多神教と一神教 古代地中海世界の宗教ドラマ (岩波新書)

  • 岩波書店 (2005年9月21日発売)
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本 ・本 (240ページ) / ISBN・EAN: 9784004309673

感想・レビュー・書評

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  • 二分心 「神々の沈黙」ジュリアン・ジェインズ著

  • 多神教と一神教を比較するというより、一神教が生まれる背景としての多神教を語る、という印象。歴史が進むに連れて国は統合されて来たが、神もまた統合が進んで来た。この先も統合が進むのかが気になる。

    多くの女神が統合されイシスとなった。昨今のネットを見ていると、イシス信仰の成れの果てがバブみなのかもしれない。

  • 著者は、ポンペイの遺跡にある浴場の脱衣所に飾られていた春画がある時期より塗りつぶされていた痕跡に着目し、古代地中海世界の人々の心性の変化とそれに深く根ざした宗教の変遷について紐解いてゆく。

    本書では実に多くの宗教が解説されており、地中海世界の文化の多様性と豊かさを実感させられた。
    また、アルファベットの普及が一神教崇拝の形が生まれる要因となったとする著者の論考も非常に興味深かった。

  • 地中海周辺は、神々のあふれる世界から唯一神崇拝の世界へと変貌をとげた。
    それはなぜか。今さらそんなことはわからない。
    筆者は「古代の人の宗教に対する《心性》がどのように変化していったか」に注目しその謎に迫ろうとする壮大な仮説である。
    摩訶不思議な自然現象が周りに溢れている中での考え方ってどんなだろう。今では当たり前のように語られていることすらも理由がわからない世界。
    天空をめぐる星々。繰り返す昼と夜。果てしなく広がる地平線。世界の果てはどうなっているのか。平穏だったかと思えば穏やかに流れていた川が突如氾濫する。山火事が起こる。なにも自然現象だけでなく、人間自身の心の底に潜む愛欲の衝動が自らを翻弄してやまない。何なんだこれは、どーなってるわけ、と。しかし納得のゆく説明が必要だ。
    だったら、これらの背後に目に触れることのできない大きな力が働いていると思うのはどうか。あー、神々の仕業だな、と。
    そのへんの心性に対する解説や文献説明はリーズナブルなんだけど、文明の進歩によりアルファベットが出現し、諸々の環境要因が個人の感覚に変化をもたらして一神教崇拝につながって行くという、肝心の部分の論理展開に説明不足感が否めない。こじつけはいいんだけどそこには納得できる何らかの論理性が欲しいなぁ。

    古今東西人はなぜ宗教を必要とするのか。人が宗教を必要とするというよりも、宗教を必要としてしまう人がいる。それはどんな人だろうか。タイプはいろいろあるだろうし、個人においても必要なときと必要ではないときだってあるはず。宗教は思想に置き換えてもいいと思うが、人がどんな時にどんな宗教を必要とするかに注目した筆者の考え方に一番共感する。
    思想それ自体に価値はない、あくまでもそれはツール。聖書も興味はあるし読むけど、それはただのマニュアルにすぎないね、くらいの考えです自分は。80点。

  • 古代地中海世界において人類が初めて「神」を見出したとき,それは種々の事物の中に見出された,多神教の神であった。しかし今日の世界では,人類の過半が,ユダヤ教,キリスト教,イスラム教という一神教の信者である。
    これは何故だろうか?四千年という人類史の大半を占める古代史を解析することで,上記のような人々の心性の変化を明らかにすることが本書のテーマとなっている。古代の人々にとって宗教の持つ意味合いは大きく,宗教をめぐる人々の心性の変化を明らかにすることは,生き生きとした歴史を把握するのに必要なのだろう。

    筆者は結局の所,文字,それも表音文字たるアルファベットの発明と,抑圧された環境が一神教の発達の要因であると結論する。そして,一神教の地中海世界全体への拡がりが,ポリスといった公共体の解体と個人としての信仰の出現にも関係すると主張する。

    詳細は本書を読むしかないが,「多神教においては神々が人々に語りかけていたが,後にはそれが見られなくなった」との主張は難解である。また,「アルファベットの普及が論理性をもたらし,一神教への道筋をつけた」との記述と「論理ではなく個人の感覚的な神との出会いが一神教をもたらす」との記述がどの様に整合するのか,判然としない。
    もっとも,その他の部分も歴史的事実を綿密に分析するというよりは,大胆な推論を繰り返す面が多く見られるから,大まかなグランドデザインを示すものとして読むものだろう。アクエンアテンの一神教とユダヤ人の出エジプトを関連づけるあたりなど,実に胸が躍った。

    何故地中海世界のみに一神教が生まれたのか,紀元一世紀のローマ帝国に多数流入した振興一神教で何故キリスト教が生き残ったのか等疑問は尽きないが,ひとまず古代史を見渡すに楽しい一冊である。

  • 副題に「古代地中海世界の宗教ドラマ」とある通り、シュメールからローマにいたる地中海世界の数千年の心性史を宗教の視点から語る。ポンペイの公衆浴場の脱衣室の天井に描かれた春画の話題にはじまる冒頭から、神の声に関する「二分心」仮説まで、トンデモSFのネタになりそうな本村節炸裂だが、要約しまくっているように見えて実は心性史研究のポイントはおさえてあるので、状況をのみこんだ中級者向け。初心者は眉にツバつけて読むこと。

  • この本を読んだのはだいぶ前ですので、詳しい書評はできませんが、内容についてあまり理解できなかったことははっきりと覚えています。その原因は、(西洋史研究者の独特の言い回しもあるかもしれませんが)話が斬新すぎてついていけなかったというところがあるかもしれません。著者は地中海世界において多神教から一神教が生まれ受け入れられる過程を、ほんの2,30字しかないアルファベットの普及が人々の思考を深化させ一神教を生み出したとしていますが、肯首しがたい説です。フェニキア文字からアルファベットの成立・普及がだいたい紀元前10世紀前後から数百年にかけてだとすると、一神教は地中海世界のどの地域でも生まれてよさそうなものを、ユダヤ教も、キリスト教も、そしてイスラームも地中海東岸ないしはセム系の地域で成立しているという事実に一神教の成立にはもっと別な要因があったのではと思います。とにもかくにも時間があればもう一度読み直さなくてはならない本でしょう。

  • 初めに多くの神々があり。そして、虐げられた民により一神教が生まれた。しかし、多神教の国・日本に生まれ育った自分に、一神教の本質が理解できるかは疑問がある。それでも世界を理解するには、宗教を知ることが必要だと思う。文字が、神々のことを記録するために生まれ、表音文字アルファベットが普及することが、神と人との距離を遠ざけてしまったようだ。多神教の中の至高神、一神教の中の聖者崇拝と、宗教とは真に複雑なのだな~

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/705574

  • ・二一世紀に生きるわれわれ現代人にとって、古代は遥か彼方の世界にしか思えない。しかしながら、人類の文明史五千年のなかで、じつに四千年は古代なのである。このことからだけでも、古代という時代の厚みは現代にも少なからぬ影響をおよぼしていることがわかる。とりわけ宗教にあって、今日でも避けて通れない問題をはらんでいることは周知の事実であろう。なかでも古代地中海世界はユダヤ教、キリスト教、イスラム教という一神教を生み出した舞台でもあったのであり、そのことは歴史のなかの驚異でもある。

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著者プロフィール

1947年 熊本県生まれ
1980年 東京大学大学院人文科学研究科博士課程(西洋史学)修了
現在 東京大学名誉教授
西洋古代史。『薄闇のローマ世界』でサントリー学芸賞、『馬の世界史』でJRA賞馬事文化賞、一連の業績にて地中海学会賞を受賞。著作に『多神教と一神教』『愛欲のローマ史』『はじめて読む人のローマ史1200年』『ローマ帝国 人物列伝』『競馬の世界史』『教養としての「世界史」の読み方』『英語で読む高校世界史』『裕次郎』『教養としての「ローマ史」の読み方』など多数。

「2020年 『衝突と共存の地中海世界』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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