魔法ファンタジーの世界 (岩波新書 新赤版 1020)

著者 :
  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (210ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004310204

作品紹介・あらすじ

「指輪物語」「ゲド戦記」「ナルニア国ものがたり」。子どもたちを、そして今や大人たちをも惹きつけてやまない、魔法ファンタジーの不思議な魅力の秘密を解きほぐしていく。伝承の世界にその系譜を探り、細部のリアリティにその力を見出し、さらにそこには危険な罠すらひそんでいることも明らかにする、本格的な案内の書。

感想・レビュー・書評

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  • 良いファンタジーと危険なファンタジーの分類に絶対的根拠が見られず、主観的で好みによる部分が大きいように感じる。だが、そこは違うと突っ込みを入れながら読んでいくのが新書の醍醐味だと思うので、ファンタジーとは一体何なのか考える良い機会になった。様々な物語が取り上げられており、ブックガイドとしても読める。また、ファンタジーと伝承やファンタジーの歴史など非常に興味深いアプローチで論じられていて、文学史の勉強にもなった。

  • 最近のライトノベルの傾向をわたしはよく理解していないが、たしかに興味を引くものが少ないのが残念だ。しかも、有害になりうるものもあるという。
    消費され、捨てられてしまうような耐久力のない物語が増えてしまっているのだろう。登場人物と一緒に成長できる名作にはそれなりの理由がある。それを解き明かしてくれ、私には納得の内容だった。異論もあるのかもしれないが、魔法ファンタジーを愛する一人として、この本の言いたいことには諸手を挙げて賛同できる。

  • ただの根拠のない推測
     内容は主に子供のためのファンタジーのありかたを提言してゐる。

     その結果、近年のファンタジーについていろいろ注文をつけることになり、たとへば創作中のグロや暴力にたいして、倫理的な非難に陥ってゐる。まあ、子供に過激なエログロを見せない(=ゾーニング)ほうが、教育上好ましいのは私も同意見だ。

     しかし、では大人のためのファンタジーならどうか? 大人なら多少過激なものはあってもいいだらう。その視点が抜けてゐる。
     また提言自体も、さまざまな著者好みのファンタジーを羅列紹介しながら、意見を好き勝手述べてゐるやうで、論理性に欠ける。

     さらに致命的なのは、「アラジンと魔法のランプ」を「千一夜物語」の物語としたこと。最新の研究で「アラジン」に原典になく、ディアブによる創作だと判明してゐる。ファンタジー研究家が知らないのはまづい。

  • ビジュアルファンタジーにあふれる現代だからこそ、自由な発想で物語の世界にどっぷりつかる体験を大切にしたい。本書で紹介される作品で未読のものを、少しずつ手に取りたくなった。そしていつか、「指輪物語」に挑戦してみよう。

  • ファンタジーという分野に対する分析、評論ではない
    筆者の好む作品が好ましい要素毎に紹介されているような体裁
    その為、内容が散逸している印象
    いっその事、作品毎に纏めてブックガイドの構成にした方が良かったと思われる

  • ヨーロッパの魔法ファンタジー!『ハリー・ポッターシリーズ』など、ハリウッド映画などにも多くのネタを提供しているこのジャンルは、子どもたちの読みものとしてのみならず、伝承物語を根としてヨーロッパの芸術に豊かな森となっている。本書は示唆に富み、良書である。19世紀ロマン派はケルトやゲルマンの源流に帰ろうとしていた、など著者の指摘はどれもスマッシュ・ヒットだ。しかしヒットの打席に立つたびに「何といっていいのか・・」とまずは文章化に呻吟するあたり、直感人間としての著者が垣間見えて、ほほえましい。
    著者は魔法ファンタジーの系譜を2つあげる。ひとつはトールキン、ル=グィンであり(わたしが乱暴にまとめれば)少年の成長物語、という小説の正統な流れを汲む一派、もうひとつはルイスで、中世の説話集のように矛盾があろうが面白さをてんこ盛りするやりかた、とまとめている。そしてこれらのファンタジーがもつ潜在力を具体的に示しつつ、近年「こらしめ」「しかえし」を主体とする人間観の冷たいファンタジーが商業的に跋扈することに警鐘をならすあたり、骨のある論評だ。
    わたしも魔法ファンタジーが大好き。著者が好きなトールキンは、たしかに細部のリアリティがすばらしいが、こまかすぎて退屈で(『指輪物語』も映画でみるほうがいい、という不届き者です)、てっとりばやくカラフルな『ナルニア国物語』がいいというルイス派だ。たしかにこのシリーズ、ラストはショッキングで、一種裏切られた気分になるが…。しかしそこに凝縮された冷徹さが、作者のカラーなのだろう。ファンタジーをつくるものは、高い見識、人間性を備えて普遍的な物語を生み出すことは必だが、どこか異形さがないと光らない、とわたしは思う。いずれにせよ本書は、ファンタジーの泉の在り処を教えてくれる優れたガイドである。

  • 脇明子『魔法ファンタジーの世界』。魔法的なものが登場するファンタジー作品はいくつもあるが、それらに共通するものはなにかということ、そしてそれらの源流であろう民間伝承とのつながりの考察から「魔法ってなんだろう?」を論じる。

    もちろん、ファンタジーといえばな指輪物語やナルニア国物語やゲド戦記なんかも登場し、古き良きファンタジーは魔法をただの万能の法としていないか、人のあり方を問いかけてくるか、などを述べる。

    まあ「最近のファンタジーは刺激的さをただ追求しただけのものが多くてよくない」みたいな若干老害臭のすることも言ってたりはするのだが、一理ある部分もある。それは「神話や伝説の要素のみを抽出し創造力も刺激せず快楽のみを追求したものが溢れている」と述べる点で、これは同意するところだった。

    全体としては、神話とファンタジーの関係とかをいろんな作品を引き合いに出して読みたくさせてくれるので、おすすめ。ぼくはマビノギオンのことをこの本で知ったため、「あー昔マビノギってゲームあったけど、元ネタそれかあ」と思うなどした。

  • 魔法ファンタジーの世界と題しながら、その手の作品は、
    ほぼ指輪物語とナルニアとゲドしか扱っておらず、どうにも
    視野の狭さを感じてしまう本だった。

  • ちょっと堅すぎるんじゃないかな、と思いながら読み進めた。
    一時期のファンタジィブームに乗った作品群には、確かに目を覆いたくなるようなものも多かったと思う。
    しかし、ファンタジィというジャンルが盛り上がるのは、決して悪いことだけではないと思う。
    凝り固まった「原理主義」は、そのジャンルを衰退へと導く第一歩だから。
    それは「純文学」や「SF」が、かつて辿った道と同じ。

    ベースにある部分には共感する部分も多かった。
    上手く言葉にすることが出来ないのだけど、ファンタジィ作品の核となるべき部分を履き違えている作品が多いのは確かだと思う。
    重要なのは「演出」ではなく「構成」。
    そこを間違えると、読んだ後に何も残らない、空虚な作品になってしまう。
    それが一概に悪いとも言えないけれど、ちょっと勿体ない。

    著者の思い入れが前面に出すぎていて、そこに共感できない人には、ちょっと抵抗のある本だとは思った。
    ただ、多くのファンタジィ作品を縦横に網羅して、様々な視点から傾向や特徴を洗い出している部分は素晴らしかったと思う。
    特に、伝承とファンタジィとの関係を探っていく部分は、なるほどと思った事柄も多かった。
    著者の主張をもう少し控えめに抑えて、客観的な部分からの評論や体系的な考察を増やすべきだったのではないかな、と感じた。

  • 魔法はいつだってわくわくするよなあ。
    ただ著者が「昔は良かった」感満載の、ちょっと老害臭を出しているのが気にはなる。今のファンタジーに批判があるんだったら、もっと具体的にしてほしかったなー。

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著者プロフィール

脇明子

「2018年 『ねこのオーランドー』 で使われていた紹介文から引用しています。」

脇明子の作品

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