憲法九条の戦後史 (岩波新書 新赤版 951)

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  • Amazon.co.jp ・本 (253ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004309512

作品紹介・あらすじ

侵略戦争の反省に立ち、戦争放棄、戦力不保持を謳った憲法九条。軍事化を目指す政府によって常に「形骸化」の危機に曝される一方、この理念を生かそうとする市民の行動は、日本が戦争加害者となることに抗し続けてきた。数々の出来事や人びとを丹念に取材し、改憲の動きが具体化するいま、九条があることの意味を改めて問う。

感想・レビュー・書評

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  • 日本国憲法の9条は以下の通りである。
    第9条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は 武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
    ②前項の目的を達するため、陸海空軍その他の4戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。
    読んだまま、太平洋戦争でアジア各国に侵攻した日本は過去に犯した過ちである戦争を放棄し、かつそれを行うための戦力は保持しない事を謳う。これにより日本では戦後GHQによる占領下で平和国家を目指す。然し乍ら朝鮮半島で勃発した戦争で米軍は沖縄の基地から次々と軍隊を送り込み、手薄になる日本が自衛の為に現在の自衛隊の前身にあたる警察予備隊が設立される。以降日本は自衛を目的に自衛隊の整備を進めていくが、諸外国から見れば自衛の目的を超えた軍隊として捉えられている。
    それ自体は日本が他国に攻め入られる事態に対しての大きな抑止力として有効であるものの、その後、紛争地域に国際協力として派遣される事で大きな議論を呼んでいる。アメリカとの安全保障条約下で各国で戦力を振るう米国を支援することは、間接的にでも戦争に加担しているのでは無いか。沖縄をはじめ日本各地に存在する米軍基地から飛び立つ爆撃機の存在を許すことは実質的に日本が戦争に加担している状況と変わらないのでは無いか。
    こうした憲法解釈において何が許され、何がその聖域を犯したかについて、長く議論や裁判が巻き起こされてきた。基地反対運動や違憲裁判がそれに該当する。近年は改憲論議も熱を帯び、何かとそれに関する書籍も多い。本書はそうした裁判の争点や基地反対運動の住民の声を基に、憲法9条を中心に巻き起こってきた戦後史を綴る。
    個人的には憲法改正しより明確に自衛隊の存在や役割を謳うことにそれほど意味はないように感じる。時代や世界情勢に合わせ国が果たす役割、諸外国の期待値は変わると思うし、それが文字によってがんじがらめになり身動きが取れなくなるよりは、ある程度解釈に自由度があり、都度充分な議論がなされる余地を残すべきと考える。だから改憲は不要だ。寧ろ「はっきり書いてあるから問題ない」で結論付けられる方が危険極まりない。
    憲法解釈は議論を巻き起こすべきである。基地問題に直接関係ないと思っている人々も税金を払っている立場であれば無関係とは言えない。果たして自衛隊とは何か、自衛隊は何処でどこまで活動できるのか、これからの抑止力とはどうあるべきか、そしてそれを支える一角であるアメリカ軍とその基地はどうあるべきなのか。憲法9条を読み、我々が何を考えなければならないか。本書をきっかけにして自分自身の問題として捉えてみると良い。

  • 2005年発刊。
    著者は憲法学者ではなく護憲派のライター。
    9条を守る立場から戦後史を紐解く。
    各章の初めに年表がついていてわかりやすい。
    新聞社によるその時々の世論調査の結果を示しながら、日本の平和を追っていく。

    沖縄と東アジアへの視点がきちんとある。
    9条ができたのは過去の反省からなのに、9条があるのになぜ、こうなる?という激しい苛立ち。

    70年近い年月を経て9条は満身創痍だ。
    この本の発刊から10年経ってさらにボコボコのめに遭っている。

  • 日の丸・君が代の戦後史、靖国の戦後史の流れを汲む、
    憲法九条を軸に据えた戦後史。
    前著と同様、事実を護憲派の立場から解説する形になっており、
    なぜ九条を改憲しようとする勢力があるのか、
    その大義と護憲派の間にあるギャップは何なのかは描かれていない。
    しかし憲法九条の解釈を都度エスカレートさせることで
    自衛隊の海外派遣にまで至った歴史は鮮明に伝わり、
    今後さらなるエスカレートによって後方支援以上に
    積極的な役割を果たすことになるのではないか、という不安は
    感じさせられた。

  • [ 内容 ]
    侵略戦争の反省に立ち、戦争放棄、戦力不保持を謳った憲法九条。
    軍事化を目指す政府によって常に「形骸化」の危機に曝される一方、この理念を生かそうとする市民の行動は、日本が戦争加害者となることに抗し続けてきた。
    数々の出来事や人びとを丹念に取材し、改憲の動きが具体化するいま、九条があることの意味を改めて問う。

    [ 目次 ]
    プロローグ 元国防族のレジスタンス
    第1章 非戦国家の再軍備―一九四五~一九五四年
    第2章 反戦の民衆を支えた九条―一九五五~一九六三年
    第3章 広がる九条の「世界」―一九六四~一九七七年
    第4章 沖縄 届かぬ九条
    第5章 右傾化に抗して―平和市民の登場―一九七八~一九八九年
    第6章 危機の一〇年1―一九九〇~一九九二年
    第7章 危機の一〇年2―一九九三~一九九九年
    第8章 「どこへ行く?」―二〇〇〇年~
    エピローグ 国際社会と九条―国家中心の安全保障観から市民中心の創る平和主義へ

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  • ニュートラルでいいと思う。

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著者プロフィール

1941年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部卒業。朝日新聞記者を経て、現在ノンフィクションライター。著書に『ドキュメント・昭和天皇〈全8巻〉』(緑風出版)、『合祀はいやです。』『生と死の肖像』(以上、樹花舎)、『反忠神坂哲の72万字』(一葉社)、『ドキュメント憲法を獲得する人びと』(岩波書店・第8回平和・協同ジャーナリスト基金賞受賞)、『日の丸・君が代の戦後史』『靖国の戦後史』『憲法九条の戦後史』(以上、岩波新書)、『蟻食いを噛み殺したまま死んだ蟻──抵抗の思想と肖像』(佐高信との共著、七つ森書館)他多数。

「2009年 『これに増す悲しきことの何かあらん』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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