ブレア時代のイギリス (岩波新書 新赤版 (979))

著者 : 山口二郎
  • 岩波書店 (2005年11月18日発売)
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  • / ISBN・EAN: 9784004309796

ブレア時代のイギリス (岩波新書 新赤版 (979))の感想・レビュー・書評

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  • 【資料ID】22525
    【分類】312.33/Y24

  • 明治以降にイギリスとドイツに学んできた日本。
    分野によっては、フランスなどの国々からも学んできた。

    にもかかわらず、ヨーロッパの文化と歴史については、あまり詳しくないことに気がつく。

    イスラエルやイラクに対する対応が、国によってなぜちがうのか。
    また、国の中でも、政党によってなぜ違うのか。
    違いがなかなかわからなかった。

    本書では、イギリスの労働党を中心としたブレア首相の時代を中心に、詳しい記述がある。
    本書だけでは、歴史、文化との組み合わせは十分に理解できなかったが、
    岩波新書のヨーロッパ、中近東関連のものを20冊くらい読んでいるなかで、
    なんとなく、国の違いについては、思い当たることがでてくるようになってきつつある。

    体系的なヨーロッパ史を読むより、個々の事情を知りながら、
    知識として編み上げていくことが大事だと感じた。

  • 4004309794 198p 2005・11・18 1刷

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    ☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性
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    [ 関連図書 ]


    [ 参考となる書評 ]

  • なんとなく、アメリカより好きな国、と思っていたイギリス。
    中学の社会科の授業で「ゆりかごから墓場まで」というフレーズを覚えたのを記憶している。
    しかし、それはサッチャー首相の時代で崩壊していたとこを始めて知った。

    理想の国の現実を垣間見てしまった感。

    幻滅したわけではなく、やはり「流石だ!」と感じた部分もあった。
    例えばチャイルド・トラスト・ファンド(CTF)。
    生まれたらおよそ10万円、その子の口座に振り込まれ18歳になるまでは解約できない。
    日本の子ども手当てより、よっぽど子どものために使ってもらえるお金になると思う。
    とはいえ、いまだ根強く残る階級社会。
    新しい首相が誕生した今、じっくりとイギリスの行方を見て生きたいと思う。

  • 市場の失敗か政府の失敗か、単純な二項対立構図の経済社会、
    重要なのはそれでなく、それぞれの失敗を是正するための方策を考えること。
    そうした第三の道を切り開いたブレア政権についての新書。
    ただ、ブレア政権といえばイラク戦争でのあまりにも積極的なアメリカ加担など、
    「多面性」とともにある「矛盾」というものがブレア政権の個性と言えます。

    いろいろ面白かったので超長文ですが、もしイギリス政治に興味があればどうぞ。
    章ごとに内容まとめてみました。今年一番面白かった新書かも。
    自分の無知を思い知らされるとともに、知らない知識にドキドキさせられました。

    【第一章:ニューレーバーの政権前夜】

    ニューレーバーとは新しい労働党のこと。

    → イギリス政治の基礎知識
    イギリスは労働組合を支持基盤とする労働党と、
    経営者や中間層を支持基盤とする保守党からなる二大政党の国だが、
    保守党は長らく「当然の与党(natural party of government)」と呼ばれていた。
    第二次世界大戦直後、
    労働党はアトリー政権が福祉に重点を置いた政策を実施したにも関わらず
    それをうまく引き継いだ保守党が「コンセンサス政治」と呼ばれる
    国民の支持(合意)を得た政治を実施し、労働党は野党に甘んじていた。
    おまけに石油危機以来の「不満の冬」で
    労働党・キャラハン政権が議会で不信任を受け解散、
    総選挙にてかの有名なサッチャーが政権を引き継ぐことになりました。

    → 保守党サッチャー
    「民営化」「規制緩和」「減税」によって「小さな政府」を目指したサッチャー。
    イギリス救済には必要な道とはいえ政権が長期化するにつれ、
    サッチャー政権の「小さな政府」の弊害が浮き彫りになり、
    人頭税などで遂に目に見える形での不満が噴出しました。
    一方そのころ労働党は、選挙で勝てる政党に戻るために変革を進めていました。
    当時の党首ジョン・スミスは労働組合との関係を弱め体制を変革し、
    まだ40前後の若いブレアやブラウンなどの若手政治家を登用して若返りを図っていたのです。
    その後、スミス党首が心臓病で急死し、労働党党首となったブレアもまた、
    網領第四条改正問題に着手し、
    労働党の改革と、それを成し得た自身の能力をアピールしました。
    第四条の改正っていうのは、
    日本でいう日本社会党にとっての九条みたいなもので、まさに党の魂のような存在。
    これを党内で戦い改正することで変革と強いリーダーを国民に印象づけたんですね。
    こうしてニューレーバー、新しい労働党が動き始めるのです。

    → ニューレーバーでのブレア
    旧体制の頃の方たちはずいぶん猛反発したらしいです。そりゃそうですよね。
    若造がいきなり党の核をぶち破っていくんですもん。
    第四条に始まり党の伝統であった国有化や大きな政府路線と決別し、
    サッチャー路線を継承するかのような市場経済を大前提とする公平な社会づくりを目指したし。
    雇用も政府の財政支出によって創造するのでなく、
    教育制度の整備などで人材を育成し、個々の自立を目指す方向を目指しましたし。
    これについては後々詳しく書きますが、
    旧来の左派のなかには支持政党を変えた有権者もいたほどの衝撃でした。

    → 1997.5.1総選挙
    国民の期待を背負って労働党が歴史的大勝し、若きリーダーが誕生した選挙。
    新たな国債を増やさないことがテーマだったので
    基本的に政策はイングランド銀行に独立性を持たせ政治と金融を分けるなど、
    予算措置を伴わないものでありました。
    だが、スコットランドとウェールズの地方分権、北アイルランドとの和平、
    対人地雷全面禁止の国連への主張など
    予算はなくともブレア政権の船出は華々しいものでありました。

    【第二章:福祉国家はよみがえったのか】

    ブレア政権下での主要な福祉サービスの概要がここでは書かれています。

    → 低所得層への減税
    ひとつは児童扶養控除、子供の数と年収による所得税の返還の措置。
    ちなみに乳児、障害を持った子供だと額は多くなります。
    もうひとつは勤労者控除、自営業者と低所得者への税環付の措置。
    更に片親、五十歳以上の高齢者、障害者、長時間労働者は額が加算されます。
    ともに税環付という形で現金給付なので、国民の実感も強いです。

    → 子育て支援
    低所得者への妊娠補助金、NHSによる分娩の無料化、母親のカウンセリング。
    他に面白い政策はCTF(チャイルド・トラスト・ファンド)の制度。
    子供に対し、政府が10万円の小切手を私費給して子供名義の口座を開き、
    年収260万円以下の低所得家庭が
    毎月預金(投資・株式でも可能)できる環境を作ったというもの。
    これは子供が18歳になるまで引き出せないんですって。
    こうすると子供が18歳になったとき、高等教育を受ける資金が貯まるとのこと。

    → 雇用政策の重視
    イギリス版ハローワークはジョブセンターと言うのですがこれが結構すごいです。
    求職者給付はここに行って2週間に1度の面接をしないと貰えません。
    あとイギリスではニート問題が1990年代から問題になっていて、
    若者の雇用対策として、ジョブセンターでは履歴書の書き方などの指導、
    提携する民間機関への試用斡旋などの措置が取られています。
    実際にこのニューディール・プログラムに参加した若者の4割が通常就職の成果を挙げています。

    → 医療改革
    イギリス福祉っていえばNHS。でもサッチャーの予算削減で質が落ちて問題になっていました。
    ブレア政権は医療費予算の対GDP費を引き上げ、
    手術待ち人数の減少、救急医療の高度化などをしています。

    → 総括
    「ゆりかごから墓場まで」に甘えてモラルハザードを起こし、
    更にサッチャリズムで縮小され劣化していた社会を、ブレア政権は現代的に改正しました。
    低所得層の人々を社会から排除するのでなく社会参画を促し、育てる平等。
    小さな政府のサッチャリズムでも、政府支出で完全雇用を目指すケインズ主義でもなく。
    まさに第三の道です。

    あとブレア自身が「私にやりたいことは三つある。それは、教育、教育、教育だ。」と言ったように、
    教育が経済対策(活発で高度な経済)、
    ひいては社会主義対策(平等さの実現)に繋がると考えているようです。
    依然として格差拡大は防げていませんが・・・。
    これに関してはブレア政権も特に富裕層への累進課税などは取っていないなど
    サッチャリズムの継承にすぎないという批判の原因を作っている一因でもあります。

    【第三章:民主主義の危機と好機】

    → 大統領型首相=選ばれた独裁者(elected dictator)=ブレア
    イラク戦争でも明らかになったブレア政権の独裁体制の危うさについて。
    イギリスの政治というのは小選挙区制+議院内閣制です。
    後援会や独自の資金を持たないイギリスの政治家は、
    当然小選挙区制での勝利のために政党の支持が絶対的に必要不可欠。
    また、議院内閣制では多数決原理に基づくので野党の機能にも限界があるので、
    強い政権を止めるには選挙で国民の真意を問うしか手段がないのです。

    長年の政治腐敗、代表民主政治の持つ弊害への国民の不満も見逃せません。
    代表民主政治は様々な利害のある団体が政治に働きかけることによって、
    特に既得権を削減するような政策について
    議論がデッドロック(処理機能の停止)することも多く、国民の苛立ちを招く結果になっているのです。
    そうなると国民に直接語りかけることのできる強いリーダーが必然的に求められ、誕生します。
    「政治の人格化」とも呼ばれる強烈なカリスマ性のあるリーダー下での政治ですね。
    こうした流れで誕生したといえるのがブレア政権なのです。

    これって結構恐さも孕んでいて、
    目に見える暴走、民主主義の空洞化、独裁の誕生などのほかに、
    民衆が政治の人格化こそがよいリーダーの条件と考え、
    他のリーダーを物足りないと考える恐れがあることが挙げられます。
    こうなるとリーダーが失敗しても「他にリーダーとなれる人がいない」と、
    責任追及を甘く見逃す可能性が否めないから。恐いですねー。

    で、ここまで独裁の危機に付いて述べたので好機について述べたのが残りの第三章です。

    → 地方分権の成果=スコットランドとウェールズ
    これらの地域っていうのはかつての北海道開発庁のような
    中央の官庁による地域政策がを担当する制度を取っていたんですね。
    でもサッチャリズムの展開で補助金を減らされ、
    特に国営企業に依存していたスコットランドは大きく疲弊していました。
    当然住民達は勉強会を開いたりして政治の自由を求め出します。
    第一章で書いたブレアの前の党首のスミスさんってのはスコットランド出身で、
    分権を労働党の重要政策として位置づけていたのでそれを引き継いだ形になります。
    現在は外交防衛政策と金融政策以外を自治政府が自由にしており、
    死票の少ない小選挙区比例代表連用制、介護政策、大学授業料の引き下げなどを実施しています。

    → 市民セクターの拡大と強化
    地方分権と並んで、の市民セクターの活躍は大きな成果を発揮しています。
    環境保全、都市再開発、福祉などの分野が主ですね。
    サッチャーは「社会などというものはない」とばっさり切り捨てていますが、
    ブレア政権は政府と市場と社会の全ての存在を重視しました。

    政府は強制と協力原理と有償労働によって、
    市場は自発性と競争原理と有償労働によって、
    社会は自発性と競争原理と無償労働によって支えられていて、
    それぞれの要素が相互に働きあって国は成り立っているのだと。
    ただ、自発性と無償性を兼ね備えた社会的活動は外部の刺激が無いと難しいので、
    それを支援することで、市民生活を活性化させようというのがブレア政権の行動のようです。
    まあサッチャーも「官から民へ」の視点から民間セクター支援はしていて、
    それも引き継いでいる側面もあるようですが。

    → 総括。
    ブレア政権というと独裁的と呼ばれますが、
    党外(民間)のチャンネルを開いたし、地方分権もしたし、教育や雇用、子育て支援もしています。
    両面について述べられた第三章でした。

    【第四章:ニューレーバーの外交政策】

    外交政策ですよ、奥さん。遂にアレです(ちょっと打つのに疲れてきたようです)

    イギリス外交は「対米関係と対欧州関係」「国際協調と一国主義」のバランスでできています。
    この方針は政権によって異なってくるのですが、労働党は民主主義を掲げる左派ですね。
    ブレア政権もおおむねこの労働党の方針には従っています。
    側近中の側近であったピーター・マンデルソンをEU委員(通商担当)にして、
    ポンド下落でヨーロッパ通貨システムから離脱したことの対策を講じたり、
    アフリカ貧困対策、地球温暖化対策などに熱心でNGOと繋がって国際協調をしたり。
    ただ一方でアメリカとの関係も密接ではありますが。

    → イラク戦争
    イラク戦争に対してはイギリス国内でも結構あれこれあって、
    政府がBBC批判したり、情報をリークしたとされるケリー博士が自殺したり。
    しかも2005年総選挙終盤で機密文書が見つかり、
    イラク戦争での情報操作や、強引な決定事項が判明したりもしました。
    当然「ブレアは国民と議会を欺いた」と強い不審や怒りが噴出します。

    でもなんでブレア政権はそこまでしてイラク戦争に加担したのか。私も正直謎でした。
    ある解釈は、アメリカと密接になることでアメリカの暴走を抑えようとしたブレア肯定論。
    別の解釈は、かつてオスマントルコを倒して中東を支配した帝国主義の遺産によるもので、
    むき出しの帝国主義を隠すために軍事介入を正当化する手段をとったというもの。
    最後の解釈は、決して強いと言えない軍事力のイギリスがアメリカと軍事的一体化をすることで、
    国際社会における影響力を維持しようとしたというもの。
    正直最後のものが一番納得いくかなという感じですが・・・

    → 国内治安と移民対策
    2001.09.11同時多発テロはイギリスにとっても大きな衝撃でした。
    国内の治安対策として、警察官の増員、反社会的行動取締り令の制定を実施。
    そして移民対策として難民申請の処理の迅速化、認定の厳格化によって、
    「テロとの戦い」を背景とした民主主義に反する移民・難民の締め出しもしました。
    テロ容疑者への対処の厳しさも強まっており、市民権の剥奪なども行えることになっています。
    国際的にも移民や難民チェックへの国民要望は強まっており、
    ブレア政権は特に激しく反応して厳しく行動している様子です。

    【第五章:ブレア政治の旧さと新しさ】

    → ビッグテント
    第一章で20世紀には保守党が「当然の与党」と呼ばれていたと書きましたが、
    今では労働党が野党である保守党に議席差56をつける「当然の与党」となっています。
    これがビッグテント。有権者をテントで覆いまとめるっていう表現。
    労働党はこれまた先に書いたように労働者や学生を支持基盤としてきましたが、
    過半数を獲得するには避けられないホワイトカラーや専門職者、自営業者の獲得が必須でした。
    労働党はこのなかでもスイング・ヴォーターという層を狙ったのです。
    彼らは選挙ごとに各党の政策を比較して投票し、政党に縛られない性質を持った国民です。
    労働党は「保守党との同質化」で政権交代が起きても害が発生しないことと、
    「保守党との差別化」でむしろ利益が発生するということを主張し、彼らの囲い込みを実施したのです。

    「保守党との同質化」について。
    まずは税制。労働党の持つ福祉国家路線には重税の印象が長く付いて回っていました。
    ブレア政権が公債を発行しないことにこだわったのも、
    この「増税と支出(tax and spend)」の惡印象を取り払うためだったと思われます。
    アメリカのクリントン民主党政権と同じですね。
    あともうひとつの重点は治安・犯罪対策。
    犯罪件数増加の現実の前に、罰則強化、または、貧困失業などの背景の解決が求められていました。
    伝統的には保守党が前者、労働党が後者のアプローチを好んでいます。
    アメリカでブッシュ(父)政権が、犯罪者に甘いというネガティブキャペーンで、
    民主党のデュカキス候補を打ち破ったこともあり、労働党には罰則強化も視野に入れる必要がありました。
    そこでブレアは「犯罪に厳しく、犯罪の原因にも厳しく」という労働党の変化をアピール。
    印象を変えることに成功し、保守党との差異をうまく埋めることに成功しています。

    「保守党との差別化」について。
    もちろん保守党と同質化するだけでは政権は取れないわけで。
    ブレア政権は公共サービス改善で差異を打ち出す方針を取っています。
    サッチャリズムの弊害で投資が減少した学校・病院・鉄道などのサービスを充実させたのです。
    具体的には・・・
    PPI(Private Finance Initiative)という民間資本によって公共施設を作る手法、
    PPP(Public Private Partnership)という公共事業への民間企業の参入による
    競争原理の導入や、サービスの多様化が行われ、実際にサービスの充実がなされています。

    → 第三の道(The Third Way)
    ブレア政権のキャッチフレーズのひとつです。
    ちなみにブレア労働党のブレーンで社会学者でもあるアンソニー・ギデンスが提起した言葉です。
    第一=戦後の西欧の社会民主主義的福祉国家モデル
    第二=サッチャリズムに代表される小さな政府モデル
    第三=第一第二の上に立つ、市場の効率と社会平等の両立を目指す路線
    ざっくりするとこんな感じ。
    ここではこのブレア政権の方針に対する3つの評価が挙げられていました。

    ニューレーバーの擁護論。ブレア側近のピーター・マンデルソンの総括。
    ブレア政権は保守党の新自由政策がパラダイム(時代の思考)であったのに対し、
    労働党は社会民主主義的価値を広めるためにビッグテント戦略をとったという主張。
    また、従来の労働党が短期的な支持集めのためにスピンドクターを起用したり、
    経済界との関係を深めるために腐敗に目を瞑ったりしていた過去を受けて
    失いかけていた国民の信頼を回復することが党の改革では第一であり、
    ニューレーバーは必要不可欠なものであったとも述べています。

    ニューレーバーの否定論。かつでのブレア政権のアドバイザー、デヴィッド・クラークの批判。
    ブレアに幻滅して政権を離れてフリーの批評家になった人ですね。
    彼は経済界にとってのブレアとはサッチャリズムに人間の顔をつけて受け入れやすくしただけで、
    だからこそ保守党は政権奪還のために党の根本的改革をしてないのだと言っています。
    社会民主主義の巣の中に新自由主義者が産み落としたカッコーの卵のようなものだ、とも。
    だからこそ伝統的な社会主義者にとっては、
    新自由主義者の側面をもつブレア政権は恐ろしいものである、と。
    前述の公共サービスの増加 と 所得格差の放置や累進課税の非導入、学費の値上げ。
    この矛盾する顔が並存していることがブレアの本質だということです。
    まあ逆に支持者にとっては、漸進主義者で少しずつ社会主義政策をしているという評価になるのですが。

    現実的なアプローチ。ニューレーバーの非難をしているだけでは出口が無いと考える知識人たち。
    コンパス(Compass)という左派的な学者やシンクタンク職員、ジャーナリストなどによる自発的団体は
    その結成宣言で政権維持のためイデオロギー(理念)を失ったニューレーバーに対し、
    新しいイデオロギーを作り出すことを宣言しました。
    議長のニール・ロンソンがニューレーバーに対してこんな評価をしています。
    「半分しか出来ていない」か「半分も達成した」か、それによって評価が違うだけだ、
    どちらにせよニューレーバーはサッチャリズムの軍門に下ってしまったから、
    公共サービスの充実をし、保守党との差異も明確化はしたがそれ以上の成長は見込めない、と。
    彼は人間が市場経済を制御し、平等と共同の理念を回復することが必要だとつなげています。

    以上の3つの評価です。
    著者はブレア政権の賞賛回避(サービス向上などの社会主義を誇らない)ことにより、
    本来の労働党以外の層からの評価を受けようとするビッグテント戦略に固執していることこそが、
    左派の不満をうみだしているのでは、としめくくっています。うーん。

    【第六章 : ポスト新自由主義時代の「左」と「右」】

    2005年5月5日総選挙。
    「大きな政府と小さな政府」「福祉国家と新自由主義」の対立軸の上での政治、
    この総選挙ではその二項対立を超えた選択なされた、と著者は述べています。

    → 「ブレアは選挙に勝利した至上最も不人気な首相として記録されるだろう」
    実際、ブレアのあまりの不人気に選挙ポスターはブラウン蔵相が全面に出るものでした。
    イラク戦争を引き金にして、少数の取り巻きによる政策決定や
    第一期で値上げしないと明言した大学授業料を二期で値上げした公約違反などへの
    国民の不満が噴出した情勢のなかでの選挙でした。
    戦局としてはブレアに幻滅した左派支持者が第三党の自由民主党に投票し、
    労働党と自由民主党が左派の票を取り合うなか、保守党が漁夫の利を得るのではないか、
    そんな感じだったそうです。で、労働党はNHSなどで必死の危機訴えに出るハメになった、と。

    けれど「漁夫」であるはずの保守党もまた、減税や公共サービスでアプローチしたいものの、
    「サッチャーの子どもたち」との内部抗争が勃発し、とんでもない混乱にありました。
    おまけに副党首のハワード・フライトが会合にて大胆な支出削減について発言し、
    労働党に「我々の支えた公共サービスを保守党は縮小しようとしている」という
    格好の攻撃の的を与えたことを理由に、急遽更迭されるというドタバタ劇まで発生。
    国民の求める減税とサービスの前に、サッチャーの遺産が行く手を阻んでいたのです。

    そしてフタを開けると
    労働党(365議席)は大幅な議席減でビッグテントのほころびが見え始めたが、
    保守党(198議席)も回復はしたもののブレア不人気に関わらず200議席を越えられませんでした。
    明確な政策のない保守党より安定している労働党に投票したといったところでしょうか。

    ちなみに幻滅した左派市民の票を受けた自由民主党は健闘し、3.7ポイント増を記録。
    広い範囲に支持者を拡大したことで、明確な指針が打ち出せない労働党にとっては、
    より左側に位置取りをしている存在感をあらわし、
    事実平和や平等を求める民衆に支持される第三等の脅威が露出した結果となりました。

    → リスクと新自由主義
    ここで選挙から離れて。一度政治におけるリスクについての話になります。
    リスクには段階があることが最初に述べられています。

    生存のリスク=戦争、テロ、犯罪など、秩序を破壊し生命の脅威となるもの
    生活のリスク=医療や教育の荒廃、失業、インフレなど人間らしい豊かで健康な生活の脅威となるもの。
    長期的リスク=環境対策や資源枯渇の様に、長期的には人類の脅威となるもの

    WWⅡ以後、まずは生活のリスクが重要視され、特にイギリスでは労働党が戦後勝利し、
    医療費の無料化など福祉国家の政策が推進されていました。
    しかしこうした仕組みは財政赤字、インフレ、経済停滞を招き、
    生活のリスク回避のための政策に甘えるモラルハザードが発生したりもして、
    そうして誕生したのが小さな政府への転換、サッチャー政権でありました
    規制緩和、民営化。日本は今、この新自由民主主義の議論の段階ですね。

    だけどこの政策は自己防衛のできる富裕層は別として貧困層には厳しく
    同時に基本的には社会全体でリスク負担をした方が合理的であることからも
    新自由主義の限界を露呈させる結果となりました。
    実際サッチャリズムの弊害として公共サービスの劣化が挙げられますし。

    けれど一方でアメリカや日本では依然として新自由主義が優勢ですよね。
    この理由としてはブッシュ政権の存在からくるものだ、ということが言えます。
    ブッシュ政権に関しても所得や医療格差は深刻で新自由主義の成果は見えませんが、
    9.11事件のため「生存のリスク」への危機感が強まっていたため、
    支持がゆるがなかったことが大きな理由だと言われています。

    事実社会主義で大きな成果を挙げたデンマークでは
    社会民主党のラスムッセン元首相が選挙の敗北で印象的な言葉を残しています。

    「私は有権者に尋ねました。「どうして今回は私に投票してくれなかったのか」と。すると、彼らはこういうのです。「ポール、君の在任中に雇用が改善したことも、経済がきちんと回復したことも認めよう。我々が経験した中で最も完璧だ。でも我々は心配なんだ。不安なんだ。将来のことが分からない。移民が恐い」」

    社会主義で大きな成果を挙げたにも関わらず、
    国民が求めたのは「生存のリスク」に血王する政府だった。
    ちょっとラスムッセン元首相、気になります。
    いまの首相と同じ苗字ですが、親戚?デンマーク初心者には未知の世界。
    明日にでも図書館探してみます。ありますかねー。

    → 左派の可能性
    話を戻しまして。上記のような生存のリスクが重要視されるなかでの左派の今後について。
    WWⅡ後の経済成長維持・人口構成の若い社会での生活のリスクは
    雇用や医療、年金のリスクを社会化する上での低コストを可能にしていました。
    けれど現在の社会においてはリスクの質が変化しています。
    国際競争の激化、安定雇用崩壊によって財政の健全化が求められるものの、
    政府支出を増やせば財政赤字と経済低下を招くことになってしまいます。
    グローバル社会を否定すれば産業革命期のラッダイト運動のようなものに成り下がってしまいますし。
    (労働組合の強いドイツやフランスは依然グローバル社会反対の運動が強いですが)
    現在の左派にはグローバル資本主義を前提とした社会民主主義の平等が求められているのです。

    こうしてうまれたのがアングロ・ソーシャル・モデル。
    経済の効率化のため、労働市場の柔軟化を受け入れ、
    中央銀行に独立性を与えて通貨価値の安定を図ることなどが主な内容でありつつも
    同時に、国民の自立を助ける教育や医療を重視し、
    最低賃金法などで国民を社会的に守るというものです。

    この理想の進化のキーワードがメリトクラシー(能力業績主義)です。
    出身や貧富の差に関係なく、平等に社会で上昇する機会を与えるというもの。
    このための雇用対策、このための教育、このための子育て・学業支援なのだと。
    しかしこれはパターンナリズムに他ならないという批判もうんでいます。
    市場と区別された社会(生活)との不均衡をいかに是正するか、
    これがニューレーバーの今後の課題なのです。
    今はあっさりブレアから濃ゆいブラウンさんになってるので、
    この著者の他のものとかも読んでみたいです。面白かったし読みごたえありました!

  • ブレアは大統領型の首相でメディアをうまく使ってリーダーシップを発揮。
    サッチャーはこう言った、「変化というものは必ず起きるもの。今では当たり前と思っている奴隷制の廃止、婦人参政権も100年前、200年前は夢のような話だった。大事なことは、いつ変化のチャンスが訪れてもよいように準備をするということ。」

  • ブレアの政策についての説明もわかりやすかったし。
    具体的にどんな改革を行ったのか、ってのも説明があって面白くわかりやすく読めました。
    ただ、やっぱブレアを学ぶにはそれまでの労働党とか、サッチャーの政策を理解してないと通じない部分がありますね。

  • ブレアさん時代のイギリスのことがよくわかりました。
    サッチャー時代の〜を参考にしているようなのでそちらも読みたかったのですが、
    そちらは見つからず。
    読みやすかったです。

  • 英国現代政治論。What is "New Labor"?

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