現代社会と教育 (岩波新書)

著者 : 堀尾輝久
  • 岩波書店 (1997年9月22日発売)
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  • レビュー :6
  • Amazon.co.jp ・本 (248ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004305217

現代社会と教育 (岩波新書)の感想・レビュー・書評

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  •  日本人なら誰しも感じたことがあるであろう日本社会の閉塞感の正体を、学校化社会の歴史や、能力主義の蔓延、メリトクラシー社会と教育の市場化・商品化といった概念で解説していく良書です。私は小学生の頃から今に至るまでずっと「不登校」を「学校」というなんでも呑み込む怪物から逃げることだと感覚のうちに捉えてきました。本書を読む限り、その感覚には正しい側面があるように感じます。
     スペンサーの適者生存の理論で、教育や子どもたちまでふるいにかけられ、弱者を忘れ去ったかのように有機的に社会が変化してゆくことを「進化」と捉えてよいものなんでしょうか。このような帝国主義のイデオロギーとメリトクラシー社会の関連を著者は述べています。ただし、この辺は前提知識が全くないと理解できないかもしれません。そのような方は有斐閣アルマの『教育の社会学』を併読することをお勧めします。
     ところで、このメリトクラシー社会の到来は、経済偏重の政策と共に、企業主導の教育改革案によって強化されてきた経緯があるようです。その中心に能力主義があるわけですが、これが学歴主義・偏差値重視の価値観へと社会を傾倒させ、企業の需要に沿う学生を供給しようとする学校、エリート主義を自ら再生産する官僚制度などと絡み合って発達していきます。また、教育の自由化が市場化と結びつき、自己責任論によって親ばかりが教育の責任を負うようになると、親は子育てを人生の中心に起き、受験戦争に子どもを駆り立て、塾や家庭教師、進学校を選択する「よりよい教育」志向へと陥っていきます。これが、教育の「競争」と「選別」への適応な訳ですね。しかし、この流れでは、親の育児ノイローゼを引き起こし、悪影響を及ぼしていました。
     その反面、不登校(本書では主に登校拒否と書かれています)などにみられるように学校から逃れる子どもたちの動きが社会問題化してきます。著者はこれを「学校的価値からの離脱」と表現しています。不登校に抗議としての側面を見出し、イリッチらの「脱学校」の主張に代表されるように就学義務に抗議する動きは、フーコーが学校を監獄に見立てる見方では隠れてしまう存在を浮き彫りにしています。このように学校の機能不全を指摘する人々の存在の一方で、不登校やいじめ、生徒の自殺問題の対応に追われ、社会的責任を一手に引き受け、多大な仕事に追われる学校内部の先生たちの苦労にも焦点が当てられます。このような社会では、先生たちが自信を失い、無力感に襲われ、無気力に仕事をこなしてしまうようになってきます。社会の閉塞感は学校の内部から外に漏れ出ていきましたが、その源流は子どもの苦しみだけでなく、先生たちの苦しみでもあったわけですね。
     以上、本書をつまみ食い的に概説しましたが、著者はこのような学校化社会への処方箋として、人権思想と平和主義を打ち出します。やはり、重要なのは教育権の主体を国家から国民に移す作業でしょうね。著者は教育改革の発想を、つくられた商品としての教育を選択する自由の整備だけでなく、国民が主体的に教育をつくりだす、教育創造の主体として描いています。平和文化、人権文化、学びの文化はこの発想のもとで現代に蔓延する直接的暴力と構造的暴力を克服する原動力となるわけですね。

     本書の感想ですが、現代の問題を概観する上でかなり参考になるところがありました。一方、内容が若干古いところがあります。現在では、コミュニケーション能力などの人格的要素まで競争原理に取り込まれたハイパー・メリトクラシー社会が到来しています。また、教育の多様性を認め、フリースクールを学校と同程度に認める動きも出ていますが、個人的にはこれによって学校の機能不全の改善努力が失われる危険性を心配しています。また、就学義務がフリースクールに拡大されただけだという見方もできますし、フリースクールの「学校化」も心配です。また、親の教育の負担感はますます増加しているものかと思いますし、教師の責任もより重くなっています。ニュースに非行問題が取り上げられた時の家庭批判、学校批判の過熱化にもこの問題が見て取れます。この見方には、社会が教育の機能を放棄し、家庭と学校に丸投げしているという現実があるのでしょう。このもと、教育の重圧感は強化されるばかりで、少子化にも拍車がかかりそうです。コミュニティや人間関係、地域における人と人とのつながりの希薄化を意識せざるを得ない社会になってきています。他人を監視し責めあう社会ではなく、協力し合い助け合う共生の社会であってほしいと思います。本書の提言はこのような社会問題に鋭く切り込み、優しい社会へと導くヒントを与えてくれています。

  • 読了したが、自分には難しかった。
    企業の在り方が学校教育まで一貫して覆いつくしており、負の影響を与えているといったことを緻密に論じていて凄みがある。政治と経済が教育にどれほど食い込んでいるかを思い知らされた。
    著者の堀尾氏は教育を論じる上で徹底して「教育の権利」について言及している。この辺を詳しく論じている著書をあたってみたい。
    教職教養の教科書には政治と経済と教育の関係についてあまりに著述がないのでとても参考になる。

  • p8
    戦前の教育が国家目的に従属する、国家目的の手段としての教育であったのにたいし、戦後の教育は子ども一人一人の可能性を育てることを軸にしている。国家は、教育の内容に口を出し、統制するのではなく、一人一人の人間の権利としての教育をどう保障するか、その条件整備の責任を負う。
    そこでは、教育の自立性、独立性がその原理になる。
    基本法第10条は、「教育は、不当な支配に服することなく、国民全体に対し直接に責任を負って行われるべきものである」

    p9
    戦後の教科書検定でとくに1960年前後を境目として特徴的なことは、学問的真実は真実としても、「教育的配慮」からこれのことは教えなくてはならないという態度を示してきたことである。しかし、これは「教育的配慮」という名の政治的配慮にほかならない。そうではなく、教科書および教育実践で大事なことは、科学的真理、真実とともに、それをどう教えるのかの「教育学的配慮」でなければならないというのが基本法の立場であり、精神なのである。

    p13
    日本の教育は、80年代半ばに臨教審が組織され、「自由化」の名で公教育を解体する路線がすすめられた。選択の原理が強調され、教育の商品化、競争と選別の強化が進んだ。商品としての教育は、お金がある人には私学でいい教育を、ない人には適当な公立学校でやればいいというもので、一人一人の人間の成長、発達を企画する教育基本法とは異なった教育観である。

    p15
    第二次世界大戦、あるいはそれにいたる帝国主義の歩みというものを全体として批判的にとらえる視点なしに、ただ日本の加害責任だけを強調するとすれば、歴史認識として正確とはいえない。

    p16
    帝国主義と侵略戦争に対する批判をした日本の先人たちの考え方とその行動、それへの弾圧の事実を含んで、生徒たちに丁寧に教えていくということを大事に考えないといけないと私は考えている。(中江兆民、幸徳秋水、内村鑑三、矢内原忠雄、石橋湛山、岡倉天心、柳宗悦)

    p24
    教養とは「人と人をつなぐもの」と言われるが、それは個別の認識を通してつなぐだけではなくて、まさに個別のものをいつくしむ感性を通して、あるいは人間的なふれあいを通して、苦しみを共有するということをも含んでの教養の問題が問い直されているのではないだろうか。歴史教育の課題もこの点に集約される。

    p88
    これまでみてきたように能力主義(メリトラクシー)は、官僚化と知の支配(エピステモクラシー)と密接に結合されて今日の支配的な社会構成の原理となってきている。この原理は、1960年代から今日にかけての日本の固有のものなどではなく、先進国に共通のものであるとともに、後発国にとっては、いわゆる「好発効果」(ドーア)をともなって、発展途上国では学歴競争はいっそう激しくなっている。

    文部省の教育認識も、この時期を機に政治主義から産業主義へと、その基調を移していく。1962年の「教育白書」は、『日本の成長と教育』と題され、つぎのことばで始まる、「社会の発展において教育の果す役割が重要なことは、あらためてのべるまでもないが、とくに最近において教育が経済の成長をもたらす強力な要因であるという考え方が、広く国の内外を問わず一般化しつつある。

    p97 L8
    その未来社会はバラ色に見えてくる。しかしよく読めば、それが一部の知的エリートたちに限られたぜいたくだということもすぐにわかる。

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