逆システム学: 市場と生命のしくみを解き明かす (岩波新書 新赤版 875)

  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (243ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004308751

作品紹介・あらすじ

市場や生命という複雑なしくみを解明する新たな方法を、著者たちは「逆システム学」と呼ぶ。それは、新古典派経済学や遺伝子決定論などの主流の学問研究を批判し、市場や生命の本質を多重フィードバックのしくみに見出すというものだ。経済学と生命科学の対話から浮かび上がる、まったく新しい科学の方法論。

感想・レビュー・書評

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  • 経済学者の金子勝と生物学者の児玉龍彦が、「逆システム学」という立場にもとづいて、それぞれの専門分野における要素還元主義的な発想を批判している本です。

    金子は、独立した個人に立脚する主流派経済学に対して、児玉は遺伝子決定論に対して、それぞれ批判的な立場に立っています。両者は、いずれの批判対象にも「要素還元主義」的な発想が見いだせると指摘しつつも、他方でそれに対するアンチテーゼとしての全体論もしりぞけます。著者たちの立場は、複雑なシステムの全体をモデル化するのではなく、経済政策や病気の治療といった働きかけによってシステムに生じる影響を観測することで、実践的に問題への対処を図るというものです。

    ただ、とくに金子の議論は従来の主流派経済学批判に終始しており、せっかくの看板である「逆システム学」の具体的な展開にたどり着くにはいたっていないような印象を受けてしまいました。

  • 38012

  • 90円購入2012-01-14

  • すごく示唆に富む本

    「複雑系」との違い・・・システム全体のモデル化を目的にする複雑系と異なり、調節制御の仕組みや要素間の関係そのものが研究対象

    ノイズとシグナルの峻別・・・重要な差異か、無視してよい誤差か

    「一創造百盗作」−大野乾の遺伝子重複仮説

    ゲーム理論に基づく情報の経済学の限界−年金制度や失業保険制度で論理破綻

    日本企業の「現場監督者(フォアマン)」は、職場の代表であると同時に経営側(制御系)の末端機構である。
    └2つの調節制御の機能が一人の人間に重複し、その機能を果たせないようになっている。
    交渉モデルでは、相反する利害を持つ者同士が交渉しないと均衡には達しないのに、「現場監督者」の心の中で行われる交渉ゲームになってしまい、重要なフィードバック機能を失わせる。

    多重フィードバックが効かなくなって、インセンティブに頼るような、一方向に向かって進む状態を「フィードフォワード」という。現実による調節のかからない危険な仕組である。

    システムが切り替わるとき−一度に切り替わるほうがうまくいく
    胎児→乳児
    乳児→幼児
    ※成長→成熟 成熟→老化は、はっきりとした区切りがない中で進行するため、かつ成功体験があるため、困難が伴う。

    同じ遺伝子が正反対の働きをすることがある。
    └調節制御の遺伝子が、時期を見て働かせ方を変える。素朴な『遺伝子決定論』では説明がつかない。

    政策者がバブルを望むワケ−必要消費より顕示的消費が盛んになるから

    成長期にはフィードフォワードが有効な場合も多いが、成熟期にはもろくなってしまう。

    セーフティネットには、自立の契機が必要。「状態」の変化に応じてセーフティネットを張りかえないと、多重フィードバックは壊れてしまう。
    セーフティネットは、画一的に人々にインセンティブを与えるような仕組みではない。人々の多様性や多元的社会を保証するものでなければならない。

  • 大学の先輩の引っ越しの際に譲り受けたと記憶。気前よく譲ってくれただけに、読後の感じも含めて、当たりハズレで言えばハズレだったのかなと思いつつ、ちゃんと最後まで通読して本を閉じましたよ。

    本としてはもう、最悪です。
    まず、構成が酷すぎる。構成の悪さで読む側の脳味噌に対して過度な負担をかけ、読む気力を徹底的に削ぐ仕様になってます。
    そして、往復の割に「だから何?」と首を傾げたくなるような内容の薄っぺらさ。あぁ、研究者であるあなたがそのアプローチを取れるようになれて、幸せそうですね良かったですね。以上。終わり。
    「逆システム学部」でも立ち上げたいなら、どうぞお好きに、という感じ。まぁ、この本書かれて10年以上経つので、そんな学部ない辺りお察しですよね。

    構成の酷さの原因はトピックが共著者間でやたら往復するところでしょう。分子生物学→経済学→分子生物学→経済学→……と続く行ったり来たりっぷり。節同士のつながりがいいかどうかについては、全くのアナロジー頼りなので正直キツい。「逆システム学」というテーマで書かれた生物学と経済学の論文を1節毎抜き出しで交互に読まされている感じ。だから、冒頭から直線的に読むといちいち頭の切り替えが必要になって来て、切り替えを繰り返しているうちに何を言っているのか全く分からなくなる。

    そして、実際中身としても、「要素還元主義批判」で、「要素と要素の関係に注目しよう」以上には、特段面白い話をしている訳でも何でもありません。確かに「多重なフィードバック」だとか、「セーフティネット」だとか、「制度の束」だとか、目を引きそうな概念はありますけれどもね。
    構造を考える議論と何が違うんでしょう?
    要素と要素の関係性こそ、どんなにミクロな関係性だろうと、構造に他ならないんじゃないでしょうか。
    私は、構造を議論する学問や研究領域の研究者達が、単純に筆者たちの言うように自分の考えたモデルに頑なであるとは全く思いません。また、先にモデルありきで全てを還元したがる研究者は、単に「センスが欠けている」だけで、学問が学問として機能していればそれこそ淘汰されるのではないでしょうか。構造の理論的モデルの現実との対応関係は、それこそフィールドワークのような現場でのデータ集めと現場での体験に基づく思索の繰り返しで常に書き換えられもしますし。

    それより何より、何でこのコンビ(金子勝と児玉龍彦)なんだろうと思ってちょっとWikipediaを参照させて頂きました。中高時代からのダチなんすね。「新しいパラダイム」とか野心剥き出しで言いつつも盛大にスベってる辺り、何というか、何かイタイタしいものを感じます。蛇足すれば、主に金子氏の方が盛大にスベっていて、児玉氏の方はそれに付き合わされて引きずられている感じ。

  • 2007-08-13

    間違いなく野心的な書であることは言えるでしょう.

    東大文化?

    そこまで重くない気持ちで読み始めましたが,かなりのタフさでした.

    日本にとどまらないマクロ経済の話を歴史的なレベルで政策の話などをしつつ,5ページくらいに一度,
    生命科学のトピックと切り替わるという,

    経済学と生命科学が行ったり来たりのコンフュージョン.

    これを,総合的に読みこなせる読者は殆ど居ないでしょう.(部分的にはクリアですが)

    僕は,経済学に詳しい生命科学の学生も,生命科学に詳しい経済学の学生も殆ど知りません.(海外ではダブルメジャーがあるんで,
    そこそこ居るでしょうが)

    経済学と生命科学が5ページに一度切り替わる進行パターンで,

    徐々に何言ってるのかわからなくなっていくという,恐ろしい本です.

    まあ,
    システム論好きとしてはこの二つの領域に積極的にアナロジーを成立させてシステムを読み解こうとする立場には感銘を受けます.


    ゲノムの調整機能と経済のセーフティーネットにアナロジーを結びつけていくのは,なにかひらめきがあったんだろうなあとは伝わってきました.

    オリジナルなキーワードとしては逆システム学以外に,<多重フィードバック>と<制度の束>という言葉が出てきましたが,
    共に

     たくさんのフィードバック

     いろんな制度

    以上の意味がよみとれませんでした.・・・・
    僕の理解不足でしょうが.

    僕が不勉強なせいで,「逆システム学」自体も,よく理解できませんでした.
    また,後々に読んでみたいです.

    まあ,久しぶりに骨が在りそうで,わからん本だったので,ディスカッションの題材にはナカナカいいかもしれませんね.
    positive!!

    本の内容としては批判や批評的な部分が多く,
    「結局,[逆システム学]でどんな研究が成立するの?」
    が,不在な感じがしました.

    次は是非,数式や体系化を込みにした横書きの本で読んでみたい.

  • 世の中、単一の因果関係だけではなく、多重フィードバック機構があって安定しているということを前提に、諸々の処理系を理解しなければならないというのが、「逆システム学」の立場である(らしい)。
    市場経済と生命の仕組みの両面から、こうした多重フィードバックの事例を分析する。経済学と生物学を行き交う巧妙なコンテキスト・スイッチが読んでいて面白い。生物は多重フィードバックで恒常性を維持している典型的な成功例ではなかろうか。一方の市場経済活動い対しては、人為的なフィードバックの不足が深く批判されている。

  • 生命と経済学における市場の概念に、深い相関があるとする。
    あくまで概論だが、興味深い話ではある。いつか続きが読めるといいなという一冊。

  • 視点はちょっと面白いが、残念ながら着想だけで中身が無い。

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著者プロフィール

金子 勝(かねこ・まさる):1952年、東京都生まれ。経済学者。東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。東京大学社会科学研究所助手、法政大学経済学部教授、慶應義塾大学経済学部教授などを経て現在、立教大学経済学研究科特任教授、慶應義塾大学名誉教授。財政学、地方財政論、制度経済学を専攻。著書に『市場と制度の政治経済学』(東京大学出版会)、『新・反グローバリズム』(岩波現代文庫)、『「脱原発」成長論: 新しい産業革命へ』(筑摩書房)、『平成経済 衰退の本質』(岩波新書)、『資本主義の克服』(集英社新書)ほか多数。

「2023年 『イギリス近代と自由主義』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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