教育力 (岩波新書 新赤版 1058)

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  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (214ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004310587

作品紹介・あらすじ

教師に求められるものとは何か。あこがれの伝染としての教育、祝祭としての授業、社会に食い込む技術、さらには開かれた体、課題のゲーム化…。著者は数々の斬新な視点から、それを明らかにする。

感想・レビュー・書評

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  • 教育力
    著:齋藤 孝
    岩波新書 新赤版1058

    本書は、教師の立場から、教育にたずさわる者に求められる力、資質とはなにかを論ずるものです。

    教育とは教えることだけではない、教育とは、本人に学ぶことが楽しく、自らが学ぼうという意欲を持たせることである。

    本人が、面白く、もっと勉強をしたい、知りたい。そう思わせることが学びの出発点なのである。

    著者は、教師に卓抜した能力を求めてならない。教師としての職業は、単なる教員試験に受かることではない。
    著者が、求める教師像は厳しく、高い理想を含んでいる。

    気になったのは、以下です。

    ■教えること、学ぶこと

    教育の一番の基本は、学ぶ意欲をかき立てることだ
    そのためには、教える者自身が、あこがれを強く必要がある

    教え方しか知らないのでは、相手の学ぶ気持ちに火をつけることは難しい
    学ぶことが楽しいことだ、と相手に本気で信じさせることが、教師のいわば使命である

    緒方塾のやり方は、ゆとり教育とは正反対の方向性である
    教科内容は限りなくレベルが高い
    内容を落としてしまうと、学んでいることに誇りが持ちにくくなる。
    現在の小中学校の教科書では、内容が薄いので、教師も教えていることに誇りを持ちにくい、
    内容のレベルが高いものほど、実は教師にとっては教えやすいのである

    問いを設定することは、考えるという作業を促す
    それだけに、問いを考える側は、よほど物事がわかっていいなければならない

    問いを吟味し研ぎ澄まし、勝負をかけて臨む。
    そして子どもたちとやりとりの中で、より考えを含めていく。
    そうした開かれた場づくりが教師の仕事である

    ■教育力の基本とは

    ことが教えるという行為である以上、まず自分自身が学び手として、一応のレベルに達していることが
    第一の条件だと私は思っている
    まず、自分自身が学ばなくてはいけないということにある

    1年間授業をしたけれど、相手は伸びていなかった、と言う場合
    これは教育をしていないということになる

    教育内容を学校側が軽視するということは、教育の自殺行為だ

    あの授業、本当に嫌になるほど、厳しかったけれど、10年後になって、ありがとう、と言えるならば、それはたいへんいい関係だ

    私たちの社会にとって、この知識は必要だ、と考えて、カリキュラムを組んでいるのだ
    そのカリキュラムをきちんとこなすプロセスを通じて、知識とともに、向上心を技化していく。
    これが教育の主たる役割である

    教師に求められるものは、専門的力量、人格的魅力である

    気に入らない嫌な教師だと、感じると学ぶ意欲は一気に消え失せてしまう

    あまり(教師を)信用していなかったけれど、ちょっとやってみたら、ああ、すごくよくできるようになった。
    とか、すごくおもしろかった ということで最初の一歩が踏み出せる

    ■真似る力と段取り力

    教育の具体的指標として、真似る力、段取り力、コメント力という3つの力を挙げる

    メモ魔、メモをひたすらとる、あらゆるときにメモをとる

    真似るというのは、何となく、ひとまねこざるである、のようで、もう1つ聞こえがよくない
    だが、実際には、この行為は、人が新しいことを獲得するときに、どうしても必要なことなのである

    学習のプロセスとしては、まず真似して吸収する。
    その上で、それらを、アレンジして自分なりのものを提示する

    実際に天才と呼ばれている人間を良く調べてみると、通常では考えられないレベルまで意識を働かせている
    意識で追求できることはすべて意識的に行って、最後に無意識がさく裂するようなところまではっきりと追い込む

    ■研究者性、関係の力、テキストさがし

    天才といわれる人たちの共通点は、人から言われなくても自発的に勉強し練習し続けるということだ
    しかも、その量と質が充実していて飽きることがない
    自分で学習法を工夫できる

    先生は生徒たちからすごくがんばった果てのもっと果てに素晴らしい解法を示してみせるということで、
    生徒たちが先生のありがたみを感じる。
    生徒が先生にすごみを感じないようでは、教師としてはやっていけないものだ。
    同列だとおもった時点で子どもはいう事をきかなくなる

    教材選びは教師の生命線だ。教師には、テキストを編集する力が求められる

    厳しい言い方をするならば、教科書を解体して生徒に与えることができるくらいの力がなければ、教師をやってはいけないと思う。

    ■試験について考え直す

    試験問題を通じて、その教科のすごみを伝えてやろう、というぐらいでなければいけない

    教師が生徒や学生に与えるべきものは何かと言えば、感動と習熟の2つの柱だと私は思う

    子どもには教壇に立たせるだけでなく、採点をやらせることも大事である
    採点者になる、あるいは、問題作成者になる
    これが、ある意味では教育の中でもっとも効果的なやり方なのだ

    まずは一通り教える、というのも大事だ。
    何が自分にフィットするのか、はじめは誰だってわからないものなのだ。

    信用や信頼というものが次の仕事を呼び込むのだ。
    だから、信用を失うということが、どれほどの損失であるか、やりがいを失わせるものであるか、教えなければならない

    ■見抜く力、見守る力

    憲法で教育を受ける権利が保障されている
    これは親から見ると、子どもに教育を受けさせる義務である

    天才と言われている人たちは、自分自身が自分の先生になれる
    才能とは、自分に必要なものがわかるということである
    見抜いて、見抜いて、我慢する
    見守る能力が、教師にとって重要である
    思いついたことを全部いってしまうのはだめなのだ。

    いい方法があるなと思ったら、それをすぐやってみるのは、いい先生だ
    子どもの反応を見て、自分のクラスの子どもに合うようにアレンジして使えばいい

    教師にとって学ぶことは才能ではなくて、職業としての義務だ

    ■文化遺産を継承する力

    いいものに出会わせる。身銭を切って買うようになればとてつもなく目が磨かれるに違いないが、
    そこまでしなくても、たくさんいいものを見ていると、上手い、下手がわかるようになる

    自分で伸びていける人 自分で自分を教育できるというのが一番大切なことだ

    言葉の力を信じる力 体得させるということ、これも大切だ。
    しかし、同時に教育者の場合は、言葉によって伝えきるという技術も大事だ。
    黙ってやれ、みたいな指導では人はもうついてこない

    ■応答できる体

    1つの知識に対して、もう1つの見方やもっと発展した捉え方がでてくるのが、学問の世界では当たり前だ
    この角度から見るとこうだが、視点をずらすとこう見えるという具合に、常に視点を移動させる訓練が必要だ

    ■ノートの本質、プリントの役割

    ノートをきちんと書けるようにするのは、教育の大きな狙いの1つだ
    自分の考えた目標や課題を書いていく課題ノート、それをつくれるようになると上達が促進される
    板書以外のものをノートにとるという練習をさせる

    オリジナルなプリントづくりというのもきわめて大事だと私は思っている
    プリントづくりは、編集力だ。いいものを見つけてきて、組み合わせる。
    生徒の力を見極めた上でのセレクトのセンスが、生徒のチャレンジ精神をくすぐるのだ

    カリキュラムを自分でつくるのは本当に力量がいる
    だから、出来合いのカリキュアムがあり、教科書も問題集もあって、ふつうはそれに従ったりする

    ■呼吸、身体、学ぶ構え

    その人が持って生まれたものや、あるいは生育上でみにつけてきたものからは、なかなか逃れられない
    その人のもっているものを生かした形で教育スタイルができていれば非常に効率がいいのだ

    教育にはいくつかアプローチがあるので、そのなかで自分の得意なスタイルを見つけていくことが必要だ

    目次
    序章 教えること、学ぶこと
    1 教育力の基本とは
    2 真似る力と段取り力
    3 研究者性、関係の力、テキストさがし
    4 試験について考え直す
    5 見抜く力、見守る力
    6 文化遺産を継承する力
    7 応答できる体
    8 アイデンティティを育てる教育
    9 ノートの本質、プリントの役割
    10 呼吸、身体、学ぶ構え
    あとがき

    ISBN:9784004310587
    出版社:岩波書店
    判型:新書
    ページ数:224ページ
    定価:800円(本体)
    発売日:2007年01月19日第1刷
    発売日:2007年01月19日第21刷

  • 教師だけでなく、経営者、保護者やコーチなど、あらゆる教育者にとって参考になる本だと思う。

    初心に立ち返ることができた1冊

    先生になったらやるべき10のこと!
    クラスがうまくいく10のしかけ!
    のようなキャッチーなものより、納得できるなと思った。

    ハウツーだけではなく、
    土台となる信念や情熱のようなもの大事だなと改めて感じました。

  • 熱い文章だった。大学のレポートの参考文献にしようと思って読んだが、読まなきゃという義務感が先行してちょっと辛かった。。。

  • 「ギブアンドテイク的な人間関係しか結べない人には向いていない仕事だと言えるだろう。」この一言は、自分が教師を目指す中で突き動かされるセリフであった。
    自分はこれを読んだ時、まだ大学一年生であったが、これを読んですぐに実践したくなり、今もお世話になっている大学受験個別指導講師として、意識することを職場の中でも増やしていけた。とてもいい経験になったのはこの本のおかげです。
    星10個くらいあげたい。

  • 「教えるという行為にばかり気をとられて、教師自身が学ぶことを忘れている場合が少なくない。」
    この言葉はかなり共感できたし、
    ビジネスマンにも同じことが言えると思う。

    (抜粋)
    ・(文章)書き手の価値判断,個人的な経験,知識の豊富さを示す
    ・人の言葉を聴いている間は、自己中心的な態度をやめている。学ぶ構えの基本は「積極的受動性」である
    ・段取り力や真似る力は、仕事をする上で最重要の力
    ・上達の原理は上手な人のやっていることを見て、その重要なポイントを自分のものにすることである
    ・意識で追求できるところはすべて意識的に行う
    ・自分たちがいま、ここで生み出したというワクワク感
    ・一流の人は目的意識にもとづく意味づけがはっきりしていて優先順位を間違わない
    ・教師は工夫しつづけることを義務付けられている職業
    ・自分で自己を修正できる力を養う
    ・沈黙を大切にする。質が低ければ断ち切り高いものであれば、その高さ、深さの中で何事かを生徒にしてもらう
    ・ムカツクのは複眼的思考がないから
    ・場に対する責任感

    (学び)
    沈黙に質があることが学びだった。高い質の沈黙を受け入れて、相手の反応を待つ必要がある。

    (感想)
    教育系の本で最も大事なのは、生徒に要求する力を教師側も持つ努力をすることだと思う。
    学ぶことと工夫することをやめないことが、教師の義務であると考えた。

  • 著者の齋藤孝はメディア等でも有名ですが、明治大学文学部教授で教育に関わる著書を多数出版しています。実は、個人的にはあまり好きではないのですが、この本は変わった角度から教育の諸方面を考えていて、一読してなるほどと思ったものでした。岩波新書なので、気軽に読めますし、内容も平易ですので、新入生にもどうかな、と思った次第です。(渡部洋一郎准教授より)PAC→http://libopac.lib.juen.ac.jp/opac/opac_details.cgi?lang=0&amode=11&place=&bibid=0000198272&key=B143132237522233&start=1&srmode=0

  •  齋藤氏のイメージがバッサリ変わった。こんなに熱い人だとは思ってなかった。失礼ながら。
    「教育の根底にあるのは、あこがれの伝染である。何ものかを価値あるものと認め、そこに心のエネルギーを注ぎ込む。何ものかを目指して飛ぶ、矢のようなベクトル。それがあこがれだ。
    心引かれるものがあるからこそ、努力しようという向上心が湧く。あこがれが根底にあるからこそ、技を習得する意欲も生まれる。」
    齋藤さんの「教育者」への理念?理想?がぎっしりつまっている。
    これから教師になろうって人には是非読んでほしいけど、あまりにもこめられたものが多くて気がくじける気もする。そのくらいのぎっしりさ。
    教育者に求められるものって確かにこういうことなんだけど。
    「教育欲」「文脈力」「コミュニケーション能力」「段取力」「発問力」「文化遺産を継承する力」
    どんだけ、パワーが必要よ?
    自分の出会った先生方を思い出し、子供の先生方を思う。
    そして、自分、この歳になると多かれ少なかれ誰かに「教える」立場にいるわけで、そのときにどんな態度で臨んでいるだろうかと考える。

    「あるテーマについてまとまった量の文章を書くにためには、ある程度の知識が必要だ。しかし、知識の引き写しだけでは、アピール力が足りない。書き手の価値判断も含み、個人的な経験というものもどこか行間からにじみでるような形で、しかも知識の豊富さも示すような形で文章が書き上げられる、そういう能力がいま求められている。」(暗記も大切)
    「運動をすると運動神経がよくなる。運動部に入って何年かやっていると、元はそんなに動きが鋭くなかった人でも、ある程度、体が動くようになる。それと似ている。勉強すると頭がよくなる。頭がよくなると同時に心のコントロールもうまくいくようになる、というのが大方の筋道だ。」(勉強ってなんでするの?)
    「知らないことを恥ずかしいと思っていた時代から゛知らなくて、別にいいじゃん。ぜんぜん恥ずかしくないし。もう、ばかのほうがいいし、気楽だし゛というような前代未聞の教養無視の時代に突入してしまった現実は見過ごせない。」
    「才能とは、自分に必要なものがわかるということである。」
    「文学は論理の下にある感情を理解する力を養うのに大切なものだからだ。ものごとを理解する力を身につけるということが、学校で学ぶことの中でいちばん重要なことだ。」
    「向上心を支えたもの。それは、きっちりした技を身につければ、絶対に一流になれる、それは間違いないのだ、という信念だ。それは技の概念でもあり、型の概念でもある。」
    「言葉なんて信用できないとか、どうせ伝わらないというのではなくて、言葉でかなりのところまて伝わるんだ、と信じていることが大切なのだ。」
    「現在、゛主観優先(好き嫌い優先)で別にいいじゃん゛という人が増えてきてしまっている。その事態に社会全体が非常に手を焼いているが、そういう態度は勉強から逃避してしまった場合に起こりやすいことなのだ。勉強は客観性、多角性視点を非常に重んじるからだ。」

  • #2739-34

  • 【図書館】182ページに『ピンポン』のくだりがあり、懐かしかった。

  • 教育とはなんたるや、教育者とはなんたるや、を知ることができた。学ぶことはたくさんあったけれど、一読では全てを吸収することができなかったので(メモを取らずに読んでしまったため)、もう一度読み直したいと思う。

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著者プロフィール

1960年静岡県生まれ。東京大学法学部卒業。同大学院教育学研究科博士課程を経て、現在明治大学文学部教授。教育学、身体論、コミュニケーション論を専門とする。2001年刊行の『声に出して読みたい日本語』が、シリーズ260万部のベストセラーとなる。その他著書に、『質問力』『段取り力』『コメント力』『齋藤孝の速読塾』『齋藤孝の企画塾』『やる気も成績も必ず上がる家庭勉強法』『恥をかかないスピーチ力』『思考を鍛えるメモ力』『超速読力』『頭がよくなる! 要約力』『新聞力』『こども「学問のすすめ」』『定義』等がある。

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