琵琶法師―“異界”を語る人びと (岩波新書)

著者 :
  • 岩波書店
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  • レビュー :15
  • Amazon.co.jp ・本 (203ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004311843

作品紹介・あらすじ

モノ語りとは"異界"のざわめきに声を与え、伝えることである-皇族や将軍に仕える奏者として、あるいは民間の宗教芸能者として、聖と俗、貴と賎、あの世とこの世の"あいだ"に立つ盲目の語り手、琵琶法師。古代から近代まで、この列島の社会に存在した彼らの実像を浮彫にする。「最後の琵琶法師」による演唱の稀少な記録映像を付す。

感想・レビュー・書評

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  • <異界と現世を結ぶシャーマン>

    琵琶法師にどこか重苦しいイメージがあるのは、『耳なし芳一』によるところが大きいだろうと著者は述べている。琵琶法師は芳一に代表されるように、多くは盲人であったという。
    盲人は晴眼者と異なり、視覚がないことで聴覚が研ぎ澄まされていく。著者は、盲人芸能者が、見えない存在のざわめきを感じ取ることで、「異界」とコンタクトできる、ある種のシャーマンであったとしている。東北のイタコや近畿のダイサンなどのシャーマンもやはり盲人であったとし、それらと共通するものがあったという。
    芳一の採話を行ったのが、やはり視覚に障害があった(事故により左目を失明)ラフカディオ・ハーンであったことへの言及も興味深い。

    平家物語に限らず、義経や曾我兄弟など、死霊のたたりが恐れられたものも、中世、おもに盲人芸能者によって語られたそうだ。

    琵琶は大きな胴に棹がつく。棹には柱があり、柱と柱の間で弦を押さえ、胴部分を撥でかき鳴らす。
    古来、琵琶法師が用いた琵琶は四弦六柱であったようだ。一方で、雅楽の琵琶は四柱であった。盲僧が徐々に宮中でも演奏するようになり、両方の流れを引いた形で、平家琵琶は五柱である。1つは「サワリ」と呼ばれる、ノイズを創り出す専用の柱である。

    語り手が変わるごとにさまざまな改変がなされていく平家物語の成立についての考察もある。
    その他、陰陽五行(木火土金水(もくかどこんすい))のうち、特に「土」と盲僧の関わりが深いこと、百人一首にも歌が取られている蝉丸は一節によると盲僧の祖だったとも言われるとの話なども興味深く読んだ。

    本書にはDVDが付いている。新書では初の試みとのことである。
    肥後の琵琶法師・山鹿良之による『俊徳丸』の一節が収録されている。これがものすごい。継母の継子いじめというか、継母が継子を取り殺して欲しいと観世音菩薩に丑の刻詣りをする場面なのだが、そもそも仏に人を殺せという発想がむちゃくちゃである。そして呪い釘を毎夜七本ずつ打ち込んでいき、七晩掛けて満願成就を遂げようとする、その鬼気迫る執念。それをある種独特の風体(異形といってよいほどの個性的な外貌)の演者が滔々と語っていく。
    なるほど異界へと一気にさらわれる凄みのある芸である。
    これはある種、暗部へ下っていく作業なのだと思う。芸に聞き入ることで、表には出さなくとも自分の中に眠っている黒い欲求と向き合い、昇華させるカタルシスなのだ。
    異界への入口は外にばかりあるのではない。おそらく誰しもの中にある。黒い想いを暴走させないためにも、ときどきはそうした「空気抜き」も必要だったということだろう。
    『俊徳丸』のストーリーがそのまま現代に受け入れられるとも思えないが、芸の力で闇を見つめる作業自体は現代でもなお役立つものであるだろう。
    あるいはそれを担っているのがいまや伝統和楽器ではなく、別の芸術やサブカルチャーであるということなのか。


    *自分の故郷には、かつて瞽女(ごぜ)と呼ばれる盲人女性芸能者がいた(「瞽」は目が見えないことを意味する)。琵琶ではなく、三味線を持って旅して歩いていた。そんなことをふっと思い出した。

    *『俊徳丸』は、少し形を変え、『摂州合邦辻』として歌舞伎や文楽の演目となっている。継子いじめに加えて、不義の懸想やら、実は隠されていた真実やらが盛り込まれてなかなかにややこしい筋立てだが、原型は『俊徳丸』だろう。このテーマ、昔の人にはツボだったんですかねぇ・・・。というか、やっぱりなさぬ仲の親子が今より多かったってことなんだろうか。

  • 琵琶法師とは何者か。
    目が見えないということの、当時の人々が持つ穢れ意識と〈聖性〉。相反する属性であるのに、その両方を兼ね備えているということに、共感する。

    そういうシャーマニックな存在が語る、この世ならざる声。そして巫具としての「琵琶」が奏でるノイズ。
    鎮魂としての『平家物語』を考えると、当時の人々の切実さを感じる。

    こういう所をクローズアップしてくれる論は、本当にありがたい。

  • 琵琶法師の歴史を軸に、当時の文化、政治、思想が語られています。公家日記など歴史資料を踏まえた上で考察されており、一般向けの本にもかかわらず価値が高い本でした。付録として、琵琶法師の実演CDが付いているのも嬉しい本でした。

  • 斬新で刺激的な本だ。「平家物語」が語り物を端に発して成立した、とか、琵琶法師が語り伝えた、ということは文学史などで必ず知ることなのかもしれないが、それがどのように語られたのか、語られたこと、語ることにはどんな意味があるのかが解き明かされていく。第一級のミステリーだ。ラフカディオ・ハーン「怪談」の「耳なし芳一」の話さえも、現実味を帯びて、目が離せない。

  • 斬新で刺激的な本だ。「平家物語」が語り物を端に発して成立した、とか、琵琶法師が語り伝えた、ということは文学史などで必ず知ることなのかもしれないが、それがどのように語られたのか、語られたこと、語ることにはどんな意味があるのかが解き明かされていく。第一級のミステリーだ。ラフカディオ・ハーン「怪談」の「耳なし芳一」の話さえも、現実味を帯びて、目が離せない。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      CDが行方不明、、、真剣に探さなきゃ(挟まっていると読み難かったので)。。。
      2014/03/18
  • 以下の記事が印象的でした。『小右記』に散楽の記事があるとは、思いませんでした。

    『小右記』には、みぎのほかにも、藤原道長が建立した法成寺で催された修二会で、琵琶法師が「散楽」を奏したことが記されている。

  •  久しぶりに固有名詞がっつりで、読んだ!という気はするんだけれども、淡々としすぎて(新書だからその通りなのだけれど)、イマイチ残らなかった。

  • 読むのにいろいろ予備知識が必要。
    新書向けに書かれた内容ではないのだろう。

  • 圧巻は付録。

  • 何と小さなCD付きの新書。琵琶法師の歴史の本。なぜ、琵琶法師は盲目で無くてはならなかったのか、(あるいはそれが有利なのか)、蝉丸との関係は?など。面白い。

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