ノモンハン戦争: モンゴルと満洲国 (岩波新書 新赤版 1191)
- 岩波書店 (2009年6月19日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (246ページ)
- / ISBN・EAN: 9784004311911
作品紹介・あらすじ
一九三九年のノモンハン戦争は、かいらい国家満洲国とモンゴル人民共和国の国境をめぐる悲惨な戦闘の後、双方それぞれに二万人の犠牲をはらって終結した。誰のため、何のために?第二次大戦後、満洲国は消滅して中国東北部となり、モンゴルはソ連の崩壊とともに独立をまっとうした。現在につながる民族と国家の問題に迫った最新の研究。
感想・レビュー・書評
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田中克彦氏は言語学者である。その言語学者である氏がなぜノモンハンなのか、そう思ってぼくは最初この本を買いかねていた。しかし、だんだん気になって手にとって、氏がもともとモンゴル学者であることを思い出した。本書はモンゴル語とロシア語の資料を読み解く著者しか書けない本である。ノモンハンと言うと、日本の軍備のお粗末さから多くの犠牲を出し、のちのちまで秘密のベールに覆われていたという凄惨なイメージがある。筆者の田中氏は、この戦争の背景に、コミンテルンの配下にあったモンゴル族と満州国にいたモンゴル族の統一を願う人々がいたことに思いをはせる。実際、モンゴル共和国はこの戦いによって独立を果たしたのだけれど、ノモンハンで死んだ人よりもはるかに多くのモンゴル人たちが、満州国とコミンテルンによって粛正されているのである。
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https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/705821 -
日本の傀儡国家・満州国とソ連の傀儡国家・モンゴル人民共和国、二つの国家に分断されたモンゴル民族が、ノモンハン戦争で対峙する。
あらためてソ連の全体主義の恐ろしさに震撼させられる。最終章で著者は、この戦争に大きな責任があるとして、辻政信という軍人を糾弾している。 -
「ノモンハン」という言葉から、とかく戦史として語られることがほとんどの歴史上の出来事について、モンゴルという国または民族の視点からアプローチした本書は、その意味で画期的なものであると言えよう。
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ノモンハン戦争―モンゴルと満洲国 (岩波新書 新赤版 1191)
(和書)2010年08月07日 23:46
田中 克彦 岩波書店 2009年6月
柄谷行人さんの書評をみて読んでみました。
とても良い作品でした。
世界観が変わるぐらい。
人は外見では解らないように、本も外見では解らないということだね。 -
1939年。レトロな装備の日本陸軍が、ロシアモンゴル国境で、航空機、戦車や遠距離砲といった最新鋭の現代装備のソビエト軍に圧倒され蹴散らされた戦い。
ささいな衝突だが、日本軍が現代兵器の戦争に初めて遭遇した地上戦であり、地政学的にも大変デリケートな場所での戦いで、その後の世界第二次大戦の前哨戦として、ヨーロッパの緊張にも少なからぬインパクトを与えた重要な戦い。
独立を求めてソビエト、日本に翻弄されたモンゴルの志士たちの存在も、哀しい。
今夏、朝日新聞が現地の衛星写真や再現映像を駆使した素晴らしいノモンハンのドキュメントシリーズを公開している。https://www.asahi.com/special/nomonhan/ -
軍事衝突を描くのではなく、衝突が起こった背景を描くものだ。ソ連コミンテルン支配下のモンゴルと日本の傀儡・満州国に振り回されるモンゴルがどんな状況におかれていたのが分かる。決してモンゴルの独立を認めなかったスターリン。なのでモンゴルの人には満州が「隣の芝生」に見えたらしい。でもソ連についたモンゴルが独立し、満州国は消滅しちゃったわけだからモンゴルの選択は正しかったってことになるのかな。
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ノモンハン戦争の通史を知るに手頃かと思い、著者が田中克彦であることも手伝って読み始めた。しかしながら、そのような内容のものではなく、この戦争の舞台となったモンゴルが、この戦争にどう関わったかを、モンゴルに関わる、また同時代であったスターリン時代のソ連の関わりとも絡めつつ、編まれた1冊であった。正直、とっつきにくくはあったが、後半にかかったころから、著者の意図していることが分かるようになった気がした。
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モンゴルの専門家によるノモンハン事件の研究書。資料を公表してこなかったソ連崩壊後に本格的研究が始まり、ようやく全容が明らかになってきた。ノモンハン事件というと日ソの戦いとの認識があるが、モンゴルと漢民族との長い争いの歴史とモンゴルの独立願望、大国に挟まれた地政学的状況下、独立のためのソ連あるいは満州国(日本)への接近など、モンゴルの歴史を理解しなければ、ノモンハン事件の実態はわからないと主張する著者の意見には納得した。著者の熱心な研究により、この分野の研究は大きく進展したことは間違いない。ノモンハン事件を語る中心的研究書といえると思う。