パリ 都市統治の近代 (岩波新書 新赤版1213)

  • 岩波書店 (2009年10月20日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (224ページ) / ISBN・EAN: 9784004312130

みんなの感想まとめ

近代のパリにおける警察の成立過程を通じて、都市の変化と統治のあり方を探求する一冊です。著者は、逮捕されたこじきが植民地へ送られるという過去の事例を取り上げ、パリの住民が警察に対してどのように反応したの...

感想・レビュー・書評

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  • パリ―都市統治の近代―
    本書の扱う時代は、「絶対王政」がパリの統治をパリ警察総代官が中心をなす王権のポリスの手に収めていく時代から、フランス革命を経て新たな都市統治に移行する19世紀中葉までである 。その際、パリ住民の社会的結合関係とその変化から、権力秩序の合理化までを視野においた近代に向かう都市パリの社会政治史を描いている。
     パリの統治は、ルイ14世によるパリ警察代官の創設に端を発し、パリ住民の従来の社会的結合関係によって持続的な反発、および高等法院の反抗を受けながら、段階的に完成していく 。その際、カトリック教会や商工業者の同業組合などの中間共同体の動揺、崩壊、そして、急激な人口増加、コレラの蔓延などさまざまな問題を抱えながら、機動的な警視のシステムを確立し、パリの統治を進めてゆく。最終的には、1848年の労働者の蜂起に対して、アルジェリア遠征帰りのフランス正規軍が鎮圧するという形で、統治は完成する 。しかし、そこには、近代国家特有の暴力が基底部に埋め込まれており、それは現在においても近代都市パリを侵蝕し続けていると言える。
     以下、各章ごとに要約していく。第一章では、初期のポリスとパリ民衆の関係について述べられている。ルイ14世が行った城壁の破壊とグラン・ブールヴァールの建設は、パリ市における王の権力の象徴、一円的統治の意思表明として行われた。一方、パリ市の街区では、パリ奉行と呼ばれるポリスとパリの住民の合議によって物事が決まってくという観念が形成されていた。それに対し、王権はパリの警察総代官を創設し、治安維持や身分制秩序の安定を目的とした統治を行ったが、パリの社会的結合関係は十分な活力を持ち、高等法院の権力も相まって、パリの統治は警察総代官をもってしても、合議でしか物事を決めることが出来なかった。パリ市は裁判管轄区も宗教的な共同体も雑多であり、統治困難な都市であった。しかし、上記の通り、パリの社会的結合関係は協力であり、乞食狩りのような合議無しの権力の行使に対しては、大きな反発をもって迎えられた。本章の扱う17世紀末期まで、合議的なポリスという観念は不動のものであった。
     第二章の扱う、18世紀初期から中期は、機動的ポリスを目指す動きが強くなっていく。このような、ルネ・ダルジャンソンの試みは失敗したものの、犯罪者のファイリングが始めるなど、治安維持機構としての進展はあった。しかし、パリ統治への試みに対しては、多くの阻害要因があった。一つは、人口の増加と流動性の高さである。家内奉公人は特に流動性が高く、治安悪化の原因として批判の的となった。二つ目は、教会の動揺である。ジャンセニスムに対する王権の反応は、高等法院との対立をもたらし公論の台頭をもたらすことで、宗教共同体を動揺させ、王権の権力を阻害した。三つめは同業組合の混乱である。同業組合は身分制秩序と商工人層の安定化の役割を果たしていたが、「フォ・ウーブリエ」(偽労働者)の跋扈によりやはり混乱をしていく。1776年に財務総監チュルゴーは王令によって同業組合を解体していくが、同業組合は宗教共同体同様に、王権の統治する社団として機能していたために、このような社団の動揺は、王権の統治を難しくしたと言える。
     第三章は、フランス革命を挟んで行われた「機動的」ポリスの進展について述べている。18世紀では、群衆に対するポリスは、やはり機動性を持ちえなかったが、警察隊の強化と監視の網の目の形成から、ポリスの機動性向上の意志を読み取ることが出来る。フランス革命期において、パリのポリスは機動的なものへと変化する。革命初期こそは、警視や捜査官が廃止されたことで、パリの統治権はアンシャンレジーム以来、初めてパリ市に移るが、一方で旧来の官僚制は残り、その人材の活用により拡充される。しかし、ロベスピエールの失脚と共に、その拠点となったパリ支庁が国家に掌握され、パリの統治権も完全に国家に移転してしまう。このように、革命の間に段階的に国家に掌握されていったパリのポリスは、パリ警視庁の完成をその集大成とみる機動的ポリスへの変貌を遂げる。革命を経て機動力を増したポリスは測量や地図の作成などの統治の新たな技法を用いて、パリ市の改造を計画する。
     第4章では、主に都市改造において述べられている。セーヌ川は、永らくパリの心臓部分であった。1769年に王令によって提起された計画は、パリの人、者の流れを港の機能の拡充を中心に合理化していくという点において従来の都市像を一変させるものであった。セーヌを基軸とする都市改造の中で、最終的に問題になっていくことは、水の問題であった。こうした中で、パリに水を供給するためにナポレオンが計画したウルク運河の開通は、パリ統治の上での重要な点であった。水の問題を解決したのちに問題となったのは、街路や下水道のシステムであり、人口の増加も相まって、この問題はパリを悩ませることとなる。多くの公衆衛生学者は、パリの法=規範の欠如を嘆き、衛生上の問題において貧困層への危険視は強まっていった。
     第五章では、都市改革の一方で、旧態依然であった労働者階級について述べられている。労働者階級は、規則的な生活習慣や清潔さを保つという観念がなく、衛生上で問題視されていたことに加え、自発的なストライキの回路を形成し始め、警視においても、自由主義の名のもとに介入をしていないという状態であった。また、労働者や移入者の多いパリでは、警視には多くの役割が求められていたが、警視の役割は七月革命以降では国民軍や民兵組織の発達により、管理職の度合いを強め、かつてのような住民に近接した調整役という役割を失っていったのであった。
    第6章では、パリで新たに生成されていったアソシアシオンと、それらと蜂起の関連性について述べられている。パリでは、目的によって集まる新たなアソシアシオンが多く生成されていく。そして、その動きは社会的地位の上層部から下部の労働者に伝搬していき、結果的に労働者蜂起へとつながっていく。パリは、アソシアシオンという市民社会の基盤をなす要素を持ちながら、それは蜂起の可能性を含んでいるというジレンマを抱えることになった。
    終章では、アルジェリア制圧と一体化した軍事力によるパリの制圧により、パリがポリスによって支配され、ルイ・ナポレオン下のオスマンによって、満を持してパリ改造がなされ、以前の病めるパリから帝都パリへと変貌と遂げる姿が描かれる

  • 都市の近代化プロセスを、警察機構による統治体制の変遷という視点から論じた、ユニークな本だった。

    また、統治機構の変化という行政学的な視点に加えて、被統治層である市民社会やコミュニティの側の受け止めという社会学的な分析も加えられており、都市の近代化のプロセスが直線的ではなく相互作用の中で進んでいく様子が有機的に描かれていた。

    取り上げられているのはパリの17世紀終わりから19世紀中葉までの時代であり、絶対王政期のルイ14世の治世からフランス革命を経て、ルイ・ナポレオン(ナポレオン三世)の時代に当たる。


    パリの統治のシステムして、ポリスという警察代官を初めて設置したのは、ルイ14世であった。この官職は、都市の治安や住民の管理を担う役割として設けられていた。

    しかし、ポリスは設立当初は「専制的」な統治を行ったわけではなく、住民同士の紛争等にあっては双方の申し立てを受け付けた上で調停を図るといった、合議型の統治を担っていたとのことである。これは、絶対王政下の官職であっても、いきなりそれまでの都市住民が形作っていた社会的結合と全く無関係に上からの統治を行うということはできなかったということを表している。

    このような形でスタートしたポリスであるが、徐々に犯罪捜査や公安機能といった近代の警察機構へと変化していく。そのような変化の背景には、いくつかの要因があった。

    まず、絶対王政の体制が徐々に劣化していく中で、従来は王権の統治を支える中間的な存在であった宗教(教会)や職能団体(同業組合)が流動化していく。宗教においては異端の宗教グループの発生、職能団体においては労働争議などが、18世紀の前半から目立つようになってくる。

    これらは、都市の社会全体に徐々に動揺をもたらし、最終的にはフランス革命へとつながる社会の流動化をもたらすのだが、統治機構としてのポリスはこのような動揺やそれに伴う犯罪、騒擾を取り締まる役割が期待されるようになってくる。

    また、都市人口の急速な増加と、それに伴うコレラの流行や食料不足などの都市問題も、ポリスの役割を変化させる要因となった。パリにおいても都市改造や衛生管理体制の拡充といった対策を繰り返し実施しているが、それらと合わせて都市自体の統治を担う実力組織としてのポリスの役割も重要度が高まったといえる。

    このような背景の下、パリのポリスは住民のコミュニティの存在を前提とした合議型の統治から、徐々に機動的な治安維持を行う組織へと、体制を拡充していく。この変化は、絶対王政の時代からフランス革命、その後のナポレオン統治時代を通じて、一貫していたようである。

    政治体制の変化よりも都市社会の変化の方が、警察機構のあり方、ひいては都市統治の形を決める上でより本質的な要因を形成していたというのは、とても興味深い点であった。

    しかし、このような警察機構の体制拡充も、都市社会の変化に対応するのには十分ではなく、最終的には1848年の二月革命という大きな動乱へと至る。この時には警察機構ではなく正規軍によって民衆蜂起を制圧するという手段が採られ、戒厳令下の軍による統治を経てルイ・ナポレオンによる帝政へとつながっていく。

    そして、ルイ・ナポレオンは、国家の形を国民国家へと作り変えるとともに、パリを大改造することでこの都市を帝国の首都という、それまでの市民社会のあり方とは異なる形へと生まれ変わらせた。

    このようにしていわゆる近代の都市というものが誕生することになるのだが、その過程で、都市の統治のあり方においても、市民が形作っている社会的結合との合議によるポリスの統治から、国家のシステムに市民が統合され、それを警察機構が管理するという統治のあり方へと、完全に変化を遂げていった。


    都市の近代化を、ポリス(警察機構)の変化という側面から見ることで、これまでいくつかの時代区分に分けて別々に捉えられていた絶対王政から近代国家誕生までの流れにおいて、それらをつなぐ一貫した流れが見えてきたという点は、非常に面白かった。

    それは社会の変化の面では都市における市民の社会的結合のあり方の流動化と様々な新しいコミュニティが誕生し続ける状況であり、統治者の側においては、そのような変化による動揺をコントロールするための警察機構の強化を図る試みである。

    近代都市の誕生のプロセスをユニークな視点から描いてくれており、近代都市と近代国家の関係性について新たな側面から考えさせられた本であった。

  • ふむ

  • かつてパリでは、逮捕されたこじきは植民地のアメリカのミシシッピや西インドに送られると思われていた。それで住民が騒ぎ出して警視が襲われる事件もあった。

  • 近代におけるパリの区長•警察機構の変遷を著述。時代の流れによって求められる機能が変化していく。
    パリの観光ガイドには全くならない!しかし、政府が変わっても存続する必要性がある行政府というのは歴史的意義があったのであろう。現在も世界中の旅人を魅了する都市を維持しているということは必ずこの作品に書かれていない組織の根底は残っているのであろう。
    残念ながら、この作品には現代のパリへの繋がりは見出せない。

  • 王政、宗教、運河という大規模な視点を提供している。
    フリーメイソン、ナポレオンなどの政治的な視点もある。
    国王の小麦という食料に関する話題もある。
    シャンソンと集団という芸術に関する話題もある。
    それでも、生活観がないのはなぜだろう。

    パリのシャンゼリゼ通りは、世界の文化の中心だと感じた。
    世界の文化の中心になるためには、近代にその基礎があったはずだ。
    何がパリをそうさせたのかの裏を取れるような情報も掲載して欲しい。

  • パリにおける「警察」の成立過程を通して、統治される対象としての「都市」が、近代の成立によりどのように変化したのかを解き明かすことを目的とした一冊。ヨーロッパの近代史に興味のある人にとっては、それなりに腑に落ちる内容だと思う。ただ、個人的には、この著者の文章は肌に合わない。どうにも読みにくかった。

  • [ 内容 ]
    一八~一九世紀にかけての革命の時代、パリは激増する人口、都市騒乱の頻発で危機的な状況を迎えていた。
    王権・教会が弱体化するなかで、近代的な都市基盤や治安体制はどのように創られたか。
    セーヌの河岸・橋・港の整備、パリ警視庁創設、共同体の変容などについて述べながら、近代的な統治システムの形成過程を明らかにする。

    [ 目次 ]
    第1章 王権のポリスとパリ民衆
    第2章 政治化するパリ社会
    第3章 「機動的」ポリスの発展
    第4章 セーヌ川・都市改造・公衆衛生
    第5章 炸裂する都市
    第6章 叛乱するパリ
    終章 帝国の首都へ

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    [ 関連図書 ]


    [ 参考となる書評 ]

  • 近代パリの統治のあり方や国家との関係、民衆の生活などを同時代の資料を元に研究した本。現在のパリができるまでにどのようなことがあったかよく分かる。

  • ヨーロッパ史の知識がない土地と、ちときつい。

    ただ、パリの統治機構のなかで、ポリス官僚機構がかなり重要な位置を占めるというのは、よくわかる。

  • パリについてもフランス史についても門外漢のあたしには相当に歯ごたえのある本でした。いや、最近の新書はやさしくなりすぎていて、かつての新書はこのくらいの難しさがあったものだったと、改めて思い直しました。著者があとがきにも書いてますが、やはりもう少しその時代の政治の動きなどにも触れてくれないと、専門家以外にはわかりづらいところが多々あります。それと、フランス語の知識も多少はないと苦労します。

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著者プロフィール

元信州大学、日本女子大学。

「2013年 『歴史として、記憶として』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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