日露戦争の世紀: 連鎖視点から見る日本と世界 (岩波新書 新赤版 958)

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  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004309581

感想・レビュー・書評

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  • 戦史にはあまり興味がない。それよりなぜ戦争をしなければならなかったのかが知りたい。そういう目線では、本書はなかなかパフォーマンスのよい一冊だった。日露戦争の成り行きそのものはさらっと触れるだけで(類書も多いのだろうし)、それよりは戦前、戦後のあれこれに紙数を割いている。
    あとで年表を調べてみたら、日清戦争、日露戦争、第一次世界大戦は10年間隔で起きている。当時の日本国民にとってはしょっちゅう戦争をしている感覚だったのだろう。いずれも戦勝しているうえ、戦場が海外だったこともあり、当時の日本人にとっては戦争は自分たちに直接の被害がない、国際紛争を解決するための当然の手段であり、戦争慣れしていたんじゃないだろうか。それが日中戦争から太平洋戦争につながっていく一番大きな要因だったように思える。



  • 岩波新書
    山室信一 「 日露戦争の世紀 」

    日露戦争を基点として、日本が国際社会参入を目指した脱亜入欧の歴史本


    国際社会の誤ったルールとそれに乗っかった日本、戦争の循環性(戦争は次の戦争につながる) を 時系列に整理している


    野蛮国としと西洋世界に支配される環境にあった日本が、弱肉強食の西洋世界のルールをいち早く受け入れ、日清日露戦争に勝つことで 国際社会の一員の地位を獲得し、アジアに対して 膨張主義を展開するまでの歴史



    国際社会の誤ったルール
    *文明国標準基準=国際法の主体となるうるための文明国としての資格
    *国際法=西洋世界が領事裁判権などを 非西洋世界に強制したもの(国際法は 弱い国家や民族を奪う道具)


    国際社会参入に向けての日本の立場
    *国際社会参入=条約改正
    *文明国標準基準を満たすために欧化を図る(明治の文明開化)
    *国際法により、非文明国のアジア世界の国際秩序を再編する


    日清戦争、韓国併合
    *中国を中心に成り立っていた冊封体制に基づく東アジア世界を、日本が国際法によって再編した
    *日清日露戦争は、朝鮮覇権争い


    ロシア脅威論
    *シベリア鉄道により、イギリスの制海権に構わず、中国、朝鮮、日本に軍事行動を展開できる
    *反英ブロックとしての三国干渉(露独仏)〜日本の大陸進出に歯止め
    *ロシアは、東アジアの制海権を確保するために満州に駐留


    日露戦争
    *日清戦争により得た遼東半島を三国干渉(露独仏)により返還
    *日本は利益線を朝鮮を越え、満州に設定
    *ロシアの満州独占を防ぐため、イギリスは日本と同調〜日英同盟へ
    *専制ロシア皇帝の戦争であって、ロシア国民に無関係の戦争
    *ロシアのユダヤ人迫害により日本がユダヤ人の支持を得て、ロシアの反抗が始まる前に 広報戦争に勝利


    日露戦争の勝利の意味
    *日本が韓国保護国権の獲得〜アメリカはフィリピン、イギリスはインドなどの植民地支配を相互承認
    *第一次世界大戦への道〜英仏露(+日本)の三国協商と三国同盟(独伊オーストリア)の対立
    *新たな人種戦争を生む契機〜ヨーロッパ打倒の独立運動
    *日本がいち早く国民国家形成に着手し、西欧型の国家体制が軍事的に優位であることを証明


    日露戦争が、中国分割の歯止めになったり、アジア・アフリカの独立運動につながった反面、欧米と相互に植民地利権を保障しあう関係















  • 今から100年ほど前、日本はヨーロッパの「大国」であり帝国主義国であったロシアと全面戦争をおこなった。これは日本とロシアとの関係にとどまるものではなく、20世紀に生まれた新しい戦争の形態を先取りするものだったといわれている。日露戦争についての良質の知識と、この戦争を冷静に見つめなおし、考えるヒントをくれる本。
    (『世界史読書案内』津野田興一著 で紹介)

    「1904年2月,日本の連合艦隊による旅順港外のロシア艦隊への攻撃によって,日露戦争の火蓋は切られた.国際社会に参入して半世紀の近代日本は,どのような経緯で戦争を始めるに至ったのか.戦争の衝撃力は,時代と社会を超えてどんな新しい思想・文化や社会変革を呼び起こしたのか.終戦から100年,その世界史的意味を考察する.」

  • 新書文庫

  • なぜ日露戦争が起こったのか、
    当時の世界情勢、
    日露戦争の世界史的意味。

    歴史の本は正直読むのが辛いのですが、本書は歴史の「流れ」を語るタイプなので、なんとか読めました。
    知識はすごく付きます。

  • 日露戦争前後の歴史を概説した書だが、
    軍事史や外交史としての性格は弱く、その背後で展開された
    メディア戦略や社会的論旨にまつわるエピソードが面白かった。

    黄禍論対策としての根回しが結果的に武士道が広まった点や
    ロシアのポグロムの影響を受けてジェイコブ・シフから
    多額の外債を得られたりとそういう裏側もあったのかと感じさせる。
    この黄禍論、ジェイコブ・シフについては別に本を読んで、
    知識を深めたいところ。

  • [ 内容 ]
    1904年2月、日本の連合艦隊による旅順港外のロシア艦隊への攻撃によって、日露戦争の火蓋は切られた。
    国際社会に参入して半世紀の近代日本は、どのような経緯で戦争を始めるに至ったのか。戦争の衝撃力は、時代と社会を超えてどんな新しい思想・文化や社会変革を呼び起こしたのか。
    終戦から100年、その世界史的意味を考察する。

    [ 目次 ]
    はじめに
    第1章 近代国際社会への参入
    第2章 東アジア国際情勢の変化
    第3章 日露開戦へ
    第4章 二〇世紀最初の世界戦争
    第5章 世界とのつながり、日本へのまなざし
    第6章 主戦論と非戦論の世紀
    主な史料および参考文献
    あとがき
    人名索引

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    [ 参考となる書評 ]

  • 短いですがこちらに書きました↓
    http://esk.blog9.fc2.com/blog-entry-965.html

  • 誰もが戦争は良くないと思ってるのに、それが叶わないのはなぜか。
    すっごいジレンマ。

  • 先日、『日本人としてこれだけは知っておきたいこと』という新書を読んだのだけど、その中で「日露戦争原因論」を批判する文章があった。いわゆる「十五年戦争」の原因を日露戦争に求めるのは間違いで、大正デモクラシーという「歴史の切れ目」(『日本人〜』p112)を経験していることを考慮しなければならない、という論調だった。

    ただ、『日本人〜』では「日露戦争原因論」がいったい誰の主張なのか、「戦後の歴史家」「左派や知識人」とするだけではっきり述べられていなかった。引用も参考文献目録もないので、「日露戦争原因論」がどういう根拠で述べられているのか、知りたいと思っていた。

    そう思っていたところ、本屋で偶然この本を目にしたので買ってみた。あらかじめ言っておくと、この本は「日露戦争が大東亜戦争の破滅を導く原因となった」 (『日本人〜』p109)と断言できるような、はっきりとした「日露戦争原因論」ではない。ただ、この本は「連鎖視点」という「あらゆる事象を、歴史的総体との繋がりの中でとらえ、逆にそれによって部分的で瑣末と思われる事象が構造的全体をどのように構成し規定していったのか、を考えるための方法的な視座」(p?)に基づいている。そうだとするならば、「歴史の切れ目」を重視する『日本人〜』の言う「日露戦争原因論」的な視座とも取れるかもしれない。

    ただし、「十五年戦争」を考える上で、問題は「日露戦争が大東亜戦争の破滅を導く原因となった」と考えるほど単純な論法では解決できないところにあることを、方法論的にこの本は教えてくれる。概括的ではあるが、さまざなま対象と要因からある事象を解きほぐす方法は、読んでいて非常にダイナミックな印象を受ける。

    日露戦争に即して言えば、そこに至る過程を、国際関係のなかで日本の立ち位置や方向性(すなわち帝国主義的な世界体制のなかに参入すること)が定まっていくなかで解き起こす。さらにその後起こってくる様々な事象とのつながりとその意味を、問うことにまで、論考を続けていく。ただし、日本が帝国主義的体制のなかに参入していくことそのこと自体の是非や善悪を問う視点には立っていないところがミソだ。

    むしろこの本で重視しているのは、日露戦争への過程とその後を概観したうえで、帝国主義体制への日本の参入が(山県の「主権線」と「利益線」の議論をひきつつ)、実は「領土拡張が自己目的化してしまえば、それがなんのためなのか、という意味を問い直すことさえできなくなる」(p207)、ということへの危惧なのではないか。帝国主義体制への参入とそれがひきおこした領土拡張は、日本が開国以後、国際法体制へ参入することの、実は必然的帰結だったのかもしれない。しかし、「拡大」が産み出す必然的な帰結としての「喪失の恐怖」という一般的な教訓は、現代においても受け止められるべきではないのか、というメッセージを発しているように思えた。

    もうひとつ重視しているのは、「日露戦争前にうまれた非戦論が、激しい非難や家族にも加えられた迫害にもかかわらず、世紀を通じて絶えることがなかったという、そのことにこそ、私は日本という歴史空間に生まれ育ったものの一員としての、心ひそかな矜持を覚える」(p239)という点だろう。

    ただ、疑問も残る。それは「連鎖」を重視するということは、帝国主義的な進出の「連鎖」としても、現代を理解できてしまうのではないかということだ。つまり、著者が20世紀に脈々と続く「非戦論」の「連鎖」に「矜持」を覚えるように、一方で20世紀にまた脈々と続く<好戦>(それは具体的な戦争だけに限らず、優勝劣敗の論理に依拠する思想と言ってもいいかもしれない)の「連鎖」に「矜持」を覚える人が居た場合、それをどう説得しうるのだろうか。現代の「非戦」は、単純に過去にそれに類するものを求めるのではなく、あくまでも歴史的経緯に注意を払いながら―つまり過去の「非戦」がどのような思想的営為によって成り立っていたかに意を向けながら―問い続けなければならない、非常に難しい問題ではないのだろうか。

    とはいえ、さまざまな要因や視点から日露戦争前後を概観・叙述するという点ではとても勉強になった、面白い本だった。

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著者プロフィール

1951年、熊本市生まれ。東京大学法学部卒。衆議院法制局、東京大学社会科学研究所、東北大学日本文化研究所などを経て、2017年に京都大学人文科学研究所を退職。主な著作に『法制官僚の時代』『近代日本の知と政治』(ともに木鐸社)、『キメラ―満洲国の肖像』(中央公論新社)、『思想課題としてのアジア』(岩波書店)、『憲法9条の思想水脈』(朝日新聞出版)、『アジアの思想史脈』『アジアびとの風姿』(ともに人文書院)がある。

「2018年 『唱歌の社会史 なつかしさとあやうさと』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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