新しい労働社会: 雇用システムの再構築へ (岩波新書)

著者 :
  • 岩波書店
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感想 : 42
  • Amazon.co.jp ・本 (212ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004311942

作品紹介・あらすじ

正規労働者であることが要件の、現在の日本型雇用システム。職場の現実から乖離した、その不合理と綻びはもはや覆うべくもない。正規、非正規の別をこえ、合意形成の礎をいかに築き直すか。問われているのは民主主義の本分だ。独自の労働政策論で注目される著者が、混迷する雇用論議に一石を投じる。

感想・レビュー・書評

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  • 現代日本の労働問題について総合的に語った約10年前の新書、210ページ。
    日本型雇用システムの本質をメンバーシップ型の雇用契約にあるとして、最も重要な特徴とされる「長期雇用制度」「年功賃金制度」「企業別組合」といった「三種の神器」もその本質から導き出された帰結と指摘する。そして1990年代以降、非正規雇用の増加と背中合わせの正社員の過重労働といった事態には、従来型の雇用契約と現実に大きなひずみによるものであり、両者の綻びを個別に捉えるだけではなく包括的な改善の方向性を示すことが本書の指針である。

    著者が現代日本の労働問題の是正のために主に参照するのは海外、それもとくに欧州の政府による雇用問題への取り組みである。そこから得られる最終的な解は、やはりというか先に挙げた「メンバーシップ型」の雇用のあり方の変革なのだが、そこに至るために急進的な策を推奨するわけではなく、既得権をもつ大企業正社員にも受け入れられ、かつ、現に苦境にあることの多い非正規労働者を救うためにも社会のセーフティネットの整備が先決だとする。セーフティネットが用意されていなければ、従来型の正社員がフラットな職能給に移行することに同意することも困難だからだ。そしてもうひとつ、今後の方向転換のために重要な役割を果たすことになると著者が重視するのが、日本独特の企業別の労働組合が非正規労働者も成員として含めることによる、組織の改変である。

    序文で自らが「過度に保守的にならず、過度に急進的にならず、現実的で漸進的な改革の方向を示そうとした」と宣言する通り、著者の雇用問題への姿勢は過去の政府の決定への分析も含めて是々非々であり、報道主導の扇動的なキャンペーンやポピュリズム的な政治のあり方に警鐘を鳴らすこともしばしばである。労働問題への取り組みとしての法律の改正にしても、世論に迎合しただけの現実と乖離した表面的な対策については懐疑を隠さない。

    昨今取り上げられることの多い「ジョブ型」という言葉を定着させたと帯で謳われている本書だが、「メンバーシップ型」については強く印象に残っても「ジョブ型」という語彙そのものはどこで登場したかもわからない程度だった。本書が、日本の雇用システムが「メンバーシップ型」からフラットな職能給(ジョブ型)に漸進的に移行することを説いていることは間違いないのだが、誤った、または恣意的な受け取り方によっては、単にさらなる非正規労働者の増加させる正当化の手段として「ジョブ型」という言葉が著者の意図しない方向に一人歩きするのではないかと危惧させる側面もある。行き届いたセーフティネットの拡大とセットでなければ、雇用システムの変革はありえないことについては本書が強調するところだ。

    私自身も全体の方針としては、従来型の正社員増加への回帰ではなく、多くの非正規労働者がその働き方によって大きな不安なく生涯を全うできるような形でセーフティネットを充実させた社会が望ましいと思える。そして何より、日本の従来型雇用システムを海外との比較から「メンバーシップ型」と定義して区分するくだりに、日本社会の重要な特徴の一部について非常に納得させてくれる著書だった。

  • 労働関係法規が「こうなっているんだよ」と解説する本は多いですが、それらの法規がなぜ、どのような議論を経て(または議論を棚上げされたまま)今存在しているのか。行政、経営、労働者三者の視点を踏まえて本質へと切り込む一冊です。表面的なマスコミのあおりやバッシング、議論のすり替え、曖昧に決着をつけられてきた雇用課題がいかに多いのかがリアルにわかります。出版から時間を経てもなお、雇用問題の本質は一つも変わっていないことを感じます。決して古い本ではありません。

  • 2009年に書かれた本のため、内容が少々古いかもしれない。しかし、日本や欧米諸国における労働関連法の歴史的経緯からそれぞれの功罪が非常にわかりやすく書かれている。
    私が知る2013年以後の労働法や大きいところでは派遣法改正でかんじた違和感の背景が手にとるようにわかる。そして、これからの日本の在り方を濱口氏の主張を軸にしながら深く思考することができる。法律及びその運用や実務において、その主旨や哲学を理解することがいかに重要であるか、再認識した。濱口氏の主張の中には現実的でないものや違和感を感じるものも読む人によってはあるかもしれない。

  •  日本の労働の現状を分析しつつ、どのような政策を取るべきかを論じた本。

    ・三六規定(労働基準法第36条の時間外労働規制)は1週間の労働時間の上限(原則40時間)と定めているが、時間外労働を含めた上限を定める必要がある。

    ・日本は整理解雇(リストラ)の条件が非常に厳しく、個別解雇の条件が非常に緩い。そこで企業から退出を迫られることなく使用者に対して発言できる担保としての解雇規制を考えるべき。

    ・日本では均衡処遇=同一賃金同一労働の原則が適用されていない。これは同じ内容の労働に同時間従事しても、正規労働者か非正規労働者で賃金に格差が出ることである。

    ・2000年代に入ってもフリーターはバブル期と変わらない「夢見る若者」として扱われた。その中で非正規雇用問題も、アルバイトは「若者の就労意識の欠如」、パートタイマーは「夫婦間のアンペイドワークの問題」といった言葉で片付けられてきた。

    ・労働組合=正社員組合になっているのは危うい。非正規労働者を含めた集団的合意形成と共に、特定の人の利害のみを代表しない、使用者から独立した労働者代表組織が望まれる。

     この他にも、生活保護制度を救貧という観点でなく、就業促進を図れるものにするよう主張するなど、単なる人道主義に陥らないバランスの良さも評価できる点。

  • 「日本型雇用システムにおける雇用とは、職務ではなくてメンバーシップなのです。」

    目の覚めるような、全てが腑に落ちるような読んでよかったと思える、ためになる本。
     成果主義や能力主義などと取りざたされているけれど、ほとんどの企業では形だけの導入で、一番根本の「労働契約」のぶぶんは相変わらずあいまいな労務規定のまま。だから、成果主義が体をなしていないのが現状。
     子供が減り、景気が停滞して行きそうなこれからは今までどおりの「日本型雇用システム」は必然的に維持できなくなるだろう。
    これまでは、企業が社員を抱え込み定年まで面倒をみるという方針(終身雇用)。最後まで面倒を見る代わりに、転勤や長時間労働なんかも受入れてねっていう使用者/労働者間のギブ&テイクな関係だった。でも、それは成長経済だったからで。これからの企業は、さすがにそこまで面倒をみれなくなる。
     だから、企業が放棄した「年齢に相応しい生活を送るためのお金」を今度は国が負担する必要がある。
    ある意味「働くこと」という縛りからの開放でもある気がする。
     社会福祉と能力主義はセットで考えていかなければならないんだなぁと勉強になった。

  • 【電子ブックへのリンク先】
    https://kinoden.kinokuniya.co.jp/hokudai/bookdetail/p/KP00048301

    ※学外から利用する場合は、以下のアドレスからご覧ください。
    SSO-ID(教職員)又はELMS-ID(学生)でログインできます。
    https://login.ezoris-hokudai.idm.oclc.org/login?url=https://kinoden.kinokuniya.co.jp/hokudai/bookdetail/p/KP00048301/

  • 日本を中心に、労働者の処遇や生活また社会の構造について、労働者、経営者、行政それぞれの視点に立って、これまでの日本の社会の出来事や議論を振り返っている。

    歴史をひもといて解説してもらう、と言う目的ならば良書。
    一方で提案、例えば折衷案や妥協は、こういったものの提案は少ない。
    どうすれば良いのかと言う議論はあまり尽くされていない。


  • 日本型雇用システム(長期雇用、過度な年功賃金、企業別組合)が適用されるのは正社員のみであり、その背後には多くの非正規労働者が存在する。その格差是正のアイデアの一つに、EU等で採用されている同一労働同一賃金(長期雇用を前提とした過度な年功賃金制度からの脱却)がある。本書の中で関心を持ったのはその部分で、本書では、賃金制度にメスを入れる時に整備されておくべき社会的条件を考察している。EUにおける非正規労働規約の焦点は均等待遇原則(基本的労働条件について差別されない)にあり、ベースには男女平等があるらしい。一方男女均等の観点で日本は、男女を等しく長期雇用に組み込んでいく慣行が出来上がり、これは正社員の総合職と一般職に代表されるようなコースの平等と言える。基本的労働条件においては日本は、パートに対して賃金の均衡処遇の努力義務を課しているものの、非正規労働者(派遣労働者)には均衡処遇も否定している(賃金は外部労働市場で決定されるという整理)。同一労働同一賃金を導入する場合の社会的条件の一つに、年功賃金が担っている生活給の側面(正社員への長期的な安心の提供)を誰がどのようにカバーするのかという問題がある。本書では市場経済の交換の正義と、福祉社会の分配の正義が相容れないことを指摘し、公的な仕組みで負担していくことを説いている。企業の福利厚生の一環である住宅手当や家族手当などは企業の魅力を高めることもできるが、労働の対価という観点では不正義になる(同じ技能を持った社員でも、扶養する家族が多いほど給与が多くなる等)。本来政府がやるべきところを長年企業がやってくれてたもので、著者は早速、生活保護の一部雇用保険化などのアイデアを出している。年功賃金には中高年層への過剰な対価の提供というデメリットがあり、イノベーションの阻害要因にもなるから、日本でも長く見直しの機運があるが、現実には技術革新による配置転換が難しくなったり、今の制度に甘んじてる人たちがたくさんいるため(非正規では組合として交渉できない)、現在でも大きな変化はないように思える。生産性の低い組織となり利益が出なくなれば、また非正規が増える悪循環になる。となると、まず正社員がいつ辞めても大丈夫と思えるくらいの制度が用意される必要があるだろう。

  • 筆者の考え方がすごくためになる一冊。
    これから社会人に出て働くにあたって社会の状況について考えることが出来ました。

  • ・ジョブ型とメンバーシップ型
    ・賃金計算のため、健康管理のための労務管理
    ・勤務間インターバル制度

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著者プロフィール

*2008.11.17現在労働政策研究・研修機構労使関係・労使コミュニケーション部門

「2013年 『福祉と労働・雇用』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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