安心のファシズム: 支配されたがる人びと (岩波新書 新赤版 897)

著者 :
  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (232ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004308973

作品紹介・あらすじ

携帯電話、住基ネット、ネット家電、自動改札機など、便利なテクノロジーにちらつく権力の影。人間の尊厳を冒され、道具にされる運命をしいられるにもかかわらず、それでも人びとはそこに「安心」を求める。自由から逃走し、支配されたがるその心性はどこからくるのか。著者の長年の取材、調査、研究を集大成する渾身の書き下ろし。

感想・レビュー・書評

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  • 内容的には感情的・被害者意識の強い内容で困惑するものであったし、半分読んでから食傷気味になったのも確かである。

    イラク人質事件を受けて突き動かされた感情のままに書いたとあとがきに記されていたのと、最後の章でシベリア抑留を11年間強いられた挙句に亡くなられるまで公安の監視を受けた父の存在で、国家への不信感を抱き、権力や自由に敏感になるのも仕方が無い事だなと思った。

    現在ではケータイから進化したスマホ、監視カメラ・自動改札機は改良され当たり前で。サイバネティックスにどっぷりと浸かり、本書は過ぎ去ったもう戻りはしない時代に逆らう叫びを切り取った形である。

    日本ではIT革命が起き、世界はリーマンショックの2008年以前と以後で変わったとされている。綺麗で学術的に洗練された言葉を求めるならば、フロムやフーコーを読んだ方が遙かに有益ではあるが、本書が発行された2004年から見える視点や、新しいテクノロジーや制度・体制への不安・疑問を筆者の当時の感情や空気をむき出しにぶつけて貰って良かったと思う。

    残念ながら、これを読んだことで「防犯カメラの撤去を、自由とプライバシーの回復を!」「ICカードなど使ってなるものか!」とは私は思わない。便利だからだ。煩くないからだ。「監視される事で安心を得て」いるからだ。今は平時であり多数派だからで、圧倒的な利便さに頼っている。支配されたがる人々と軽蔑されても構わない、私はリヴァイアサンを必要としているのである。しかし、平然と存在するものの歴史を知ったり、利点と欠点を考える時間は有益だろう。

    地方で切符を切って頂いた時には「旧態然」であり機械化する以前の、やりとりの源流に触れた気がした。筆者が自動改札機を恐れるのも分かるし、機械化された利用者が不気味に映るのも致し方ないと思う。

    現在でファシストの指導者といえば、ヒトラーの他に、ムッソリーニ、そしてスターリンであり、全体主義と権威主義は大衆につきもので、思想が保守主義者であれ進歩主義者であれ社会主義者・社会改良主義者であれ陥るもので、小さなコミュニティから国家に至るまで、大衆が求めればファシズムはやってくるだろう。それを打ち破るものと言えば「疑問を感じること」そして「寛容であること」で、健全な民主主義の機能を維持する事だと思う。

  • 日本は静かに戦争ができる状態に向かっていって近い将来""民主主義""という言葉だけ残っていくとずっと思っている。監視カメラで人々のプライバシーはなくに等しくなるというのはすこし飛びすぎだと思うが現在進行形でマイナンバーカードとかいう訳の分からないものを推し進めている現状では道が違うだけで終着地点は同じなのかもしれない。

  • 自由を制限されることを日本人はあえて望んでやしないか。そんな問題提起をする本。2004年の本で、当時の日米のトップ(小泉首相、ブッシュ大統領)の言動への批判も。

    ジョージ・オーウェルの有名なディストピア小説「1984年」が引用され、極端に管理された社会に日本が近づいているという例を挙げている。当時普及し始めたネット、自動改札、ケータイなど技術面からの管理や日本人の思想の変化など。

    スマホがないと社会生活で不便を強いられる現在を考えるとあながち外れてもいないと思うが、そこに国家的に統制を進めようとしている思想があるというような展開はやや飛躍しすぎと思える。

    ファシズムがこの国で進んでいるというよりは、技術も経済も成熟してしまい、新しい技術をなんとか新しい収益にしたいという経済活動が生み出してしまった結果なのでは、と思える。

  • タイトルに惹かれて購入。
    一言で言うと、題名とコンセプトに比べて内容がやや残念。著者も引用しているようにエーリッヒ・フロムの「自由からの逃走」を彷彿とさせる内容で、自由と権力の問題に果敢に切り込んでいる。
    と、そこまではいいのだけど、全体的に深め方が浅いのか、なんとなく陰謀論的な記述が多いように思えてしまったし、著者の熱が伝わりすぎて逆にそれが内容に冷静さを持たせることを邪魔してしまったような。
    岩波新書っぽくないかな、正直。悪くはない本だけど、敢えて誰かに進めるということもない本。

  • タイトルが秀悦。おかげさまで落胆は大きかった。

    一般的に「安心」はいい、「ファシズム」は悪い状態という認識が共有されている。なのに、その二つが結託するのはどういうメカニズムなのか。悪いとされているファシズムがどう人々に安心をもたらしているのか。これを社会科学的なアプローチで説明しているのではないかと期待してしまった。まあ、期待しすぎでした。フロムは引いているけど。各章での議論は焦点がぶれぶれで不満ぶちまけっていう感じのところもある。
    そもそも全体を通してファシズムというより広義の権威主義を扱っている印象(ざっくりした印象としてファシズムは権威主義のサブカテゴリでは。詳しくない。誰か教えて)。用語の定義もされていないので不明瞭な部分が多い。

    星二つあげるのは、扱っているトピックは面白かったこと、フロムやっぱり読みたいなぁと思わせてくれた点から。生まれてこのかた自動改札を利用してきたもので...。監視カメラの話も合わせて、監視の目線が内在化した現代人ですね私もと思いました。(それならフーコーとか引けばいいのにって悶々としていた)

    にしてもちょっと残念!

  • 【由来】
    ・「民族とネイション」のamazon関連本。

    【期待したもの】
    ・ナショナリズムについてのシントピカルによさげ。

    ※「それは何か」を意識する、つまり、とりあえずの速読用か、テーマに関連していて、何を掴みたいのか、などを明確にする習慣を身につける訓練。

    【要約】


    【ノート】

  • フロム『自由からの逃走』に『1984』を混ぜて自身のイデオロギーを語るという「やりたいこと」は理解できるが、全体的に浅くて稚拙。

    「監視カメラの心理学」なんて章があるのを見つけてフーコーなんかに絡めて書かれていると勝手に勘違いして読み始めた自分もあれだけど、呆れるほど浅い内容でマジ呆れた。心理学のかけらもなく、ただ被害者意識を全開にしてるだけで、過度の一般化も中学生レベル。

    あらゆる公権力に反対する、という姿勢もここまで教養なく語られると「落書き」レベルでしかない。オワタ。

  • かなり前に読んだ一冊。自動改札機の話や、監視カメラの話がインパクトが大きかった。

  •  著者の斎藤貴男(1958-)は国際学MAをもったジャーナリスト。

    【内容紹介】
    ■著者からのメッセージ
    “ファシズムはそよ風とともにやってくる、という警句があります。独裁者の強権政治だけでファシズムは成立しません。自由の放擲と隷従を積極的に求める民衆の心性あってこそ、それは命脈を保つのです。私たちは今、まさにそのような空気のただ中にあるのではないでしょうか。多くの人々が、何者かに対する不安や怯えや恐怖や、その他諸々がないまぜになった精神状態が、より強大な権力と巨大テクノロジーと利便性に支配された安心を欲しているかのようです。権力に無条件で服従しない人が現れると徹底的に叩かれるのはこのためです。たとえばイラクの人質事件で当事者や家族たちに浴びせられた集中砲火が、もしかしたら近い将来、この国の歴史の重大なターニング・ポイントだったと評価されてしまうような事態にならないとも限りません。私たちはいま一度、現状を冷静に見つめ直してみる必要があると思います。不安に満ちた人間にとって、ファシズムはとりあえず居心地がよいのでしょう。しかし、その先に待ち受けているものは何なのか、ということを。今のうちなら、まだ引き返せるかもしれません。そのための手がかりを、私はやむにやまれぬ危機感を以って、本書に書き込んでみたつもりです。一人でも多くの読者に手にとっていただけることを願ってやみません。”



    【目次】
    目次 [ix-x]

    第一章 イラク人質事件と銃後の思想 001
    人質たちへの誹謗中傷/自作自演説の発信地は首相官邸/最悪の局面で噴き出した自己責任論/自己責任とは何か/「癒し」としての差別/人質バッシングに見られる尋常でない視点の高さ/超国家主義の復権

    第二章 自動改札機と携帯電話 041
    自動改札機の存在感/自動改札機の普及史/アメとムチによる徹底/人間工学とサイバネティクス/生理的器官化した「ケータイ」/ケータイ市場の爆発とトラブルの急増/「つながってるね」の本当の意味/脳のアウトソーシング/「動く商圏」と「息をする財布」

    第三章 自由からの逃走 081
    自民党憲法調査会の議論から/先行する「心の教育」/日本中の子どもに『心のノート』を浸透させるということ/心のアンケート調査/コンフリクト・フリー/「お国のために命を投げ出す」国民を/サラリーマン税制と会社人間の習い性/ナチスの亡霊

    第四章 監視カメラの心理学 117
    艶歌の成立しない世界/監視カメラに関する意識調査/杉並区監視カメラ専門家会議/監視カメラ“先進国”英国の実態/何がなんでも“防犯カメラ”/監視カメラの向こうとこちら/哲学としての監視カメラ論

    第五章 社会ダーウィニズムと服従の論理 157
    ネオ封建時代への構想/“衛星プチ帝国”を志向する日本/誰がためのゼロ・トレランス/排除によってしか確保できないと考えられた「安全」/9・11以降のアメリカ監視社会/ハイテク・社会ダーウィニズムの恐怖/再び「コンフリクト・フリー」/『バトル・ロワイヤル』式

    第六章 安心のファシズム 199
    自由でないことの「幸福」?/サウンド・バイト/ブッシュ大統領と小泉首相/新語法〔ニュースピーク〕/ウンベルト・エーコの『永遠のファシズム』/思想統制事件の横行と「これから」

    あとがき(二〇〇四年六月 斎藤貴男) [229-232]

  • 他人の指図だけは受けたくないと強く願っているわたしとしては、最近の安倍内閣を支持する人々が全くもって理解できず、「なぜ、そんなに支配されたがっているのか?!」と悶々としていた時に、ふと、いつものブックオフで見つけた本。

    副題は、「支配されたがる人びと」!!!
    まさにその時のわたしの悩みにジャストミートであった。読んでみて、この本が書かれた2004年にはもう既に2015年いま現在の路線が決まっていたのであった。現状に照らして、深くふかく納得…

    同時に読んでいたノーベル賞受賞者クリック博士の「DNAに魂はあるか」の結論にぴったりマッチしていたのには驚いたし、希望が持てた。ぜひ皆に読んで欲しい!

    Mahalo

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著者プロフィール

ジャーナリスト。1958年東京生まれ。早稲田大学商学部卒業。英国バーミンガム大学修士(国際学MA)。新聞記者、週刊誌記者を経てフリーに。さまざまな社会問題をテーマに精力的な執筆活動を行っている。『「東京電力」研究 排除の系譜』(角川文庫)で第三回いける本大賞受賞。著書に『日本が壊れていく』(ちくま新書)、『「心」と「国策」の内幕』(ちくま文庫)、『機会不平等』(岩波現代文庫)、『『あしたのジョー』と梶原一騎の奇跡』(朝日文庫)など多数。

「2019年 『カルト資本主義 増補版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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