民族とネイション―ナショナリズムという難問 (岩波新書)

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レビュー : 35
  • Amazon.co.jp ・本 (223ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004311560

作品紹介・あらすじ

地域紛争の頻発や排外主義の高まりの中で、「民族」「エスニシティ」「ネイション」「ナショナリズム」などの言葉が飛び交っている。だが、これらの意味や相互の関係は必ずしかも明確ではなく、しばしば混乱を招いている。国民国家の登場から冷戦後までの歴史をたどりながら、複雑な問題群を整理し、ナショナリズムにどう向き合うかを考える。

感想・レビュー・書評

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  •  国民国家の出現から冷戦後までの期間を題材に、エスニシティ、民族、ネイション、ナショナリズムといった問題(そもそもこれらの語すら定義が一定していないことを筆者自身指摘している)を一般化して論じる本。筆者は極めて価値相対的であり、ナショナリズムの肯定・否定論、良い・悪いナショナリズムの区別のいずれも批判している。
     巻末で筆者は、紛争の歯止めのために、「(ナショナリスティックな感情が)他者への攻撃の形をとろうとする時には、その悪循環的拡大を防ぐための初期対応が何よりも必要だと思われる」と述べている。これ自体は否定できないとしても、ではその「初期対応」は誰が担うのか。国家間での応酬にせよ、一国内での応酬にせよ、当事国政府が自国民のナショナリズムを助長しないまでも、抑えることが果たしてできるのか。民主主義国なら尚更だ。また、第三国の仲裁と言っても、「感情」に対してできることは限られる(例:日韓関係に対しての米国)。もっとも、筆者を批判するつもりはなく、それだけ甘っちょろいことは言えない問題だということなのだろう。
     また筆者は、ナショナリズムは外からは「人為的に作られたもの」、中からは「自然なもの」と見えると指摘し、最近の日本と中韓の間の歴史論争を例に挙げている。自国が現在進行形で当事者となっていると見えにくい相手からの視点、心に留めておきたい。

  • 「はじめに」で示される本書の目的は「民族」「エスニシティ」「国民国家」「ネイション」「ナショナリズム」などの言葉で指されている「多様な事柄の相互関係を解きほぐし、それらを理論と歴史の両面にわたって考えることを目指す」とされている。

    筆者の用語の説明や論の進め方は丁寧で、わかりやすくまとめられながらも読み応えのある中身となっている。各々の時代に各々の国家でどのように「ネイション」が創り上げられたのか、丹念に語られていく。

    第一章では概念や用語の説明、定義と問題提示がなされる。「民族についてある程度以上立ち入って考えようと思うなら、具体的な歴史的経緯に目を向けることが不可欠」という観点から、第二章以降においては近代国民国家の登場、第一次世界大戦後と第二次世界大戦後の「民族自決」、冷戦後の新しい動向というテーマのもと歴史的な視点から論じられる。ナショナリズムは「歴史的な記憶」を重要な要素とすると言われていることからもわかるように、本書での主要な視点となっている歴史的側面からのアプローチという方法はナショナリズムを理解する上で重要であり、醍醐味でもある。

    アンダーソンやホブズボームらの著作をはじめ、さまざまな先行研究の成果も参照されている。また、通説に流されず一旦立ち止まったり批判的な見方で再検討を加えたりするなど、慎重な論の進め方や多面的な見方もなされている。新書という性格上の制約もあるだろうが、簡潔かつ充実したまとまりぶりではないだろうか。

  • ナショナリズムやネイション、エスニシティや民族といった、定義が曖昧でややこしいけれど近現代を知るには不可欠な用語を分かり易く整理、説明している。
    某人気世界史講師が「19世紀はナショナリズムの世紀である。」と言うように、各国のナショナリズムやネイション形成の経緯を追うことで、19世紀の欧州情勢が浮かび上がってくる。
    1章では、ネイションや民族、ナショナリズム、エスニシティといった用語を一つ一つ筆者なりに定義付けていく。これらの用語間での微妙なニュアンスの違いだけでなく、用語自体が文脈によって変容することを踏まえて丁寧に整理する。
    2章では、仏・独・伊・英といった西洋先進国、露・土・墺の旧帝国、米・ソの例外性、日・中の東アジア(非西洋)、加・豪の多民族国家
    というふうに分類分けし、各国のナショナリズム形成の経緯を辿る。
    3章では、20世紀以降にますます広がる民族自決の流れを具に追う。

    難しい主題を丁寧に分かり易く説明していく、まさに国際関係や近現代史を考える上での入門書と言えると思う。

  • 著者の専門である旧ソ連史研究の分野を活かしつつも、それらを超えてここまで広範にわたって論じたスケールの大きさと、論じられた内容における指摘の鋭さには驚くべきものがある。いかに政治的・思想的・感情的偏りから自己を遠ざけ、いかに多角的で広汎な視点から事実に近づいていくかという姿勢を徹底し、自明とされてきた言説・理論を脱構築しつつ論理展開されている。ある程度の覚悟をもって論じられたであろう4章の末尾についても、大いに賛同。
    民族紛争、ナショナリズム、マイノリティ、比較政治学等の入門に最適。今年度最高の1冊だった。もっと早く読めば良かった。

  • 第Ⅰ章 概念と用語法
    第Ⅱ章 「国民国家」の登場
    第Ⅲ章 民族自決論とその帰結
    第Ⅳ章 冷戦後の世界
    第Ⅴ章 難問としてのナショナリズム

  • 新書文庫

  • 【目次】
    はじめに [i-vi]
    目次   [vii-xii]

    第I章 概念と用語法―― 一つの整理の試み 001
    1 エスニシティ・民族・国民 003
    2 さまざまな「ネイション」観――「民族」と国民」 013
    3 ナショナリズム 020
    4 「民族問題」の捉え方 028

    第II章 「国民国家」の登場 037
    1 ヨーロッパ――原型の誕生 038
    2 帝国の再編と諸民族 051
    3 新大陸――新しいネイションの形 065
    4 東アジア――西洋の衝撃の中で 073

    第III章 民族自決論とその帰結――世界戦争の衝撃の中で 089
    1 ナショナリズムの世界的広がり 090
    2 戦間期の中東欧 097
    3 実験国家ソ連 108
    4 植民地の独立――第二次世界大戦後(1) 118
    5 「自立型」社会主義の模索――第二次世界大戦後(2) 129

    第IV章 冷戦後の世界 143
    1 新たな問題状況―グローバル化・ボーダレス化の中で 144
    2 再度の民族自決 154
    3 歴史問題の再燃 168

    第V章 難問としてのナショナリズム 181
    1 評価の微妙さ 182
    2 シヴィック・ナショナリズム? 189
    3 ナショナリズムを飼いならせるか 198

    あとがき(二〇〇八年九月 塩川伸明) [209-214]
    読書案内 [1-9]

  • 読了。

  • 近代における紛争の原因やナショナリズムについてざっくりと理解できる.ところどころで,筆者特有の表現が理解を妨げてしまうのが残念.

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著者プロフィール

塩川 伸明
塩川伸明:東京大学名誉教授

「2016年 『東大塾 社会人のための現代ロシア講義』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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