現代思想の断層: 「神なき時代」の模索 (岩波新書 新赤版 1205)

著者 :
  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004312055

作品紹介・あらすじ

神は死んだ-ニーチェの宣告は、ユダヤ・キリスト教文化を基層としてきた西欧思想に大きな深い「断層」をもたらした。「神の力」から解き放たれ、戦争と暴力の絶えない二〇世紀に、思想家たちは自らの思想をどのように模索したか。ウェーバー、フロイト、ベンヤミン、アドルノ、ハイデガーらの、未完に終った主著から読み解く。

感想・レビュー・書評

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  • 未来を明確に描き出すことの不可能性が明らかになった「現代」という時代を、ウェーバー、フロイト、ベンヤミン、アドルノという4人の思想家の仕事から読み解こうとする試み。いずれの論考も議論の焦点が緩く設定されていて、試論的な性格が強い。

    第1章では、ウェーバーのアメリカ体験の意味を考察することを通して、人類史の運命についての彼の考え方を論じている。ウェーバーの歴史観の基本的な骨格は、世界の脱呪術化・合理化と特徴づけられる、普遍史的過程である。こうしたプロセスの進展は、ニーチェ流の「最高価値の没落」と「価値の多神教」を帰結する。しかしウェーバーは、ニーチェとは異なり、こうした運命を力強く肯定する「超人」について語ることはなかった。彼はどこまでも、世俗的な世界にとどまり、歴史における責任をみずから担おうとする責任倫理の立場を堅持しようとする。

    第2章では、フロイトの遺著となった『人間モーゼと一神教』が取り上げられる。ここでフロイトは、モーゼをエジプト人であるとし、ユダヤ人がモーゼを殺したという説を提出している。フロイトは、ユダヤ人としてのアイデンティティを解体することによって、「超自我」を内面化することによって自我の自立が成立するというフロイトの「自我心理学」という偶像の破壊をおこなったと考えることができる。

    第3章では、クレーの「新しい天使」に対するベンヤミンの解釈が主題となっている。この天使は、顔を過去に向けているが、楽園からくる強風が、彼を未来の方へと不可抗的に運んでゆく。ベンヤミンは、この強風が「進歩」だと述べている。ベンヤミンは、歴史を全体として構成し、未来を明確なヴィジョンとして描こうとする近代歴史哲学を批判し、たえず未来へと押し流されてゆく私たちが、「今という時」(Jetztzeit)において過去の布置(Konstellation)にアレゴリー的意味を見いだすことに希望を見ようとしたのである。

    第4章は、アドルノの『キルケゴール論』と『啓蒙の弁証法』に基づいて、彼のハイデガー批判を考察している。ナチスから逃れてアメリカへ渡ることになったアドルノの立場から、ハイデガーの「故郷」を脱神話化することがめざされている。

  • 【書評】(読書人2009.11.13)。

  • 【由来】
    ・池田信夫blogで取り上げられてた。しかも徳永さんじゃないか!

    【期待したもの】

    ※「それは何か」を意識する、つまり、とりあえずの速読用か、テーマに関連していて、何を掴みたいのか、などを明確にする習慣を身につける訓練。

    【要約】


    【ノート】

  • ウェーバー、フロイト、ベンヤミン、アドルノの「歴史観」を考察することが中心的主題。

    ウェーバーは、多価値時代へと向かう合理化。
    フロイトは、父殺し=偶像否定による進展。
    ベンヤミンは、空白の未来におけるメシア的なものの到来。
    アドルノは、ユートピアとしての故郷=幼年期(の回帰?)

  • ウェーバー、フロイト、ベンヤミン、アドルノ。
    彼ら4人の一生を通して、彼らの思想を探る。

    ウェーバーがアメリカに行ってどう感じたとかの考察など
    細かい所は結構面白い。

    後者2人は正直言ってよく知らなかったが、
    彼らへの興味は湧いたので、色々調べてまた再読したい。

  • 徳永恂『現代思想の断層 「神なき時代」の模索』岩波新書、読了。「断層は時に地殻を揺るがして、不動と見えた既成秩序を崩壊させ、新しい地層の断面を露出させる。そして差異のうちに共通性を、共通性の内に差異を見出す」。本書は20世紀思想を貫く断層をその内部から描き出そうとする試み。

    「神の力」から解放された20世紀は戦争と物質文明に翻弄された「神なき時代」。思想家たちはどのように格闘したのか。本書はウェーバー、フロイト、ベンヤミン、アドルノの4人をとりあげ、ハイデガーを対称軸にその思想を読み解く。

    一元的価値観が崩壊した時代を「多価値」という分裂に対峙する「責任の倫理」を使命としたウェーバー。3つの一神教を相対化させるフロイト。「救済無き啓示」を希求するベンヤミン。救済なき哲学を徹底的に否定するアドルノ。

    「われわれが生きているのは『アウシュヴィッツ以後』の社会であって『ソクラテス以前』のギリシャの自然ではない。しかし前者が現実で後者が夢だというわけではない。両者のはりつめた緊張関係こそ現実」。断層を読む著者の遺言の如き一冊。

    (なお蛇足)新書という大変に圧縮された紙幅で、思想家を読むという妙技を見せてもらった感。さすがというほかない。

  • 何を言ってるのかサッパリ分からん!ここまできたらオリジナリティ溢れる言語体系。久しぶりに新書の意味を問うた。

  • [ 内容 ]
    神は死んだ―ニーチェの宣告は、ユダヤ・キリスト教文化を基層としてきた西欧思想に大きな深い「断層」をもたらした。
    「神の力」から解き放たれ、戦争と暴力の絶えない二〇世紀に、思想家たちは自らの思想をどのように模索したか。
    ウェーバー、フロイト、ベンヤミン、アドルノ、ハイデガーらの、未完に終った主著から読み解く。

    [ 目次 ]
    第1章 マックス・ウェーバーと「価値の多神教」(ウェーバーの人間像―その詩と真実;アメリカへの旅で経験したこと;経済史から文化史を経て普遍史へ― キリスト教の意味;運命としての「合理化」のゆくえ)
    第2章 フロイトと「偶像禁止」(イタリアへの旅;ユダヤ教と偶像禁止;ミケランジェロのモーゼ像;『人間モーゼと一神教』―「父親殺し」として;アイデンティティの自発的解体)
    第3章 ベンヤミンと「歴史の天使」(ベンヤミンの方法、あるいは方法としてのベンヤミン;「ユダヤ神学」と「マルクス主義」―「歴史の概念について」の読解;「新しい天使から歴史の天使」へ;純白の未来― 時間論の地平で)
    第4章 アドルノと「故郷」の問題―ハイデガーとの対決(アドルノ対ハイデガー;キルケゴールと美的なものの構成;『啓蒙の弁証法』の成立;「故郷」の非神話化)
    断層の断面図あるいは、「大きな物語」の発掘―あとがきに代えて

    [ POP ]


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    [ 関連図書 ]


    [ 参考となる書評 ]

  • 「大きな物語」以降は「善悪の彼岸」に立ってからということが少し分かってきました。http://twitter.com/rydeen_switch/status/11298308089
    ヒントをくれたのはこの書籍。徳永まこと「現代思想の断層」(岩波新書)。新書だから親切な本かと思って読むとさっぱり分かりません。とても評価が分かれそうな内容です。はじめにとあとがきをよく読んでおかないと何を意図しているのかは踏み外しそうな本です。http://twitter.com/rydeen_switch/status/11298537884
    いろいろ本を読んだけど、結局ポストモダンって何か悩んでいる人にはヒントをくれるんじゃないかという感想を持ちました。http://twitter.com/rydeen_switch/status/11298564077
    それ以外の興味で読んでもえることは少ない本でもあります。
    http://twitter.com/rydeen_switch/status/11298579594

  • ニーチェ以来の現代思想、「価値の多神教」とは。

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