思想としての近代経済学 (岩波新書 新赤版 321)

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  • Amazon.co.jp ・本 (246ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004303213

作品紹介・あらすじ

近代経済学はどのような価値観、社会像にもとづいて形成されたのか。ワルラス、シュンペーター、ケインズ、ヒックスらの描いたビジョンを検討するとともに、壮大な理論体系の構築をめざしたマルクス、ウェーバーらの思想をも根底から問い直す。現代社会の厳しい変貌を見すえつつ従来の通説にとらわれずに展開する、創見に満ちた経済学観。

感想・レビュー・書評

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  • 学生の時に買って、意味が分からないまま何度も読み返している本。ようやく、かするように理解のとば口ができてきたように思う。1994年の本だが、今読み直してもなお実に新しい。

    セイ法則を基軸にしてリカードからケインズまでのマクロ経済学の流れを概説している。実に短いページ数によくもまあ簡潔に人物をまとめられるものだ。マックス・ウェーバーのところなどはびっくり脱帽である。森嶋はマルクスやケインズを高く評価する。それは吉本隆明のようにひいきのひきだおしと情熱で敵対者を罵倒してなすのではない。限定された条件下での、例えば産業革命時のイギリスとか、第一次世界大戦後のアメリカやヨーロッパといった条件下でのマルクスやケインズの理論の評価と、彼ら自身が他の条件ではそれが成立していないことを自覚していた点を評価しているのだ。マルクスとマルクス経済学者の違いが際立ってよく理解できる。

    ケインズがドイツに賠償を求めなかったときの勇気も森嶋は高く評価する(森嶋も大変に誇り高い人物だった)。周りが全て敵だらけでも、ドイツの賠償金を低く抑えようとケインズは迎合しない。それが未来におけるケインズの評価を不動のものにしたのである(一部分は)。「ケインズの正義感は、不当な集団リンチを許さなかった」のである。

    さて、不当な集団リンチを毎日のようにやっている我々の社会である。ケインズの態度(ケインズの学問だけではなく)から学ぶところは実に多いのではないだろうか。

  • 本書の中で特に惹かれた内容は

    ミーゼスに対する批判として

    経済活動としての自由とは、法律で許されている範囲内での自由であり、無法者に大暴れの自由を許したのではない。

    イギリスの阿片貿易に対してミーゼスが「自由貿易の観点からは毒物の売買についても障壁が設けられるべきでないということ、および各人は自分の体に害のある享楽は自分自身の力で断つべきだということは、社会主義者や英国嫌いの人が言い立てるほど卑劣でもなく、さもしくもない。」と記述していることに対し

    自由放任とは完全な自由放任でなく、現行法規内での自由放任である。その上、たとえ合法的な行為である場合でも、その効果が経済的効果だけでなく、生理的効果や政治的ないし倫理的な効果を伴う場合には、経済理論だけで自由放任の良し悪しの判定をすべきではない。

    インド人が隷従させられたことにより自尊の誇りを失って、ゆがめられてしまったことにはなんの考慮も払っていない。

    政治学や社会学や倫理学を総動員して、総合的に判断しなければならない大問題への結論を、経済理論の一片の知識だけから引き出すという誤謬を、彼は犯している。

    「主権は絶対だ」とイギリス人は考えるが、そうならインドや中国の主権も絶対である。そのことを認めない帝国主義の正当化は、全く一方的である。

    「自由は常に善をもたらす。毒物を買った人が破滅したなら、それは毒物の自由販売の責任でなく、自由意志で毒物を拒否できなかった本人の責任だ」と主張しているが、これも全くの詭弁の類である。

    ヤクザや麻薬業者が自由に行動すれば、一体何が起こるかわからない。
    現実の資本主義経済は多くの点で不自由な拘束された社会である。

    と反対意見を述べられていること

    ケインズは経済学者に、冷たい理性と温かい心と、あるいはそれにも増して勇気が必要なことを実証してみせた。

    現在の「発達」した社会的な意思決定論や正義論の立場から見れば、ケインズの価値観の構造は単純素朴である。しかし恐らくこのような「進んだ」哲学的思考からは、なにも行動しないことが「正義」だと結論され、ケインズのような発言をしないばかりか、ケインズが発言しても無視されるであろう。もしそうなら、これらの進歩した哲学とは一体何なのか。

    森嶋さんの感情的な意見が特に印象深かったです。

  • ※入門書ではありません。

    【書誌情報】
    著者 森嶋通夫
    通し番号 新赤版 321
    ジャンル 経済
    刊行日 1994/02/21
    ISBN 9784004303213
    Cコード 0233
    体裁 新書 ・ 並製 ・ カバー ・ 254頁
    在庫 品切れ

     近代経済学はどのような価値観,社会像にもとづいて形成されたのか.ワルラス,シュンペーター,ケインズ,ヒックスらの描いたビジョンを検討するとともに,壮大な理論体系の構築をめざしたマルクス,ウェーバーらの思想をも根底から問い直す.現代社会の激しい変貌を見すえつつ従来の通説にとらわれずに展開する,創見に満ちた経済学観.
    [https://www.iwanami.co.jp/book/b268140.html]


    【目次】
    はしがき [i-ii]
    目次 [iii-v]

    序章 近代経済学私観 001

    第I部 ビジョンと理論――市場の多様化と価格機能 
    1 リカード―分配と成長の一般均衡理論 014
    2 ワルラス(1)――「価値自由」の提唱 026
    3 ワルラス(2)――大衆間の完全競争 038
    4 シュンペーター(1)――エリート主義の経済学 050
    5 ヒックス――市場の類型学 063
    6 高田保馬――人口と勢力 075
    7 ヴィクセル――資本理論と人口 087

    第II部 ビジョンの充実――経済学と社会学の総合 
    8 マルクス―経済学的歴史分析 100
    9 ウェーバー(1)――合理的行動の社会学 113
    10 ウェーバー(2)――倫理と経済 125
    11 ウェーバー(3)――私企業官僚制 137
    12 シュンペーター(2)――エリートの転進 149
    13 パレート(1)――脱合理的行動の社会学 162
    14 パレート(2)――エリート層内の興亡 174

    第III部 パラダイムの転換――自由放任から修正主義へ 
    15 フォン・ミーゼス(1)――自由放任の予定調和 188
    16 フォン・ミーゼス(2)――社会主義と価格機構 200
    17 ケインズ(1)――新ヨーロッパの構想 213
    18 ケインズ(2)――セイ法則の清算 226

    終章 若干の結論的覚え書 239

  • 資本主義の体制としてセイ法則が成り立たない状況であるがゆえに、純粋な資本主義の均衡は成り立たない、ということでサッチャーのような自由主義は失敗しており、ケインズ的考えが当てはまるということを述べている。

    ・時系列的な基準でない考え方(後進になるほど前時代のものはいっしょくたに与えられる)
    ・それでいて歴史の事象を時系列的に説明

    しているため、第一次世界大戦〜戦後までの間のイメージが非常につかみやすかった。資本投資機会が充分にないことで供給に等しい需要は発生しない。資本の供給量が減少し、労働側の需要も減少していき、労働の供給過剰は一掃される=失業下での一般均衡が起こる。そのため需要機会を発生させるための政府支援策が必要。

    せっかくなので、もう少しケインズについて詳細を説明してほしいところ。

    経済学という枠のみならず、広く帰納法的な社会科学的にも捉え、また公論や演繹的に純粋科学としても捉え、行ったり来たりしながらバランスの良い議論だと思っている

  • いろいろな経済学説を森嶋先生が網羅的に解説
    経済学説史の入門として最適

  • セイの法則が実際の社会では成立しない。
    材の種類も技術とともに変化する。
    耐久財のジレンマ=耐久財のレンタル価格は市場金利に連動する。供給が多ければ価格が下がって調整されるには、市場金利が下がることになるが、それはありえない。

    官僚制の問題=私企業であっても労働者以外は官僚と同じ。
    官僚あがりの経営者=イノベーター、起業家ではない。

    耐久財のジレンマを解決していないことが問題。
    ヒトラーの時代は軍備がある程度、セイの法則を支えた。

    セイの法則が迷信なら神の見えざる手も迷信。

    トービンのq理論。
    広い意味の経済学は帰納法的、経験主義的。
    狭い意味の経済学は公理論的、演繹的、数学的。

    フォンミーゼスとハイエク=自由放任主義

    第一次世界大戦は奇妙な形で集結した。ドイツ領内には攻め入っていない。ドイツの政治的混乱が原因。

    寛容心は相手の発展で補われる。ドイツの賠償を免除する理由。

    賃金率が伸縮的でもセイの法則は成立しない。更に賃金は下方硬直性がある。
    資本財と労働市場以外では、価格調整機能は機能する。

  • 著者の森嶋通夫(1923-2004年)は、ノーベル経済学賞の候補にも何度か名前が挙がっていて、「ノーベル経済学賞に最も近かった日本人」と言われています。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)名誉教授・元LSE Sir John Hicks Professor、大阪大学名誉教授で、LSEでは、1978年に Suntory Toyota International Centres for Economics and Related Disciplines (STICERD) という研究所の設立に貢献し、初代所長に就任しました。数理経済学者として、レオン・ワルラス、カール・マルクス、デヴィッド・リカードなどの理論の動学的定式化に業績を残しました。
    本書では、何故、現実の経済を分析するのに経済学だけでは足りないのかについて、リカード、ワルラス、シュンペーター、ヒックス、高田保馬、ヴィクセル、マルクス、ウェーバー、パレート、フォン・ミーゼス、ケインズといった経済学者の業績と思想を振り返り、経済学において現実を反映した理論を構築するためには、社会学の視点を導入する必要があると結論付けています。
    著者によれば、近代の資本主義は、狭義の資本主義部門と福祉・教育部門の複合体であり、二つの部門は必ず対をなして存在し、バランスを保って発展しなければならず、一方を欠く場合には、他方は長期にわたって存続することは難しくなります。もし福祉部門が過大になれば、資本主義部門はそれを支えることができず、その結果、福祉部門を縮小し過ぎると、資本主義部門に対する批判が高まり、資本主義を維持するためにも、福祉の拡大を認めざるを得なくなるということです。即ち、近代資本主義は両者のバランスの上に初めて存命できるのであって、純粋な「資本主義」経済は欠陥体制であると言っています。

  • 題名は厳密に解すと『思想である経済学』かと。
    正義・公正の実現を経済の面から志向する学問こそが経済学であり、この観点から経済学の巨人の考え方を解説する本書。
    この立場からすれば当然ながら子供騙しの厚生経済学は軽視されるし、サッチャーの政策につき根源的な批判を加えるのは当然のこと。
    何より思うのは現在の経済学者と名乗る方々と基本的な思考方法が異なっているように思われる、つまりは「経済学」と銘打ちながら全く別物としか思えないということ。
    そしてどちらが学問・教養として豊饒であるかは自明の理であります。

  • 経済学と社会学、総合の展望

    マルクス
    ウェーバー
    シュンペーター
    パレート
    高田保馬

  • 『なぜ日本は没落するか』の故 森嶋通夫氏の近代経済史。長きにわたりイギリスで経済学の教鞭をとられていた氏の経歴にあってケインズ登場が終点。

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