ヨーロッパとイスラーム (岩波新書 新赤版 905)

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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004309055

作品紹介・あらすじ

ヨーロッパ先進諸国に定住するムスリム人口は、二世、三世を含め今や一五〇〇万以上といわれている。増加と共に目立つようになってきた受け入れ国社会との摩擦は、何に由来するのだろうか。各国でのフィールドワークを踏まえて、公教育の場でのスカーフ着用をめぐる軋轢などの現状を報告し、異なった文明が共生するための可能性を探る。

感想・レビュー・書評

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  • 「ヨーロッパとイスラーム」内藤正典著、岩波新書、2004.08.20
    207p ¥735 C0235 (2023.11.21読了)(2023.11.16借入)
    副題「共生は可能か」
    ヨーロッパの外からやってきて、住み着いた人たちにどのように対応しているかを調査して書かれた本です。ドイツ、オランダ、フランスについて書かれています。
    働くために来て住み着く人、難民としてくる人、様々です。働くためにきた人は、母国に帰る場合もありますが、家族を呼び寄せて住み着くこともあります。所得が低いために、家賃の安い地域に集まる傾向にあります。国によって、対応は様々です。
    ヨーロッパ以外の方々は、ムスリムが多いので、トラブルのもとにもなります。
    日本も人口減少に伴い、働く人たちを海外から受け入れ始めていますが、いずれ同じような問題に突き当たることになるのでしょう。

    【目次】
    序章 ヨーロッパ移民社会と文明の相克
    Ⅰ章 内と外を隔てる壁とはなにか―ドイツ
    1 リトル・イスタンブルの人びと
    2 移民たちにとってのヨーロッパ
    3 隣人としてのムスリムへのまなざし
    Ⅱ章 多文化主義の光と影―オランダ
    1 世界都市に生きるムスリム
    2 寛容とはなにか
    3 ムスリムはヨーロッパに何を見たか
    Ⅲ章 隣人から見た「自由・平等・博愛」―フランス
    1 なぜ「郊外」は嫌われるのか
    2 啓蒙と同化のあいだ―踏絵としての世俗主義
    3 「ヨーロッパ」とはいったい何であったか
    Ⅳ章 ヨーロッパとイスラームの共生―文明の「力」を自覚することはできるか
    1 イスラーム世界の現状認識とジハード
    2 ヨーロッパは何を誤認したのか
    あとがき

    ●ドイツのムスリム(56頁)
    ドイツ在住のトルコ人は260万人に達している。他にボスニアや中東からの移民と難民がいるので、ドイツ在住のムスリムは300万人を超えると推定されている。
    ドイツに働きに来た移民たちは、当初、イスラームの信仰実践に熱心ではなかった。信仰の実践よりも働いて金を稼ぐことに忙しかったのである。だが、1980年代から、つまり移民たちが家族と共に定住する傾向が始まったころから、イスラームの信仰実践に対してしだいに熱意を見せるようになった。
    ●トルコとサウジアラビア(64頁)
    トルコはイスラーム圏にありながら最も厳しい世俗主義(政教分離)を採用している。公の領域からイスラームを排除してきたので、国民が守るべき法律は国家が定めたイスラーム色のない法律だけである。
    サウジアラビアやイランのように、イスラームが公の領域にも及んでいる場合には、国家の法律そのものがイスラーム法に依拠している。
    ●ドイツにおける国家と宗教(69頁)
    ドイツは、国家と教会を分離しているし、社会の世俗化も進んでいる。しかし、キリスト教が公的な領域において表に出ることは認められている。公教育においても、選択科目だが、カトリックやプロテスタントの宗教教育がある。強制はされないものの教会税が存在し、徴税行為は国家が代行する。
    ●イスラームの指導者(70頁)
    イスラームには教会組織がない
    カトリックにおける司祭、プロテスタントにおける牧師、ユダヤ教におけるラビのような資格さえ、イスラームにはない。礼拝を指導するイマームはいるが、「イマームの資格」を授与する資格を持つ教会組織がない
    ●フランスのフラテルニテ(138頁)
    フラテルニテは、移民の側から見るとフランスに暮らすための第一条件である。フランス語をきちんと学び、フランス人らしいものの考え方になじみ、フランス共和国成立の歴史に敬意を払い、フランスの諸原則を遵守するという契約関係を結んで、はじめて「同胞として愛してもらう」ことができる。そのうえで、自由や平等が保証されるのである。
    ●テロの撲滅(183頁)
    テロという暴力への暴走を抑止するためには、迫害・抑圧。簒奪された人々を減らすことによって、憤りを緩和させることが必要である。暴走をもたらす原因をなくさない限り、テロや暴力はなくならない。ムスリムが世界の状況を不公正だと認識していることと、不公正と戦うためには暴力もいとわないと感じることは、イスラーム的正義漢の延長線上にある。

    ☆関連図書(既読)
    「ドイツ史10講」坂井榮八郎著、岩波新書、2003.02.20
    「ドイツリスク」三好範英著、光文社新書、2015.09.20
    「世界最強の女帝メルケルの謎」佐藤伸行著、文春新書、2016.02.20
    「ルポ 難民追跡――バルカンルートを行く」坂口裕彦著、岩波新書、2016.10.21
    「繁栄と衰退と」岡崎久彦著、文芸春秋、1991.06.30
    「アンネの日記 完全版」A.フランク著・深町眞理子訳、文春文庫、1994.04.10
    「司馬遼太郎の風景(5) オランダ紀行」街道を行くプロジェクト、日本放送出版協会、1998.12.25
    「フランス史10講」柴田三千雄著、岩波新書、2006.05.19
    「フランスの異邦人」林瑞枝著、中公新書、1984.01.25
    「フランスの憂鬱」清水弟著、岩波新書、1992.08.20
    「フランス家族事情」浅野素女著、岩波新書、1995.08.21
    「トルコ 建国100年の自画像」内藤正典著、岩波新書、2023.08.18
    (「BOOK」データベースより)amazon
    ヨーロッパ先進諸国に定住するムスリム人口は、二世、三世を含め今や一五〇〇万以上といわれている。増加と共に目立つようになってきた受け入れ国社会との摩擦は、何に由来するのだろうか。各国でのフィールドワークを踏まえて、公教育の場でのスカーフ着用をめぐる軋轢などの現状を報告し、異なった文明が共生するための可能性を探る。

  • メディアで報道されている情報は偏っていて、その情報が全てではないことを改めて思い知った気がします。
    2004年に書かれた本のようですが、15年以上経ってこの頃から世界はまた変わってきています。でもそんなに前に書かれた本なのか!?と思うくらい自分がいかにイスラームについて無知だったことが分かります。
    色んなことを自分でネットで調べるよりも、まずはこの一冊を読んでからニュースを見て欲しいです!

  • 現代のヨーロッパに生きる、ムスリム移民と当国民との相克を具体的に描き、両者のあいだの確執がいかにうまれたかを、論理的に述べる。

    イスラーム史のうえに、もともと理系だったとは思えない、文章の読みやすさ。まるで新聞記者の書いたルポのように、真に迫ってよめる。

    舞台となる国は、ドイツ、オランダ、フランスである。
    同じヨーロッパとしてくくられがちなこれら国も、政治的文化には大きな相違があり、それによって、ムスリムへの対応も変わる。

    ドイツは、誰がドイツ国民かを規定するときには血統主義をとる。両親の両方もしくはどちらかが、ドイツ人の血をひいていることを、ドイツ国民であることの資格とするのである。日本人にとってはもっとも分かりやすい、国民感覚であろう。すなわち、ドイツ/日本民族=ドイツ/日本国民なのである。民族国家としての側面を強調した国である。
    第二次世界大戦以降、西ドイツは国家の分裂による労働力の減少を補うために、ムスリム(トルコ系)移民を受け入れることになる。
    彼らは、もちろん当初は出稼ぎであったし、ドイツにとってもお客様以外の何者でもなかった。
    しかし、時がたち、二世が生まれ、彼らがドイツ国民としての立場を要求するにつれ摩擦は増す。定住する彼らにとって、国家の保護、政治参加を求めることは権利であるが、血統主義を感覚として持つドイツ人にとっては彼らはいつまでも外国人でしかない。
    「いつトルコに帰るのか」と何十年ドイツで暮らそうが、問いかけられることになる。
    このあたりは、日本人の外国人に対する感覚と全く同じ問題を持っている。
    結局同化は起こらず、トルコ・ゲットーと言われるトルコ人街が貧しい地域に出現し、外国人拝外論が出てくることになる。それは、ユダヤ虐殺の歴史とも重なり、ドイツ人にとっても複雑な感情を呼び起こすことになる。

    一方、オランダは、商業国家である。そして徹底的に個人の自由を求める国風を持つ。「列柱主義」といわれる政治文化を持つ。プロテスタント、カトリック、無神論者、その他すべての考え方を持つ人たちは、集まり、そのコミュニティのなかに学校をつくり、そのなかで生きていける自由を持つ。
    その互いのコミュニティの柱が連動してオランダの国を支えるという、ある意味モザイク国家的な姿を持つ。
    血統主義ではなく出生地主義で国民を決め、定住外国人も参政権が保証されているため、ムスリムはオランダ国民に簡単になれる。
    またムスリムの共同体の柱を立てることは、安定した国家運営のためにむしろ有益であるとされ、国家から学校などの建設に補助金もでて、ムスリムは自分たちのコミュニティを安心してもてるようになった。
    多様性の天国、理想型のようなオランダにもしかし問題はある。
    お互いがお互いの文化にたいして攻撃はしない代わりに関わり、理解し合うことも推奨されるわけではないのだ。
    攻撃しないがゆえに、無関心でもある。

    そのオランダでも、ヨーロッパ的「自由」とイスラームの対立はある。
    イスラームの生活自体が、宗教的であれということを周りの人々に押しつける、すなわち、非宗教的である自由を攻撃しているととらえられつつあるのだ。またカトリックなどの柱がすでにオランダという国家に融合していくなかで、ムスリムという柱のみが強大になっていくことへの反発心も起こってきている。
    やはり自由のオランダでもじわじわとムスリム排除がすすむのである。


    イスラームの「個人」と、キリスト教からの解放と近代を経たヨーロッパの「個人」、また、聖俗分離の観念の無い、すべては神のものというイスラームと、聖俗分離が今までの歴史の中で確率され、国是ともなっているヨーロッパ諸国との、概念的違いを一つ一つ解きほぐす。
    お互いの憎悪はいかにうまれたかということを。

    日本人というどちらにとっても他者であるからこその冷静な視点。
    しかし、当事者となっては、こんな簡単なことも、少しの他者への想像力と理解があれば、分かることも分からなくなってしまうのだろう。


  • ヨーロッパの忘れっぽさが半端無い

  • 著者の意見には同意しかねる点もあったが、イスラーム文化に馴染みの薄い私はかなり勉強になった。
    西洋文化の押し付けがましさとでしゃばりも批判すべきで自覚を持つべきだとは思うが、そうしたとてやはりムスリムとの共生はかなり無理があるよなぁと思う。
    けれど、母国を追われてしまった人たちが自身の宗教のもとで生きていく権利は保障すべきことであるし、うーん。私の中では答えはまだ出ない。関連書籍をもっと読みたくなった。

  • ドイツ、オランダ、フランスを例にとって、ヨーロッパとイスラーム世界はなぜ互いに攻撃し合うのかを検討する本。民主主義や個人の捉え方をめぐる、ヨーロッパ人の思想とムスリムの思想の相違点がわかる。

    欧米は民主主義を絶対的で、あるべき体制だと考え、権威主義や独裁体制であるイスラム諸国に介入してきた。しかし、ムスリムは自由主義と民主主義を重視しない。本来ムスリムはキリスト教徒を敵視しないが、今は欧米諸国がただ同胞を攻撃する悪としかみえてない。

    欧米人はムスリムのことを理解しようとはしない。それはムスリム側も同様かもしれない。相手の立場を理解する姿勢がなければ平穏は訪れないだろう。

  • 金大生のための読書案内で展示していた図書です。
    ▼先生の推薦文はこちら
    https://library.kanazawa-u.ac.jp/?page_id=18338

    ▼金沢大学附属図書館の所蔵情報
    http://www1.lib.kanazawa-u.ac.jp/recordID/catalog.bib/BA68278589

  • 啓蒙主義、世俗主義を掲げる西洋諸国とイスラム教徒の対立はなぜ起こり、どうすればよかったのかについて書かれています。主に移民視点で書かれているようには感じたけど中立の立場で論じられてる良書です。
    ドイツ、オランダ、フランスを例に挙げてイスラム系移民について取り上げていますが、本書は著者が足を使って現地へ赴き取材を重ねた成果とも言えると思います。
    しかし特にフランスの項で、フランス人のように「他国で生活するなら他国のシステムに従うべきだ」とどうしても思ってしまう人間なので、移民側の主張は少し理解できない部分はありました。たとえ宗教的な問題を抱えているのだとしても。しかし「郷に入れば郷に従え」ということわざが日本にはあるくらいですし、自分も日本的な価値観に支配されているのかもしれません。内容はとても良かった。オススメ

  • 卑しのスカーフ

  • 2004年に出版された本で、ヨーロッパにおける状況はさらに厳しく変化しているように感じています。日本が移民社会に移行しようとする今、これくらいの知識は日本国民も学んで覚悟しておくべきでしょう。

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著者プロフィール

1956年東京都生まれ。東京大学教養学部教養学科科学史・科学哲学文科卒業。社会学博士。専門は多文化共生論、現代イスラム地域研究。一橋大学教授を経て、同支社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科教授。著書に『イスラームから世界を見る』(ちくまプリマー新書)『となりのイスラム』(ミシマ社)『外国人労働者・移民・難民ってだれのこと?』(集英社)ほか多数。

「2022年 『トルコから世界を見る』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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