思い出袋 (岩波新書)

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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004312345

感想・レビュー・書評

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  • (2016.01.31読了)(2012.03.12購入)(2010.05.06・第2刷)
    鶴見俊輔さん哲学者、2015年7月20日に、93歳で亡くなられました。
    追悼を兼ねて、積読の山から探し出して、読みました。
    鶴見さんの著作は、ほとんど読んでいないと思っていたのですが、既読リストを見ると、三冊ほど読んでいました。訳書を含めると四冊になります。
    この本は、『図書』に2003年1月から2009年12月まで、7年間にわたって連載したものを一冊にまとめたもの、とのことです。
    記憶の断片を少しずつつづったもので、同じ話が何度も出てきたりします。何度の出てくる話は、きっと思い出深いものなのでしょう。老人の思い出話に付き合ってみようと思われる方は、手に取ってみてください。
    太平洋戦争が、始まったときは、アメリカに留学中で、日本に帰る船が出るというので、その船で帰ってきた。外国語ができたので、軍隊に入れられたときは、外国のニュースを聞いてその内容を新聞にして、軍隊内部の数人に、配布していた。
    戦後は、『思想の科学』の発行に参加していた。
    ベトナム戦争のときは、べ平連の運動に参加して、アメリカの脱走兵に手を貸す活動に加わっていた。
    アメリカの黒人に対する選挙権は、法律上は、早くに認められたことになっているが、実際は、KKKなどにの妨害されて、行使できなかった。行使できるようになったのは、公民権運動などの成果によってである。
    アメリカを外からの眼で見ることができるようになったのは、メキシコに滞在する機会が与えられた時である。この辺のことは、「グアダルーペの聖母」に書いてあったように思う。

    【目次】
    一 はりまぜ帖
    二 ぼんやりした記憶
    三 自分用の索引
    四 使わなかった言葉
    五 そのとき
    六 戦中の日々
    七 アメリカ 内と外から
    書ききれなかったこと―結びにかえて
    あとがき

    ●バルラッハ(30頁)
    十七歳のころ、ニューヨークの図書館で働いていた。大学の夏休みは長いので、三ヵ月近く、一日おきくらいに近代美術館に通って、たくさんの作品にそれぞれなじみになった。その中にバルラッハの木彫があって、ひざをかかえ、眼をつぶって、歌を歌っていた。
    (2006年に、芸大美術館で、バルラッハの展覧会が開かれた際に見ることができました。)
    ドイツ・表現主義の彫刻家 エルンスト・バルラハ展
    会期:2006年4月12日(水)-5月28日(日)
    会場:東京藝術大学大学美術館 3F
    20世紀に大きな足跡を残した芸術家の一人、エルンスト・バルラハ(1870~1938)の日本で初めての回顧展です。
    彫刻、版画、劇作の分野で活躍したバルラハは、生涯「人間」をテーマとし、貧困や飢餓、戦争に直面する人たちの喜びや悲しみを 重厚かつ素朴な芸術作品に表しました。最も注目を集めるのが宗教性をもたたえる彫刻で、生と死の感情が簡素な輪郭線で重厚に表現 され、見る人を深い観照へと誘います。
    本展では生涯に約100点制作された木彫の中から12点を出品するほか、ブロンズ24点、素描75点、版画36点、関係資料な ど合わせて約180点の作品を通して、バルラハ芸術の全容を紹介します。(『芸大美術館のホームページ』より⦆
    ●ベスト・テン(44頁)
    私にとってのベスト・ファイヴというと、水木しげる『河童の三平』、岩明均『寄生獣』、宮沢賢治「春と修羅」、ウィルフレッド・オウエン「ソング・オヴ・ソングス」、ジョージ・オーウェル「鯨の腹の中で」があがってきた。
    五冊足してベスト・テンにしてみた。魯迅『故事新編』、司馬遷『史記』、夏目漱石『行人』、トルストイ『神父セルゲーイ』、ドストエフスキー『カラマゾフの兄弟』、マーク・トウェイン『ハックルベリー・フィン』。
    ●三島由紀夫(68頁)
    今もって私には、三島について感想をまとめにくい。敗戦後、「春子」などの作品に私はひかれた。やがて六十年安保のデモのすぐあとに書いた「喜びの琴」にも共感をもった。
    著者三島のおこした政治行動にはついてゆけない。
    ●池澤夏樹(122頁)
    池澤夏樹の著作では『ハワイイ紀行』が前人未到の試みだった。
    池澤の著作に近いものを日本文学にさぐると、大岡正平の小説『野火』と実録『レイテ戦記』に行きつく。
    『レイテ戦記』は、これまで日本の戦争小説の書き落としてきた、フィリピン住民からアメリカと日本を見る方向へと一歩踏み出している。
    ●試験問題(143頁)
    試験問題になることのない「なぜ生きているのか」は、今もわからない。ただ、もう少し生きてみようと思って、問題をかかえているだけだ。
    ●白い丸(144頁)
    先生は黒板に白墨で丸を書いて、くばった答案用紙に同じものを書いてごらんといった。一年生はすぐ答えを書いて、ハイ、ハイと手をあげた。その中に、手をあげない子がひとりいた。先生はその子のそばにじっと立って感心していた。その答案は黒く塗りつぶされ、その中に白い丸が注意深く塗りのこされていた。

    ☆関連図書(既読)
    「語りつぐ戦後史(上)」鶴見俊輔著、講談社文庫、1975.08.15
    「語りつぐ戦後史(下)」鶴見俊輔著、講談社文庫、1975.09.15
    「グアダルーペの聖母」鶴見俊輔著、筑摩書房、1976.07.15
    「右であれ左であれ、わが祖国」オーウェル著・鶴見俊輔訳、平凡社、1971.10.25
    (2016年2月1日・記)
    (「BOOK」データベースより)amazon
    戦後思想史に独自の軌跡をしるす著者が、戦中・戦後をとおして出会った多くの人や本、自らの決断などを縦横に語る。抜きん出た知性と独特の感性が光る多彩な回想のなかでも、その北米体験と戦争経験は、著者の原点を鮮やかに示している。著者八十歳から七年にわたり綴った『図書』連載「一月一話」の集成に、書き下ろしの終章を付す。

  • 「波風立男氏の生活と意見」で書いた感想参照→
    http://blog.goo.ne.jp/namikazetateo/e/888587fa24219a873c7fe653bb84a2e2

  • 読了。

  • 氏の思想の基層を成しているのは、5歳のときに号外で知った張作霖爆殺と米国による日本への2発の原爆投下という歴史であるように思えました。並外れた知性と感性から語られる言葉のひとつひとつに強い共感を覚えました。また、この書で触れられているピアズ・ポール・リード著『生存者-アンデス山中の七〇日』や水木しげる著『河童の三平』を読んでみたいと思います。

  • これは文体のつるつるした感じがとても素晴らしい。

  • ・驚くべき博識、柔らかい感受性、抑制の利いた名文。まさに範とすべき珠玉の文章群だ。しかし、そのような賛辞ですら本質的ではないと思えてしまうのは、氏が本物の思想家であるからだろう。

    「この戦争で、日本が米国に負けることはわかっている。日本が正しいと思っているわけではない。しかし、負けるときには負ける側にいたいという気がした」(p34)

    「日米交換船に乗るかときかれたとき、乗ると答えたのは、日本国家に対する忠誠心からではない。なにか底に、別のものがあった。国家に対する無条件の忠誠を誓わずに生きる自分を、国家の中に置く望み」(p225)

    ・その「気」や「なにか別のもの」について、氏は、「ぼんやりしているが、自分にとってしっかりした思想」(p34)という曖昧な表現を与えるのみで、明晰に語ろうとしない。おそらく、明晰に語ることによって、思想が思想でなくなることを深く自覚しているからであろう。氏ほどの文筆家が、「言葉にならない思い」を大切にしているという、この一事を以って、私は氏を本物の思想家と見なす。

    ・惜しむらくは、過去の著作との重複が多かったこと。

  • 「自分にとってしっかりした思想」という話が印象に残った。
    「この戦争で、日本が米国に負けることはわかっている。日本が正しいと思っているわけではない。しかし、負けるときには負ける側にいたいという気がした。」という一文。

  • 人生の大先輩の言葉ひとつひとつが重みをもってのしかかり、激励してくるかのような読後感だった

  • 岩波の「図書」で読んだはずだが,記憶のない話もかなりあった.でも,哲学者というのはものを考える基本が異なっている感じがする.
    膝を打つ話が満載だ.

  •  戦中、戦後を通して出会ってきた多くの人、本、出来事について語る。歯に布着せぬ物言いで読んでいて心地よく、簡素な文体であるにもかかわらず非常に滋味溢れている。気が利いたこと、本質を突くようなこと、その鋭さは、二人は全く違ったタイプの人間であるが小林秀雄先生を思い起こさせた。

    吉本隆明の『追悼私記』「三島由紀夫」には、こうある。

    「知行が一致するのは動物だけだ。人間も動物だが、知行の不可避的な矛盾から、はじめて人間意識は発生した。そこで人間は動物でありながら人間と呼ばれるものになった。
     <知>は行動の一様式である。これは手や足を動かして行動するのと、まさしく同じ意味で行動であるということを徹底してかんがえるべきである。つまらぬ哲学はつまらぬ行動に帰結する。なにが陽明学だ。なにが理論と実践の弁証法的統一だ。(中略)こういう哲学にふりまわされたものが、権力を獲得したとき、なにをするかは、世界史的に証明済みである。こういう哲学の内部では、人間は自ら動物になるか、他者を動物に仕立てるために、強圧を加えるようになるか、のいづれかである。」

     他方著者は今もって三島について感想をまとめられないという。三島の自死のしらせを聞いたときのうろたえがまだのこっているのだと。
     追悼の言葉は日常の言葉とかわらない。まにあわないことがあるのだ。と

    そして今日、アップルのCEOであるジョブズの死の知らせを聞いた。追悼の心はある。しかし感想はまとめられない。
    言葉がいま感じているその心に足りないこともある。

著者プロフィール

1922年東京生まれ。哲学者。15歳で渡米、ハーヴァード大学でプラグマティズムを学ぶ。アナキスト容疑で逮捕されたが、留置場で論文を書きあげ卒業。交換船で帰国、海外バタビア在勤部官府に軍属として勤務。戦後、渡辺慧、都留重人、丸山眞男、武谷三男、武田清子、鶴見和子と『思想の科学』を創刊。アメリカ哲学の紹介や大衆文化研究などのサークル活動を行う。京都大学、東京工業大学、同志社大学で教鞭をとる。60年安保改定に反対、市民グループ「声なき声の会」をつくる。六五年、ベ平連に参加。アメリカの脱走兵を支援する運動に加わる。70年、警官隊導入に反対して同志社大学教授を辞任。著書に『鶴見俊輔集』(全17巻、筑摩書房)『鶴見俊輔座談』(全10巻、晶文社)『鶴見俊輔書評集成』(全3巻、みすず書房)『戦後日本の大衆文化史』『戦後日本の精神史』(岩波書店)『アメノウズメ伝』(平凡社)ほか。

「2015年 『昭和を語る 鶴見俊輔座談』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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