日本語の歴史 (岩波新書 新赤版 1018)

著者 :
  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004310181

作品紹介・あらすじ

現代の日本語はどのようにして出来上がってきたのだろうか。やまとことばと漢字との出会い、日本語文の誕生、係り結びはなぜ消えたか、江戸言葉の登場、言文一致体を生み出すための苦闘…。「話し言葉」と「書き言葉」のせめぎあいからとらえた日本語の歴史。誰にでも納得のいくように、めりはりの利いた語り口で、今、説き明かされる。

感想・レビュー・書評

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  • 無味乾燥なタイトルなのであまり期待せずに読み始めましたが、実は、要点をうまくおさえて、適度にふりかえりもはさみながら説明してくれている、いい本でした。読んでよかったです。日々使っていて、「今あるかたちが当たり前」だと思っている日本語ですが、その歴史にはいろいろ変遷があって、それをあわせて考えると、今の日本語は「たまたま今このかたちをしているだけ」なのかもしれない・・・なんてことを感じました。言葉が別のかたちをとっていたら、日本人の思考方法もそれに応じて変わっているでしょうから、それが間接的に社会制度・政治・政策・歴史に影響を及ぼしていたかもしれません。そんな夢想までしてしまいました。この本の中身とは直接関係ないことですが。(2015年12月19日読了)

  • 奈良、平安、鎌倉・室町・江戸・明治と言葉の変化を区切ってその歴史を概説する。奈良は文字、平安は文章、鎌倉・室町は文法、江戸は音韻と語彙、明治は書き言葉と話し言葉とそれぞれ区分ごと中心となるテーマをもうけて語っているため分かりやすい。
    時代ごとに日本語がどうかわっていったのかが納得でき、優しい語り口調ですらすらと読める。
    最も興味があったのは明治の言文一致運動。
    激変する話し言葉の世界に比べて、明治まで、書き言葉は奈良時代からずっと外国の言葉である漢文か漢文調の漢式和文で書かれていたという。西欧文明と出会い、国民の教育こそ国家の成長の要であると痛感した当時の偉い人たちは、どうして国民を教育し学問を教えようかと頭を捻っていた。が、出てきたのは漢文訓読調のカチコチの文章だった。この流れを知ると福沢諭吉の「学問のすゝめ」は驚きの読みやすさである。そこから尾崎紅葉のである体の登場により自然をありのまま写しとる欲求に応える言文一致は盛んになっていった。最後に文語体が消えたのは1945年、終戦を迎えてからであった。80年の長きに渡った言文一致運動がようやく役目を終えたのである。
    現代は誰でもSNSやらで文章を書き発信する時代で、そこで目にする書き言葉は限りなく喋ったままに近い言文一致そのものだったのだ、と認識をあらためた次第です。

  • タイトルのまま、日本語の歴史を時代に沿って解説してくれる本。

    まずは奈良時代、それまで文字を持たなかった日本に漢字がやってきて、言葉を文章に起こすという習慣が生まれたとこから物語は始まる。現代では使われなくなった発音を含め、日本語にはかつて61音の清音と27音の濁音があった、など、興味深い事実が知れる。

    平安時代には、カタカナとひらがなが編み出され、それまで万葉仮名のみで書いていた文章が大きく簡略化される。特にひらがなの発明は、物語、日記、随筆といった散文文学の発展の礎となった。

    しかし平仮名はその後、明治以降に言文一致体が成立するまで、文章における主役を漢字カタカナ文に引き渡してしまう。武士が政治の中心となった中世の日本では、やわらかく曖昧なニュアンスを伝えるひらがな文よりも、荘重な趣のある漢字カタカナ文が主流となっていく。「係り結び」の衰退が日本語の構造上の変化を説明している、というところなどは「なるほどな」と目から鱗。このときに格助詞が躍進して論理関係を明示するような傾向が出てきた。

    近世、つまり江戸期には話し言葉を忠実に記録した文学作品が流行し、現在われわれが会話で用いるような会話表現の多くがその中に見出せる。「貴様」が本来尊敬語であったのは有名だが、江戸初期には「お前」も最も敬意のある人称表現だったらしい。この時代が下るにつれて敬意が下がるという現象も面白いが、それについては言及していない。

    明治期、日本が言文一致にどれほど苦労したかうかがい知れる。文字をローマ字一本にしようという論まであったらしい。確かにベトナムでは自国語を全てローマ字で表記しているし、中国も発音表記にピンインを用いている。でも日本語がそうならなくて本当によかったと思った。

    ひらがなの持つやさしい感触、
    複雑あるいは抽象的な概念を一語で表現できる漢字の利点、
    外来語を自然に受容することのできるカタカナという器。その全てを兼ね備えているからこその豊かさがこの言葉にはある。

    本書を読むことで、各時代に主流になった記述法、またその背後にどんな社会的あるいは個人的要求があったのかがざっくりと分かる。
    またそれぞれの記述法の長短も。
    そしてわれわれが今日用いている言葉はそういった時代の洗練を経たハイブリッドなものだということが実感された。

  • 日本では、人間本来の能力として先天的に持つ「話し言葉」に対応して、中国から輸入した漢字・漢文を、時代ごとにどのように悪戦苦闘しつつ活用してきたか、整合性を目指してきたか、を解説してくれる良書。

  • 本書は、日本語の歴史的変遷をたどることで、現代語が直面する問題について考えてもらうというが意図とされている。

    特に話し言葉と書き言葉のせめぎあいの観点から言文一致運動に至る歴史を紹介している。

    この書き言葉と話し言葉の関係については、大学院の時にある授業で勉強したことのある内容なので元々関心があった。
    個人的に本書で興味深いと思ったのが、書き言葉は保守的で形を保ち続けるのに対し、話し言葉はたえず変化する性格のものであり、この両者のズレが大きくなった時(平安時代初期頃から大きくズレ始めたとされる)に修正を試みたのが、明治の言文一致運動であるという内容である。

    いろいろ諸説あるようだが、日本語の歴史を大まかに掴むのには非常に優れた一冊と言えるだろう。

  • これだけ普通のタイトルで、タイトル通りの内容が正面からきちんと記されている本に、最近めったにお目にかからない。岩波新書としてはめったにない誠実な著作。

  • 以前講義で使った本。気に入っているので登録!何がすごいって、膨大な量の日本語史を新書一冊にまとめているところだと思う。重要な点は押さえてあるため分かりやすい。他の入門書を読むきっかけにもなるのではないだろうか。

  • 日本語を考えるきっかけとして有効な情報を得られました。

    ps.
    新書は専門書ではないので、手軽に読めることが大事です。
    古典を解読して、読みやすく書き直しただけでも、著作権の関係さえ奇麗になっていれば問題はないと思います。

    個々の学説のうち、どれを採用したかが参考文献で明らかになっていれば、学術的に低い説を採用しても構わないと思います。

    明治時代に、日本が英語に漢字を宛てて変換していった作業を、中国で羨ましく思っていたという話をお聞きしたことがあります。

  • 著者の手による、各章扉のイラストもいい感じです(笑)

    • あちゃ太郎さん
      言われなければ気付きませんでした!
      言われなければ気付きませんでした!
      2020/12/31
  • お恥ずかしい話ですが「そんな本あるんだ!知らなかった!!」っていう作品ばかりでした…(汗)
    でも、どんなところに注目して読めばさらにおもしろくなるかが、本当によく分かる!
    「読んでみよう!」と素直に思える紹介の仕方に驚きです!!

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著者プロフィール

一九四三年生まれ。お茶の水女子大学卒業。東京大学大学院修士課程修了。文学博士。埼玉大学名誉教授。文化功労者。古典語から現代語までの日本語の歴史を研究。特に『犬は「びよ」と鳴いていた』(光文社)、『ちんちん千鳥のなく声は』(大修館書店)など、擬音語・擬態語の歴史的研究は、高く評価されている。論文「源氏物語の比喩表現と作者(上)(下)」で日本古典文学会賞、『平安文学の文体の研究』(明治書院)で金田一京助博士記念賞、『日本語の歴史』(岩波書店)で日本エッセイスト・クラブ賞受賞。また、「日本語に関する独創的な研究」が評価され、二〇二二年に日本学賞を受賞。二〇〇八年紫綬褒章、二〇一六年瑞宝中綬章を受章。

「2023年 『日本語が消滅する』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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