ことばと思考 (岩波新書)

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  • 岩波書店
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レビュー : 58
  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004312789

作品紹介・あらすじ

私たちは、ことばを通して世界を見たり、ものごとを考えたりする。では、異なる言語を話す日本人と外国人では、認識や思考のあり方は異なるのだろうか。「前・後・左・右」のない言語の位置表現、ことばの獲得が子どもの思考に与える影響など、興味深い調査・実験の成果をふんだんに紹介しながら、認知心理学の立場から明らかにする。

感想・レビュー・書評

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  •  中国語や英語では、時計は“鐘”clock“表”watch、カギも“yaoshi”keyと“鎖”lockに分けられる。こんなふうに、言語によって、世界がいろんなふうに切り分けられていることは、鈴木孝夫さんの『ことばと文化』『日本語と外国語』(岩波新書)等によって、日本でもよく知られるようになった。しかし、ことばの分化が認識に影響するかどうかは、サピア・ウオーフの仮説をどう評価するかにもかかわる古くて新しい問題だ。色の種類を二つしかもたない民族でも、色の識別はできるということがわかって、認識はことばに関係ない、ということも言われるようになった。たしかに、人間の認識というものは基本的なところでは、驚くほど一致する。しかし、ことばが認識に影響を与えることはないのだろうか。本書は、著者がそのような問題意識にたち、実験心理学の成果をふまえ、人間の認識の普遍性と、ことばが認識に影響を与える事例を興味深く提示する。普遍性にかかわるものを一つあげれば、英語や他の言語では「歩く」や「走る」を表す動詞がたくさん存在するが、「歩く」と「走る」の間は、多くの言語ではっきり分かれるとか、色の認識は確かにその核となる部分では一致するが、周辺部の色名が変わる部分ではことばに左右されることがあることをロシア語の例を引いて述べている。日本語と中国語はともに助数詞をもっているが、中国人が「椅子、傘、包丁」を共通のものとしてくくろうとする傾向は、同じ助数詞(“把”)を使っていることから来ている、などの指摘はとても興味深い。(ぼくも「言語文化論」の授業で実験してみたが、その通りだった)バイリンガルの思考と言語がどうかかわっているかの記述も興味深いが、それは本書を手にとって読んでほしい。もっとも、今井さんの関心は、認識が先か言語が先かということではなく、わたしたち人間の認識と思考に言語がどれほどかかわっているかを明らかにすることだという。熟読玩味に値する、深い本である。

  • とても興味深い本でした。

    日本に生まれて、日本語の観点で自然にものを見ている事を改めて知ることが出来た。
    色を「明るい・暗い」の2語しかない言語や「1と2しかない」言語
    世界中の様々な言語についても取り上げている。
    その言葉を使いこなす民族の思考をいろんな実験から解く。

    生き物としての人とねずみやチンパンジー・オラウータンなどとの比較もおもしろい。
    まだ言葉を習得していない赤ちゃんたちの反応も面白く、子供の発達に興味がある方はぜひ読んでほしい。

  • - 異なる言語の話者は世界を異なる形で見ている - 『サピア・ウォーフの仮説』要約

    違う言葉の国の人が自分とは違う世界を生きているとしたら、興味深くないですか?

    『サピア・ウォーフの仮説』を元に、ことばと思考の関わりについて書かれた本


    オーストラリアのアボリジニのある言語では、『前後左右』(相対座標)に相当することばを持たない代わりに、『東西南北』(絶対座標)
    を瞬時に把握する能力に秀でているらしい。

  • 目次:序章 ことばから見る世界、第一章 言語は世界を切り分ける、第二章 言語が異なれば、認識も異なるか、第三章 言語の普遍性を探る、第四章 子どもの思想はどう発達するか、第五章 ことばは認識にどう影響するか…他

  • 難しかったけど、面白かった!

    他の言語を知る意義に納得がいった。
    こういう事を学校で教えてくれたらいいのに。

  •  ロバート・シルヴァーバーグの『禁じられた惑星』は「わたし」ということばが禁じられた惑星の物語。扉の紹介文を読んだとき、「わたし」の概念がない人々の話とはすごいと思ったものだが、それは早合点だった。「わたし」という言葉はあるのだが、その惑星の社会では使ってはいけないだけだった。では、「わたし」という言葉がなかったら「わたし」という概念は生じないのだろうか。
     言語学の有名なテーゼにサピア−ウォーフの仮説がある。人間の認識は言語によって規定されてしまい、異なった言語を持つ人は異なった世界を見ているということである。これに従うならば、「わたし」という言葉がなければ「わたし」という概念は生じないのかもしれない。

     認知言語学の入門書(『言語学の教室』)を読んだので、今度は認知心理学からみた言語。まずはサピア−ウォーフの仮説を提示し、心理学実験で実際どうなのかを解説していく。虹の色が何色かというのは言語学で有名な問題だが、色を表す基本語(「黄緑」のように複合的に作ったのではない言葉)の数は言語によってかなり違い、英語や日本語は多い方だという。極端には「明るい色」と「暗い色」と二つしかない言語もある。
     フランス語やドイツ語のように名詞にそれぞれ性のある言語。ドイツ語は男性・女性・中性と3つの文法的性があるが、4つ以上の文法的性のある言語も存在する。
     このように言語が世界を切り分けるさまが示された上で、言語が異なれば認識も異なるかが問われる。確かに文法的に女性の動物を示してオスかメスか問うと、その言語の話者は女性名詞の動物をメスととらえる率が高いといった実験がある。他方、「明るい色」と「暗い色」と二つしかない言語の話者も、英語の基本語の色、つまり赤や青は記憶しやすいが、複合語で示されるような中間色は記憶しにくいというように、言語を越えて、あるいは言語の背後で人間の基本的な認知能力に規定されている部分がある。すなわち、言語は認知を歪ませることがある。

     そこで話は発達の問題となる。赤ちゃんの認知を調べると、かなりプレーンにいろいろなことに関心が向く。ところが特定の言語環境に置かれ続けることで、その認知はその言語の特性にそって歪んでいく。
     いや、歪んだほうがいいのだ。ひとつはその母語にとって重要な認知に振り向けるという意味がある。そして知覚を超えて推論したりする能力を言語は与えてくれるので、それは生存に役に立つ。さらに、言語は認知に飛躍的な発達を可能にする。
     これは本書には書かれていないが、プレーンに広がる赤ちゃんの認知は自閉症の認知に近い。自閉症の人は感覚の洪水に溺れてしまうので、様々な方法で感覚を遮断しようとするが、われわれは言語によって認知を歪ませることで、感覚を遮断しているのである。
     そして大人においても、認知が言語によって歪む。例えば、図形を見せて記憶させる課題で、傍らに言葉を記しておくことで、その言葉に引きずられて記憶が歪むのだ。

     結局、われわれの思考は言語というウイルスに感染した脳によって行われているというイメージなのではないかと評者は思う。「わたし」という単語のない言語の話者は、しかし、その言葉がなくとも「わたし」に類した概念を持ち、日本語の「わたし」を理解することができるだろう。しかしその「わたし」は日本語話者である「わたし」の「わたし」とは幾分違ったものにならざるを得ないだろう。

  • 「思考はことばで行うものであり、ことばのあり方が思考のあり方を決定している」と、つい言い切ってしまいがちだが、話はそれほど単純でないということを、異言語や動物や子供などに対する様々な実験の結果を紹介しつつ明らかにしている。ことばなしでもある程度世界の切り分けが行われており、それをより精密に切り分ける過程で言語の影響がみられるらしい。この本を読んで、ことばと思考の関係についてバランスのとれた見方ができるようになったように思う。また、様々な実験の内容が実におもしろい。

  • 最近、中間対応時の現地代理人への指示書作成では言葉をできるだけ使わないようにしています。たとえば、クレームの補正案は自分で作らず、公知例との差を説明するために図を使って、「図に基づいてクレームを補正を作成して下さい」と指示しています。
     
    先日の米国出張でも実感しましたが、言葉に対する感覚は米国人と日本人とでかなり違います。公知例と違いを表現できていると思っている文言が思いも寄らない方向で解釈され、現地の代理人とうまく意思疎通を図れないことがありました。

    伝えたいことを伝える、ということは本当に難しいものです。「わかってもらえる」なんて思って指示書を作成したら、「伝えたいことの十分の一も伝わっていない」と考えたほうが良いと思います。現状のベターな方策として図による意思疎通を図っていますが、言葉で飯を食っている人間としては、やはり、言葉で適切に伝えられる努力をしなければなりません。

  • ことばと思考、認識をめぐる論考。
    言語の違いによる思考の違いだけでなく、子どもがことばを獲得していくことで、認識がどう形成されるのかを、さまざまな実験をもとに検討している。子どもがちょうど、言葉をどんどん覚える時期なので、娘も今、世界をカテゴライズして認識していっているのか、と興味深かった。
    文章も読みやすく、秀逸。
    (2015.3)

  • まさに「ことば」と「思考」の関係に迫る内容。

    異なる言語における「共通性」と「多様性」
    子どもの発達における、「ことば」と「思考」の絡み合い

    「ことば」によって動物的な認知から抽象的な概念操作ができるようになる様子は、教育(乳幼児から大学まで)に関わる人にとって無視できない知見です。

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