いま哲学とはなにか (岩波新書)

  • 岩波書店 (2008年6月20日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (224ページ) / ISBN・EAN: 9784004311379

感想・レビュー・書評

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  • プラトンの国家論は、理性・勇気・欲望という魂の三層構造を、三つの種族に振り分け、理性を統括する哲人王に人びとは服従しなければならないと説きました。アリストテレスも、公共的理性を身につけた自律的な市民によるデモクラシーの構想を語り、幸福を追求するという倫理学の問題設定のなかで他者との交わりについての考察をおこないました。しかし著者は、理性にもとづいて正義を規定する古代ギリシア哲学においては、真の意味で「個体性」が問題になることはなかったといいます。

    デカルトのコギトやカントの超越論的統覚についての考察は、ハイデガーにおいて「存在の明るみ」としてとらえなおされ、主体性が無へと反転します。古代ギリシア以来、理性の哲学として展開されてきた思惟のありかたに対する反省がおこなわれ、現代の哲学者たちはようやく他者という謎に直面することになります。偶然的な存在である自己が、苦しみのうちにある他者に寄り添うとき、人間存在の偶然性にもとづく深淵が乗り越えられ、自己と他者との連帯が成立します。レヴィナスは、ハイデガーの存在論において問われることのなかったこのような問題を追求し、他者をめぐる深い思索を展開しました。

    他方ロールズは、多数の人びとの合意にもとづく正義と公正の理論を構築することに勢力を注ぎました。彼は、みずからが掲げる現代性議論の二つの原則を理論的に根拠づけるという課題には立ち入りません。キリスト教徒であれば、神の似像として創造されたということに人間の自由と平等の根拠を求めるでしょう。無神論者は、人間存在の偶然性という実存にその根拠を見いだそうとするかもしれません。しかしロールズのねらいは、こうした人生観や世界観に依拠する「包括的理論」の共存を可能にする共通の土台として、上述の普遍的な原則を提示することでした。著者はこうしたロールズの議論を、古代ギリシア哲学、とりわけアリストテレスのデモクラシーにかんする思索が現代的な装いで登場していることを見てとります。

    二千年以上にわたる西洋哲学の歴史的背景のもとで、現代の倫理学が取り組んでいる問題の意義を示すという、スケールの大きな議論が展開されています。

  •  本書は著者の仕事の集大成と言える本であり、著者が具体的に数々の哲学書を読み解いて見出したものを惜しげもなく提示する渾身の書である。哲学入門の体裁を取りながらも、著者の長年の研究を経て見出された読解のエッセンスが書き記されている贅沢な本なのである。哲学の根本問題をいま私たちが如何に受け留めることができるかを問う本書は、時を経ても変わることのない哲学の姿を如実に伝えてくれる一冊である。刊行年からもわかるように東日本大震災の前に書かれた本でありながら、本書において問いかけられている生きることへの問いは全く古びていない。
     第一章の「人はいかに生きるべきか」はアリストテレスの『ニコマコス倫理学』における幸福論と友愛論を取り上げている。第二章の「人はいかなる共同体をつくるべきか」はプラトンの『国家』とアリストテレスの『政治学』を読み解いている。第三章の「究極根拠への問い」はハイデガーの『存在と時間』と後期思想を導きとして存在への問いを取り上げる。第四章の「他者という謎」においてはレヴィナスの生涯にわたる思考からその他者論を明らかにするものである。そして最終章の「差別と戦争と復讐のかなたへ」はロールズを起点に現代における正義論の可能性を検討するものである。
     著者の研究書はそれぞれにその分野で第一級の位置を占めるものであり、それらの研究書によって読み解かれた著作群のエッセンスが提示されているものが本書と言える。中でも印象的なのはギリシア語のアレテーについての説明をすることなくギリシア的な徳と幸福観をこれ以上にないであろう仕方で提示していることである。本書を読み解くことを通して自然と読者は『ニコマコス倫理学』の大事な部分の理解が与えられてしまうのである。そしてハイデガー論においてはハイデガーと同じ地平に立ち、その問題を引き受けながらヘルダーリンを読み解く箇所は強烈な印象を残す。そして何より本書を特徴づけるのは第四章のレヴィナス論である。それまでに書かれたレヴィナス論の集大成と言えるレヴィナス読解が本書において提示されているのである。本書を通して読者は、古代哲学から現代哲学の本質部分について足を踏み入れることになる。しかしその記述は哲学についての理解を前提とすることなく平易な叙述で貫かれており、哲学入門でありかつ、哲学に既に馴染みにある読者にとっても省察に富んだ内容を蔵しているのである。
     本書は著者の著作群の中でもっとも開かれたもっとも平易な本でありかつそれまでの研究に基づいた著者の省察を凝縮させた稀有な一冊と言える。カントやデカルトについては少し唐突に感じられる箇所もなくはないものの、絶えず問いかけながら進んでいく本書の叙述は著者が読み解いてきた古典的著作のエッセンスを提示するものであり、類まれな哲学入門であり、原典を通した哲学史入門と言えよう。哲学に興味を持つ人、哲学をすでに学んでいる人、生きることの意味を問いかけたことのある人に強く薦めたい一冊である。

  • p.6
    ロゴスとは、書斎に篭もって一人思索に耽すことではなく、該当に出て自分と異なる意見をもつ他者と対話することである。
    p.22
    「人はいかに生きるべきか」という問題は、他者といかに関わるべきか、という問題へと発展してゆく。
    p.124
    他者の苦しみに巻き込まれるということ、すなわち、「共に苦しむ」ということ、それは文字通りに「共苦」であるが、それが「共感」であり「愛」である。

  • 岩田先生は本書でソクラテスの問い「人はいかに生きるべきか」の現代的形態に応答を試みる.

    結論は,他者に対して限りない畏敬の念を持ちどのような時でもどのような他者にも善意を送り続ける生き方を目指し努力することを勧める.cf.p.202.

    岩田先生がご存命なら,今,何を仰るだろうか.対話したい.

  • 10/13 読了
    専門的な部分は理解できなかった部分も多いと思うが、今までもやもやとしていた頭の中が少しまとまったような気がする。哲学の基礎知識も学ぶことができ、勉強になった。
    人がどう生きていくべきか、などいつまでも答えは出せないけれども、1つの考え方に触れることができ、自分なりに考えるきっかけになった。

  • ●哲学って難しい、そう思う一冊。けれど、哲学を通して先人たちが何を追求したかったのかを追体験できた……気がする。

  • 「人はいかに生きるべきか」。ソクラテスの発したこの問いに、私たちはどのように向き合うべきか。人は他者との関わり合いの中で生きている。この本を読めば、現代社会の中で戦争がなくならない現状や自分の存在意義について、哲学的な視点から考えるきっかけとなるだろう。
    (電気電子系エネルギーコース M1)

  • 「人はいかに生きるべきか」というところですが、なかなか現実で使う平易な言葉とのリンクが無いので、やっぱりこういう哲学本は難しい。

  • プラトンやアリストテレスの哲学の解説。
    現代の関心と結びつけようとしながらなされる。

  • 著者は哲学的に考えて、国際協調のためにはロールズの正議論が適していると述べます。
    でも、その正議論(アリストテレスの正議論も)なんですが、そもそも『下手の横好き』に表されるように、個人にはそれぞれ『得意だけれども嫌い』、あるいは『苦手だけども好き』があって、能力と感情が一致しないことに対する不快感はどう考えれば良いのか、この視点が欠けていると思います。反対に、自分の持つ有能な能力を放棄する権利は剥奪されていますし(貴族に生まれたくなかった、政治家の一族に生まれたくなかった、餅屋は一生餅屋、等)、その我が儘を全体論から叱責するのは簡単ですが、じゃあ個人の尊厳はどうなるの?という事になります。
    仮に、階層の固定化を是認したとして、そこから更なる発展はあるのでしょうか?閃きや直感は意外と畑違いのところから出てくるものが多く、様々な知識の大成なので、多様性や階層の流動性(交流性)は確保すべきだと思います。この点がロールズやアリストテレスの限界かなぁ~と感じます。いや、ロールズの正議論は魅力的なんですが(笑)

    相手の不正に報復をしてはならない。これは程度にもよるでしょう。取り返しのつかない不正(殺人等)が罷り通るようになれば、何らかの対策は必要でしょうし、まぁ普通に考えて、自分にとって大切な人が殺されたら、そりゃ黙っていられないでしょう。
    哲学的考察で、カントは武器の放棄が望ましいと言っていますが、確か社会心理学的にも的を射ていたと思います。相手が武器を持つから、こちらも武器を持たざるを得ない。結果、お互いが不幸になる、と。
    あと、TAT(しっぺ返し)戦略というのがあって、相手の行動が不確実な状態では、相手と同じ行動を選択することで長期的に互恵関係に繋がるという面白い報告があるので、そちらを世界平和の構築に考えてみるのも悪くないと思います(それには更なる研究が必要ですが)。

    前半はちょっと退屈でしたが、終盤で面白くなってきました。僕の評価はAにします。

  • [ 内容 ]
    「人はいかに生きるべきか」。
    ソクラテスの発した問いは、その後の哲学において、どのように引き継がれ、深化してきたのか。
    そして、なおも戦争や復讐が続く現代において、私たちは、この問いにどう向き合うべきか。
    存在の根源、他者との交わり、平和への道など、生きる上で普遍的な課題を、哲学的な思考から追究する。
    哲学と現代との対話。

    [ 目次 ]
    序章 哲学のはじめ-ソクラテスの問い
    第1章 人はいかに生きるべきか
    第2章 人はいかなる共同体をつくるべきか
    第3章 究極根拠への問い
    第4章 他者という謎
    終章 差別と戦争と復讐のかなたへ

    [ POP ]


    [ おすすめ度 ]

    ☆☆☆☆☆☆☆ おすすめ度
    ☆☆☆☆☆☆☆ 文章
    ☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー
    ☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性
    ☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性
    ☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度
    共感度(空振り三振・一部・参った!)
    読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ)

    [ 関連図書 ]


    [ 参考となる書評 ]

  • 「人はいかに生きるべきか」
    この問いは、私たちの最大級の関心事ではないだろうか。
    本書は「人はいかに生きるべきか」という問題を中心に置きながら、存在・幸福・他者・国家・差別・戦争といった事柄について、哲学者達が残した言葉のエッセンスを示し、これらの問いに対する考察を深めてゆく。

  • 「我考う、ゆえに我あり」という言葉がとてもマッチする著書。人は幸福になるために生きる、という根本原理のことが書かれている。興味のある人は、お勧めです。

  • 本格的な哲学の内容を落とすことなく、しかし比較的わかりやすく書かれていたと思う。

  • 哲学本を手に取っては挫折する事が多いのだけれど、これは比較的スラスラ読めた。でもやっぱりデカルトで躓いた。

  • レディナス以外の部分が分かりやすいことが、この人の哲学者としての力量を表している。
    まあ、入門書としてはちょいっと難しいか。

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