前方後円墳の世界 (岩波新書)

著者 :
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004312642

作品紹介・あらすじ

見る者を圧倒する巨大な墓、前方後円墳。造られた当初は、全体が石で覆われ、時に埴輪をめぐらすなど、さらなる威容を誇っていた。三世紀半ばから約三五〇年間、この巨大古墳が列島各地に造られたのはなぜなのか。共通する墳形にはどんな意味があるのか。史跡として復元・整備された古墳を歩きつつ、その世界観や地域相互の関係に迫る。

感想・レビュー・書評

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  • 前方後円墳国家の提唱者による易しい概説書ふうの本。著者の古墳時代への愛が感じられる一冊。<亡き首長がカミ化して共同体を守護する>ための装置としての古墳を論じていく。遺骸が保護・密閉・辟邪されることでカミ化する。前方後円墳とはなんといっても<共通性と階層性をみせる墳墓>であり<見る/見せる>ための墳墓である。その本質は<祭祀と政治があらわされた墓制>ということになるらしい。かなり概念的な部分は突然難しくなるのでサクサク読もうとすると注意が必要。内方外円区画が示すのは「天円地方」思想の影響(中国)らしいとのことだが、それは前方後円墳にも影響するらしい。近藤氏の首長霊交代儀式論に対しては否定的な見解を持っている。霊魂観(霊肉分離の観念)の成立は
    実証が難しい。装飾古墳の装飾部の拡大を持ってそれを論じていこうとする。このあたりがこの本の一番難しいところで重要な部分はないかと思うが88pから86pを読んでくださいとしか言いようがない。簡単に言うことで霊魂という思想が加わることで共同の祭祀が個人の祭祀にかわると。難しいです。。。
    後半は日本列島の古墳全体の中で畿内をどう位置づけるか。筆者は中央ー地方関係は否定できないという論調。なんだかんだいって畿内がすごいというのは、確かになと思う。那須には前方後方墳がおおいらしい。
    あと河内王朝論も否定していく。首長連合であったという説。東北・壱岐への目配りも忘れない。
    著者のほかの本が読みたくなったと思うと同時に、たくさんいろんな史跡に行ってみたいと思わせてくれる本だった。

  • 「はじめに」の最後ですが、考古学は研究者だけのものではありません。
    彼らが提出した歴史叙述をもとにそれらにたいして異なった歴史を描くのは万人の自由です。
    歴史的想像力を飛翔させるのは、意志をもった各人の特権なのです。
    人や自然にたいして、それが欠落しつつあるように見えるいまこそ、そして知性に貧困をきたさないためにも、想像力を涵養しうる歴史的拠点が大切なのです。
    本書はそうした思いで編んだものです。
    ということで、以下の内容で書かれています。
    プロローグ
     東京の古墳公園を訪ねて
    Ⅰ前方後円墳を読む
     1<見る/見せる>墳墓・前方後円墳
      ―その形と立地ー
     2死してカミとなった首長
      ―前歩後円墳の祭祀ー
     3弥生神殿のゆくえ
      ―葬送観念の連続・不連続ー
     4古墳時代の霊魂観
      ―装飾古墳から考える―
    Ⅱ前方後円墳どうしのつながりを読む
     5初期大和政権の実像
      ―畿内五大古墳群―
     6地方首長をどのように統治したのか
      ―九州と東国の例から―
     7変わりゆく中央と地方
      五世紀・東アジア情勢のなかで―
     8北と南の国家フロンティア
    エピローグ
     ―古墳時代の新たな見方―
    あとがき
    となっています。
    大事なことは、エピローグで書かれていました。

    誤解をおそれずにいっておくと、そうした古墳時代像は根本のところで、律令国家の正統性を著した『日本書紀』の体系的叙述に縛られているのです。
    もうひとつ言うならば、戦後の知識人をひろく覆った「歴史は発展する」との歴史観が、そうした見方の根っこにあります。
    <未開から文明へ>と、人間の社会は発展していくという考え方で、前期から中期、そして後期へと、未開的な古墳時代が順調に「発展」し、文字をもった文明的な律令国家が成立した、というものです。
    「古墳時代は律令国家の前史だ、古代国家の形成過程だ」が、考古学を含めた古代史研究者の、古墳時代の通説になっています。
    ところが、前方後円墳の350年間が律令国家を準備した、との謂についての十分な検証はなされてきたのかというと、はなはだ心許ないのです。

    ということで、この本により、新たな視点で、古墳時代の日本の歴史をかじらせていただきました(感謝)。 

  • 250を超える前方後円墳の索引があるのがすごい。
     巡礼もいいが、前方後円墳めぐりもいいかもしれない。
     著者に、旅行ガイドを作って欲しいと思った。
     あるいは写真集を出してもらえると嬉しい。

  • 前方後円墳について、優しい語り口で説いています。
    とてもわかりやすく、私も生徒に推薦しようかと思っています。
    古墳時代の政治的なものを古墳の形や大きさ、地域分布から分析したもので、そこまで割り切れるのかな?とも思いますが、「見せる古墳」については、賛成です。

  • 古墳と言えば「鬱蒼とした森」のイメージ。埋葬された首長は森の奥深くに納められたと思っていたけれど、実際の古墳は表面を石で葺かれ、最上部や中間のテラスには埴輪が配置され、周囲の人にその権威を「見せるため」のモニュメントだったという。古墳国家は後の世代の律令国家に至る前段階の(未成熟な国家だったという教科書にも載る定説を覆す新しい古墳国家のイメージが本書で提言されます。代表的な古墳がある場所が、背後に生産地(農地)になる場所を持っていず、水際に多いという事から集落の民に見せるための墳墓ではなく、外来者にその権威を誇示するためだったという説を丁寧に解説してくださいます。新書向けということで、丁寧に解説してはいるものの、考古学の世界では当たり前の用語についての説明が不足している感もあるのですが、考古学の面白さが伝わる一冊でした。

  • 教科書には、「前方後円墳や前方後方墳、円墳方墳などがあります」って書いてあるけど、その違いってなんなんだろうっていう疑問が解けた。

  • あらためて、前方後円墳の多さに驚きました。
    歴史観がパラダイム変換されないと、古墳時代理解が充分にできないのだろうなぁ・・・と思いました。
    とてもたくさんの古墳の名前が出てきました。
    でも、とても読みやすくておもしろかった。
    古墳への関心が芽生えそうです。

  • あまりにも自分の知識が足りないので著者の意図がすくい上げられないのが悔しい。
    当たり前のことなのかもしれないが、前方後円墳が「見られる」事を意図とし、また人と物のネットワークを示すものということは本書を手にするまでまったく意識したことなかった。なにしろ古墳に興味なかったもんな〜。

  • 史跡公園としての古墳を歩いて考えたくなる刺激的な本です。
    古墳・遺跡名一覧も役に立ちます。「前方後円墳国家」についてもっと知りたくなりました。堺の大山古墳(だいせんこふん)は仁徳陵といわれていますが、近くで見ても大きすぎて分かりません。神戸の五色塚古墳は葺石と円筒埴輪からなるモニュメントです。際立った違いがあるのですが、本来の古墳の姿を再現したもののほうがいいですね。本書で書かれなかった。「古墳時代の首長」「緋農耕民の統治」「古墳ではない古墳時代の墓制」などのテーマも気になります。

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著者プロフィール

国立歴史民俗博物館名誉教授、総合研究大学院大学名誉教授
1947年京都市生まれ。大阪府教育委員会、大阪府立弥生文化博物館勤務ののち、奈良女子大学大学院教授。
主な著書に、『古墳時代政治構造の研究』(塙書房)、『前方後円墳の世界』(岩波新書)、『カミ観念と古代国家』(角川叢書)、『古墳時代像を再考する』(同成社)、『前方後円墳国家』(角川選書、中公文庫)、『前方後円墳とはなにか』(中公叢書)などがある。

「2023年 『淀川流域の古墳時代』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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