ルポ 貧困大国アメリカ (岩波新書 新赤版 1112)

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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004311126

作品紹介・あらすじ

貧困層は最貧困層へ、中流の人々も尋常ならざるペースで貧困層へと転落していく。急激に進む社会の二極化の足元で何が起きているのか。追いやられる人々の肉声を通して、その現状を報告する。弱者を食いものにし一部の富者が潤ってゆくという世界構造の中で、それでもあきらめず、この流れに抵抗しようとする人々の「新しい戦略」とは何か。

感想・レビュー・書評

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  • ●アメリカの貧困問題がよくわかる。事例も豊富で、著者の情報収集力に感心した。
    ●アメリカ社会の10年後が日本といわれる?が果たしていかに。富はあまりにも格差がついてはいけないと思う。ユダヤの商人を繰り返してはいけない。

  • 米国がもたらした、資本主義とグローバリゼーションの流れを受けてアメリカ社会が変貌していく姿を描くのが本書です。
    食・住・教育・医療と人間にとって必要不可欠である分野で、二極化が進んでいるのがアメリカ社会です。

    気になったのは、以下です。

    ■サブプライム問題
    ・英語できないヒスパニック系には、あまりきちんと説明をせずに契約をさせるケースが非常に多く、利率も同じ所得層の白人と比べもともと三割から四割高だった。
    ・サブプライムローン問題は、単なる金融の話ではなく、過激な市場原理が経済的「弱者」を食いものにした「貧困ビジネス」の1つだ。
    ・連邦政府2005年の発表によれば、同年、国内でアフリカ系アメリカ人の55%、ヒスパニック系の46%がサブプライムローンを組んでいる。白人は、その人口に対して、わずか17%だ。
    ・私たちは初め、これは人種差別だとして声を上げようと考えました。でも、そのうちに、どうもそうではない気がし始めました。人種や宗教などを超えた何かもっと別の、巨大な力が動いているように思えるのです。

    ■新自由主義登場によって失われたアメリカ中流家庭
    ・福祉重視政策だったニクソン大統領と対照的に、レーガン大統領は、効率重視の市場主義を基盤にした政策を次々に打ち出し、アメリカ社会を大きく変えていった。目的は、、大企業の競争力を高めることで経済を上向かせこと。そのために企業に対する規制を撤廃、緩和し、法人税を下げ、労働者側に厳しい政策を許し社会保障を削減する。
    ・肥満児は、安価で調理のしやすいジャンクフードがでまわっているせいだ。2006年に飢餓状態を経験した人は、人口の12%、3510万人に達し、成人が2270万人、子どもが、1240万人である。

    ■人災であったハリケーン
    ・被災者たちの多くには分譲資金どころか、職も帰りの交通費させないのだ。住んでいた土地は富裕層の人々に徐々に取って代わられ被災地再生計画は怒りの声を上げる避難民の間で、「民族浄化計画」とよばれている。

    ■移民
    ・メキシコからの密入国には2つの方法がある、1つはリオ・グランデ川を泳いで渡ることだが、子どもや老人には難しい。もう一つは、コヨーテと呼ばれる移民斡旋業者に法外な料金を払い、トラックの荷台に隠れて検問所を突破するやり方だが、これも国境を超える前に二荷台の上で窒息死する危険が伴う。
    ・アメリカで移民が永住権を申請する場合、申請書が受理されるまでまず最低5年は待たされる。やっと受領されたとしても、その後のプロセスがまた長く、面接までさらに数年、ひどい時は、それ以上かかることもある。

    ■世界一高い医療費
    ・病気になり医療費が払いきれずに自己破産した人のほとんどが中流階級の医療保険加入者だという。
    ・医療費の家計圧迫は年々ひどくなる一方です。システムが複雑すぎてついていかれません。
    ・アメリカの医療制度は、医師にも、患者にも非情なシステムですよ。
    ・全米一の巨大病院チェーンに成長したHCA社は、コスト削減のために、採算が合わない部門や高賃金の看護師などを次々に切捨て、患者には高額な請求をして利益を上げてきた。
    ・それはまるで通常の株式会社そのものでした。我々病院経営者は利益を上げるという目標達成のみに全力を注がねばならず、患者のいのちやケア・サービスの質は二の次でした。

    ■教育費の高騰、民営化される学資ローン
    ・軍への入隊に、学費免除と、医療保険がついている。入隊すれば、本人も家族も兵士用の病院で治療が受けられるという条件は非常に魅力的になる。
    ・低所得者用の教育補助として返済不要の奨学金も一部あるが、ほとんどは政府が年率8.5%という利子を金融機関に補助する学資ローンが主流だ。一方、民間のものは、在学中も利子が加算され、中でも親名義で借りる場合は、年率の上限が9%と高率になるのが特徴だ。

    ■ワーキングプア
    ・戦争で、兵士ではなく、「派遣」というビジネス、失業者を集めて、紛争地へ医療保険もなしで送り込む。軍ではなく、派遣会社の社員として。

    目次

    プロローグ
    第1章 貧窮が生み出す肥満国民
    第2章 民営化による国内難民と自由化による経済難民
    第3章 一度の病気で貧困層に転落する人々
    第4章 出口をふさがれる若者たち
    第5章 世界中のワーキングプアが支える「民営化された戦争」
    エピローグ
    初出一覧
    あとがき

    ISBN:9784004311126
    出版社:岩波書店
    判型:新書
    ページ数:240ページ
    発行年月日:2008年01月
    発売日:2008年01月22日第1刷
    発売日:2013年10月07日第39刷

  • 2007年のサブプライムローン問題が顕在化した時点で執筆されている。ブッシュ大統領の下での大企業優遇政策の裏で、貧富の格差が拡大・固定化し、貧困層が追い詰められていく様子を膨大なインタビューをもとにレポートしている。
    アメリカでは弱者を支援するための予算がどんどんげずられている。医療や災害対策など民営化すべきでないところが民営化され、ますます弱者は追い詰められている。
    学校給食では貧困層向けの無料給食制度があるが、予算が削られ、単価の安いジャンクフードが並んでいる。ピザハットなどの大手企業が学校給食市場をターゲットに進出している。フードスタンプを提供される貧困家庭でもジャンクフードばかり食べており、貧困層において肥満が進んでいる。
    FEMA(連邦緊急事態管理庁)はブッシュ政権下で予算を削られ、業務は外部委託により半ば民営化された。その結果、2005年のハリケーン・カトリーナでは、未曽有の被害が発生し、救済も滞った。学校も運営が民営化され、教師の数が激減している。
    医療分野では、医師と患者の間に保険会社が立ちはだかり、医療制度を支配している。高い保険料を払えない市民は無保険となり、必要な治療を受けずに我慢し、病院に行けば高額の治療費を請求され、破産してしまう。保険に入っていても保険会社はなるべく治療費を抑えるために利用できるサービスは限られ、結局保険で払ってもらえないことも多い。病院は保険の請求手続きに膨大な作業を強いられ、スタッフの3割から4割は保険請求のための作業に時間を取られる。保険会社の論理の前に、病院はコスト削減を余儀なくされ、患者は必要な医療サービスが受けられずにいる。
    大学の授業料を払えない若者は多く、彼らは学資ローンや奨学金により授業料を賄っている。そこで米軍は、大学の学費を負担するといって高校生を軍隊に勧誘する。実際に戦闘に参加することはほとんどないという。貧困層の若者にとって魅力的な提案だ。しかし、軍隊に入るとやがて彼らはイラクの最前線に送られる。
    アメリカの戦争は今や民間企業が支えている。ハリバートン社やブラックウォーターUSA社が、民間人を傭兵やトラック運転手などとして戦場に送り込んでいる。彼らは民間企業からの派遣者であり、戦死者にはカウントされない。医療破産した男性をトラック運転手として雇い、イラクの最前線で食料や物資運搬に使う。
    大企業が利益を上げている一方で、貧困層の人々は様々な制度で追い詰められ、最後は戦争に使われるなど、命の危険にさらされている。

  • すごい本だった。著者の筆力やリサーチ力に圧倒された。
    アメリカの格差社会、その底辺に属する貧困層の現実をこれでもか、と知らされる。正直なところ、ここまで悲惨だとは思わなかったので、とても驚いた。
    特にショックだったのは、移民の子などは大学に入る経済力がなく、軍隊に入るしか道がないそうだが、それを知り尽くしたエージェンシーが言葉巧みに軍隊に勧誘し、戦場の最前線に送られるという。
    著者は、キャピタリズム万歳という信念のもと、国が責任を負うべき分野までもが民営化され、教育や医療や国家セキュリティがビジネス化されてしまったのが問題と指摘する。また、一度貧困に落ちてしまうと、そこから這い上がれる道は限りなく少ない。
    アメリカのやり方をまねてきた日本でも、貧富の差が広がったと報じられている。同様のことが起こりつつあるのだろう。いろいろ考えさせられる。
    文章の構成が素晴らしい。是非お勧めしたい一冊である。

  • 自由主義経済やグローバリズムが、儲けの材料としているものは貧困層や底辺の人々なのだ。
    貧しい人達が避けられない、断りきれない状況に追いやって更に搾取していく。なんとも上手い方法ではあるが、国全体の幸福には決して寄与せず、富めるものはますます富み貧しいものはますます貧しくなるだろう。
    食事、医療、軍隊などいろいろな分野でグローバル企業の搾取の仕掛けは準備されている。
    このルポに報告されている米国の様子を日本が順調に後を追いかけているさまが空恐ろしい自体であることにも気が付かないといけないのだ。

  • アメリカがいまなぜデフォルトの崖っぷちにいるのか。
    なぜ共和党が頑に医療保険改正にNOと言うのか。
    この本を読めばわかる。
    アメリカの轍を踏んできた日本としては、知っておくべきことが満載である。
    私が歴史教師なら絶対に生徒にこの本を読ませる。
    父兄や上司からクレームが来るかもしれないけど。

  • アメリカの新自由主義の弊害が書かれている。多くの公共システムの民営化と、その犠牲となる貧困層の話。アメリカの医療費と医療保険料がめちゃくちゃ高いのが、怖かった。

  • アメリカの貧困事情を紹介する本のようにみえるが、
    本書の要旨は「資本主義社会の行き過ぎた民営化」ではないか。

    アメリカンドリームという言葉に弱いアメリカ人は自由や競争=
    誰にでも与えられる機会の平等と思い込むふしがある。
    決して手をつけてはいけない医療や暮らし、教育が市場に引きずり込まれた現在、
    政府やメディア、大企業に搾取されていると知らずに安易に民営化を支持することは、
    更なる格差の拡大を引き起こすと著者は説く。

    本書では詐欺のような医療保険制度、軍隊入隊勧誘、給食制度を例に行き過ぎた民営化が紹介されている。

    そして本書の最後では、相対性貧困率ランキングでアメリカに次いで
    二位の日本はアメリカの後を追っていると警鐘を鳴らす。
    過剰な市場原理主義の流れに呑みこまれないようにするためには「何が起きているか知ること」が大切だ。

  • 衝撃の一冊。アメリカの貧困、いや、非道さ、資本主義の恐ろしさ、その実体は想像を絶する。
     章を追うごとにアメリカの絶望度の深刻さを知ることになる。
     「アメリカンドリーム」とはよく言ったものだ。「ドリームジャンボ宝くじ」みたいなものだろうか。夢に惑わされ、大多数の人々は搾取されるわけだ。

    ブッシュ政権下で増大した軍事費のしわよせは、社会保障費の大幅削減。
    予算削減により大学費用や医療費が高騰し、破産し、家を差し押さえられる人々が続出。給料の良い軍隊や派遣社員となり戦場に派遣されてゆく。帰還しても精神状態が悪化し、就職できず、治療費などで入隊前よりも貧困に。ホームレス化。帰還兵の自殺率は戦場での死亡率を超えている。

    あまりにも残酷な現状の生々しい描写に、どっと疲れるが、ぜひ多くの人に読んで欲しい一冊です。続編およびコミック版も出版されています。

  • グローバル資本主義や新自由主義の結果中流層の人が下層化し…という今では様々な本に書いてあることの実例をこれでもかと示してくれてる本。それにしてもほんとかいなと思わされる事例多数。"国家が国民に責任を持つべきエリアを民営化させてはならない”

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著者プロフィール

堤 未果(つつみ・みか)/国際ジャーナリスト。ニューヨーク州立大学国際関係論学科卒業。ニューヨーク市立大学院国際関係論学科修士号。国連、米国野村證券を経て現職。米国の政治、経済、医療、福祉、教育、エネルギー、農政など、徹底した現場取材と公文書分析による調査報道を続ける。

「2021年 『格差の自動化』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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