女帝のロシア (岩波新書 新赤版 325)

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  • Amazon.co.jp ・本 (234ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004303251

感想・レビュー・書評

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  • 偶々眼に留めて興味を憶えたのだったが、出逢って善かった一冊だと思った。図書館で拝借した。
    「帝政ロシア」というのはロマノフ朝の皇帝達が君臨していた帝国だ。日本史で言えば「豊臣家が滅ぼされてしまう少し前」といような17世紀から、「第1次大戦の頃」に相当する20世紀まで、300年間以上も続いた。
    このロマノフ朝の帝政期、「18世紀の100年間」に関しては4人の女帝が登場し、彼女達の在位期間は通算で60年間余りになる。ロシアの18世紀は「女帝の世紀」であった。
    この「女帝の世紀」に在って際立つ存在であるのが“大帝”とも呼ばれるエカテリーナ2世である。本書はそのエカテリーナ2世の生涯を追う史伝である。
    加えて本書では「もう一人のエカテリーナ」に関しても説いている。エカテリーナ・ダーシコワという女性だ。ダーシコワ公爵夫人として知られている。ダーシコワ公爵夫人はエカテリーナ2世の同性で年少の友人という存在感であったのだが、エカテリーナ2世の下で「初めての本格的なロシア語辞典」を刊行することになる<ロシアアカデミー>の総裁という要職を務めた経過が在る。
    更にエカテリーナ2世の時代と言えば、グリゴーリー・ポチョムキン公爵も忘れる訳には行かないが、両者が個人的な関係を深めてポチョムキンが女帝の政務を助けるようになる経過や、“新領土総督”という感で大活躍という経過等が綴られる。
    そして本書には、かの大黒屋光太夫も登場する。大黒屋光太夫は、彼に友情や敬意を感じながら協力したキリル・ラクスマンの案内を受けてエカテリーナ2世の謁見を受けている。光太夫が書き残したモノから、女帝はフランス語やドイツ語ではなく、寧ろロシア語を話す場面が多かった様子であるという様子が推測されるという話題が在る。また、キリル・ラクスマンに案内されての謁見に関連して、酷く不自然な「待ち時間」が生じるのだが、これはポチョムキンがクリミヤで病没してしまった報を受けた女帝が悲嘆に暮れて動けなかったからかもしれないという話しが紹介されている。
    本書が登場した頃、エカテリーナ2世に関しては、フランスの小説(小説に基づいた日本の漫画も在る…)に描かれる人物像、周辺の人達の事、諸々の出来事が知られるばかりであった。が、1990年を挟むような頃、旧い時代の史料が復刻刊行されるというようなことも相次いでいた。そうしたことを踏まえ、中立的な史伝というような体裁を目指したのが本書である。
    豊富な資料が参照されていて、エカテリーナ2世自身が匿名(筆名使用)で雑誌に色々と寄稿していたというようなことや、愉しい喜劇の戯曲を執筆したということや、孫である皇子達(後年のアレクサンドル1世達)に読んで聴かせるような童話を綴っていたというようなこと等の「そこまでは知らなかった!?」ということまで紹介されていた。
    ダーシコワ公爵夫人に関しては、欧州諸国を遍歴した時期が在る。その際に英国人女性と懇意になっていたが、晩年にその英国人女性の縁者である女性達―ウィルモット姉妹―がロシアにやって来て、数年間を共に過ごした経過が在る。その際に姉妹に請われて「公刊するなら死後に」として本人が綴った回顧録、ダーシコワ公爵夫人の傍で過ごした時の様々な見聞等を綴った姉妹の記録が色々と伝わっているようだ。そうしたことも、本書の末尾の側に紹介されている。
    個人的にはポチョムキンに関する事項を綴った章が殊更に面白かった。“新領土総督”という感で、クリミヤやウクライナの南東部等を開き、帝国領土の3割近くにもなろうという地域を主要な舞台に手腕を振るうというようなことが紹介される。こういう「大物」になれば毀誉褒貶の振幅が大きい訳で、色々と言われている人物で、様々な伝説めいた話しも多く在るのだが。それでもポチョムキンが礎を築いた地域は以降も発展し続けた。(余計な事を申し上げれば、目下は紛争の真只中なのだが…)
    こういう何処かの国の著名な人の生涯を軸に語る歴史というような話しは概して面白いが、本書は非常に好かった。エカテリーナ2世の生涯というのは、起伏に富んだとも波乱に満ちたとも言い得ると思う。そういう様が生き生きと描かれている本書で、思う以上に夢中になった。本書に出逢えて善かった。

  • 「18世紀・封建国家という強力な制約の中にあって、二人のエカテリーナは疑いもなく歴史の歯車を進歩に向けて回した。」
    「乾杯しよう」という著者の締めくくりが感慨深い。

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