東西/南北考: いくつもの日本へ (岩波新書 新赤版 700)

著者 :
  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (199ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004307006

作品紹介・あらすじ

東西から南北へ視点を転換することで多様な日本の姿が浮かび上がる。「ひとつの日本」という歴史認識のほころびを起点に、縄文以来、北海道・東北から奄美・沖縄へと繋がる南北を軸とした「いくつもの日本」の歴史・文化的な重層性をたどる。新たな列島の民族史を切り拓く、気鋭の民俗学者による意欲的な日本文化論。

感想・レビュー・書評

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  • 最近、赤坂憲雄(が書いたモノ)と遭遇するコトが
    あったので、読み返したくなっている、、、

  • 都で発生→四方に伝播 という拡散過程を繰り返すことによって、同じ方言が近畿を中心として同心円状に分布するという「方言周圏論」については、様々な媒体で見聞きした事はあった。
    柳田國男はこれをより一般化させ、一見多様に見える日本の各地域の文化は、同一の歴史的道程における各丁場の例示に過ぎないのだ、というような確信に至ったらしい。

    こういった考えを著者は「一国民俗学」として批判し、南/北の比較考察等を通じて、系統を異にした文化の並存を提唱している。

    どちらが正しいというよりは、複数系統の並存をベースに、中心から周辺という文化の流れも作用して、諸地域独自の文化が形成されたというのが実際のところなんではないだろうか。

  • 柳田国男の一国民俗学以来の「ひとつの日本」を解体する試みです。

    年来の著者の主張である「東北学」の議論も織り込みつつ、さらに先史時代の日本列島における文化的多様性にまで考察の射程を伸ばしていって、対立を孕みながらも「ひとつの日本」に収斂していく「東西」の対立軸と、そこから漏れ落ちる「いくつもの日本」という発想を私たちに教えてくれる「南北」の対立軸を設定することで、日本文化を広い観点から考察する視座を提出しています。

    細部についてもっと詳しいことが知りたいという思いは当然あります(第1章の箕作りは、実証的で具体的な議論になっています)が、著者の提出するスケールの大きな構想はおもしろいと思いました。

  • 赤坂憲雄が東北学に着手し始める前?頃?の著書。いくつかの民俗学的事例をあげて、日本の東西比較以上に、南北比較への興味深さを訴える本。2000年の初版だが、今読むと模索している感は否めない。赤坂東北学の経過をみるにはうってつけ。
    第二章では、柳田の「一国民俗学」をあげて、「ひとつの日本」を目指した結果を斬る。多元的な文化の否定から、成り立つ「ひとつの日本」が、柳田の作った文化周圏論であり、311以後の「ひとつになろう、日本」が飛び交ったこの年の締めくくりに読むのに、違う面白さを感じたことも事実。だから、読みどころは第二章。ほかは、事例列挙。

  • 東西で統一された日本人、という柳田国男の日本人観は、国がまとまる必要があったという歴史的な意義もあって誤っていた。
    実際は縄文時代から地域ごとに異なった習慣を持つ人が暮らしていて、いくつもの境界があり、大和朝廷成立以降はその時々の国家が、統一された「日本人」を演出していた。
    特に北と南は異質の人々が暮らしていて、いまだにその名残がある。
    という趣旨で、色んな民俗学者・一部歴史学者の説を紹介していく。

    最初の方は面白そうでワクワクしながら読んだけど、
    途中からあれあれ、
    最後はもうあきらめムード。

    と、感じるくらい、オリジナルの話がなく引用だらけだった。
    元々柳田国男の説が色んなところに明らかに無理があって、
    それを真面目に反論していく。
    趣旨はとても興味深いんだが、せめて東北の話はマタギ以外の話もほしかった。

    ちなみに装丁がぴったりだった。
    読みやすい。

  • 2020.01―読了
        -2023.08.06-再読

    「ひとつの日本」から「いくつもの日本」へ
    じっくりと読みました。勉強させて貰いました。

  • 2000年刊行。
    著者は東北芸術工科大学教授・同東北文化研究センター所長。

     民俗学が時代・地域との関連性をどのように解読しようとしているか。北海道を切り捨てつつ、沖縄を本土に無理やり包含しようと試みた柳田國男の一国民俗学。

     この呪縛を克服する試みは、実は考古学や文献史学の側から展開されている。
     それは、例えば大野晋の方言論、旧石器時代の石器論(岡村道雄)や縄文土器論(小林達雄)から生まれ出ており、例えば「穢れ」解釈の地域性、人死のタブー視が地域・時代により差がある事実。東北北部と道南のアイヌ語源の地名論。このような議論に反映されているように見える。

     この点、東北北部や北海道の蝦夷論はそれほど新奇ではないが、土器に関する日本5分論(北海道と東北北部・東日本・畿内中国四国といった西日本・九州・南西諸島)を、列島に関する文化的基底・民俗学的基底と見ていく点は、なるほどの感がある。

     とはいえ、主流の民俗学的には列島を分化してみる視座に乏しいこと、これが柳田の呪縛である点。これを民俗学的に解消しようとした試みの一が、宮本常一の全国踏破民俗学ともある。これもまた納得の指摘である。

  • 箕、方言、社会・家族の構造、石器・土器、穢れ、アイヌ語、丸木舟といった様々な視点から、「いくつもの日本」を論じる。方言などにみられる東西の溝のほかに、東北北部と南西諸島に「ボカシ地帯」が存在する。いくつもの事例をあげて、北海道南部と東北北部が文化的に連続しており、蝦夷の歴史が潜んでいると繰り返し主張している。

    ・片口箕は稲作、丸口箕は雑穀と関連する。北日本・東日本では素材に樹皮が、西日本・南日本では竹が使われている。
    ・柳田の「蝸牛考」や周圏論的な文化の認識は、大和朝廷が成立して以降の後時的な現象とみなすべき(宮本)。一国民俗学は、戦時下の所産。
    ・東北や北陸では勢力のある旦那や親方と呼ばれる家の主人が村を支配するが、近畿を中心とした西日本では年齢階梯性が濃い。東北や北陸では長子相続制が濃く、関東の武家社会にも受け継がれているが、西日本では隠居分家や末子相続が見られる。東日本の社会は、本家を中心とした男系の分家の集まりである党的な結合だが、西日本では婚姻関係も含まれ、合議が尊重される。
    ・北海道のアイヌや沖縄の島々、東北の中世には、穢れのタブーによって差別する制度がない。
    ・葬地と祭地を分ける両墓制には死蔵に対する忌避観念がある。かつて、庶民には死者を家のそばに埋葬する屋敷墓が本来の姿であったが、死蔵を忌み遠ざける神社神道のあり方によって払拭された。
    ・胎盤処理の民族には、家の小口や敷居の下に埋める形式と、産室の床下・縁の下に埋める形式の2つが認められる。後者は地の忌みや産の穢れの習俗との関連が考えられ、渡来系弥生人によって持ちこまれたもの。
    ・肉食の忌避は、稲作への偏重とともに、仏教の罪悪感や神道の穢れ観によって増幅されながら、清浄/穢れの対立に置き換えられた(原田信男)。
    ・全体として眺めれば、今日の東北の民俗は和人のもの(大林)だが、蝦夷系の人々が滅亡し、和人が大挙して移り住んだという形跡はない。
    ・仙台の北の大崎平野から秋田と山形の県境より北側には、「ナイ」「ベツ」などのアイヌ語の地名が方々にある。

  • [ 内容 ]
    東西から南北へ視点を転換することで多様な日本の姿が浮かび上がる。
    「ひとつの日本」という歴史認識のほころびを起点に、縄文以来、北海道・東北から奄美・沖縄へと繋がる南北を軸とした「いくつもの日本」の歴史・文化的な重層性をたどる。
    新たな列島の民族史を切り拓く、気鋭の民俗学者による意欲的な日本文化論。

    [ 目次 ]
    第1章 箕作りのムラから
    第2章 一国民俗学を越えて
    第3章 東と西を掘る
    第4章 地域のはじまり
    第5章 穢れの民族史
    第6章 東北学、南北の地平へ

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著者プロフィール

1953年、東京生まれ。学習院大学教授。専攻は民俗学・日本文化論。
『岡本太郎の見た日本』でドゥマゴ文学賞、芸術選奨文部科学大臣賞(評論等部門)受賞。
『異人論序説』『排除の現象学』(ちくま学芸文庫)、『境界の発生』『東北学/忘れられた東北』(講談社学術文庫)、『岡本太郎の見た日本』『象徴天皇という物語』(岩波現代文庫)、『武蔵野をよむ』(岩波新書)、『性食考』『ナウシカ考』(岩波書店)、『民俗知は可能か』(春秋社)など著書多数。

「2023年 『災間に生かされて』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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