謎解き洛中洛外図 (岩波新書 新赤版 435)

著者 :
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  • Amazon.co.jp ・本 (218ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004304357

作品紹介・あらすじ

京都の市中・郊外の景観を描いた洛中洛外図屏風の中で、屈指の名品は狩野永徳作と伝えられる上杉家本。だが近年、通説を疑問視する学説が登場し、学界に大論争を巻き起こした。絵画史料解読に精力的に取り組んできた著者がこの「謎」に挑み、研究史をふまえた推理の過程を提示する。歴史家の謎解き作業を示す知的刺激にみちた好著。

感想・レビュー・書評

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  • 2018年11月14日購入。

  • <目次>
    Ⅰ <謎>としての上杉本洛中洛外図
    Ⅱ 洛中洛外図の探求案内
    Ⅲ 研究史とその諸画期
    Ⅳ 「一五四七年の京都」説と反論・批判
    Ⅴ 「公方の構想」説の推理と立脚点
    Ⅵ 貴人の大行列と最初の仮説―永禄四年十二月二十三日―
    Ⅶ 疑問と再考
    Ⅷ 史料の発見と<謎>の解決―永禄八年九月三日と天正二年三月―
    Ⅸ 結論と新たな旅立ち
    主要参考文献
    あとがき

  • 【二星潤先生】
    歴史は暗記物とよく言われます。しかし、実際の歴史研究は「謎解き」であることを、この本が証明してくれています。京都の名所や風物を描いた洛中洛外図屏風で、屈指の名品は狩野永徳の代表作とされる上杉家本です。絵画史料解読の第一人者である黒田日出男氏が、狩野永徳の作品であることを疑問視する新しい学説に挑み、誰がいつ、何のために制作したのかなどを推理していきます。その面白さは、まさに推理小説のようです。織田信長・上杉謙信・狩野永徳など有名人が多く登場し、文章もとても読みやすいので、歴史なんて面白くないと思っている人にこそ、是非読んでほしい好著です。

  • 巨匠・狩野永徳が描いた安土桃山時代の京都の景色の屏風画は織田信長が上杉謙信に贈ったとされ、「上杉本」と呼ばれているそうですが、その根拠となる軍記などの信憑性は疑問だとの事。これまでの通説が事実なのか、描かれている京の街なみから描かれた時代を推定し、管領の大名行列が誰のものであるかを推定し、画風から狩野永徳に間違いないのか、それが初期・中期・後期なのか、そして織田信長がなぜ贈ることになったのか?描かれた年代から考え、かつ謙信との親交の厚さから考えて、初めに謙信に贈ることを考えた当事者は将軍・足利義輝であったのではないか、そしてそれを信長が現実に贈ることになったなどと著者の推理が続きます。著者の筆はこの本でも確信に満ちて、説得力がありました。

  • [ 内容 ]
    京都の市中・郊外の景観を描いた洛中洛外図屏風の中で、屈指の名品は狩野永徳作と伝えられる上杉家本。
    だが近年、通説を疑問視する学説が登場し、学界に大論争を巻き起こした。
    絵画史料解読に精力的に取り組んできた著者がこの「謎」に挑み、研究史をふまえた推理の過程を提示する。
    歴史家の謎解き作業を示す知的刺激にみちた好著。

    [ 目次 ]
    1 「謎」としての上杉本洛中洛外図
    2 洛中洛外図の探究案内
    3 研究史とその諸画期
    4 「1547年の京都」説と反論・批判
    5 「公方の構想」説と推理の立脚点
    6 貴人の大行列と最初の仮説―永禄四年十二月二十三日
    7 疑問と再考
    8 史料の発見と「謎」の解決―永禄八年九月三日と天正二年三月
    9 結論と新たな旅立ち

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    ☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度
    共感度(空振り三振・一部・参った!)
    読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ)

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    [ 参考となる書評 ]

  • 歴史の謎解きは下手なミステリーよりもよほど面白い。それが、上杉本洛中洛外図の謎であるならばなおさらである。希少な狩野永徳の作品の上、織田信長が上杉謙信に送ったと伝えられる国宝である。それの何が謎なのか、著者がどのように推理し一つの結論にたどり着いたか、それを修正し、証拠となる新史料をどのように発見したか、極上のミステリーを読むようであり、本書は期待に十分応えている。
    前半部の研究史の解説も、何が問題で何が分かっているのか理解出来て楽しめる。本書によると、初期の研究では由来についての疑義は無く、絵画としての分析、描かれた京都の風景は何時か(景観年代)、描かれたのは何時か、についての論じられていた。ところが、中世史の専門家である今谷明は由来を全て否定し、天文16年(1547)7月19日から閏7月5日までのわずか16日の景観であるとする説を1984年に発表し、論争が始まった。こうして、「画家は誰か?注文者は誰か?誰が誰に贈ったのか?」という謎が産まれた。
    著者は研究史を踏まえ次の立脚点に立つ。

    1.洛中洛外図は作品であり完全な写実ではない事、
    2.景観年代は、永録4年(1561)3月足利義輝の三好義興邸へのお成りから永録8年(1565)5月19日の義輝殺害までの間。
    3.作者は狩野永徳。
    4.注文主・作者・贈られ手の3者の意図を作品から読む込む必要がある。
    5.仮に、贈り手足利義輝、贈られ手上杉謙信として推理する。
    6.上杉本洛中洛外図の著しい特徴、貴人の大行列、公方邸に集中している季節の乱れ、内裏の諸建築に夥しい書き込みがある事、この3点を相互に関連付けた分析・読解から始める。
    7.上杉本を孤立させず、他の洛中洛外図を含めて議論する。

    管領クラスの貴人が年始祝いのために公方邸へ行く行列を、著者は注文主の主要な意図と分析し、そのために季節が乱れたと観る。また、内裏を知らない贈られ手のために書き込みが行われたと推理する。以上から、注文者は足利義輝であり、贈られ手は上杉謙信と推定する。作成時期については、謙信が関東管領に任命された永録4年12月から翌5年春がふさわしいと推理する。
    以上の結論を裏付ける史料を著者は探すが見つからず、再考を強いられる。そこで、信長が天正2年(1574)3月に謙信に贈ったという記述のある「越佐史料」を検討し、その中の「上杉年譜」は信用できる史料と観る。そこで、義輝が注文主で信長が贈り手と修正した。さらに「上杉年譜」の元となったと思われる「(謙信公)御書集」を探索し、「天正2年3月信長が屏風一双を謙信に贈った。画工は狩野永徳で永録8年9月3日画。謙信が礼状を送った。」の記述を発見する。ここで9月3日は義輝の百過日の2日後である事に言及する。以上が著者の推理である。

    星について

    知的好奇心を刺激し、とても面白く読める。著者の歴史研究に対する誠実さも伝わり、謎解きも妥当であろう。ただ、史料的裏付けが若干弱めな事と、この作成年では注文主の意図に関する推定の根拠が少し弱くなる。題材がどうしても特殊であるので星4個。

  • 狩野永徳作、『上杉本洛中洛外図屏風』の通説を疑問視する立場からの謎解き。

  • 1,900円

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著者プロフィール

1943年生まれ。東京大学名誉教授。文学博士。専門は日本中世・近世史、絵画史料論・歴史図像学。著書に『源頼朝の真像』『国宝神護寺三像とは何か』『洛中洛外図・舟木本を読む』『豊国祭礼図を読む』『江戸図屏風の謎を解く』『江戸名所図屏風を読む』(以上、角川選書)、『岩佐又兵衛と松平忠直 パトロンから迫る又兵衛絵巻の謎』(岩波現代全書)、『増補 姿としぐさの中世史 絵図と絵巻の風景から』(平凡社ライブラリー)など多数。

「2020年 『岩佐又兵衛風絵巻の謎を解く』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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