生活保障 排除しない社会へ (岩波新書 新赤版 1216)

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  • Amazon.co.jp ・本 (250ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004312161

感想・レビュー・書評

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  • [ 内容 ]
    不安定な雇用、機能不全に陥った社会保障。今、生活の不安を取り除くための「生活保障」の再構築が求められている。
    日本社会の状況を振り返るとともに、北欧の福祉国家の意義と限界を考察。
    ベーシックインカムなどの諸議論にも触れながら、雇用と社会保障の望ましい連携のあり方を示し、人々を包み込む新しい社会像を打ち出す。

    [ 目次 ]
    はじめに-生活保障とは何か?
    第1章 断層の拡がり、連帯の困難
    第2章 日本型生活保障とその解体
    第3章 スウェーデン型生活保障のゆくえ
    第4章 新しい生活保障とアクティベーション
    第5章 排除しない社会のかたち
    おわりに-排除しない社会へ

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    [ 関連図書 ]


    [ 参考となる書評 ]

  • @ricopinnbottleさんに薦められた本。

  • ダイヤモンドで紹介されていていたので読んでみた。 各国の状況と日本を対比させながら生活保障について論じている。 日本の生活保障を充実させていくには、政治・行政への信頼を高めてからでないと始まらないと思う。 

  • 人みんなが承認され気持ちよく過ごせる社会へ。
    官僚主導体制も構造改革も従来の欧米型の福祉国家も立ち行かない時代に、人々の生活を支える仕組みとして、その条件について、論じた本。北米諸国の国など社会保障支出が大きくても経済成長率が高い国がある。かなりの部分を職業訓練や生涯教育、母親の就労を支える保育サービスなど雇用の活性化に向けている。社会保障を雇用と強く連益させ、人々を社会に包摂していくことを目指している。
    ①日本含めた各国の雇用と社会保障を結び付けてきた歴史の振りかえり。連携の新しい形を考える。排除しない社会へのビジョン
    ②所得の保証だけではなく、職場なり地域のコミュニティなり、生活の張り合いを得る居場所を確保できることが大事。財の再分配だけではなく、承認が重視される。
    ③ルールの明確化。
    一章 日本型生活保障の問題点の検討 二章 日本型保障の仕組みの整理 三章 雇用に力点を置いたスウェーデン型の生活保障の仕組みと現状を考える 四章 生活保障のこれからについて、雇用と社会保障を切り離すベーシックインカムと雇用と社会保障をこれまで以上に密接に連携させるアクティベーションのアプローチを対照する。 五章アクティベーションを組み込んだ社会のかたちを考える。
    生活保障は単に所得を補償するだけではなく、人々が他の人々と結び付くことを可能とし、「生きる場」を確保する見通しを提供できるもの。強制ではなく、意思ある人間にはその機会が与えられる社会へ。
    政府に対する信頼の強さは市民相互の信頼の度合いに比例する。社会保障により、市民相互の信頼が増すことにより、政治への信頼も増す可能性があることを示唆ししている。
    市民相互の信頼の強さは「社会関係資本」と呼ばれる。相互信頼が強いと取引コストや機会コストが軽減され、経済も順調に発展するからこのように呼ぶ。日本は低信頼と高信頼の二つの見方がある。社会関係資本には二つあり、企業業界を弱くとも広くむすびついてく架橋型の社会関係資本と、集団内部での閉じた盟友関係である拘束型の社会関係資本がある。
    カトリックの社会間が浸透した大陸ヨーロッパ諸国では児童手当や出産手当などの公的な家族支援が充実している。日本では会社や業界による雇用保障それ自体の役割が大きかった。日本は国が産業を護送船団式に保護し、男性稼ぎぬしの安定した雇用を実現し、家庭にもそれをいきわたらせる仕組みであったが、グローバル化や脱工業化が進展する中で、雇用が多様化し、この仕組みは崩壊していく。
    ホネットによる近代社会の三つの次元の承認関係
    ①夫婦や親子などの間での関係。家族を舞台として発展してきた感情的、情緒的な関係
    ②法的な権利関係。社会的に不利な立場におかれていた集団や個人を社会の他の構成員と同じ権利主体として認める関係
    ③業績達成による承認関係。相互に同じ権利主体であることを前提に社会的あるいは経済的な業績を認め合う関係。
    ⇒人々が自己について肯定的な感覚をもつためには、いずれかの相互承認のなかにある必要がある。
    スウェーデンでは労働力移動を推進する賃金政策をとっていた。
    同程度の習熟度、技量を要する労働には同じ賃金を払う原則。
    企業や分野を横断してこうした賃金になると、生産性が高くないと労働コストがかさみ、相対的に苦しくなるため競争力の弱い企業が淘汰される。
    労働者が路頭に迷った際には、生産性が高い部門では、生産連動型の賃金に加え、賃金が抑制されるので競争に有利になる。
    デンマークは首を切りやすい、従前所得の九割が最長4年も保障される。また職業訓練が充実している。
    柔軟な労働市場、長期にわたる失業給付、積極的労働市場政策は黄金の三角形と呼ばれる。デンマークでは、就労人口の3分の1が転職をしている。
    スウェーデン型とデンマーク型の相違はスウェーデンでは労働力を生産性の高い部門へ誘導すること
    が強く意図されていたこと。デンマークは中小企業中心の産業構造を持っており、
    いったん解雇された人々が次にどのような仕事に就くかは、労働市場の動向にゆだねられた。

    生産性の高い部門は労働力を吸収しなくなり、デンマークの方が失業率は少なくなっている。

    新しい生活保障には四つの条件が必要
    ①柔軟性。男性だけではなく、流動化し、個人化する社会のなかで、男女問わず、様々な形で働き、学び、家族をつくり、
    多様なライフスタイルを生きていくことに柔軟に対応した制度が求められる。
    ②就労を軸とした社会参加の拡大。継続的に生活の資源を得ること。他の人とつながり、
    承認される「生きる場」をどう確保していくか。就労のための職業訓練や職業紹介、
    保育サービスはもちろん、労働市場の外で地域の自治活動やNPOの活動などに参加できる
    条件づくりも必要になっている。
    ③補完的保障。技術革新とサービス経済化が進行し、安定、見返りの大きな仕事が少なくなっている。
    勤労所得が十分でなくても、公的な所得保障との組み合わせで生活を維持できる、補完型保障が求められる。
    ④合意可能性。合意できる条件を備えなければ、実行できない。優遇、差別のない公正なもの。
    わかりやすく透明度が高いものが求められる。

    排除しない社会の三つの視点
    ①排除しない社会は「交差点型」 雇用と社会保障を緊密に連携させる、参加支援の強化が重要。
    ライフスタイルの選択肢を大きく広げる
    ②生活保障の機能分担。NPO、基礎自治体、中央政府など
    ③排除しない社会が社会契約に基づく社会であることを強調する。

    労働市場の外に教育、家族、失業、体と心の弱まり・退職があり、それぞれ行き来できる社会が交差点型となる。

    ①学ぶことと働くこと
    生涯教育、高等教育や就学期間中の所得保障などが第一の橋となる。一方通行ではなく、
    主体的に働いてみて初めて自分の資質の向き不向きが見えてくる。
    OECD諸国の入学者平均年齢19.4歳に対し、スウェーデンでは22.7歳となっている。
    ④日本高齢者の就労の理由は79.2%経済上の理由。6.5%いきがい、社会参加、4.2%健康上の理由
    となっている。

  • 週刊ダイヤモンドで今年の経済書の一つとして取り上げられていたので購入。分かりやすい内容。日本の体制は男性稼ぎ主の安定した雇用が前提、というのは全くその通りだと思った。

  • 社会福祉というと、面白くもない議論と思っていたが、
    この本に関しては論点がすっきりしていて
    文章と理論も筋が通っていて読みやすかった。
    そして、分析に終始するのではなく、著者なりの提案もなされていて
    新書として100点に近いと思う。


    蛇足だが、この本は北大での宮本太郎先生の授業の副教材に指定されているが、
    内容は授業の濃縮エッセンスである。
    他方、指定教科書は同先生の「福祉政治」で、これは授業の一部にしか触れていない。
    なぜ「生活保障」のほうを教科書に指定しなかったのか不思議である。

  • 停滞している日本の国民生活。この現状に対して雇用と社会保障を結びつけた生きる場、生活保障の必要性をといている。
    日本がなぜ将来に希望を持てない不安な国になったのか?諸外国の福祉はどうなのか?それぞれの課題に対して生活保障の必要性を知ることができる。

  • とにかく書き方が上手。これからの日本の福祉のあり方を考える上で、非常に示唆を与えてくれた。
    ちなみに生活保障とは、著者の定義では雇用と社会保障が上手く連動した社会のことであり、流れとしては今までの日本の福祉のありかたから、それがなぜ行き詰っているのか、そしてどうして改革が進まないかまでが明快に書かれている。そのうえで北欧諸国を中心とした他国の福祉のありかたを見ていき、後半では分析を超えて提言にまで踏み込む。
    雇用をどう創出していくかについては説得力が低いと感じたが、筆者が考える日本の生活保障のグランドデザインがはっきりと見えてくる一冊となっている。

  • 前半はいい。
    日本の社会保障のどこにほころびがあるのか、そしてスウェーデンのモデルを紹介する。企業や業界に基づいた制度では、流動的な労働スタイルに対応できない。
    後半は筆者の仮説が多い気がした。
    労働はやはり義務なのだろうか。

  • 生活保障とは何か?
    それは、雇用と社会保障を結びつける言葉であると著者は説く。
    人々の生活が成り立つためには、一人ひとりが働き続けることができて、また、何らかのやむを得ぬ事情で働けなくなったときに、所得が保障され、あるいは再び働くことができるような支援を受けられることが必要でるとしている。
    そして、「生活保障」という言葉を切り口として、改革ビジョンのあり方を論じている。
    悲しいかな日本型生活保障では立ち行かなくなってしまっていることを論じ、スウェーデンにおける生活保障の実践を検証し、そのスウェーデン型をもってしても、転機を向かえざるを得なかったと論じている。
    新しい生活保障とアクティベーションについて述べ、排除しない社会の形を提示し、本書を締めくくっている。
    一貫して丁寧な説明であり、非常にわかり易い生活保障にかかわる著作であった。

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著者プロフィール

1958年生まれ。中央大学大学院法学研究科博士後期課程単位取得退学。総務省顧問、内閣官房国家戦略室を歴任。現在、中央大学法学部教授。専門は、比較政治、福祉政策論。
著書に『貧困・介護・育児の政治:ベーシックアセットの福祉国家へ』(朝日選書 2021)、『共生保障:〈支え合い〉の戦略』(岩波新書 2017)、『地域包括ケアと生活保障の再編』(赤石書店 2014)他。

「2021年 『談 no.122』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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