- Amazon.co.jp ・本 (181ページ)
- / ISBN・EAN: 9784004305026
感想・レビュー・書評
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日本の歴史(通史)というには,あまりにも中途半端な終わり方…それをわかっていて,網野さんはなぜ本書をまとめようと思ったのか。それはもちろん,編集者からの強い要望もあったのだが,網野さんの「いま言っておかなければ…」という強い思いもあったのだと,わたしは,最終章を読んで理解した。
本書は,上・中・下の3巻もあるのだが,残念ながら17世紀前半までで終わっている。そう明治以降は書かれていないのだ。
いや,少し書かれてはいる。それは「第十二章 展望」と題して…である。わたしは,この十二章を読んだときに「網野さんが一番いいたかったことは,この第十二章に書かれている」と思った。日本歴史研究の大前提をひっくり返すようなことをやっていた網野さんだからこそ,この近現代史(網野さんは,こういう時代区分でさえもまったくその用語を使っていない。その理由も「第12章」~「むすびにかえて」に書かれている)を簡単に記述することはできなかったのだ。
明治政府がねつ造した「日本の歴史」(国史)は,国民教育を通して日本人の血となり肉となり判断の基礎・基本となってきた。そして,それが、最終的にはあの15年戦争を引き起こしアジアの人々と自国民に厖大な被害を出してしまったのだ。そしてさらには,反省の下で歩んできたはずの戦後の学問も,相変わらず明治政府が作った「日本の歴史」の軛から自由ではなかったのではないか。その前提の下で研究されてきた「日本の歴史」は,もう,それだけで,新たな誤謬へと人々を連れていくのではないか。
網野善彦氏は,そのようなことを言いたかったのだろう。だからこそ,まずは,明治政府が前提としてきたその「日本の歴史」の捉え方こそ,再検討する必要があるのだという。
江戸時代以降の歴史・社会の実態については,未解決,未知の問題があまりにも多く,それを度外視して従来の「通説」にたよって叙述を無理に行うことは,現在の私には到底できないことだったのである。(下巻,176p)
また,網野氏が,本諸作の題名を「日本の歴史」ではなく「日本社会の歴史」としたわけにも大きな理由がある。そもそも「日本」の捉え方そのものが,わたしが義務教育で習ってきた「日本」とは違うのだ。アイヌも琉球も,各地方の豪族や権力者,そして庶民や技術者たちも,みんな〈地理的には日本列島と呼ばれている土地〉に住んでいて,それぞれ歴史を刻んできているのだから。
いうまでもなく,すでに述べてきたように,日本列島はアジア大陸の北と南を結ぶ架橋であり,こうした列島の社会を「孤立した島国」などと見るのは,その実態を誤認させる,事実に反し,大きな偏りをもった見方である。(下巻,153p)
網野さんは,『当初,私は「日本列島社会の歴史」という書名を考えていた』と書いている。『種々の議論の末,「日本国」の歴史でも「日本人」の歴史でもないという私の意図は「日本社会」ということばによって読者に十分に伝わるという編集部の御意見に私も従うこと」にして,この書名に決めたそうだ(下巻,177p)。
下巻を読み終わってみて,現在,歴史学者の中でこの続きを書いてくれる人はいるのかなと思った。いるのなら教えて欲しい。
たしかに現代の現実それ自体がこれまでの歴史の書き替えを要求していることは間違いないが,それは直面している転換そのものの性格にふさわしく根底的・徹底的なものではなくてはならない。(下巻,164p)詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
現在の日本史の骨格としての位置付けか。
それだけ、石井進、網野善彦両先生は偉大であったと感じる。
まだまだ、日本史の研究過程は深まっていくのだろう。
私もその端くれ?として、日本史を深めていきたい。 -
建武新制に貨幣経済の萌芽を見出すところが、斬新であり網野善彦の史観の中心でもある。日本を農業国でないとした網野善彦は、土地に経済基盤を置く史観から、新しい史観を提唱したと言えるだろう。
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[ 内容 ]
社会と「国家」とのせめぎあいの前近代史を、社会の側からとらえなおす通史の完結編。
下巻は南北朝の動乱から地域小国家が分立する時代を経て、日本国再統一までを叙述し、近代日本の前提とその問題点を提示。
十七世紀前半、武士権力によって確保された平和と安定は列島社会に何をもたらしていくのか?
[ 目次 ]
第9章 動乱の時代と列島社会の転換
第10章 地域小国家の分立と抗争
第11章 再統一された日本国と琉球王国、アイヌ社会
第12章 展望―十七世紀後半から現代へ
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