「ふるさと」の発想: 地方の力を活かす (岩波新書 新赤版 1195)

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  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (210ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004311959

作品紹介・あらすじ

雇用の崩壊、地域産業の衰退、加速する高齢化、過疎化。苦境に立たされる地方をどう立て直すか。「ふるさと納税」など独自の政策提案で注目を集める、福井県知事の著者は、「新しいふるさと」という考えを提唱する。都市と地方の対立を乗り越え、地域における人の「つながり」の再生をめざす。自らの実践をもとに、理念と戦略を語る。

感想・レビュー・書評

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  • ふるさと納税の発案者による、ふるさと納税の発案のきっかけに触れた本、ということで読んでみました。

    福井県知事を務めた西川氏の、福井県政に対する姿勢や施策、そして、それらの背景にある想いについて、丁寧に書かれた本です。
    2009年当時の福井県の様子も、いろんな角度から書かれていて、福井県に対する西川氏の、ふるさとを大切にしたいという想いがよく伝わってきます。

    その一方で、国政に対しては、マイナスの感情も多々あるようですが、単なる批判に終わらず、地方を変えることで国を変えていこうとする姿勢をもち、しかも実際に、ふるさと納税をはじめ(ふるさと納税の是非はさておき)、地方発で国を変えた部分もあり、知事としての活動を全うされた方、という印象をもちました。

    ただ、地方と都市や国の関係に関する問題は、なかなか一筋縄ではいきませんね。
    すぐに変えるのは難しいと思われるだけに、地方が主体となった成功を積み重ねることで、少しずつ変えていくしかないのかもしれません。

  • * 生まれた、育ったなど、個人にとって特別な価値を持つ地域を「ふるさと」と定義するのはいいなぁ

    * 都市にいても「ふるさと」とつながれる仕組みはまだまだだと思うし、検討する価値はあるかな

    * 都市部出身にとっての「ふるさと」ってどういうものなんだろう

    * 地域活性化を聞いたり考えたときに、自分と縁もゆかりもない地域やってたら自分がいきたがるか?を評価のひとつにしてたけど、逆にその地域を「ふるさと」と感じている人に特化したサービスでもいいんだなー


    以下、メモ
    * 著者は「ふるさと納税」を提唱した現福井県知事
    * 都市と地方という従来の考え方に、特別な価値を持つ地域を「ふるさと」と定義

    * 明治期は都市と地方の格差は大きくなかった
    ** 最大の納税地は東京ではなく北陸・新潟地方
    ** 人口も東京が一番ではなく、あまりばらつきはなかった
    * 戦後の国土計画で、太平洋ベルト地帯を中心に資本が投入された結果、人が偏った
    * 小泉内閣の「構造改革」によって非効率な投資が抑制され、地方財政はより厳しくなった

    * ダイレクトに世界に通じる「個化社会」となった
    * 人をつなぎ、地域を結ぶ「ふるさと」
    * 地域のよいところは「よそ者」が見つけることが多い
    * ふるさとを活性化するには、住民の活力と、外との結びつき

    * 福井では高校卒業まで1800万の行政サービスをうける、そのうち毎年3000人が都市へ、1000人が地元に。お金のサイクルとして人材を供給している地方にもめぐってくる仕組みが必要。そのひとつが「ふるさと納税」

  • 地方で生まれ育った人間の1人である僕にとって、
    近年の政治方針、或いは中央マスコミの報道の仕方には
    甚だ疑問を感じることが多かった。

    簡単に言えば、
    地方は国家にこれ以上依存するべきではない、という論調。
    官から民へというスローガンにしたって聞こえは良いが、
    地方の赤字を都市の黒字で埋めるのは御免だという発想である。

    確かにそうした理論にも一理あると思う。
    ただ、それはあくまでも都市、もっと言えば東京からの視点だ。
    では地方から見れば、何が不満でどこに問題があるのか
    そういった、逆の視点を中央マスコミは報じない。

    それはフェアではないと、僕はずっと思い続けていた。

    この本を読んで、胸の痞えがとれた想いだ。
    そして、僕が抱いていた疑問は、間違っていなかったのだと
    感じることができた。

  • 地元の知事が書いたと言うことで、やっぱり県民としては読まなくてはという使命感はありましたが、内容は期待していたわけではありません(すみません!西川知事m(__)m)。ところが!これは本当にいい本でした。福井県民必読どころか、都市部の人も是非一読を。この内容をテレビなどもっともっとアピールしてほしいものです。全国の知事では、今はマスコミ受けする知事の発言が目立ちますが、それだけでなくこの本のような内容を取り上げていくべきではないでしょうか?

    北陸地方の天気予報が都会では、ときには新潟の天気予報で代用されているところは、まさにこの本の通りのことを以前から思っていました。都会の人が福井県に行くのに新潟の予報で代用できるのか?直線距離にして500km離れているのは、東京と鳥取の距離に匹敵しますとのこと。こうした意識が実は問題だと言うことです。

    この本を読んでいる時に全国学力テストの結果が発表されました。福井はいいところです(^^)。

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/705825


  •  福井県には、繊維と眼鏡のような地場産業が数多く存在してきた。しかしグローバル化による安価な製品の購入や電子化・バーチャル化による現物の需要の減少等からこれらの産業は悪戦苦闘している。またライフスタイルの変化も加わって、商店街や市場も閑散として来ているのが現状である。
     そのような中で、「都市が地方を養っている」というような「仕送り論」が唱えられることがあるが、これは誤解である。確かにメディアで取り上げられる情報量の偏りから、地方の状況がうまく伝わっていないという現状もあろうが、実際のところ、水や電力、食材、さらには人材など市民生活や企業にとって不可欠な資源を都市は地方に頼っているのである。したがって、確かに日本の中心は都市圏や関西圏になるが、それでも地方従属論は不毛な議論なのである。
     現在、機械化やバーチャル化による生のコミュニケーションの減少、三世代住居や出生率の低下、一方ではSNSを媒介として個人がダイレクトに世界とつながることが出来るようになってきたことなどにより、「個化社会」ともいうべき社会になっている。このような今日において、行政と住民が目的を共有し、一緒に行動、活動するという「つながりある共動社会」を作り上げていくことが重要である。というのも、共同体意識や共感が社会的に共有されるときに自由が確保され、民主主義が健全に機能するからである(都市部での投票率の低さや選挙演説の際の対応などにもリンクしている)。また、「個化社会」において、人々は不安を埋め合わせるために何かを求めている傾向にあるとも言えるからである。例えば、若者であればSNS、お年寄りの中には詐欺にあっても、声をかけてくれるだけましと考える人もいるのである。
     様々な課題を抱える地方において、個人や地域の力だけでは対応できないときに地域を守ることが自治体の役割であり、存在意義である。行政は住民に対して親身になり、一体感を共有する「つながりのある共動社会」に根差した「ふるさと」を作っていくべきである。

     第1章から第3章では、主に地方を国との対比で捉え、地方従属論を批判する趣旨で書かれている。これは、かつて国の役人も経験し、現在地方の長として働いておられる著者だからこそ感じていることなのであろう。そして第4章以降では、「ふるさと」とはなにかということや、地方行政のあるべき姿について論じている。福井県の事例が多く、なじみのない人には少々距離があるかもしれないが、最終的には地方行政全般に当てはまるように一般化しているため、福井県になじみのない人でも勉強になる一冊である。

  • 様々な形で地方創生が問われる中で、外とのつながりを重要視した「新しいふるさと」という視点をわかりやすく描いている。

    第一章 地方は、いま
    第二章 地域格差をどう見るか
    第三章 「改革」とは何だったのか
    第四章 「ふるさと」という発想
    第五章 「ふるさと」からの発信
    第六章 「つながり」を立て直すために

  • 第1章 地方は、いま
    第2章 地域格差をどう見るか
    第3章 「改革」とは何だったのか
    第4章 「ふるさと」という発想
    第5章 「ふるさと」からの発信
    第6章 「つながり」を立て直すために

  • あらゆる書は311以前と以降で読後感が全く異なると感じるが、こと行政学に関する書籍は評価がひっくり返るほど感触が変わる。この書籍など、その典型例である。著者は今をときめく大飯原発の福井県、西川知事だ。あらためて読んでみると、まるきり全編通して西川知事のPR本にすぎないことがよくわかる。現在の福井・原発行政を見る限り「ふるさと」などと柔らかい言葉に違和感を覚えるほど、現在の西川知事のやり方はエゴイスティックとしか感じられない。原発防災政策だけをみても京都、滋賀との対立で浮き彫りになったのは西川知事の閉鎖的な、「全部福井のおかげ」的な姿勢であった。

  •  著書は現職福井県知事。福井県では環境保護ボランティアや災害訓練を通じた地域の「つながり」作り、郷土学、繊維や眼鏡といった産業の振興、一乗谷のような地域ブランドのアピールを通じて県のアイデンティティを確保しようとしている。

     この背景には、特に地方で雇用、産業情勢の悪化、過疎化、少子高齢化などといった問題が顕著になっていることがある。その中で中央の一元的な行政から脱却すべく、「地方分権」を求める声が盛んになっている。

     2004年には地方財政の危機が起こり、財源からの地方分権を目指す「三位一体の構造改革」が掲げられている。しかし、この改革では都道府県の自主性は拡大していないのに、地方交付税交付金だけが削減されるという歪な事態が起こった。

     たまに話題になる「ふるさと納税」については良く知らなかったので勉強になった。これは県民に「ふるさと税」を課することで、納税者としての自覚を持ってもらい、税の用途ならびに県政に関心を持ってもらう連日ニュースで話題になる国の行政や住民が直接接する機会の多い市町村の行政が身近でイメージしやすいのに対し、都道府県の仕事はイメージしにくいということも背景にあると思う。

     都道府県立の公共施設(学校、病院など)の運営・管理、複数の市町村にまたがる行政(労働、雇用、観光、道路など)あると思いますが、どの都道府県もやはりアピール不足な感じがする。

     地方行政を考える上で、こうした行政上の現職にある人の著書はやはり勉強になると思う。

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