- Amazon.co.jp ・本 (218ページ)
- / ISBN・EAN: 9784004304357
作品紹介・あらすじ
京都の市中・郊外の景観を描いた洛中洛外図屏風の中で、屈指の名品は狩野永徳作と伝えられる上杉家本。だが近年、通説を疑問視する学説が登場し、学界に大論争を巻き起こした。絵画史料解読に精力的に取り組んできた著者がこの「謎」に挑み、研究史をふまえた推理の過程を提示する。歴史家の謎解き作業を示す知的刺激にみちた好著。
感想・レビュー・書評
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2018年11月14日購入。
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【二星潤先生】
歴史は暗記物とよく言われます。しかし、実際の歴史研究は「謎解き」であることを、この本が証明してくれています。京都の名所や風物を描いた洛中洛外図屏風で、屈指の名品は狩野永徳の代表作とされる上杉家本です。絵画史料解読の第一人者である黒田日出男氏が、狩野永徳の作品であることを疑問視する新しい学説に挑み、誰がいつ、何のために制作したのかなどを推理していきます。その面白さは、まさに推理小説のようです。織田信長・上杉謙信・狩野永徳など有名人が多く登場し、文章もとても読みやすいので、歴史なんて面白くないと思っている人にこそ、是非読んでほしい好著です。 -
[ 内容 ]
京都の市中・郊外の景観を描いた洛中洛外図屏風の中で、屈指の名品は狩野永徳作と伝えられる上杉家本。
だが近年、通説を疑問視する学説が登場し、学界に大論争を巻き起こした。
絵画史料解読に精力的に取り組んできた著者がこの「謎」に挑み、研究史をふまえた推理の過程を提示する。
歴史家の謎解き作業を示す知的刺激にみちた好著。
[ 目次 ]
1 「謎」としての上杉本洛中洛外図
2 洛中洛外図の探究案内
3 研究史とその諸画期
4 「1547年の京都」説と反論・批判
5 「公方の構想」説と推理の立脚点
6 貴人の大行列と最初の仮説―永禄四年十二月二十三日
7 疑問と再考
8 史料の発見と「謎」の解決―永禄八年九月三日と天正二年三月
9 結論と新たな旅立ち
[ POP ]
[ おすすめ度 ]
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[ 参考となる書評 ] -
歴史の謎解きは下手なミステリーよりもよほど面白い。それが、上杉本洛中洛外図の謎であるならばなおさらである。希少な狩野永徳の作品の上、織田信長が上杉謙信に送ったと伝えられる国宝である。それの何が謎なのか、著者がどのように推理し一つの結論にたどり着いたか、それを修正し、証拠となる新史料をどのように発見したか、極上のミステリーを読むようであり、本書は期待に十分応えている。
前半部の研究史の解説も、何が問題で何が分かっているのか理解出来て楽しめる。本書によると、初期の研究では由来についての疑義は無く、絵画としての分析、描かれた京都の風景は何時か(景観年代)、描かれたのは何時か、についての論じられていた。ところが、中世史の専門家である今谷明は由来を全て否定し、天文16年(1547)7月19日から閏7月5日までのわずか16日の景観であるとする説を1984年に発表し、論争が始まった。こうして、「画家は誰か?注文者は誰か?誰が誰に贈ったのか?」という謎が産まれた。
著者は研究史を踏まえ次の立脚点に立つ。
1.洛中洛外図は作品であり完全な写実ではない事、
2.景観年代は、永録4年(1561)3月足利義輝の三好義興邸へのお成りから永録8年(1565)5月19日の義輝殺害までの間。
3.作者は狩野永徳。
4.注文主・作者・贈られ手の3者の意図を作品から読む込む必要がある。
5.仮に、贈り手足利義輝、贈られ手上杉謙信として推理する。
6.上杉本洛中洛外図の著しい特徴、貴人の大行列、公方邸に集中している季節の乱れ、内裏の諸建築に夥しい書き込みがある事、この3点を相互に関連付けた分析・読解から始める。
7.上杉本を孤立させず、他の洛中洛外図を含めて議論する。
管領クラスの貴人が年始祝いのために公方邸へ行く行列を、著者は注文主の主要な意図と分析し、そのために季節が乱れたと観る。また、内裏を知らない贈られ手のために書き込みが行われたと推理する。以上から、注文者は足利義輝であり、贈られ手は上杉謙信と推定する。作成時期については、謙信が関東管領に任命された永録4年12月から翌5年春がふさわしいと推理する。
以上の結論を裏付ける史料を著者は探すが見つからず、再考を強いられる。そこで、信長が天正2年(1574)3月に謙信に贈ったという記述のある「越佐史料」を検討し、その中の「上杉年譜」は信用できる史料と観る。そこで、義輝が注文主で信長が贈り手と修正した。さらに「上杉年譜」の元となったと思われる「(謙信公)御書集」を探索し、「天正2年3月信長が屏風一双を謙信に贈った。画工は狩野永徳で永録8年9月3日画。謙信が礼状を送った。」の記述を発見する。ここで9月3日は義輝の百過日の2日後である事に言及する。以上が著者の推理である。
星について
知的好奇心を刺激し、とても面白く読める。著者の歴史研究に対する誠実さも伝わり、謎解きも妥当であろう。ただ、史料的裏付けが若干弱めな事と、この作成年では注文主の意図に関する推定の根拠が少し弱くなる。題材がどうしても特殊であるので星4個。
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狩野永徳作、『上杉本洛中洛外図屏風』の通説を疑問視する立場からの謎解き。
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1,900円