地域の力: 食・農・まちづくり (岩波新書 新赤版 1115)

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  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004311157

作品紹介・あらすじ

格差と疲弊が広がるなかで、市民と自治体行政がともに知恵を出し合い、魅力を発信している地域がある。好循環はいかにして創り出されたのか。地域資源の活用、有機農業、林業、商店街の活性化、学校給食・食育、都市農業、公共交通…暮らしと仕事を見直し、本当の豊かさをめざす人びとの声に、未来を切り拓くヒントを探る。

感想・レビュー・書評

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  • (1)4つの共通点をもつ地域を取り上げ、地域を大切にし、元気にしたり、より住みやすいまちづくりをしてきた地域がどのようなことをしてきたか書いてある本です。
     有機農業の原点となった地域を取り上げ、大規模化・単作化・化学化という間違った方向に日本の農業が進んでいた年、自ら飼料を生産するなかで問題点に気付き、日本有機農業研究の発足に先立った地域。商店街に元気がないような状況を座視せず、既存の商店街活性化の枠を一歩越えたコミュニティ・ビジネスの試みと意義を取り上げられた地域。学校給食に地場産物を使用する割合を「平成22年度までに30%以上とすることを目指す」とされた、2006年3月に定められた食育推進基本計画。そのなかで、地産地消の推進に加え、有機農産物を学校給食に積極的に導入し注目を集めた自治体。農業を地域の基幹産業にして雇用の場を広げたいという思いから放牧養豚を手掛け、学校設立を目標に地域おこしにつなげようとする地域。
     農業以上の斜陽産業とされてきた林業。森林・林業基本法が施行され環境を守るため木を伐るなという声も聞こえ始め、はたして環境に配慮した林業をベースにした地域の持続的発展の共存はありえるのだろうかという疑問。バリアフリーを徹底した高齢者でも利用しやすい公共交通機関、路面電車を活用している地域が取り上げられています。

    (2)私がこの本を読んで重要だと感じた点は著者が述べている、「大切なのは生き方と仕事への倫理観と適切なビジネス感覚をもち、当該の地域出身であってもなくても、いま暮らすところをふるさととして愛する気持ちと行動だろう」という部分です。
     この部分を読み、自分の住んでいる地域を改善していくには、自分自身が何か行動を起こしていかなければ何も解決していかないのだなと考えさせられました。
     その地域でできることを考え、住んでいる人たち皆が協力することで、そこから様々なことがわかったり、これをしていかなければならないんだという理解が出来ると思いました。

    (3)自分の住んでいる地域の問題点を解決するためには、まず地域住民との交流が大事だと思います。
     最近は、地域住民との交流が薄れてきていると感じます。自分の住む街の問題点があったとしても、話し合わなければ何も解決しないと思うし、一人では何もできません。
     話し合うことで身近な問題点が見つかるということもあると思います。住みやすいまちづくりをするため、まず人との関わりを重視していかなければなーと、思いました。(North 20150106)

  • 地域資源を活用した先進的な取組みを幅広く紹介した本です。すごい人たちがたくさん出てきますが、インタビューを通じて、なぜその取組みをするに至ったか、課題はどのようなものであったか、など掘り下げていて、なかなか面白かったです。
    葉っぱですら地域資源となりうることが驚き。目の前にある当たり前のモノを当たり前と思わずに、発想を変え、地域資源になりうる方法はないかを模索する姿勢が大事なのだと痛感した。

  • ふむ

  • 601-O
    閲覧新書

  • 2008年

  • 活動の可否はそれが周辺を巻き込めるか否かが大切である
    それを無視した物に未来はない
    社会起業家と似ているかもしれないな

  • 生きた地域の力には、なにか真似たり学べたりするものがあるようにも思えるし、ぼくらのよく知らない分野でも、そうやって地に足つけてチャレンジし、成功している人が多くいることに励まされる思いもします。それと、本書を読んでいて考えたのですが、福祉サービスにしてもNPOなどの活動にしても、きっとぼくの街だけではなく多くの市町村で周知が足りないと思うし、役所はその周知をまとめてわかりやすくしてやるだけでも街が活性化すると思うのです。「わかるやつだけわかればいい」そして「やりたいやつだけやっていればいい」というノリが、とくに地方の過疎地では一番よくないんじゃないだろうか。

  • 展示期間終了後の配架場所は、1階文庫本コーナー 請求記号 601.1//O18

  • ・今後各地域にうまれるべき→「非地縁・半地縁・地域共同体」が確実に生まれつつあると実感した(pp.25)

    ・一枚も添え物が売れなかった日々。16年間無給料。
    若い頃の屈辱的な体験が彼を駆り立てた(pp.54)

    ・役人っぽくない役人が地域を変えていく原動力=スーパー公務員

    ・「地域に根づいて地場の産業を担うリーダーが、都市側からの第一次産業をベースにした環境創造型の提案に共鳴し、将来的な経済的利益も見越しつつ協働していくとき、地域全体が新たな胎動を起こしていくのである。自然資源は適切に活用されてこそ保全される」(pp.142)

  •  活気が無くなりつつある地方を元気づける為に、奮闘している方々に焦点を当てた本。
     取り上げた地域は1.地域資源を活かして生業を発展させ雇用を生んでいる、2.地域に根づいた、前例にとらわれない発想・センスを持ったリーダーがいる、3.IターンとUターンが多い、4.メインの仕事で現金収入を得ながらも自給的部門を大切にしているという、4つの共通点がある。

     島根県の木次(きすき)乳業は、日本で初めてパスチャライズ牛乳(低音殺菌牛乳)を開発・販売した会社で、半農半加工を営み、生産物の一部を市場で販売する形態をとっている。
     化学肥料に頼らず、昔ながらの稲わらを中心としたエサを与え、安心して口にできる食べ物を製造し、その一方で何かと批判されがちな農協と組んで日本の農業を立てなおそうとしている。「人生、表玄関と客間ばかりではない。そこばかり見て真っ直ぐすぎる人が多い」という対応はなかなか出来ることではないだろう。学校給食に使われる野菜も「地産地消」を行っている。
     従来の「地元の人間が地元で働く」だけではなく、「先達の生き方と仕事の姿勢に共感した人間が後を継ぐ」という、新しい流れが魅力的な人間のもとで生まれている。

     寂れた商店街に再び人を招こうと努力する動きが各地でおきている。
     兵庫県にある、よりあいクラブ旭では、商店街の空き店舗を利用して野菜の販売と食堂の経営、さらには配達を行っている。「生活程度と食べ物の質は比例しており、食べられない人もいるのに、福祉施設等は予算に縛られ動けない」と語り、美味しい食事をとってもらおうとする姿勢が受け入れられ、好評を得ている。
     ジャスコの前身である岡田屋発祥の地である三重県四日市市では、参加者から会費と売上から多少の運営費を頂いた上で、日替わりレストラン「コラボ屋」を運営している。プロだけでなく、一般の方も参加できるようにして、コミュニティの回復だけでなく商店街の活性化も図れる。本書では「成り立つには至っていない」と言われてしまっているが、2013年の今も存続している事をみると、それなりにやっていけているのではと思える。
     昔から商店街に店を構える方の中には、変化を嫌っている者もおり、結果として「何かできたはずなのにやらずにいる」事が続いていることがある。利益の確保は勿論大切だが、人と街を愛する熱意と人材・制度を整えることが、地域を救う事になる、と述べている。

     徳島県にある株式会社いろどりでは、なんと紅葉の葉や南天の実を老舗の店に卸すというビジネスモデルを打ち立て、地元のお婆さん達の手を借りて繁盛しているという。
     当初は「葉っぱを売ってお金が稼げるなんて私達を馬鹿にしている」といった批判をされたそうだが、働く人への親身な対応と取引先探しに奔走した結果、大きな利益を得られるようになった。
     が、それ以上に大切なのは、頭と手をフルに使う作業を行うこともあり、介護を必要としない、心身ともに健康な高齢者で溢れるようになっていたことだろう。それに伴い閉鎖的だった雰囲気も開放的へ変わっていき、「産業型福祉」という新しい領域と、よそ者が生活を共にする生活圏が生まれている。
     
     愛媛県今治市では、農業の指導及び助成金、地元の作物を一定以上使うよう取り決めるだけでなく、子供たちの口に入る食物は「地産地消」で賄うことを実行するなど、非常に熱心に活動している。 このことで作物を作ってくださる方への感謝の気持ちと、世界の食糧問題をも考えられるようになった。「地産地消は地域資源を取り戻し、地域が本当に自立するための運動だ」と語っている。栄養士の不足や、国が家庭の職に介入することへの懸念もあるようだが、大人になってからの意識の違いのデータ(食育を受けたグループは他のグループに比べ産地・生産者を重視する)を見る限り、良好な傾向にあるのではないか。

     従来不可能とされてきた国産の、それも環境にやさしい濃厚飼料の生産に成功している興農ファームという牧場が北海道にある。
     牧場の発展だけでなく、地元の雇用に貢献するだけでなく、ゆくゆくは「有機畜産を実現するための獣医学校」の設立もしたいと、野心溢れる牧場主の取り組みにより実現した。
     かつては近代農業に固執する人々との確執があったそうだが、現在では「クリーン農業を指導しない普及指導員は存在価値が無い」と言わしめるほどに風通しが良くなった。利益ではなく、利用者側にたった農業を営むことで業態が健全化している。
     
     農業以上の斜陽産業とされている林業を相手に奮闘している人たちもいる。
     高知県の梼原では、森林認証を受けた森林のブランド力を生かした木材を販売・育成にあたっている。その際には、腐った木材を切らずにそのままにする(虫が発生して動物や鳥のエサになる)、1ヘクタール辺りの木の本数を制限する、針葉樹林から広葉樹林へのゆるやかな変動を心がけ、かつ「顔の見える営業」を行ったことで、環境に配慮した木材を選ぶ方々に受け入れられている。森林を基調にした街づくりを行うことで、リピーターも増えてきている。
     杉1立方メートルあたりに割ける人員数の少なさ(2002年は0.4人)、オリジナリティ・利益優先の企業側との折衝という問題も残されているが、双方にメリットのある「規格」を設けて、解決しようとしている。

     富山県には富山ライトレールと呼ばれる路面電車が走っているという。この時代にどうしてそんな物がと思ったが、富山県は乗用車保有台数二位の県であり、車の運転が出来ない人には住みにくい県となっており、公共交通を軸とした街づくりと中心市街地の活性化が目的なのだという。
     日中に15ふんおきに電車が来る、バリアフリー化の徹底、乗り降りの短縮をはかるためのICカードの導入といった利用者を考えた制度を整えたことで、一日あたりの利用者数が予想を上回るなど、好評を得ている。
     家賃や固定資産税の高い街の中心部に住んでもらえるよう、企業と市民向けに補助金を出す、高齢者の運転による事故を減らすための運転免許の自主返納支援事業(引換えに公共交通機関の乗車券を提供)を行っている。
     路面電車の導入は誰でも利用できて、環境への影響が少なく(乗用車の1/5)、建設コストが安い(国内に限ると、地下鉄よりも100億円以上安く済む)というメリットがあるが、大切なのは、市民の声をきちんと反映した仕組みを整えていくことだろう(「首長は交代しても、市民は交代しない」)。

     現役・退職したサラリーマン達の憩いの場として農業が見直されつつある。
     都内の「大泉 風のがっこう」では、園主から指導を受けながら農作物を育てるという仕組みが整っている。園主は小学校の児童らとの触れ合いを通して、「地域との繋がりを大切にした農業」を見出し、利用者に喜んでもらう一方できちんとビジネスとしても成り立つやり方をつくった。利用者間にも心の繋がりが生まれ、活き活きとした生活を出来るようになったという。
     横浜市でも、バブル景気に浮かれていた80年代から同様の事が行われており、230ヘクタールという広大な場所に市民農園を作り、地元の園主の指導を受けながら稲の耕作や野菜を育てている。
     とはいえ、まだ「直売所がどこにあるか分からない」という声も聞かれ、ネットワークづくりや地産地消のPRを今後も続けていくという。
     農業に関心のある人を指導し、果樹園農家などに出向かせているが、やはりこちらでも心身ともに元気になったという人が多い。

     「人が豊かになる地域とは、人と人との関係性と自然が豊かで、生業が根づいているところ」というのは筆者の弁だ。今後もこのような場所が増えていければ良いと思った。
     

    自分用キーワード
    職能同源 有機農業 小さな政府 輸入濃厚飼料 土光臨調 出雲たかはし 食の杜(木次乳業と深い関わり) ポストハーベストフリー ドミナント戦略 インキュベーション(起業支援) 農業改良助長法 普及指導員 食育推進基本計画 担い手経営安定新法 フードマイル バーチャルウォーター 内蔵廃棄率 北のクリーン農産物表示制度 遺伝子組み換え作物 森林管理協議会 世界自然保護基金 ロギール・アウテンボーガルド 森林セラピー基地 LRT(Light Rail Transit) RACDA高岡 マスコミ・消費者対農業者(大前研一や竹村健一氏が「都市農地があるから住宅価格が高いという理論を展開」) 

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著者プロフィール

ジャーナリスト、全国有機農業推進協議会理事。

1957年生まれ。経済成長優先社会を問い、暮らしを見直すメッセージと新たな価値観・思想をわかりやすく伝えることをモットーとする。主著に『農業という仕事――食と環境を守る』(岩波ジュニア新書、2001年)、『地域の力――食・農・まちづくり』(岩波新書、2008年)、『地域に希望あり――まち・人・仕事を創る』(岩波新書、2015年、農業ジャーナリスト賞受賞)。

「2020年 『有機農業のチカラ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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