憲法とは何か (岩波新書 新赤版 1002)

著者 :
  • 岩波書店
3.69
  • (29)
  • (81)
  • (72)
  • (6)
  • (1)
本棚登録 : 755
感想 : 66
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (193ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004310020

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 安保法案を与党推薦人ながら違憲証言した注目の方をなぜ自民党は見誤ったのかを知りたかった。タイトルどおり、憲法の本質を哲学的、政治学的に追究していく内容の濃いコンパクトな一冊!。ホッブス、ルソー、カント、モンテスキュー、ロールズ・・・。昔、教科書で学んだ名前が次々に登場、正に根源から考えさせられた。「憲法9条による軍備の制限も、通常の政治のプロセスが適正に働くための規定」(P12)「従来の政府解釈で設けられている制約-たとえば集団的自衛権の否定-を吹っ飛ばそうというのであれば、その後、どう軍の規模や行動を制約していくつもりなのかという肝心な点を明らかにすべき。その見通しもなく、どこの国とどんな軍事行動について連携するつもりなのか-米が台湾を実力で防衛するとき、日本は米と組んで中国と戦争するつもりはあるのか-さしたる定見もないままに、とにかく政治を信頼してくれでは、そんな危ない話にはおいそれと乗れませんとしかいいようがない。そこまで政治が信頼できるという前提に立つのであれば、憲法などもともと無用の長物。」(P20)あまりにも的確な予言ぶりに驚き、快笑!成立を急いだ杜撰な国会の裏面を見た。「憲法改正」そのものの哲学的意味について論じる。2度の大戦も、冷戦も憲法の掲げる国の基本秩序を巡る戦いだった!日本は立憲主義の理念を持つ国。まずは日本をどういう国にしたいのかを基本的に決定することの重要性が力説される。(P59)著者は議院内閣制が優れ、大統領制が例外的に真に巧く機能している国は、独特の政治文化が存在する米国だけだとする。従って改憲による日本の首相公選制を否定する。また憲法改正の特別多数決の護持も主張する。憲法改正、或いは解釈の変更が必要だとの主張は全く見えてこない!確かに解釈で変更の余地があるような記載もあるが、少なくとも9条等の基本理念に関わる部分ではない。最後に、世界唯一国家の誕生は果たして理想か!この点も「魂なき専制」が齎され、無政府状態への堕落が予測されるとの著者の論理は明快。

  • 高名な憲法学者が憲法の役割や立憲主義における立ち位置などを初学者にも分かりやすく解説した本である。初版は2006年とだいぶ古いがその当時より、憲法改正の機運が徐々に高まっていたのを記憶している。

    本書の主な主張は憲法の硬性性を訴え、無闇な憲法改正の危険性を指摘しているという所だろうか?本書では法学者らしく精緻で論理的な議論が展開されていて、読者にも著者の主張の正当性を確認することができるだろう。

    しかし物事は表裏一体である。浅学ながら偉そうなことを言うと私は法学の特徴はその対象の解釈がある程度自由にできるということにあると思う。例えば集団的自衛権を日本国憲法から容認することからも私の主張に援用することが出来ると思う。

    そのある程度、自由な世界を規律づけるのは一体何であろうかと言うと、司法であったり大学の権威であると思う。本書においても自らの主張を肉づけるために高名な学者の説を引用している。確かに説得力を感じるし私も支持するものであるが前述の通り理論的な反論も可能であると感じた。

    ここで僭越ながら私の憲法改正に対して持論を述べたいと思う。専門の方からしたら噴飯物だろうが素人ならではの考えもあるかと思う。

    憲法改正は特に保守派が主張しリベラルは護憲的立場から反対を表明している。しかし、私はリベラル派も積極的に憲法改正の議論に立つ方がいいのではないかと思う。

    その根拠が、日本国憲法のそもそもの正当性である。厳密なことはしんどいので間違っているのが前提だが、日本国憲法の前の憲法である大日本国憲法は天皇主権が謳われており、それが基本的原理であった。その憲法から国民主権を基本的原理とする日本国憲法への改正というのは本来ならば出来ないらしい。

    そのため日本国憲法の正当性を付与する通説として八月革命説が導かれた。八月革命説の詳細については芦部信喜の憲法を参照して頂きたいが、要するにポツダム宣言の受諾によって一種の法的な革命が起こり政治体制が根本的に変化したとみなす説である。

    この通説は法学者の間では受け入れられてるのだろうが一般的な革命という用語からイメージするものと、実際の事象とは違うのではと素人は思ってしまうのではないだろうか。革命とは非支配階級が支配階級の体制を転覆するイメージがあり、そのような定義であろう。実際には、その当時の国民は竹槍をもって本土決戦に備えていて反体制派が何かやり遂げたという歴史的事実は無いし、そもそもポツダム宣言を受諾したのは昭和天皇の聖断からである。

    以上から八月革命説を支持しない私にとっては日本国憲法というのはそもそも法規範として弱いものであると思うし、改正派にも攻撃を与える余地があると思うのである。

    戦後、日本国憲法は押付け憲法であるとして、保守派が改正の取り組みをしたり大日本国憲法への復権運動も展開された。それは復古的でもあるが同盟国のアメリカにとっても都合がいいものであろう。一方、憲法学者を始めとする護憲派は守勢に回らざるを得ない状況が続いていた。このままいくとこの弱い憲法が死文化してしまうか、危機を煽り改正派にとって都合のいい憲法が生まれる可能性もある。

    そこで発想を転換して護憲派は積極的に憲法改正の議論に加わることによって、反戦、人権を重視する日本国憲法の理念を守ることができるかもしれない。

    改憲議論を盛んにすることはむしろ護憲派にとってもメリットがあるだろう。

    例えば我々一般市民に、立憲主義とは何か、人権とはなにか、日本国憲法にこめられた反戦のメッセージ?を再考することが出来るだろう。

    憲法改正に向けての議論は盛んになり極端な議論も散見されるだろうが私はあまり悲観していない。それは私が大学時代に憲法学の講義を受けた経験による。彼ら彼女らは、厳しい訓練を受け、厳格な論理性を育んだプロであり、説得力のある提言を市民に提供してくれるだろう。

    また日本国憲法の基本的理念は国民主権でありそれは改正不可能であるが憲法9条も成立経緯を踏まえると極めて改正困難であると私は思う。それはマッカーサーが憲法改正に要求したマッカーサー三原則に戦争放棄が示されておりこの基本原則を変えることは日本国憲法の主旨に反していると言えるからだ。

    ここまでの議論は稚拙であり反論の余地はあろう。しかし私は日本国憲法をあえて過去の遺産とすることでその憲法の正当性を与えることになり国民主権、戦争放棄の理念がより強固になるのだろうと思う。

  • 岩波新書愛好会】#感想歌 憲法を創ると守ると改訂の力関係根源は何 民主主義だけではなくて人類の幸せ確保模索方法

  • 【目次】
    はしがき(二〇〇六年二月 Y.H.) [i-iv]
    目次 [v-ix]
    題辞 [x]

    第1章 立憲主義の成立 001
      アトランタでの問い/サンチャゴでの問い
    1 ドン・キホーテとハムレット 004
      多元的な世界/ハムレットの「良心」
    2 立憲主義の成立 008
      比較不能な価値の対立/政治プロセスの適正化
    3 日本の伝統と公私の区分 012
      日本社会の公と私
    4 本性への回帰願望? 014
      「分かりやすい世界」へ?
    5 憲法改正論議を考える 017なぜ厳格か
      特定の価値観の導入?/新しい人権・責務/九条改正論/
    6 「国を守る責務」について 022
      守るべき国とは何か/憲法秩序と国土・暮らし/テロの時代と平和主義
    文献解題 026

    第2章 冷戦の終結とリベラル・デモクラシーの勝利 035
    1 国家の構成原理としての憲法 036
      憲法をめぐる争い
    2 ルソーの戦争状態論 038
      ルソーのホッブズ批判/戦争の即時解決の道
    3 三種の国民国家 040
      国家像の変貌/三者の闘い
    4 シュミットと議会制民主主義 043
      シュミットの議会制批判/敵対関係と国家間関係/治者と被治者の自同性/ファシズムと共産主義
    5 原爆の投下と核の均衡 048
      原爆投下の正当化理論/「究極の緊急事態」/バビットの批判/冷戦の終結
    6 立憲主義と冷戦後の世界 054
      リベラルな議会制の特長/冷戦終結の意味とは
    7 日本の現況と課題 057
      東アジアの対立構造/憲法典の変更を言う前に
    文献解題 061

    第3章 立憲主義と民主主義 067
    1 立憲主義とは何か 068
      二つの立憲主義/近代以前と近代以後/立憲的意味の憲法/九条解釈と立憲主義
    2 民主主義とは何か 072
      「多数者の支配」への嫌悪/議会制とシュミットの批判/ケルゼンの議会制擁護/ハーバーマスと討議の空間/マディソンと大きな共和制/アメリカの民主制
    3 民主主義になぜ憲法が必要か 081
      プレコミットメントとは
    文献解題 082

    第4章 新しい権力分立? 087
    1 ブルース・アッカーマン教授の来訪 088
    1-1 モンテスキューの古典的な権力分立論 089
      権力分立の眼目/影響力
    1-2 「新しい権力分立」 097
      三つの政治体制/何が望ましいか/三権以外の機関の独立
    2 首相公選論について 097
      議院内閣制との相性/小選挙区制との相性/純粋の大統領制は?/半大統領制は?
    3 日本はどこまで「制約された議会内閣制」といえるか 106
      「最悪の体制」/日本の議院内閣制/官僚機構の「中立性」/行政・司法への制約について/内閣法制局という存在
    4 二元的民主政――「新権力分立論」の背景 112
      一元的民主政と二元的民主政/国の根本原理と憲法/憲法政治と通常政治
    文献解題 117

    第5章 憲法典の変化と憲法の変化 125
    1 「憲法改正は必要か」という質問 126
      質問の不思議
    2 国民の意識と憲法改正 128
      憲法典改正なしの根本変更/フランスの事例
    3 実務慣行としての憲法 132
      法と道徳/一次レベルから二次レベルへ/二次レベルのルールと専門家集団/三次レベルのルールへ
    4 憲法とそれ以外の法 139
      法の回復への欲求か/憲法と憲法典
    文献解題 142

    第6章 憲法改正の手続 147
    1 改憲の発議要件を緩和することの意味 147
    1-1 なぜ多数決なのか――その1 150
      多数者の幸福/なぜ特別多数決か
    1-2 なぜ多数決なのか――その2 153
      コンドルセの定理/なぜ特別多数決か
    2 憲法改正国民投票について 156
      あるべき国民投票制度/熟議機関の設定/公正な討議の機会/個別の論点ごとの投票
    文献解題 165

    終章 国境はなぜあるのか 169
    1 国境はなぜあるのか――功利主義的回答 171
      統治の実効性/人権の実効的保障
    2 国境はなぜあるのか――「政治的なるもの」 174
      カントとホッブズ/シュミットの人間と国家/生の意味をかけた闘い
    3 国境はいかに引かれるべきか 181
      通常正当化テーゼ/手段としての国家・国境
    4 境界線へのこだわり 185
      国境の恣意性と相対性/境界線の自己目的化
    文献解題 187

  • メモ
    憲法が国家の、属する人々の在り方そのものである。故に戦争とは相手国の憲法の否定である。

    立憲主義が「公」と「私」の区別によって、価値観・文化の違いを内包させつつ国家を成立させている。故に本来的に、人間としては受け入れ難い。

    憲法典を変えたからといって憲法が変わるとはかぎらない。

  • とても分かりやすく憲法や政治制度について書かれている。
    主に憲法改正論議の矛盾を突く内容。
    日本の統治構造、という中公新書の本を読んだ後だったので議院内閣制がなぜ大統領制より優れているかと言った問題については非常に興味深かった。

  • とても分かりやすく憲法や政治制度について書かれている。
    主に憲法改正論議の矛盾を突く内容。
    日本の統治構造、という中公新書の本を読んだ後だったので議院内閣制がなぜ大統領制より優れているかと言った問題については非常に興味深かった。

  • 憲法については、左右どちらかの立場から感情的に論じられることが多く、左の立場からは、憲法改正は絶対に認めない、まして9条改正などもっての他、右の立場からは、アメリカが短期間で書き殴った憲法など改正するのが当然、軍隊の存在を認めない9条など真っ先に改正すべき、という論議になりがちです。

    この本は、左右どちらの立場にも偏らず、きわめて冷静に、論理的に憲法改正の無意味さ、大統領制よりも、議院内閣制がいかに優れている制度か、を論じています。

    9条に関しては、「たしかに自衛のための実力の保持を認めていないかに見えるが、同様に、「一切の表現の自由」を保障する21条も表現活動に対する制約は全く認められていないかに見える。それでも、わいせつ表現や名誉毀損を禁止することが許されないとする非常識な議論は存在しない。 21条は特定の問題に対する答えを一義的に決める「準則(rule)ではなく、答えを一定の方向に導こうとする「原理(principle)」にすぎないからである。9条が「原理」ではなく「準則」であるとする解釈は、立憲主義とは相容れない解釈である。」との一文に目を開かれる思いがしました。

    単なる感情で改憲を主張する人達(実を言うとこの本を読むまでは、私もその一員でした)に是非一読してもらいたい本です。

  • 憲法改正については慎重にすべし、というのが著者の基本的な立場であるが、その理由は、ありがちな「護憲派」の主張のように、憲法の価値観を礼讃し、すばらしい憲法だから守るべき、というのとは少し違う。むしろ、立憲主義というものの危うさや、憲法という存在の特質にかんがみて、安易な改正をすべきではない、というのが著者の考えのようである。憲法の内容の善し悪しではなく、憲法や立憲主義というものの性質、本質から憲法改正を考えるという点で、著者の主張は一般の憲法論とは異なる水準にあると思われる。
    http://d.hatena.ne.jp/hachiro86/20061215#p1

  • これまた考えるきっかけをたくさん与えてくれる。うーん。

著者プロフィール

早稲田大学教授

「2022年 『憲法講話〔第2版〕 24の入門講義』 で使われていた紹介文から引用しています。」

長谷部恭男の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×