思想検事 (岩波新書)

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レビュー : 7
  • Amazon.co.jp ・本 (225ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004306894

感想・レビュー・書評

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  • 思想検事。なんか強そう、宇宙刑事みたいな。ではなく、NHKのドキュメンタリー「治安維持法 10万人の記録」に出ていた荻野富士夫さん(小樽商科大特任教授)の本を読めば治安維持法のこともっとわかるかなと著作一覧を見たところ、このタイトルが目に飛び込んできた。特高警察はよく耳にするけど、思想検事は初耳で、この名称のインパクトに、特高より先につい手を出してしまいました。
    思想検事は正しくは思想係検事という。思想犯罪(当初は主に共産党思想)を捕まえるのは特高警察だが、その次の手順として、彼らを起訴して裁判にかけるのは思想検事の役割だった。特高は拷問でもなんでもやるから忌み嫌われてるし、捕まった人に同情もあったかもしれないけど、そうやって挙げられた疑わしい人を「正式な」手続きで裁判にかけて、「正式に」罪を科す。警察組織の暴走や腐敗ではなく、国として下流から上流まで思想犯罪を取り締まる正当な仕組みを持っていたところに治安維持法の恐ろしさがある。国が認めた犯罪者だから国がおかしくなってない限り(いや、おかしくなっていても)罪は罪なのだ。特高の暴力を、国を動かす最高の知力を持った人々がバックアップしてどんどん思想犯罪を取り締まった。こんなことを国は認めていたし、推し進めていた。恐ろしい。
    思想検事のもう一つ怖いところは、悪名轟き解体された特高警察と違って、表に出なかったために、組織は温存され、検事たちも裁かれず戦後も脈々と生き続けたこと。冷戦構造による共産党への脅威もあって、思想検事は自分たちの行為を反省することもなく、公安検察へと形を変えて戦後も生き残った。そして、不都合な発言を封じるためか長期間拘留されたり、喚問されても「忘れた」と言い続けたり、訴えても無視されたりと、黙ってた方が得なことが頻発するようになった今のこの時代、思想検事が完全復活するような気がしてならない。

  • 新書文庫

  • 特高警察に比べてほとんど知られていない思想検事、思想検察について、この本1冊を読めばなんでもわかると言っても過言ではない(と言うより、類書は存在しないと思われる)。思想検察は、特高警察と主導権争いを繰り広げながら、戦前、戦中の社会において、大きな役割を果たした。特に、治安維持法を制定し、その拡張的な解釈による融通無碍な運用を生み出したのは思想検察であった。また、思想犯の動向把握や検挙に関しては特高警察に及ばない検察は、司法の全過程を通じての思想犯の改善更生に自らの役割を見出そうとした。日本共産党を壊滅させたのは、特高警察による徹底的な弾圧と並んで、思想検事の演出した「転向」の集団的な雪崩現象であったとの本書の指摘は、「思想司法」全般における、思想検事の役割の大きさを実感させてくれる。

    公安検察が思想検察の直系の子孫であることは容易に想像できるが、思想検察とは無縁と思われる現在の制度の中にも、そのルーツを辿ってみると、思想検察に行き着くものがあるのも面白い。例えば、先に述べたように、思想犯の改善更生に自らの役割を見出そうとした思想検察は、思想犯保護観察制度の担い手として、全国に保護観察所を整備した。これが現在の保護観察所につながっている(ちなみに、初代の東京保護観察所長は、思想検察のエース平田勲で、大審院検事を兼務していた)。現在、再犯防止のための取組みとして、検察と保護観察所や矯正との連携がしきりに叫ばれているが、戦前、すでに似たような試みがなされていたというのは衝撃的だ(もっとも、裁判員制度=国民の司法参加にしても戦前から行われていたわけで、司法制度改革のメニューなど、ほとんど、戦前や終戦直後に検討されていたりするのだが)。

    ところで、予防拘禁といえば、戦前、治安維持法とともに、人権抑圧の道具として猖獗を極めたというイメージがあるが、意外にもその適用は低調だったという。なぜなら、予防拘禁の申立ては、保護観察が十分な効果を上げていないことを意味するため、保護観察所長を兼任する思想検事らにとっては、自らの責任に関わることだったからだという。検事が保護観察所長を兼ねていたからこそ、このような事態が生じたと思うと興味深い。

    そのほかにも、本書は、我が国の司法、検察の歴史のトリビア的知識のオンパレードだ。戦前の検察庁は、検事局と呼ばれ、裁判所に付置された機関であったのはよく知られている。例えば、今の東京地検は東京刑事地裁検事局、東京高検は東京控訴院検事局、最高検は大審院検事局、という具合であった。ところが、満州国では、検察庁は裁判所から独立した機関で、それらが、満州国最高検察庁、ハルビン高等検察庁などという名称だったのは初めて知った。現在の「民主的な」検察庁の名称や機構が、おそらく、満州国などの植民地における検察庁に由来しているというのも面白い。

    終戦の衝撃を、思想検察がいかに乗り切ったかも興味深い。思想検察を名実共に育て上げた池田克が、一旦は公職追放となりながら、占領終了直後に最高裁判事となったことは、我が国の戦後司法界が、戦前と切れ目なく連続していることのまさに象徴であろう。

    歴史を知ることにより、現在の制度の問題点などがより深く理解できるようになる。本書はそのことを豊富な実例でおしえてくれる。

  • 戦時、司法がどのように役割を果たしたかを思想検事を焦点に描く。
    特高警察に遅れを取りつつも主体的に治安維持に奔走し、
    かつそうした体制を戦後にも維持した流れがわかりやすく描写される。
    また頻繁に行われる特高警察との対比も理解の助けとなった。

  • 図書館

    特高が思想警察なら、思想検察もまた存在していたということですね。
    時局の悪化と共に、弾圧も躍起になっていくようで恐ろしい。うむむ…
    大義名分があったり自分こそ正義と思いこんだりすると厄介だな。
    かといって、破壊活動や体制をひっくり返したい輩を放置しとくわけにもいかないわけで。
    よい体制、よい制度ってどれなのかほんと難しい。

  •  戦前、特高警察とともに思想統制・弾圧に猛威を振るった思想検察・検事の歴史。思想検事設置の経緯、権限拡大過程、治安法制確立における役割、警察や裁判所との関係、戦後の公安検察との継続性などを、史料根拠を明示しつつ、平明簡潔に叙述する。治安法制・思想統制の通史として極めて有用な本である。

  • 2階岩波新書コーナー : 327.13/OGI : 3410154052

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著者プロフィール

小樽商科大学教授。

「2011年 『太平洋の架橋者 角田柳作』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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