日本語の古典 (岩波新書)

著者 :
  • 岩波書店
3.88
  • (16)
  • (32)
  • (16)
  • (4)
  • (0)
本棚登録 : 332
レビュー : 36
  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004312871

作品紹介・あらすじ

奈良時代の『古事記』から江戸末期の『春色梅児誉美』まで、歴代の名作三〇を取り上げて、言葉と表現を切り口にその面白さを解き明かしていく。登場人物の言葉遣いや鮮やかな比喩、擬音語・擬態語の生き生きとした効果などがよく分かる選び抜かれた原文を味わいながら、古典の底力、日本語の魅力を再発見できる、斬新な古典文学入門。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
  • 現代文は読めても、古典は不得意だった。同じ日本語なのに、いや、だからこそ、遠い感じがする。
    どうしても意味が分からずいたところ、高2の夏休み、敬語を勉強したことで、一気に目の前が開けた思いがした。
    日本語は、地の文に「○○がいった」となくても、敬語で登場人物の誰それが判断できる! そして、そのうちのいくつかは、暗記なのだ!

    それからというもの、得意とはいわないまでも、苦手意識はなくなった。
    冒頭を暗記するだけが能じゃなくなったのである。

    ひとくくりに「古典」といっても、かなり違いはある。
    江戸期のものは、文章もかなり読みやすく思うし、仮名も振られた大衆本なら、原書でも何となくわかるかもしれない。

    それより前にも、なんと、豊かな古典の世界が広がっているものかと思う。
    著者の山口氏は、その古典の特徴を解き明かす形で紹介しているが、書き手の姿が見えるようである。これまで、古典といえば、昔の誰かが書いた難しいものとなっていたものが、ぐっとイキイキしてきた。

    「古事記」は、当時の人のものの考え方が浮き上がる。言葉を勘違いして疎まれ、「言挙げ」することで身を滅ぼしていった、オウスノミコト。その生涯を通して、言葉に魂が宿る国を垣間見る。

    ご存知「竹取物語」の作者は、粗野な言葉を使う男性。美しさで男を惑わせ、道を誤らせたかぐや姫の言葉遣いも漢文訓読文に近い。優美な女性というよりは、確かにツンとした天の罪人としてのこの世のものでなさを強調しているのかもしれない。

    比べられる「伊勢物語」と「大和物語」どちらも歌物語だけれども、歌の重要度が違う。「伊勢物語」では、貫く愛が尊ばれる。それは、虚構に似た美しさなのだろう。比べて「大和物語」は、つじつまの合う話であることが大事。語り口調が、噂話としての姿を透かし出す。

    「源氏物語」には、紫式部の物語る力がみなぎっており、表現の美しさ、物語構成の巧みさ、文の調子の整え方の秀逸さが光る。
    ラブストーリーとはいえ、当時までの文学、漢籍の教養を基にした大長編は、世界に誇れる名作。しかも、作品のために作った言葉や、特定の登場人物のためにだけ使う言葉を選び抜き、計算を重ねて作り上げられている。
    この作品を「日本語」で読めることに感謝しなくてはならないかも。

    随筆として挙げられる「枕草子」「徒然草」「方丈記」も、特徴がかなり違う。
    「枕草子」は、ご存知、清少納言がほんの少しの間仕えた中宮定子のサロンでのこととともに、様々な事物を鋭い感性で描く。
    「徒然草」の吉田兼好は、女好きなのに、僧侶になり、女への思いを捨てられず、悪戦苦闘した跡を意地悪くも感じ取る山口氏。
    「方丈記」は、ドキュメンタリーで、町が1/3焼ける大火事と町を薙ぎ払う大辻風、遷都をはさんで大飢饉、さらに大震災に遭遇するという、一つでも一大事を軒並み体験した鴨長明が、卓越した記憶力と誇張のない表現で、記憶を頼りに綴ったもの。
    冒頭に「ゆく河の流れは絶えずして しかも元の水にあらず よどみに浮かぶ うたかたは……」とあるのは、大事が人を錬成したと見える。

    日記も二つ、「蜻蛉日記」は、百人一首の右大将道綱の母で知られる日本三大美人の一人が書いた、藤原兼家との愛の顛末。妻問婚と一夫多妻制の時代にあって、「自分だけを愛して」とつれなくしてしまう、その時代に抗う切なさに、男は小憎らしく疎ましく思ったとしても、やはり、共感する。
    一方の「とはずがたり」は、昭和の時代まで秘された幻の書! 鎌倉時代の後深草院の妾となった二条という女性の愛欲日記。ばれるのが恐ろしいとは言いつつも、良心の呵責は感じない、流されるままに何人もと関係を持ち、ついには、後深草院と敵対関係にある亀山院と関係をもって、御所を追い出される。
    うー。こんな日記を後世、読まれるのは、どんな心持だろう。

    江戸期といえば、幕府の統制と闘いつつも、庶民が楽しむ文学が花咲いた。そのため、やや、格調はおざなりに、安っぽくとも、親しみをもてる作品が多い印象。井原西鶴「好色一代男」は、7歳で性に目覚め、60歳で女がつかみ取りできるという島へ旅立つまでの遍歴を描いている。その文章も、軽妙に、古典を滑稽に取り交ぜつつ語っていく。
    しかし、格調は感動を助ける。近松門左衛門といえば、ご存知「曾根崎心中」。水も滴る醤油屋の手代と美しい売れっ子遊女の心中がもとになった人形浄瑠璃の脚本である。
    「此の世のなごり。夜もなごり。死にゆく身をたとふれば、あだしが原の道の塩。一足ずつに消えてゆく。夢の夢こそあはれなれ。……我とそなたは女夫星。必ずそふと縋り寄り。二人が中に降る涙。川の水嵩も増さるべし。
    と、ここなど、ぜひ、現代語訳ではなく、原文を音読しつつ味わってほしい、七五調の名文。地の文と会話文が同化し、登場人物に寄り添いつつ語っていくことで、読む人も同化していく。

    中からいくつか紹介したが、ううう。ほとんど読めていないよ。現代語訳すら。
    「古」は全く、新しい!

    • カンキンさん
      「聞いたことがある」程度で、中身をよく知らないままの物語や文学が多いのが残念です。

      古典の授業は、文の読み方にすべきか、それとも、現代...
      「聞いたことがある」程度で、中身をよく知らないままの物語や文学が多いのが残念です。

      古典の授業は、文の読み方にすべきか、それとも、現代語訳でよいから、とにかくいろいろな作品を紹介するのがよいのか悩むところです。
      2018/06/11
    • シャーンドルさん
      それは難しいですよね。今や日本の古典に興味を持たせること自体が難しいし・・・。「古典って面白いんだよ」とアピールするにはどうすればいいんでし...
      それは難しいですよね。今や日本の古典に興味を持たせること自体が難しいし・・・。「古典って面白いんだよ」とアピールするにはどうすればいいんでしょうね。


      2018/06/16
    • カンキンさん
      やはり、アニメでしょうか。

      そういえば、橋本治の「マンガで読む古典」は、NHKでアニメになっていましたが、面白かったです。
      やはり、アニメでしょうか。

      そういえば、橋本治の「マンガで読む古典」は、NHKでアニメになっていましたが、面白かったです。
      2018/06/16
  • 高野秀行さんがツイッターで「私的殿堂入り」と紹介していたので読んでみた。なるほど、これはわかりやすくて面白い。平易な言葉で説明されているが、上っ面をなでただけのものではなくて、興味深かった。

    「言葉」を切り口にして、テーマを設定して読んでいくというスタイルが新鮮だ。あらすじ説明はほどほどにして、「読みどころ」が原文も交えて紹介されている。知っているつもりの作品の、新たな魅力に気づかされるものあり、古典初心者も、古典好きも楽しめると思う。

    内田樹氏が、欧米の学者は一般向けの書物を書くことはあまりないと書いていて、へぇ~と思ったことがある。そうならば、専門の研究者が書いたこういう本を読める日本の読者は幸せだなあ。



    ちょっと不満を言うと、体言止めの文が多すぎるのでは? いったん気になるとどうにも目についてしまうのだけど…。体言止めの多用って素人っぽいと思うのは私だけ?

  • 2011/03/29-2015/03/07
    大変残念な内容である。現役高校生には価値があろうが、私にとってな「何を今更」である。知らなくても生きていけるし、知っているから豊かとも言えないだろう。

  • 古典入門に最適かと
    長すぎず、要所要所を取り上げててわかりやすいです

  • 古典を読むことは、物の見方を相対化することだと、古典を読む意味合いが最初に挙げられていた。
    語り口が優しく。先生の授業を聞いているかのよう。
    それぞれの時代から古典が取り上げられているけど、私は平安時代ぐらいの物語が好きなんだなって思った。
    古文の文法が得意だったら、原文でもっと楽しめるのになぁ。

  • あらすじを紹介するのではなく、全30編の古典それぞれにテーマを決めて解説した本です。どこが読みどころかではなく、どう面白いか。これまであまり興味を持てなかった作品も実は思い込んでいるだけだったようで、こういう話なら読んでみようかと思うことが多かったです。
    本でもテレビでもいいのですが、自分が読んだり見たりしたものを、やたら上手に説明する人っていますよね?そんな感じの本と思いました。

  • 「枕草子」や「源氏物語」はもちろんのこと、「方丈記」、「奥の細道」、「曾根崎心中」、「東海道中膝栗毛」、「南総里見八犬伝」等々さまざまな古典文学を取り上げて焦点を絞り解説している。
    著者は特に平安文学を中心として日本語の歴史を研究する先生のようですが、この本はとてもわかりやすく書かれている。古典文学に興味のない方でも楽しめるのではないかと感じる。
    私は今まで江戸後期、明治前夜頃の古典は読もうと思わなかったが、本書を読ませていただいたことでとても興味が湧いてきた。

  • [配架場所]2F展示 [請求記号]080/I-3 [資料番号]2011100609

  • 古典文学を日本語の観点から紹介しています。
    源氏物語の文体はやはり優れていたのだなぁと、しみじみと思いました。
    竹取物語が意外にも男性的だったりと、新たな発見もありました。

    全体的に主観的な書き方なのは否めませんが、研究者としてたんたんと語られたものよりは、エッセイ風で読みやすかった。
    読みたい古典文学が増えました。

  • 古典の入門書。

全36件中 1 - 10件を表示

プロフィール

1943年生まれ。お茶の水女子大学卒、東京大学大学院修了。文学博士。実践女子大学教授、埼玉大学教授、明治大学教授等を経て、現在、埼玉大学名誉教授。2008年、紫綬褒章。著書に、『平安文学の文体の研究』(明治書院、金田一京助博士記念賞)、『生きていることば』『すらすら読める今昔物語集』『すらすら読める枕草子』『若者言葉に耳をすませば』(講談社)、『ちんちん千鳥のなく声は』(大修館書店、講談社学術文庫)、『犬は「びよ」と鳴いていた』(光文社)、『日本語の歴史』(岩波書店、日本エッセイスト・クラブ賞)、『日本語の古典』(岩波書店)、『大学教授がガンになってわかったこと』(幻冬舎)など多数。

山口仲美の作品

日本語の古典 (岩波新書)を本棚に登録しているひと

ツイートする