戦争絶滅へ、人間復活へ 九三歳・ジャーナリストの発言 (岩波新書)
- 岩波書店 (2008年7月18日発売)


- 本 ・本 (224ページ)
- / ISBN・EAN: 9784004311409
感想・レビュー・書評
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「むのたけじ」とは何者か。戦時中は報知新聞や朝日新聞記者として多くの政治家や、従軍記者として戦地の状況からを見てきた人物である。本名は読みは同じながらも武野 武治という。戦後、戦争責任の一端を担った新聞社を辞め、自ら「たいまつ」という自費出版の新聞を発行する。その後の日本の経済成長やバブル崩壊などのうねり、日本社会の変遷をその目で見て、考え、表現してきた人物だ。本書発行時点で既に視力も衰えた90歳を超え、話した内容を対談形式で記述させる共著の形をとっている。本人は101歳で埼玉県さいたま市にてその生涯を終えている。93歳のジャーナリストが何を語るのか、で始まる本書は、戦中戦後の日本を見てきたむのたけじが感じた、平和の大切さで幕を開ける。たいまつ刊行に当たり何を人々に伝えようとしたか、ジャーナリズムの本質が何処にあるのか。たどり着いた1つの答えが社会主義である。ただ社会主義そのものを賛美するのではなく、若い時分にどの様に接しどう考えたか、本人の語りから知ることができる。また、憲法9条に関する考え方も語られる。9条成立までの過程と、それをどの様に解釈する事で平和を実現できるのか。むのたけじは一貫して自分がそこから何を読み取りどう行動すべきかについて語りを続ける。そこには他者から強いられたり強制的に捻じ曲げられた、戦時中に経験した権力の力に抵抗するかの様に、「自分」で考え抜いて出来上がった思考のみで構成されるものがある。ユートピアという言葉に求めた理想の社会、失わない希望に満ち溢れている言葉達が次から次へと出てくる。
人が核兵器を作りだし、それを保有しながら、他人(他国)が持つ事を禁じようとする矛盾。その様な大国理論に支配されたアメリカとの付き合い方も見直しの時期が来ていると言う。日本がどうあるべきかは日本人が考える事であり、他国に強要されるものではない。だがしかし日本人自身がそもそも考えているか、考えない国民で構成される日本という国家が向かう将来への不安。そして老人と若者の間に広がりつつある思考の格差への憂い。その様な中でも教職に就くむのたけじの娘が、若者の行動の中に見た希望のかけらの話は印象的だ。読んでいる読者にも微かな希望を持たせてくれる。
93歳になるむのたけじはもう亡くなってしまったが、こうした考え方は本になり次の世代へ確実に引き継がれていく。本書に触れた若い読者達がたけじと同じ様に自分の頭で考え行動する日が続く限り、人類絶滅の日を迎えず済むだろう。若者への押し付けだけでなく、老若男女問わず皆が明日を未来を考える社会を自身の力で作っていかなければならない。あの世から力強くたけじが叫んでいる。「考えようよ」という言葉が最後まで頭に残る一冊。 -
2017/08/08
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レビュー省略
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勧められて。
戦争とは実際どんなものなのか。戦場では人間はどうなってしまうのか。そして政治、権力とはどんなものなのか。
むのさんのインタビューをもとにして文章が作られているので読みやすかった。
「平和に暮らすということ、平和であるっていうことを、空気やお日様の光のように思われては困りますものね」
という一文が沁みた。
日本が過去に戦争をしたという事実を直視して、これからの日本社会や世界をどうしていくかを考えていかなければいけないと思う。 -
横手市のジャーナリストと言えば「むのたけじ」さん、むのさんは四ヶ月後に百歳になられます。これは彼が93歳の時に書かれた本ですが、彼の思いが強く書かれています。そして今の社会に取り入れるべき事が多々あります。むのさんのように、妥協せずに成長を続けて老人になられた方は、我々に必要な解釈を持っているものですね。でもそれを多くの人は理解しつつも、素直に受け取る事ができない社会体制になってしまっているのも確かです。読み進めると、時々目から鱗が落ちる一冊です。
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戦争のことを語るなら
平和のことを語るなら
人権のことを語るなら
この本を
読んだ人と
しみじみとたっぷり
語り合いたいものです -
生徒に勧められ、世界が広がった本。
こういう考え方に触れて、戦争とは、平和とは、自分とはについて考えるきっかけになるんだろうな。
むのさんの本は、ご本人も言ってるように叩き読みが必要だ。 -
歴史認識や思想ベースの差の問題は当然あるとしても、むのたけじの言葉は、そうそう見逃せないものであるはずだ。
まず「戦争は良くない」という。戦争はみんながみんなおかしくなるからだ。人間が精神的に極限まで追いつめられることで、普段だったら常識的にありえないことまでしでかしてしまう。
例えば家族が「戦地ではどうだったか」というふうに聞いても、多くの元兵士たちが口をつぐんでしまう。家族に云えないようなことをもしでかしてしまうのが「戦争」である。
かといってデモなんぞ無力で、それだったら事前に「戦争によって生じるうまみをどうやって無くすか」が問題である。戦争によって産まれるうまみを知ってしまった社会主義国家なんぞ偽物である、と。
この辺りをベースとして、色々書いてあります。
読んでいるうちに、なにかとてつもなく大きな怪物が横を通り過ぎていった感触。
怪物の仕事、一言で云えば、そういうことだと思います。 -
貴重な戦争の生の現場の当時の状況が語られたもので、戦後の日本がしっかり考え、反省せずに経済発展を遂げたことに、現在の中身の無い日本の根がある、と。人間としての常識に基づき
、一人ひとりが行動すれば戦争も、核も無くせる、という考えに行き着かれているが、それは宗教信仰が浅い日本人の考えのような気がする。本当にそのような世の中が来るのは100年、1000年かかるのでは無いだろうか。
むのたけじの作品





