満州事変から日中戦争へ―シリーズ日本近現代史〈5〉 (岩波新書)

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  • 岩波書店
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レビュー : 33
  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004310464

作品紹介・あらすじ

「満蒙の沃野を頂戴しようではないか」-煽動の背景に何があったのか。満蒙とは元来いかなる地域を指していたのか。一九三一年の鉄道爆破作戦は、やがて政党内閣制の崩壊、国際連盟脱退、二・二六事件などへと連なってゆく。危機の三〇年代の始まりから長期持久戦への移行まで。日中双方の「戦争の論理」を精緻にたどる。

感想・レビュー・書評

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  •  本書は、満州事変から日中戦争へ傾斜する1930年代の日本の歴史についての本だが、満州についての詳細な考察は他にない緻密さと真摯さを持っている良書であると思った。
     本書で、1930年代の軍人が窮乏のどん底にある農村の解決策として、思い切った手段が必要として「左翼の組合は土地の平等分配を要求しており、これは確かにもっともな主張だが、仮に日本の全耕地を全農家に平等に分配しても、その額は五反歩にしかならないではないか・・・諸君は五反歩の土地を持って、息子を中学にやれるか、娘を女学校に通わせるか。ダメだろう。日本は土地が狭くて人口が過剰である。このことを左翼は忘れている。」との言を紹介している。当時の日本が大陸に進出していった時代の雰囲気をよくあらわしていると感じた。
     本書での満州における特殊権益や国際関係、国際連盟脱退の経過や関係者の動き等々は、単なる歴史的事実の羅列に終わらずに、詳細に展開されており、実に興味深く読めた。
     本書のような深い考察が、もし現在の日本で一般に共有されていたらば、感情的なナショナリズムによる一時的な高揚などの感情で国際関係が乱れることなどないのにと思わせられた。こういう本があるのだから、歴史は面白い。本書を高く評価したい。

  • 国際連盟脱退で松岡洋右が会議場を後にするシーンは印象的だが、1932年のジュネーブでの連盟特別総会から帰朝したときには、松岡は脱退は日本のためにならないと齊藤実内閣の外相内田康哉を懸命に説得していたのである。そして、政党も内田外相も連盟脱退を実のところ考えていなかった。 脱退論は専門外交官や国際法学者から出て来たのであった。 歴史は一般に知られている以上に複雑怪奇であることを再認識した。

  •  本書は、簡単に批評できないほど内容の濃い本であり、熟読玩味するだけの価値がある。
     日本はなぜ中国に攻め入り、泥沼に陥るような戦争を行ったのか。それを行った論理はなんだったのか。本書はそれを国内、中国、そしてイギリス、ドイツ、ソ連、アメリカといった勢力とのかかわりから明らかにする。
    満州での治安の悪さ、日貨排斥は国際法違反に映った。なぜ排斥がおこるかを考えないのは滑稽だが。そして、その利権を守るため、つまり「自衛」と称して軍隊を発動し、頑迷な中国を懲らしめようとしたのである。だらしない中国にかわって東洋の盟主として新たな秩序を打ち立てようとしたのである。
    日中戦争を「侵略」と言ってしまうのは簡単だ。たしかに、人の国のことであるのは間違いない。しかし、日清、日露の戦争に勝って南満州の利権を得た当時の日本人たちは、国内での経済矛盾を解決するためにこうした行動を自ら正当化したのである。本書でもその正当化理論がいくつか紹介されている。しかも、当時の人々は中国は簡単に落とせると思っていた。持久戦というのは毛沢東独自のものかと思っていたら、上海、南京、武漢が落ちた後蒋介石が重慶の遷都したのも持久戦だ。その結果日本は勝利の見えない戦いをよぎなくされたのである。

  • 「中国(人)はインチキ→日本は正義」の源流がここにあるんだろうな。宣戦布告しないで8年も戦った事実から「これは戦争なのか?」というそもそもの問い。
    やや外交面に偏りがあり、肝心の事変から建国に至る、関東軍の理論と実践の検証が弱いのが難点か。しかしながら、4章の国連脱退に至る過程の詳細な検証は読んでいてスリリングである。脱退までにはいろんな読み間違えがあったよなあ。外交の失敗によって戦争は始まり拡大していく事を痛感させられる。

  • 考察する時代を日露戦争後まで遡り、日中戦争の独自解決の道が事実上なくなる1940年10月の大政翼賛会の成立までを対象としている。中支那派遣軍司令部作成の「揚子江開放に関する意見」に「今次(支那)事変は戦争に非ずして報償なり。報償の為の軍事行動は国際慣例の認むる所」とある。「報償」とは法律用語の「復仇」と同義で国際不法行為の中止や救正を求めるための強力行為と定義され、相手国が条約違反を犯した時などに強力行使に訴えることを言い、その際の強力行為は法律上違法とはされない。

    「(日中)双方が相手国に対し、国際不法行為を行ったと主張し、自らのとった強力措置は復仇であるから違法ではないと論戦しあう二国、それこそが一九三〇年代の日本と中国の姿であった」。「三〇年代の危機は世界的規模における経済的危機であり、英米ソ日など列国の角逐する極東の軍事的危機であった」とする。そこで、筆者は「当時の日本の為政者や国民が、いかなる経緯によって、心から復仇を主張するようになったのか、それを明らかにしたい」と述べている。中国側はボイコットを「不当なる攻撃に対する復仇手段」と考えているとの演説を国際連盟総会で行なっている。

    地理的概念である「満蒙」ついてはロシアと日本の間で区分が数次にわたる日露戦争後の日露協約で取り決めがされ、1915年の対華二十一カ条要求において南満州及び東部内蒙古に関する条約によって日本側の目的を達成する。

    問題は「第一次世界大戦後、英米仏などの列国と共に日本は、ドイツとロシアの急速な体制変化を横目にみながら、戦後の東アジアと太平洋をめぐる経済秩序の再編に取り組んだ。再編の過程では、戦前や戦中に日本が当該地域との間に構築した政治的経済的地位もまた、当然、再定義を迫られることとなる」。「遅れてきた帝国主義国家であった日本にとっては、韓国併合も、南満州と東部内蒙古の勢力範囲化も、東アジアにおけるその時々の列強、英米やロシアなどの同意と承認があって初めて実現可能であった」という部分である。加えていえば、満州某重大事件(張作霖爆殺事件)・熱河作戦・柳条湖事件など、時代にそぐわない、武力に訴える「遅れてきた帝国主義国家」であったのだ。

    「第一次世界大戦中から明確になってきた、脱植民地化の動きや、公然たる帝国主義支配の終焉」。「(新借款団問題において)英米が日本の(満蒙)除外要求を政府レベルで一貫して認めようとしなかった第一の理由は、中国への配慮であり、第二の理由は、国際金融資本の、次なる格闘の場である大戦後の中国における「列強の利害関係」」。「(ワシントン)会議では、日英同盟条約を終了させ、「太平洋方面における島嶼たる領地の相互尊重を約する」英米仏日による四カ国条約」、「その他、中国に関する九カ国条約、海軍軍縮条約、中国関税条約などが調印」。「英仏の利権が集中する国際都市・上海での戦闘(上海事変)に対する連盟の対応は実に迅速」など、日本と他の列強との中国をめぐる利権や権益に対する脅威が強まったことや日本が国際的趨勢と違う方向へ向いていたことがわかる。

    問題提起の「復仇」に関しては「将来的な対米戦の補給基地としても満州は必要とされていた。しかし、それは国民の前には伏せられ、条約を守らない中国、日本品をボイコットする中国という構図で、国民の激しい排外感情に火が点ぜられた」。「掻き立てられ、後に放置された国民の憤怒は「満州事変は復仇」との自己説得の論理に、より強く結びつけられてゆくほかない」と「おわりに」で述べられている。

    また、直接的に本論と関係はないかもしれないが、日独伊三国防共協定強化問題に触れて、「どうも今の陸軍にも困ったものだ。要するに各国から日本が強いられ、満州、朝鮮をもともとにしてしまわれるまでは、到底目が覚めまい」と昭和天皇が述べていたというのは注目に値する。

    満州事変の前史から日中戦争の時代に苦手意識があり、関連する本を数冊読んでもいまだに難しさを感じる。今回の著作は定評のある東京大学教授の加藤陽子氏の著作ということもあり覚悟はしていたものの、自分の力不足もあるのだろうがハードルが高かった。前史の段階が長かったり日中戦争を論じた部分が少なかったりしたところが個人的には残念だった。また、教科書的であり、なかなか頭に入ってこなかったということもあった。多少ある程度の知識を持っている方には読みやすい著作かもしれない。

  • 政治家も、軍も、外交官も、国際連盟脱退は誰も望まないのに、国民の熱狂に迎えられた。日露戦争から脈々と流れる熱狂に。

  • 陛下からの課題に応えようと、なんとか8月15日に読了。

  • 読了。

  • 「満州とは何であったのか?」で本を探していて、良書と評判の高い本書を手に取った。先ず、本書を読むにあたってはかなりしっかりと歴史を理解していないとついていけないレベルではあった。私には、時間をかけて、覚悟を決めて!?、調べながら読む必要があった。学生時代の知識を思い出すとか、勉強するとかいうよりも、この時代を整理し直して、考え直すことができる本。

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著者プロフィール

加藤 陽子
1960年、埼玉県大宮市(現、さいたま市)生まれ。1989年、東京大学大学院人文社会学系研究科修了(文学博士)。現在、東京大学大学院人文社会学系研究科(日本史学)教授。専門は日本近現代史であり、特に1930年代の外交と軍事を中心に研究を続けてきた。
著書『徴兵制と近代日本1868-1945』(吉川弘文館、1996年)、『満州事変から日中戦争へ』(岩波新書、2007年)、『昭和天皇と戦争の世紀』(講談社、2011年)、『模索する1930年代』(山川出版社、2012年)、『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』(新潮文庫、2016年)、『戦争まで』(朝日出版社、2016年)などがある。

「2017年 『歴史を学び、今を考える ー戦争そして戦後』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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