中世倭人伝 (岩波新書 新赤版 274)

著者 :
  • 岩波書店
3.58
  • (5)
  • (4)
  • (15)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 117
感想 : 7
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (230ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004302742

作品紹介・あらすじ

日本、朝鮮、中国に囲まれた環シナ海域-。そこは人と物の交流が活発に行なわれ、文明伝播の場として歴史の重要な舞台であった。中世には倭寇が跳梁し朝鮮や明との緊張が高まる一方で、倭人たちによる密貿易も拡大してゆく。国境を縦横に越え、境界の地に跋扈する彼らの活動を、新たに朝鮮の史料を駆使して描き、雄大な中世像を提示する。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • MS5a

  • 古本で購入。

    朝鮮王朝(いわゆる李氏朝鮮)の公式記録『朝鮮王朝実録』を根本史料に、15~16世紀の日朝間あるいは環シナ海世界を股にかけた「倭人」たちの姿を描き出し、線から面へと移行していく日朝交流を見ていこうという本。
    特に朝鮮半島東南部沿岸に成立した3つの倭人居留地・港町を総称した「三浦」をクローズアップして、朝鮮社会に異分子として入り込んだ、中世日本の本質をそこに探ろうとする。

    華夷思想とそこから来る小中華主義によってガチガチになった朝鮮政府と、わずかな隙に食い込んで利益を得ようとする倭人との応酬が印象的だ。
    地図上で見れば点にすぎない三浦が朝鮮社会に与えた経済的影響の大きさ、失敗に終わったとはいえ対倭人強硬策への反発としての武装蜂起など、『実録』に描かれた倭人の放つエネルギーがすさまじい。

    対馬の宗氏の動きがおもしろい。
    室町幕府の守護という立場に立脚しながら、交易を主な生業とする対馬人として、日朝双方を向いた両面外交を繰り広げている。倭人は日朝の境界地域に「マージナル・マン」として生まれたが、対馬は一国の単位でマージナルな存在だった。
    朝鮮国内のみならず、日本国内(西国大名)にも「対馬はもと朝鮮の地なり」という認識があったという点、対馬の特異さを表している。そのあたりが、現在の朝鮮人による対馬への入り込みを招いているかもしれない。

    海から見た中世日本の側面がわかる良書。

  •  「倭人」という呼称がどこで出てくるかというと、かの有名な邪馬台国の史料として知られる「魏志倭人伝」である。「倭人」は日本人の母体となった種族であるが、「倭人」という呼び名自体はあくまで中国の人が形質・風俗・習俗・言語等の共通性に注目してくくったものに過ぎない。「倭人」の分布の中心は九州にあったらしいが、それと類縁関係にある「倭」、「倭種」は、日本列島を超えて、朝鮮半島南部、山東半島、江南地方を含むシナ海域にまでひろがっていたという。だから「倭寇」「倭人」「倭語」「倭服」などという場合の「倭」は決して「日本」と等置できる語ではないそうだ。この地域に居住する人たちは、なかば日本、半ば朝鮮、なかば中国といったあいまいな人間類型を「マージナル・マン」と呼ぶ。

     本書はいわゆる「倭寇」が東アジア(朝鮮・中国)にもたらした功罪について論じられている。なかでも「朝鮮王朝実録」に登場する「倭人」について述べている。特に「倭寇」といわれる主に「倭人」のしわざと考えられた海賊行為の記述の中に、当時朝鮮が「倭人」をどうとらえていたか見出している。

     倭寇といえば昔日本の海賊が明や朝鮮の沿岸地帯を荒らしまわったぐらいの認識しかなかったが、実際にはその海賊の中には明人や朝鮮人も交じっていたり、また主導していた人物もいた。しかも一方的に倭寇が荒らしたわけではなく、明や朝鮮の商人が介在し、密貿易に加担している者も少なからずいたということだ。だから明朝も朝鮮王朝もなかなか倭寇をうまく取り締まることができなかったのだろう。

     本書は「実録」の引用が極めて多数出てきて、読み下し文であるものの、大変読みづらかった。ただ現在の地図のほかに当時の絵図面を用いての説明は、昔の様子を彷彿とさせ引き込まれるようだった。

  • 本書で、オホーツク文化と、環シナ海文化の違いを見つけようとしました。

    2つの文化は、日本が面している2つの文化のはずなのですが、あまりにも違うような気がします。

    中世の倭人に関する記述から、環シナ海文化を捉えるときに、日本側からの視点をまず確立したい。
    次に、朝鮮半島の文化における位置付け。
    さらに、台湾、沖縄における位置付け。
    最後に、中国における位置付けを捕らえられればと思います。

    本文から、すべてはわからなかったが、勉強を始めるきっかけになりました。

  • 日本の中世がいかにめちゃめちゃだったかわかりスガスガしい。

    居留地倭館でどんなだったかも想像するに余りある。

    韓国人はこのころから理詰めで日本人を説得しようとしてるけど
    ムリムリ!
    日本人相手には道理・正義うんぬんより、一発のゲンコツだってのが。わからないかな~

  • 《出版元内容説明》
    日本、朝鮮、中国に囲まれた環シナ海域―。そこは人と物の交流が活発に行なわれ、
    文明伝播の場として歴史の重要な舞台であった。中世には倭寇が跳梁し朝鮮や明との
    緊張が高まる一方で、倭人たちによる密貿易も拡大してゆく。国境を縦横に越え、境
    界の地に跋扈する彼らの活動を、新たに朝鮮の史料を駆使して描き、雄大な中世像を
    提示する。
    《目次》
    「魏志倭人伝」によるプロローグ/1:国境をまたぐ地域(倭寇と朝鮮;地域をつく
    るもの;境界と国家)/2:「三浦」―異国のなかの中世(都市「三浦」の形成;周
    辺地域への影響;三浦の乱)/3:密貿易の構造(三浦の乱後の「日本国使臣」;倭
    物にむらがる人々;〈環シナ海地域〉の成熟);中華の崩壊によるエピローグ

全7件中 1 - 7件を表示

著者プロフィール

1949年、大阪市生まれ。東京大学大学院人文科学研究科修士課程修了。博士(文学)。
同大学史料編纂所、同文学部・人文社会系研究科、立正大学文学部を経て、現在東京大学名誉教授、公益財団法人東洋文庫研究員。
専門は日本の対外関係史。国家の枠組みを超えて人々が活動し、「地域」を形成していく動きに関心をもち、あわせてかれらの行動を理解するのに不可欠な船、航路、港町などを研究している。
おもな著書に、『中世倭人伝』(岩波新書、1993年)、『東アジア往還─漢詩と外交─』(朝日新聞社、1995年)、『世界史のなかの戦国日本』(ちくま学芸文庫、2012年)、『日本中世境界史論』(岩波書店、2013年)、『日本中世の異文化接触』(東京大学出版会、2013年)、『古琉球─海洋アジアの輝ける王国─』(角川選書、2019年)ほかがある。

「2021年 『東アジアのなかの日本文化』 で使われていた紹介文から引用しています。」

村井章介の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×