英語でよむ万葉集 (岩波新書 新赤版920)

  • 岩波書店 (2004年11月19日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (208ページ) / ISBN・EAN: 9784004309208

みんなの感想まとめ

古代日本の詩歌を現代英語で味わう新たな試みが、独特の魅力を放っています。万葉集の翻訳は、言語の壁を越え、7世紀の日本語の美しさを現代に伝える挑戦であり、著者の深い理解と情熱が感じられます。特に、柿本人...

感想・レビュー・書評

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  • 「春過ぎて 夏来(きた)るらし 白妙の 衣乾したり 天の香具山」

    ブク友の皆さんもよくご存じの一首を載せてみた。
    万葉集巻1にある持統天皇の三十一文字の歌である。
    明るい光の中に、遠く白い衣が映える季節の移りをうたったもの。
    これが著者の英訳だとこうなる。

    Spring has passed,
    and summer seems to have arrived:
    garments of white cloth
       hung to dry
    on heavenly Kagu Hill.

    ふわりとしたイメージだった歌が、俄然現実的になる。
    日本語と英語はこんなにも違うというサンプルを見るようだ。
    実際に香具山を見たことがなかったため「山」はmountain だった。
    現地に行ってみるとさほど高くもない。それでHill になる。
    「天」の性質をもった美しい丘、heavenly Kagu Hill。
    時間を視覚的に描く「過ぎる」というのはきわめて重要な日本語なので「pass」「 passing」「 passed 」は頻繁に出てくる。
    万葉集が翻訳しやすいと言われるのは、鮮やかな視覚的イメージが伝わりやすいからだ。

    そんなリービさんの解説が、英訳の次に掲載。
    万葉集に心酔し、どうにかして英語に近づけたいという様々な工夫が見て取れる。
    語源を調べ、妥当な英語を列挙し、幾度も推敲し、現地まで出向く。
    私たち日本人でも、ここまで万葉集を調べつくしたことがあるだろうか。

    著者はブリンストン大学とスタンフォード大学で日本文学教授をつとめ、82年万葉集の英訳で全米図書賞を受賞している。
    本書はその中から選りすぐりの50首の対訳とエッセイを掲載。
    万葉集の解釈と英語について学べ、日本語のルーツを考え、英語の語感を愉しめる。
    ゆっくりと英訳を音読すると、自分が日本人以外の存在になって万葉集を味わっているような、なんとも不思議な気持ちになるのだ。

    英語の詩には見られないものが、「詞書(ことばがき)」。
    歌の前にくるもので、その歌が生まれた「とき」と「ところ」と「情景」が細かく書かれている。リービさんはどの歌の「詞書」も載せている。
    「人麻呂」と「家持」と「憶良」にとことん惚れこみ、前書きだけで熱いものが伝わる。
    万葉集を世界文学に昇格させてくれたのは、著者の力によるところが大きい。

    ところで「恋ふ」をどう訳すか。
    loveでは結ばれている状態を表すから、だいぶ違う。
    憧れたり、離れたところにいる相手を人知れず恋焦がれる。
    どれもloveの現象だが「恋ふ」の動詞は英語の to love を意味しない。
    一緒にいないことが淋しいという意味で「longing (思慕)」や「 yearming(切望)」をあてはめている。いやぁ、素敵だ。
    万葉集の頃は、現代よりもはるかに繊細に心の動きを表現していたのね。

    古文や英語のサブリーダーだったらどんなに授業が楽しかったろう。
    リービさんの「理解しようとし続ける」姿勢に、感動さえおぼえた。
    よろしかったら皆さんもぜひお読みください。
    逆輸入の万葉集で、古のひとびとの心にふれる体験はとても新鮮なのだ。

    • nejidonさん
      goya626さん♪
      うわぁ、嬉しいです!
      goya626さんはどの記事をピックアップするかしら。
      今から予想を立てて楽しみます(笑)
      goya626さん♪
      うわぁ、嬉しいです!
      goya626さんはどの記事をピックアップするかしら。
      今から予想を立てて楽しみます(笑)
      2021/03/15
    • goya626さん
      こりゃまた、ビリー・ジョエルの歌みたいですね。プレッシャー!
      こりゃまた、ビリー・ジョエルの歌みたいですね。プレッシャー!
      2021/03/16
    • nejidonさん
      goya626さん♪
      あはは!そのくらいの楽しみは与えてやってくださいな(*^^*)
      いや、それ以前に楽しんで読んで下さるともっと嬉しい...
      goya626さん♪
      あはは!そのくらいの楽しみは与えてやってくださいな(*^^*)
      いや、それ以前に楽しんで読んで下さるともっと嬉しいです!
      2021/03/16
  • 英語に訳された万葉集を音読してみる。リズムがある、思った以上に心地よい。ただ、どうも解説的にならざるを得ないところもあるようで、原文より長くなるのは仕方がないだろう。リービ英雄さんの翻訳する際の苦労を述べた解説が秀逸だ。その歌ばかりでなく、万葉集全体、日本語の歌というものまで、深い理解をしたうえで翻訳しているのが分かる。その解説から浮かび上がってくるのは、まずは直截的な比喩の力強さだ。畳みかけるような柿本人麻呂の比喩は圧倒的な迫力で迫ってくる。自然現象と心の動きを結び付けて不可視なものを可視にする比喩は、唯一無二の詩歌の武器ではないか。枕詞、地名の力も見逃せない。万葉集によって、日本中の自然に、大地に呪縛が掛けられたのだ。
    柿本人麻呂、大伴家持、山上憶良、それぞれの歌の個性が余りに違うことにも驚かされる。大伴旅人と大伴家持の万葉集の編集方針によるものだろうし、カバーしている期間も長いからだろう。

    • nejidonさん
      goya626さん♪
      端的にまとめられた素敵なレビューです!
      私は他の方のレビューは読まなかったのですが、なかなか好評なんですね。
      柿...
      goya626さん♪
      端的にまとめられた素敵なレビューです!
      私は他の方のレビューは読まなかったのですが、なかなか好評なんですね。
      柿本人麻呂、大伴家持、山上憶良は、万葉歌人とひと言で言えないほど個性があって、そこも新発見でした。
      見慣れたものでも違う眼で見ると、新しい理解が生まれるんですよねぇ。
      リービさんに俄然興味が湧いた本でした。
      2021/03/25
    • goya626さん
      nejidonさん
      素晴らしい本を紹介してくださってありがとうございました。非常に面白かったです。なんとなく万葉集に親しんでいて、分かった...
      nejidonさん
      素晴らしい本を紹介してくださってありがとうございました。非常に面白かったです。なんとなく万葉集に親しんでいて、分かったように錯覚していたことを再認識しました。万葉集は大伴家の私家集ということらしいですが、その辺のことも知りたい。後の勅撰和歌集に万葉集の和歌が採用されていますが、貴族たちは何によって万葉集を知ったのか、気になります。万葉仮名が読めたとは思えないからです。当然、かなに直されたテキストがあったのではないかと思われます。
      2021/03/25
  •  リービ・英雄はなぜ、日本語で小説を書くのか。ボクに、ずっとあるのはその疑問です。この本はアメリカでも有数の日本研究者である彼の代表的な仕事である「万葉集英訳」の、たぶん大衆化書籍だろうとたかをくくって読み始めましたが、噛んで含めるように、万葉語から英語へ移し替えていく作業の実況中継を語りながら、万葉集そのものに対するリービ英雄自身の考えや感想や、柿本人麻呂をはじめとする万葉歌人の生活や、その時代状況の解説も語られているうえに、「詩とは何か」という根本問題に触れていくという、とんでもない万葉集入門書でした。「名著」といっていいですね(笑)
     読み終えて、矢張り、彼がなぜ日本語で書くのかはわかりませんでしたが、彼の日本語が半端でないことはよく解りました。
     ブログにもあれこれ書きました。覗いてやってください。
     https://plaza.rakuten.co.jp/simakumakun/diary/202303160000/

  • ふむ

  • 万葉集を英語にしようという’無謀な’試みの本。
    無謀な、というのは著者も感じており、7世紀の日本語独特の表現や感性を現代英語にすることの限界を幾度となく論じており、それを通して原文の美しさを伝えている。
    英語はどうしてもストレートになりがち、説明がちで、「久方の 天より雪の 流れ来るかも」を「Is this snow come streaming from distant heavens?」と疑問形にしたり(p69)、「不尽の嶺を 高み恐み」を「Because of Mt. Fuji’s lofty heights」としたり(p43)、そうしたところから古文の、そして和歌の美しさを改めて感じさせてくれる。
    中には行き過ぎと感じるものもあり、天皇御製の「我こそは 告らめ 家をも名をも」を「l will tell you my home and my name. 」としたり、「夜道は吉けむ」を「the night road should be good」としたりは簡略化しすぎでしょとか。
    「玉裳のすそに 潮満つらむか」をcouldやI wonder ifを使うとわざとらしいと言ってあえて「Can the tide - ?」と簡単な質問形式にしたとあり、著者の趣味のよう。著者がスタンフォード大教授ということでアメリカ英語だからこんなストレートなのかなあとか思った。言語ごとの独自の感性とか文化があり、それは代替不可能なのだという、文化人類学とか1984で学んだことを改めて感じさせてくれた。
    それはそれとして、英語でももっと婉曲で奥行きを感じさせる表現はもっと可能だと思う。その辺もっと勉強して語彙の幅を広げたい。万葉集自体もかなりはまりそう。

  • おそらく新書で満足を得られる著書に出会うのは福岡伸一先生の「生物と無生物のあいだ」以来。情けないことに全く原語で理解できない万葉集を英語で読むことで、こんなに万葉の世界を味わえるとは想像だにしなかった。

  • 万葉集にほれ込んで図書館にこもりながらひたすら訳を続けた著者。英訳してあーでもない、こうでもないと頭をひねり続けた様子から対訳の解説を読むと伝わってくる。

  • プリンストン大学やスタンフォード大学で日本文学の教授を務めるリービ英雄氏の万葉集への熱い思いが伝わる。母国語ではない日本語で創作をする作家でもある。万葉集をどのように英訳したかという経験と日本文化へのほとばしる情熱が伝わってくる作品。リービさんのような人が教壇に立って万葉集を講義してくれていたならば、ぼくの学生時代もさぞかしアグレッシブで面白いものになっていたのになと思う。

  • 万葉集のことはほとんど知らないけれど、それでも知ってるような有名な歌もたくさんあって、それが英詩の形になってよりはっきりとした輪郭で見えてきてとてもよかったです。山上憶良は恐らく著者の思い入れの強さもあるのでしょうが、特に感動しました。原詩に触れて驚き、英詩を読んで比較を楽しみ、解説を読んで納得と、全く飽きさせません。翻訳という行為そのものの愉悦をまるごと伝えてくれます。

  • 古典が個人的にまだ苦手なので、英訳で読む方がよく理解できた気がする。そういう意味で、リ-ビ氏にとても感謝している。

  • 和歌を英訳なんて、できるの?七五調のリズム感とか、日本文化特有の表現とか、再現できるの?と興味を持って読みました。リズムは再現できない部分もあるけれど、可能な限り、歯切れよく、リズムを感じられました。また情景やイメージは英語になっても鮮やかだったし、「love」とは訳せない「恋」も、見事に表現されていました。和歌って日本人が読んでもよく分からないものなのに、英語に訳されるとなるほどなるほどと分かること!

  • 万葉集は、つまみ読みしかしていないのだけれど。
    この方のすごいところは、母語が英語であるのに、万葉集を読みこなし、理解していらっしゃる。
    その解釈に、唸る時がある。
    山上憶良の歌の解説などは、最高だと思う。

    英語に訳された万葉の歌を、もう一度、大和の言葉で読み返す。

    よきかな。

    ちょっと、難しいのは、事実です。

  • なにより、筆者の日本語に対する心の繊細さに感動した。また英訳する過程での、言葉の選び方、考え方は、日本語を英訳するときの勉強にもなる。

  • 確かに英語で読むと、意味がわかりやすかった。
    なぜなら、英語には、日本語独特の言い回しや、ニュアンスを的確に表現できるフレーズがないから。
    筆者は、一生懸命そのニュアンスを表現しようと、いろいろ試行錯誤しており、彼なりの手法で表現はしている。

    しかし、厳しいようだが、やはり英語は英語だった。
    と同時に、日本語の行間という空間の広大さに改めて偉大な言語だと感心する。

    と同時に、原文のままでほとんど理解出来ない自分が、情けなく思う。

    まあでも、考えようによっては、日本語表記という文明ができてからわずかな時につくられたこれらの詩歌が、文体として確立しきっていないというのもまた事実。
    つまり、むやみに崇高に扱う必要もないかもしれない。

    でもしかし、柿本人麻呂は、すごい。

  • 非常に丁寧に、万葉集が英訳されている。さらに、底の深い知識に裏づけされた解説がそれぞれに付与してあり、感心した。万葉集を現代にも通用する「新しいもの」と捉えながらも、当時の世相から生み出された表現をしっかりと汲んでいる。英語の勉強にもなると同時に、難解な上代古語がむしろ英語を通してすんなりと理解できるだろう。高校生の時に読みたかった!
    こういった試みが成功していることは、日本人として嬉しく思う。アニメ・オタクばかりが「日本」として輸出される昨今だが、脈々と続く日本の文化を正しく外国に伝えるという、この作者のような活動がもっと増える事を願う。

  • 暇つぶしに・・と買ってみた本。万葉集自体読む機会がない(しかも古語)うえ、英語・・ということで、無謀だと思いましたが、読んでみると解説が丁寧で、日本語で読む味わいと、英語で読む斬新さを楽しむことができました。でも古語を英語に直すのは難しいのでわないかとも思いました。まぁ、こんな表現でも合うね・・というカンジで読みました。

  • アメリカ出身の日本文学作家、「渡来人」リービ英雄が独自の英訳を添え、日本最古の詩のアンソロジーを語る。地名が示していく都の変遷=時間の変遷、イメージの力、枕詞という呪文を翻訳すること、天才人麿、など九章、二百余頁。<br /><br />
    「英語で読む」という題ではあるが、実際には「外部の視座から読む」というのが本著の基本態度。その謙虚な探究心によって見出された万葉の新鮮さは、穏やかな驚きをともなって、千二百年後の現代を生きる日本人に届いて来る。<br /><br />
    散文家であるリービの英訳は音・韻律の越境を意識したものではないし、翻訳可能性についての判断もやや楽観に傾くが、人類学的普遍性とでもいうべきものを万葉の歌に求める、という姿勢には、生温い夢想以上のものを感じる。<br /><br />
    人間の詩歌。「日本語」で書くこと。これら二つの交差点に、渡来人、山上憶良が立っている。憶良を扱った最終章、リービの自己投影は言うまでもなく、そこには「日本人の言葉」という閉塞性を超えた、大きな日本語の姿が見えてくる。<br /><br />

     そらみつ 倭国(やまとのくに)は<br />
     皇神(すめがみ)の 厳(いつく)しき国<br />
     言霊の 幸(さき)はふ国と<br />
     語り継ぎ 言ひ継がひけり・・・<br /><br />

  • スマホで写真を撮る時に画像加工アプリを使って、様々なフィルターを試しながら眺める画面は、同じ景色でも違う表情を見せる。そんな感じ。

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/705535

  • なんてお洒落な一冊。
    もちろん英語で書かれているからとかそんな陳腐な理由ではなく。
    万葉集そのものはもちろんのこと、リービ英雄が苦慮して翻訳した英文がなんとも洗練されていて優美なのだ。
    それに翻訳に際して寄せたリービ英雄の説明がこれまた小気味良い。
    日本語も英語も何度も声に出して噛みしめたい、そんな本に出会えました。

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著者プロフィール

リービ英雄(1950・11・29~)小説家。アメリカ合衆国カリフォルニア州生まれ。少年時代を台湾、香港で過ごす。プリンストン大学とスタンフォード大学で日本文学の教鞭を執り、『万葉集』の英訳により全米図書賞を受賞。1989年から日本に定住。1987年、「群像」に「星条旗の聞えない部屋」を発表し小説家としてデビュー。1992年に作品集『星条旗の聞こえない部屋』で野間文芸新人賞を受賞し、西洋人で初の日本文学作家として注目を浴びる。2005年『千々にくだけて』で大佛次郎賞、2009年『仮の水』で伊藤整文学賞 、2016年『模範郷』で読売文学賞、2021年『天路』で野間文芸賞を受賞。法政大学名誉教授。

「2023年 『日本語の勝利/アイデンティティーズ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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