からだの設計図: プラナリアからヒトまで (岩波新書 新赤版 358)

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  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (209ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004303589

作品紹介・あらすじ

尾に肢の生えたカエルをつくりだしたり、触角が肢に変わったハエをみつけてその原因を探り出すことから、生きものの設計図が解読されつつある。手足や頭といった、からだのパーツをレイアウトする遺伝子のはたらきがわかったのだ。発生生物学のヴィルトゥオーゾが研究の道程と成果をおもしろく語り、生きものの讃歌を唄い上げる。

感想・レビュー・書評

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  • 生物の体を形作る仕組みを探求する。発生生物学の中心的課題を分かりやすく説明する。ホメオ遺伝子が発生の司令塔として存在する。その指令に基づき、下部の遺伝子が順番に体の各部を形成する。マウスとショウジョウバエで同様なホメオ遺伝子が見つかっている。生物の進化でははるか過去に枝分かれした哺乳類と昆虫類で同じような仕組みで体を形成しているということが興味深い。

  • 岡田先生が先月亡くなられました。89歳でした。ご冥福をお祈りいたします。さて、私と岡田先生の出会いからお話しましょう。学生時代、生体物理学という講義を聴きました。カオスやフラクタルの話から生物の発生についての話まで多岐にわたっていました。そんな中で興味をもち、岡田先生の「動物のからだはどのようにしてできるか」(岩波新書、いまは絶版になっているかもしれません)を読みました。あとでふれますが、その中に登場するゴキブリのあしの実験が非常に印象深く、この仕事についてからも、何度も授業の中の話題にしてきました。さらに、私が20代後半で、まだ、さらに専門的な研究をするために大学院に進むかどうか悩んでいたころ、岡田先生の書かれた新聞記事の中にある言葉を見つけました。それが「学問のファン」です。そのことばに接して、私の目の前はパッとひらけたのです。「そうだ、自分はこれから学問のファンに徹しよう。そして、学問の楽しさを皆に伝えていこう。」そんなふうに決心することができたのです。
     それでは本書の内容のほんの一部ですが、紹介していくことにしましょう。「発生は、すべての多細胞生物の演ずる基本的な生物現象である。個体の生命の始まりの姿――これは受精卵である――で死ぬ多細胞生物はないことに思い至って欲しい。卵からスタートした発生というプロセスは、長くしかも見事な筋書きをもったドラマである。この過程は、生物学の歴史においては長らくの間最も神秘的ともいえる現象であり、物質・分子の働きとして説明するには難攻不落の聖域の如く考えられてきたものだ。しかし、今や状況は急変しつつある。もっとも、理解ができたか否かと真正面から問うと、大いに問題もあるのだが、このプロセスの科学的認識ともいえるものは、大きな変容を遂げたと思う。」こういう状況を本書では解説されています。ただし、本書もすでに20年以上前に書かれています。前著の「動物のからだ・・・」から13年たったこともあって、本書で新たな研究成果にふれられているのですが、それもまた古くなってしまいました。本書からは、最新の研究がどうなっているのかを知ることはできませんが、発生生物学の歴史のダイナミズムを感じとることができるのではないかと思います。
     「プラナリアのからだを2つに切ると、頭の方の半分からは尾が、尾の方の半分からは頭が再生して、もとと同じ2匹の動物個体がつくられる。4分しても、8分しても、さらには縦に切っても結果は同じで、再生は完全である。一体全体、どれほど小さくきざんでも再生は可能なのだろうか、と好奇心をもたれる方もあるやもしれぬ。20世紀になってなされた報告に0.3ミリの長さがあれば再生は可能というのがある。そうあてになる実験でもないのだが、こうした実験をデザインし、その結果を評価することは、大げさにいうと生物学のイデオロギーにまで及ぶものもあるといえるのだ。」このあたりの事情がくわしく解説されています。ここで、2通りの考え方ができます。①残ったどの細胞も、腸の細胞でも、神経の細胞でも、分裂を始めると元の性質は御破算になって、新しい体制をつくり直す。または、②再生部分のタネになるような特別な細胞が分布している。もし、実験を繰り返してあまりにも小さな一片からは再生しないという事実があれば、それに対する考え方は次のようになります。①の場合、再生を行うには一定の量の細胞からスタートしなければならない。②の場合、あまりにも小さな一片の中にはタネの細胞が含まれていなかった。このいずれが正しいかを決める実験結果は次のようになるでしょう。①が正しいなら、あるサイズ以下ではすべての断片が再生できなくなる。②が正しいなら、あるサイズ以下にしても再生するものと、再生しないものができる。この後、実験の具体例の説明もありますが、結論を急ぐと、プラナリアの再生のタネになる細胞が見つかっています。それには新生細胞という名前がついています。つまり、②が正しかったのです。残念ながら私たちヒトのもつ再生能力は極度に低く、同じような細胞は見つかりません。しかし、毎日失われていく血球細胞や皮膚、消化管の細胞などを補給するタネになる細胞はあって、それを幹細胞と呼んでいます。こういった研究が、再生医療として注目されるiPS細胞へとつながったのでしょう。
     さて、次にはゴキブリのあしの実験を紹介しましょう。まずはゴキブリのあしに根元の方からA、B、C、D、Eと記号をふりましょう。そして、右図にあるように、DE間で切断したものと、AB間で切断したものをつないでみます。このとき、短い方どうしつまりAとEをつないだものは、間にB、C、Dができるようにあしが伸びてきます。これは十分に想像できますね。次に、長い方どうし、つまりDとBをつないでみます。この場合、根元からA、B、C、D、B、C、D、Eとなりどうも真ん 中のDとBのつながりが気持ち悪いのです。そこで何が起こるか。Ⅾ、Bが自然に消えて元の長さのあしになるなら普通なのですが、ここではⅮ、Bの間にあらたにCがつくられます。これでつながりが良くなるのです。けれどもこのあし、もとに比べるとずいぶん長くなりましたね。しかも、あしに生えている毛の向きにも注目してください。おもしろいことが起こりますね。どうやら、からだの中には決まった位置情報があって、そのつながりがおかしくなった場合は最少の挿入によってつながりを安定させるのだそうです。
     もう1つ、今度は岡田先生の研究室で発見された分子について紹介しましょう。まずは1910年に報告された実験から。カイメンと呼ばれる動物の細胞をバラバラにする。それを新鮮な海水の中に入れておくと細胞のままで生かし続けることができる。数日間観察を続けていると、細胞は再度集まり、多細胞のカイメンが再生する。さて、細胞はどうしてくっつくことができるのか。この仕組みを岡田先生のグループは解明されました。そして、その細胞どうしを接着するのに必要な分子にカドヘリンという名前が付けられました。カドヘリンcadherinとは、カルシウムcalciumの存在下で、細胞接着adhesionにはたらく分子という意味で、自然に発音しやすい語感があったためか急速に知れ渡りました。自分が発見して命名したものが世界中に広まる気分とはどんなものなのでしょうね。
     本書を読み進めるには高校生物の基礎的な知識は必要になります。私もすっかり忘れていますから(というか1回も覚えていないかもしれません)読み進むのは大変苦労しました。それでも、一流の科学者の一般書を読むことで、科学研究の醍醐味をほんの少しでも味わうことができるのではないかと思います。
     
     1年間にわたって、マイ古典を紹介してきました。齋藤孝著「古典力」(岩波新書)の中に、「繰り返し読む価値のある本が古典の名にふさわしい」とあります。それで、この1年間、私が過去に読んだ中で、もう一度読んでみたい本を11冊取り出して、読んでみることにしました。最初に読んだときから私も変化していますから、正直言って感動が薄れたものもありました。しかし、若い頃とはまた違った感じ方をするものもありました。皆さんもたくさん本を読んで、自分自身のマイ古典を見つけていってください。良かったら、またいつか私のマイ古典も読んでみてくださいね。1年間ありがとうございました。

  • [ 内容 ]
    尾に肢の生えたカエルをつくりだしたり、触角が肢に変わったハエをみつけてその原因を探り出すことから、生きものの設計図が解読されつつある。
    手足や頭といった、からだのパーツをレイアウトする遺伝子のはたらきがわかったのだ
    発生生物学のヴィルトゥオーゾが研究の道程と成果をおもしろく語り、生きものの讃歌を唄い上げる。

    [ 目次 ]
    第1章 かたち作りのルールを探る
    第2章 巨視的なからだの成り立ちと遺伝子
    第3章 設計図による建築作業

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著者プロフィール

1927年兵庫県生れ。生物学者。京都大学、総合研究大学院大学名誉教授、JT生命誌研究館名誉顧問。89年国際発生生物学会からハリソン賞を日本で初めて受賞。著書に『細胞の社会』『生命科学の現場から』他。

「2014年 『生物学個人授業』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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