中国人強制連行 (岩波新書 新赤版 785)

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  • Amazon.co.jp ・本 (220ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004307853

作品紹介・あらすじ

第二次大戦中、日本政府によって強制連行された中国人は日本国内だけでも一三五か所の事業場にわたる。それはどのようにして行われたのか?日常の暮らしの中から暴力的に引き離された強制連行を綿密な聞きとり調査や現場探訪によって描きだし、これが決して過去のことではなく現在進行形の問題であることを説き明かす。

感想・レビュー・書評

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  • 帰郷の魂
     中国と日本との関係は近年、日中が領有権を争う尖閣諸島や慰安婦問題など、いろいろな歴史的な問題をめぐり悪化している。もちろん、関係の改善は両国の人々がともに求めていることだが、そういう歴史的な問題を放置したままでは、真の和解に至るのが難しいといえよう。中国では、南京大虐殺事件について、毎年の記念日になったら、主流のメディアだけでなく、多くの個人ブログにも取り上げられ大騒ぎになる。しかし、中国人強制連行についてはそれほど知られていない。
     「中国人強制連行の歴史がそれほど知られていないにもかかわらず、生存者が次々となくなる時代に来ているという事実に関わっている」という。当事者の顔や声が、なおかろうじてイメージできるぎりぎりの段階に直面している。しかし、一般の日本の生活や社会やにおいては、これは何の痕跡もとどめることのないまま風化しているようである。本書は、二十一世紀の若者の注意と関心を呼んでいる。
     2001年8月に西松建設の謝罪と賠償を求めるために、被害者の呂さんは香港でデモを参加した。当時80歳の呂さんに一言の挨拶もないまま引き下がった西松建設香港支店の営業課長の態度に、一貫して中国人をまっとうに処遇してこなかった企業の体質を著者は目にした。「五六年前広島の安野発電所を建設した時に受けた被害について」に対し、「東京本社には連絡するから、もう絶対に、二度と来ないでください。われわれには大変悪い影響を与えますから」という答えしか得られなかった。おそらく現在西松の経営陣は戦争に参加していないし、戦後生まれの人もいるだろう。先の世代が残した血の債務は彼らと直接の関係はない。しかし、彼らは誠実に言葉と行動で過去の歴史に対して明確な態度を表明しなければ、永遠に平穏でいられないだろう。
     第二次世界大戦中、日本政府と日本の企業が共同して、中国人約4万人を日本国内各地に強制的に連行し、多数を死傷させた。被害者らの被った精神的・肉体的苦痛は言語に絶するほど大きなものであった。今まで、被害者の請求が棄却され、裁判で失敗したことは何度もあったが、遺族の努力や本書の著者のような人々の努力にもより、和解もあった。本書のはじめに書かれた、西松建設を被告とする裁判は09年10月、戦時中の中国人の強制連行で西松建設の工事をめぐっては、すべて和解が成立したという結果が出た。本書は文献資料の解読だけではなく、著者自身が体験してきた様々な出会いから自分の内側がどのように変化してきたのも詳しく書かれていたので、ぜひ一読されたい。 

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著者プロフィール

1953年、京都市生まれ。大阪大学名誉教授。専攻は日本学・文化交流史。著書に『中国人強制連行』(岩波書店)、『越境する民』(新幹社)、『オリエントへの道』(藤原書店)、共編著に『岩波講座 アジア・太平洋戦争』(岩波書店)など。

「2018年 『戦後日本の〈帝国〉経験』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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