丸山眞男: リベラリストの肖像 (岩波新書 新赤版 1012)

著者 :
  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (228ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004310129

作品紹介・あらすじ

近代の理念と現代社会との葛藤をみすえつつ、理性とリベラル・デモクラシーへの信念を貫き通した丸山眞男。戦前から戦後への時代の変転の中で、彼はどう生き、何を問題としたのか。丸山につきまとうできあいの像を取り払い、のこされた言葉とじかに対話しながら、その思索と人間にせまる評伝風思想案内。

感想・レビュー・書評

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  • おもしろかったです。言うまでもなく、日本を代表する思想史家である丸山眞男の評伝。丸山の言葉をひきつつ、学者には「体系建設型」と「問題発見型」があるとしたうえで、丸山は後者であるから、この本では彼の思想を体系化することではなく、丸山がいかに「問題」を発見するべく思索を重ねてきたか、ということを重視する。

    とくに後年の丸山は「主体」よりも「自我」に思想の焦点を当てるようになり(p191)、「他者意識」を非常に重視したという。すなわち「他者をあくまで他者としながら、しかも他者をその他在において理解する」(p197)ことを呼びかけたのだという。僕なんかは丸山のものをちょろっと読んで、丸山は国家と個人のあいだで「否定的独立」を保つ「主体的な人間」をつくることをめざす思想を展開していた、と思っていた。だけど、それは一面的な理解だったようだ。その時期による思索の展開もちゃんと考慮に入れないと、いけなかったのだなあ。

    この本では過去の思想を「ひとりの人間が深くものを考え、語った営みは、そんなに簡単にまつりあげたり、限界を論じたりできるほど、安っぽいものではない」(p225)と言い切っている。これはすなわち、最近の丸山批判に対する反批判を含みこんでいるように思えるのだけど、そのように安直な批判を戒めねばならぬほど、丸山への批判というのはてんこ盛りなのだなあ・・・という思いを新たにするとともに、これほど議論される人はほかにいないだろう、という意味において丸山の占める特異な位置を再認識するのであった。

  • 丸山真男の生涯と思想について、評伝のかたちで解説している入門書です。

    著者は、これまで丸山を批判する論者も擁護する論者も、ともに丸山を「体系建設型」の思想家として考えすぎたのではないかと述べています。そして、丸山がある座談会の席でのことばを参照しています。そこでの丸山の発言によると、「体系建設型」の学者は自分の思考のうちにひとつの体系ができあがっており、個々の問題をどうやってその体系のうちに組み込むかと考えるのに対し、「問題発見型」の学者は「現実のドロドロした混沌のなかから新しい視角をみつけてゆく」姿勢をとるとされています。

    たしかに、めざすべき到達点として「近代」のリベラル・デモクラシーの理念を置き、それに向かう途上にその時々の現実を位置づけていこうとする丸山の論法に着目すれば、「体系建設型」の思想家と見ることは可能でしょう。しかし著者は、政治について、あるいは日本の思想文化について、時代に応じてさまざまな議論を提示した丸山の軌跡には、むしろ「問題発見型」の色合いが濃いのではないかと論じています。こうした丸山の思想の特色を浮き彫りにするには、本書のような評伝という形式こそがうってつけだというべきなのかもしれません。

    本書はこうした観点から、丸山の思想形成から戦後の華々しい活躍を経て、「個」と「理性」の分裂に直面した晩年の困難を、簡潔にたどっています。そして、時代のなかで「リベラルであるとはどういうことか」という問題をたえず問いなおしてきたことに目を向けながら、丸山という思想家のすがたをえがき出そうとしています。

  • 丸山真男―リベラリストの肖像
    (和書)2012年10月10日 16:38
    2006 岩波書店 苅部 直


    苅部直さんについては柄谷行人さんの長池講義でお目にかかったことがあり、そのうち著書を読んでみようと思いながらいました。それで最近、丸山真男さんが面白いと思い始め、苅部さんが書いているということもあってこの本を手の取ってみました。

    非常に面白いです。これからでも丸山真男さんについて勉強して行きたいと考えています。

    この本の最後に書かれていた・・・信頼できる「人間」を選ぶ・・・について、僕にとって、柄谷行人は信用できると思って考えてきたことと重なる。

    柄谷行人さんもデモについて丸山真男さんの考えを話していたことがある。

    面白い。

  • 丸山は愛読していますが、難しくて何度読んでもわからないことも多く、また安保闘争での演説の印象も非常に強くありました。

    しかし、丸山の人生史を辿りながら、彼がどのような歴史的あるいは個人的文脈の中で、何を問題としてきたのかを明確にこの本がしてくれたおかげで、丸山の著作各々の意味と連携がとても見えやすくなりました。

    丸山の著作を読む上で、必須の一冊に思います

  • 丸山眞男の評伝というか、21世紀初頭における政治状況とあわせた「読み直し」に近いものかと思う。
    1960年代以降の世間的なレッテルと、本人の思想の間に齟齬があることは知らなかった。もちろん著者の深読み(あるいは新たなレッテル)である可能性もあると思うけど。
     
    丸山自身にも大きな影響を与えた1933年の日本の状況については、考えさせられる。満州事変後の好景気の一方で、特高警察による逮捕・拘束、そして拷問が行われているというコントラスト。

  • 今まで丸山眞男を真面目に読んでいなかった不明を恥じる。高校生時代の逮捕、東大法学部から助手になりながらも二等兵として二度にわたる徴兵と広島での被爆など壮絶な体験をしている。國體明徴と天皇制を批判した偉大なリベラリストの思想は今日益々重要さを増している。

  • 人間、丸山真男について。

  • 2006年刊。著者は東京大学大学院法学政治学研究科助教授。何人もの方が的確なレビューをされているので、それ以上のものは書けないが、本書は非常に優れた一級の評伝。個人的には、①書簡・論文などを丁寧に引用している点、②丸山への第三者の批判もきちんと叙述する点、③単に論文等からの引用に止まらず、丸山の逮捕体験・特高や大学からの断続的な監視・二等兵としての従軍体験等、丸山の実体験から導出される彼の見解やその変遷を後追いしている点が目を引く。現状認知に止まらない理想主義に彩られる丸山氏の著作を紐解いてみたくなった。

  • 2016/10/8

  • 「人生は形式です」

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著者プロフィール

東京大学大学院法学政治学研究科教授

「2011年 『政治学をつかむ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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