三国志演義 (岩波新書 新赤版 348)

著者 :
  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (227ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004303480

作品紹介・あらすじ

ご存知、諸葛孔明や劉備・関羽・張飛、そして曹操・孫権ら英雄・豪傑たちが活躍する『三国志演義』。それは正史『三国志』を起点に、千数百年の歳月をかけて、民衆と知識人が育てあげた物語世界の集大成である。気鋭の中国文学者が、血沸き肉躍る大エンターテインメントの仕掛けをときあかし、物語を彩る登場人物を縦横に語る。

感想・レビュー・書評

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  • 歴史としての三国志か読み物としての三国志...。どちらがより魅力的かつ歴史的意義があるかを考えさせられる一冊。正史研究者が演義を考察するとこうなるのかぁ...。

  • 2017/11/18 15:44:48

  • (1)私が選書した本は三国志演義(井波律子著)という本だ。
     三国志といえば約1800年ほど前の中国の壮大な争乱の物語で、現代では小説、漫画、ゲームなどの題材として幅広く支持されている。しかし三国志には大きく分けて正史の三国志、そして三国志演義と呼ばれるものがある。三国志とは陳寿と呼ばれる人物が書き上げたいわば三国志の基礎であり、始まりの書物である。そしてもう一つ三国志演義と呼ばれるものは十四世紀中頃、羅貫中という人物によって著されたものである。
     三国志はもちろん三国が話の中心に動いていく。しかし天下が三分するまでには膨大な年月がかかっている。曹操が治める魏、孫権が治める呉、劉備が治める蜀という三つの国が建国されるのは三国志でもかなり後半である。
     そんな物語をひとまとめにするのもかなりの苦労と時間が要している。曹操も劉備も孫権も国を建国するまでに多くの難と苦悩に満ちた人生を送る。著者によって彼らの描かれ方は大きく変わってくる。三国志演義はそれぞれの人物に味をつけめるため多くの伝記などの資料に目につけ作り上げられた。そして数多く登場する人物達に魅力を持たせるための様々な工夫、それらを解明しようとした本が井波律子著の三国志演義である。

    (2)「『三国志演義』は歴史とは異質な構造をもつ物語文学だということである。」(P227)に著者は語った。
     確かに三国志演義とは不思議な構造の物語である。演義は真実ではない、多くの資料から得た逸話を上手く組み込み作られたエンターテイメントな文学なのだ。
     一つの歴史を文学として受け継ぐことはさほど難しくはない。しかし肉付けされ集約された物語など類も見ないものだ。これが読者を惹きつけてやまない一つのポイントであると私は思う。

    (3)三国志とはあまりに大きい世界だ。
     今なお人気を誇る三国志は様々な解釈で世に広がっている。乱世の中で描かれる栄光も衰退も誰かの手によって描ける。三国志の固定軸は蜀であった時代も少しずつ変化し呉や魏にスポットライトが当てられるようになった。この本は人物を、物語を輝かせ惹きつけさせるための多くが書かれていた。
     読んで思うのはただひたすら受け継げるものではないということだ。これは人間が描いたもの、感情や見識が入り混じる。それも一つの魅力なのだ。
     三国志は難しい、またはお堅いというイメージがあるのは中々に拭えないというご時勢ではない。だから多くの人にこの物語を知ってほしい。勧善懲悪というわけではないからこそ面白い。その面白さが様々な形となり広がり考えさせられるようなものであるのだ。意見を言うとすれば、現代と違った世界へ飛び込める不思議な文学がなお続いていけるよう広がりを見せて欲しいと思う。(平城みやこ 20150105)

  • [ 内容 ]
    ご存知、諸葛孔明や劉備・関羽・張飛、そして曹操・孫権ら英雄・豪傑たちが活躍する『三国志演義』。
    それは正史『三国志』を起点に、千数百年の歳月をかけて、民衆と知識人が育てあげた物語世界の集大成である。
    気鋭の中国文学者が、血沸き肉躍る大エンターテインメントの仕掛けをときあかし、物語を彩る登場人物を縦横に語る。

    [ 目次 ]
    第1章 正史『三国志』から『三国志演義』へ
    第2章 民衆の哄笑と喝采―『三国志平話』の世界
    第3章 『三国志演義』の文学性―関羽について
    第4章 物語構造の核―劉備・曹操・孫権
    第5章 主役たちの描かれ方―諸葛亮と彼をめぐる人々
    第6章 異彩を放つ傍役たち

    [ POP ]


    [ おすすめ度 ]

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    ☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー
    ☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性
    ☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性
    ☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度
    共感度(空振り三振・一部・参った!)
    読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ)

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    [ 参考となる書評 ]

  • 「三国志」 を聞いたことが無いという人はなかなかいないのではないか?
    現在では三国志を題材にしたゲームもでており、我々の身近な存在にあると言っても過言ではないだろう。
    評者は筆者の別冊の著書を読んだことがあるが、著者のあとがきにあるように 陳寿の『三国志』をベースに演技などで描かれている内容を紹介するものであった。
    本書は陳寿の『三国志』から始まり、曹操悪役の原点ともいえる『世説新語』、話家が庶民に話す『三国志平和』などのフィクションを加えながら、我々の知る『三国志演技』が出来上がったかを描いている。

    三国志平和 などは歴史がメチャクチャ、主役は張飛といった具合であり、劉備が督郵を叩きのめしたのを張飛にするなど、我々の知る三国志とはおよそ考えられないエピソードがたくさんある。もちろん諸葛孔明の計略しかり、三国志を彩る魔法使いともいうべき宇吉など しかり

    マンガの三国志を読むと諸葛孔明の天才的な計略や人情の劉備玄徳、奸雄曹操、孔明の引立役にしか見えない周喩、幻術を使う人々などのイメージがつきまとう。
    しかし、それらの一人一人の登場人物がそれぞれのカラーを持って彗星のごとく登場し、強烈な印象を放ちつつ退場する。これこそ我々をドキドキさせ、その世界にいざなうほどの魅力である。

    物語の三国志がいかに作られたかを知りつつも、改めて三国志の世界の魅力を知ることが出来る一冊である。

  • 適当に手に取ったこの1冊・・・

    同じ歴史を描いた文章でも書く人によってこんなに違うのだなあ。
    当たり前か。でもやっぱ演義をかいた人の想像力をほめるべきだとおもうなあ。たとえ関羽が霧で曹操を見逃してしまったといえ関羽の慈悲深さを表現するための場面に作り変えてしまうんだもの。。。

    印象に残ったのはあれだな、三絶のやつ。なるほどそうかもって思っちゃった。

    ゲームで三国無双やって三国志なんとなく把握してたけどこうやって書物で見るとあらためておもしろいなあ。。。レッドクリフ見なきゃならんな。。。
    またフィクションも入ってんだろうけどそれでもいいや。。。
    三国無双もも一回やろ。。。
    趙雲やわあ。。。

  • 中国の三国志を舞台にした小説として代表的な、陳寿の正史『三国志』と羅貫中の小説『三国志演義』との間には、千年の時差があるそうです。『三国志』から『三国志演義』への変更点や、登場人物の書かれ方などを比較して『三国志演義』を中心に考察しているのが本書です。『三国志演義』の魅力を知る事ができる本です。(2010.8.5)

  •  この本を手に取る前の三国志知識は、小さい頃見た人形劇のおぼろげな記憶+高校時代に熱中した北方三国志+先の冬休みに一気読みした横山光輝三国志、といったところ。
     そろそろ整理したいと思っていたところにうってつけの本でした。
     特におもしろかったのは第二章「民衆の哄笑と喝采―『三国志平話』の世界」。張飛がもう…おもしろすぎる。山賊の王様気取りにとどまらず、「快活」という年号まで立てていたとか。さすがだ。
     巻頭にある主要登場人物紹介がまとまっていて便利だったので、もうちょっと人数を増やしてほしかったような気もします。でも書こうとするとキリがないのでこんなものか。

  •  部屋に転がっていた井波律子『三国志演義』(岩波新書)を手にとって、あらためて心に引っかかっている記述を読み返してみた。

    「第二章 民衆の哄笑と喝采-三国志平話」の章は、タイトルどおり『三国志平話』を中心に論じている。『三国志平話』は、口承で断片的に伝えられていたと思われる三国志関係の物語を一本のテキストにまとめたおそらく最初の本で、これがさらに洗練されていき、のちの『三国志演義』へと発展していくと考えられている。

     演義にはないプロローグの部分なんかも興味深くて、前漢時代の劉邦配下の将たちの転生という前段をふまえて三国志が開幕することになっている。水滸伝でも冒頭に宇宙論を提示してから物語が始まると平岡正明なんかが指摘していたと思うが、ひとつの定型だったのだろうか。演義が、この前段をぶった切って、旧来の定型から離陸するにいたる過程というのも気になるところ。

     さて、本題。井波氏は下巻の展開を紹介しつつ龐統の登場に及ぶ。「(周瑜の死後)ここに登場するのが、「臥龍」諸葛亮と並び称せられる荊州の逸材、「鳳雛」龐統である。かねて周瑜と親しかった龐統は、周瑜の死を秘密にするため、将軍星が流れ落ちないよう呪文をかけ、ぶじにその棺を呉まで送り届ける。魯粛が彼を孫権に推挙するがうまくゆかず、龐統は荊州の劉備のもとに向かう」とある。

     基本的に『平話』は荒唐無稽と言われる。たしかに、将星が落ちるのを呪文で止めるとはただ事ではない。しかし一方このセンテンスでは、蜀を征伐せんとする行軍の途上で病死してしまった周瑜の亡骸を龐統が呉に送るという『演義』ではカットされてしまった描写が存在していることが注意を引く。

     この件に関しては陳寿の正史に表記があり、『蜀書-龐統伝』「周瑜が逝去すると、龐統は遺骸を送って呉に行った」がこれに当たる。

     この経緯も正史の簡略な文ではよく分からない部分もある。なぜ龐統が送る役目を果たしたかについては、荊州の一郡の功曹だったかれが上官に当たる太守の周瑜を送ったと見るのが無難なようだが、生前に周瑜と龐統にどのような交渉があったのかについてはまったく史料がない。
     あ、陳寿の筆ではないけれど、裴松之が「江表伝」から引いた注に、龐統が周瑜の功曹であった時期に、呉を訪れた劉備を周瑜が留めておこうと孫権に訴えていたことを知っていたという記述がある。これだと、それなりに周瑜との連絡は密であり、龐統が呉陣営の高いレベルの計画に関与していた可能性があるかもしれないとは思うが、「江表伝」に対する信憑性いかんというところかな。ただ、これは呉を中心とした書でありながら、エピソード自体は劉備が呉に行くことを諌めた諸葛亮の洞察をたたえる内容になっているので、わりと精度は高いかも。

     ちなみに『蒼天航路』には期待してたんだが、馬良の「龐統殿も同道するはずでございましたが、先に周瑜殿に召しだされてしまいましてな」という(ポイントの小さいw)セリフだけで終わってしまっていた(26巻)。残念だ。

     なぜこのくだりにこだわるのか。そもそも周瑜による蜀への侵攻計画に龐統が深く関与していたと仮定してみる。周瑜の死後やや消極的な戦略をとった呉を去って劉備のもとに赴き、同姓の劉璋を討つことを渋る彼をつよく説き伏せて蜀を討たせた龐統は、このとき基本的な侵攻プランとして周瑜とともに練りあげたものを使用したのではないかという気がするのだ。

     誰それに対する忠義という以上にまず荊州からの西進、入蜀という絵こそが龐統が強く執着したものではないかとね。もちろん、これはまったく裏づけを欠く私的な妄想でしかないのだけれど、こういう仮定を採用するならば物語的な幅は広がるはずだし、人によっては短編の一本くらいは書けるだけの興味深い内容だと思う。 いや、いままでそんなことは書かれたことがないようだからだれも興味ないのかなぁ。

     しかし、それでも書くというならば、周瑜の死には龐統が立ち会わなければならない。『平話』はどうやらそのように扱っているようだ。これだと、しばらく一緒に策を図っていたというよりは、突然あらわれた感じがあるが、周瑜の死に目に龐統があらわれるという点で、史実云々よりも物語として正しいんじゃないか。

    『三国志平話』は訳も出ているようなので、一度読んでみようかなぁ。

     さて僕ならこうだ。
     胸に西進、入蜀それをテコに二方面から曹操を討つという遠大な計略を持ちながら病魔に倒れる周瑜。そこにあらわれる龐統。
     周瑜は自分の死後には、孫権が西進という大胆な戦略を取り下げてしまうことを危惧し、そうなれば共に策を練った龐統が自分(たち)の入蜀戦略を採用してくれる男(おそらくは劉備)のもとに去る可能性があることに気付いている。このへんは龐統の憐憫、しかし不退転の決意や周瑜の諦め、いささかの怒りといった感情が荒ぶることなく静かに交錯するべきだ。
     そして龐統も周瑜のもとを辞去し、周瑜が睡魔に襲われたとき、呉軍はすべてはやばやと撤収の準備を始める。残る周瑜一人が西進の馬を走らせる。一人、いや隣を走る一騎が。孫策……


     ほかにも龐統について少し書くつもりだったのだけれど、長くなったのでまた別の機会に。そんな機会あるのか。

  • 「三国志演義」の解説書です。
    三国志を一通り知った後に読んだほうがいい。その読んできた「三国志」の内容が正史なのか演義(正史以外のもの)
    なのかこの本でわかるからです。三国志が好きだと言う人はたぶん演義の内容(物語として誇張された部分)も含めて好きになる。「三国志演義」がどうやって生まれ流行したのか興味のある人にはいいかも。
    1996・1・10 6刷 227ページ

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著者プロフィール

中国文学者。国際日本文化研究センター名誉教授。07 年「トリックスター群像」で第10 回桑原武夫学芸賞受賞。主な著書に個人全訳「三国志演義」( 全4巻)「世説新語」( 全5巻)「水滸伝」( 全5巻) など。20 年5 月逝去。

「2021年 『史記・三国志英雄列伝 戦いでたどる勇者たちの歴史』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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