとケインズ 1
    1 若き彗星  11
    2 政治の季節  39
    3 偉大な教師の時代  85
    4 シュンペーターの思想と理論  113
    (1)経済理論
    (2)帝国主義論  163
    5 シュンペーターと現代  193
    あとがき  209

    ケインズは需要側をフォーカスしたのに対し、シュンペータは供給側をフォーカスした。不景気の際、ケインズは有効需要の増加を説き、シュンペータは供給サイドの努力・イノベーションを求めた。

    メモ
    p59 第一次大戦後のオーストリアの戦時負債対策、いかにして消却するか。
     1 戦時負債を払い続ける(インフレ策)
     2 戦時負債を打ち切り、新しい国家をその支払い義務から解放する(革命)
     3 戦時負債を増税によって吸収する。所得税ではなく財産税。

    p71 シュンペータの社会主義観
     シュンペータの無意識な資本主義の発展理論
      最小の費用で最大可能な財貨量の生産、消費者主権
      企業の巨大化・社会全体による管理、資本家は株の所有者にすぎない
     社会主義への移行は、資本主義が十分成熟しきってから。
     ロシア革命は時期尚早であった。産業労働者が人口のわずか5%だった。
      ソビエト社会主義が、工業化を進め、他方で人権が失われていくことを、シュンペータは見抜いていた。

    p100 シュンペータはケインズを評価していたが、ケインズ主義者にならなかった。マルクスを高く評価していたが、マルクス主義者にならなかった。

    p114 シュンペータの「経済発展の理論」(1912年)において、不況は「新結合」(イノヴェーション)によって創造された新事態に対する経済体系の正常な適応過程であり、ケインズ理論のように、有効需要の不足ゆえに生じたものではなかった。

    p119 経済発展の本質は、以前には定められた静態的用途に充てられていた生産手段が、この経路から引き抜かれ、新しい目的に役立つように転用されることにある。

    p127 ニュートンから「力学的アナロジー」に基づく静学的均衡の概念
       ダーウィンから「生物学的アナロジー」に基づく動学的進化の概念
       マーシャルは経済学は本来後者をモデルにすべきであって、前者はそのための序論に過ぎないと考えていた。

    p128 新結合とは、「生産的諸力の結合の変更」
     1 新しい財貨、新しい品質の財貨の生産
     2 新しい生産方法の導入
     3 新しい販路の開拓
     4 原料あるいは半製品の新しい供給源の獲得
     5 新しい組織の実現

    p150 資本主義の本質は、企業者の新結合の遂行によって生産関数をたえず変革することにある。一方、封建経済も社会主義経済も静態的である。

    p177 保護関税への批判
     保護関税→カルテル・トラストの形成→ダンピングと資本輸出をテコにした闘争→帝国主義の定着

    p200 シュンペータ経済学の今日的意味
     経済にとってもっとも大切なことは、技術革新であり、新製品による新市場の創設であり、コスト低下にもとづく供給曲線の下へのシフトであること。

    p201 ケインズ経済学がアメリカに移植されたとき、社会全体の有効需要を操作し、所得水準と雇用水準を適正に保つだけになった。経済にとって重要なのは、需要サイドを操作するだけでなく、供給サイドの革新が必要である。供給サイドの革新をおこたり、有効需要操作だけを行った国は国際競争に敗れていった。

  • 勉強になった。ケインズ、ガルブレイス、シュンペーターと伊東先生の3部作を通して読んだので、現在経済学の端緒を掴めた。経済学は、数学ではなく社会科学という考えのシュンペーターに共鳴できた。

  • 経済発展の要素として「新結合=イノベーション」を発見した経済学者シュンペーターの伝記&理論解説書。シュンペーターの生きた時代背景がわかるとともに、『経済発展の理論』(岩波書店)のエッセンスが端的に説明されている。

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