王朝文学の楽しみ (岩波新書)

著者 :
  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004312949

作品紹介・あらすじ

『源氏物語』『枕草子』『伊勢物語』など「王朝古典」には誰もが学校の「古文」などで触れるが、その本当の面白さは教科書に採用されぬ部分にある、と著者は断言する。誰もがかかえる愚かしさ、燃えるような嫉妬心、権力者との危うい関わり…。今も変わらぬ人間の本性を映す世界へ、現代的な感覚、小気味よい筆運びで案内する。

感想・レビュー・書評

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  • 朝な日【け】に見べき君としたのまねば思ひ立ちぬる草枕なり
     寵【うつく】

     今どきの学生たちは、何かと忙しい。授業のない日はアルバイトをし、企業のインターンシップにも1年生から参加。公務員講座も2年生の後期から始まる。
    そんな学生たちに、短歌の「お題」を問うと、「徹夜明け」という痛々しい語が上位に選ばれた。さっそく、その五文字を取り入れた「折句【おりく】」を作ってもらうと―

     手鏡で罪の重さを焼きつける甘え上手なケーキと私
         鈴木涼太

     五七五七七それぞれの頭語をつなぐと、「てつやあけ」の語が現れる。「罪」というずしりと重い語に、「甘え上手」という愛らしい語を取り合わせ、その配合の妙に、思わず笑みがこぼれてしまう。徹夜明けには、遊び心が格好の処方箋なのだ。

     和歌の時代にも、折句をはじめ、さまざまな遊びが試みられていた。掲出歌は「古今和歌集」のもので、作者は、貴族に仕えた女性。生没年などは不明だが、位の高い人物の家族であったらしい。

     これは離別歌で、歌の前に「常陸【ひたち】へまかりける時に、藤原公利【きみとし】によみてつかはしける」という説明がある。よく読むと、彼の名前が「君とし」と歌われ、「思ひ立ち」に「ひたち」の地名が詠み込まれている。

     尾崎左永子の著書によると、歌意は、朝にも昼にもいつも会って頼みにできるあなたとは思えないので、常陸に旅立つつもりです、というストレートな別れの内容だとか。言葉遊びゆえ、きつい印象は受けず、別れ下手という方はどうぞお手本に。
    (2017年10月22日掲載)

  • 王朝文学のおもしろさについて著者の考えが述べられているエッセイです。

    著者が歌人ということもあってなのか、本書は『古今和歌集』の魅力を語ることからはじめられています。正岡子規によって否定された古今集ですが、著者は王朝の歌人たちが宮廷での生活においてどのようなたのしみをあじわっていたのかということを示すものとして、その「歌」をとらえなおします。そして、このような古今集の魅力は、王朝文学に書きつづられた人びとの感受性と密接につながっていると主張します。

    著者自身の体験談を織り込みながら、『土佐日記』『蜻蛉日記』『和泉式部日記』『伊勢物語』『源氏物語』『枕草子』などの作品がとりあげられ、さらに王朝文学における美意識の終焉を示す『新古今和歌集』にまで説きおよんでいます。

    途中、有職故実の研究で知られる石村貞吉のもとで学んだ経験をもつ著者が、王朝文学をあじわうための基本的な知識を解説している章もあるのですが、いわゆる大学受験の「古文常識」の復習のようにも感じてしまいました。それよりも、著者の王朝文学のたのしみかたについて、もっと語ってほしかったという気がします。

  • 著者:尾崎左永子(おざき さえこ, 1927-)


    【目次】
    序 章 王朝文学の世界へ 001
    第1章 王朝文学、二つの柱 015
    第2章 『古今和歌集』の出現 025
    第3章 日記文学の面白さ 051
    1 『土佐日記』――はじめての「かな日記」 052
    2 『蜻蛉日記』――情炎と反抗 061
    3 『和泉式部日記』――新鮮な息づかい 069
    第4章 歌から物語へ 083
    1 詞書・歌語り・物語 084
    2 『伊勢物語』――その裏面 091
    3 『源氏物語』――男の心理、女の心理 111
    第5章 暮らしの背景-王朝文学理解のために 143
    1 住まいと衣装 147
    2 婚姻のかたち 163
    第6章 紫式部と清少納言 171
    1 藤原道長と紫式部・清少納言 172
    2 『枕草子』――思いの赴くままに 181
    第7章 『新古今和歌集』--王朝文学の終焉 209
    あとがき 231



    【目次】
    目次 [i-iii]

    序 章 王朝文学の世界へ 001
    私の場合/「王朝文学」とはなにか/古典の読み方――二つの方法/主語は敬語で見分ける/現代語と意味の異なることば

    第1章 王朝文学、二つの柱 015
    「かな」の発明/万葉仮名から「かな」へ/四季の美意識

    第2章 『古今和歌集』の出現 025
    唐歌から和歌(ヤマトウタ)へ/「『古今集』はくだらぬ集に有之候(コレアリソウロウ)」/和歌と短歌/「古今集」は王朝の「現代詩」/「うたう」ということ/『古今集』再生/『古今集』逍遥/貫之の梅/詠み込み歌の技法

    第3章 日記文学の面白さ 051
    1 『土佐日記』――はじめての「かな日記」 052
    女になりすまして書く/貴族たちの日誌/数詞の成り立ち
    2 『蜻蛉日記』――情炎と反抗 061
    美貌と才気の道綱母/ 嫉妬、屈辱、不満…
    3 『和泉式部日記』――新鮮な息づかい 069
    「夢よりもはかなき世の中を…」/急速に展開する恋/鶏の声に起こされて/『和泉式部集』の魅力/鋭い感性の故に…/

    第4章 歌から物語へ 083
    1 詞書・歌語り・物語 084
    歌が主役の「歌語り」/『竹取物語』『宇津保物語』
    2 『伊勢物語』――その裏面 091
    激しい政争の下で/長かった「禁書」の時代/書写した人の加筆?/透けて見える「雅びごころ」/「狩の使い」の美しさ/単なる好色男?
    3 『源氏物語』――男の心理、女の心理 111
    薫香を衣服に染み込ませて/紙――道長の権威の象徴/神聖視する傾向も/三部構成とその流れ/こまやかな心理描写/作者の才気に凄み/「母恋い」の物語/独立としての「女人出家」/表現力・構成力と音声的律動/知的操作の行き届いた歌

    第5章 暮らしの背景――王朝文学理解のために 143
    ある誤解――はじめに
    1 住まいと衣装 147
    平安京/内裏と「左右」/清涼殿と後宮/貴族の邸宅/屛障具/衣装のいろいろ
    2 婚姻のかたち 163
    「よばい」の慣習/恋文の役割/垣間見/通い婚の時代/「上」――正妻の地位

    第6章 紫式部と清少納言 171
    1 藤原道長と紫式部・清少納言 172
    「道長」という存在/浮かび上がる宮廷内の様子/定子方と彰子方
    2 『枕草子』――思いの赴くままに 181
    「四季」の感覚/「をかし」ばかりで単純?/会話の能力を武器として/函谷関海月の骨/索引の作れない『枕草子』/きびきびとした連想と文章/才をもてはやされて/美男子が好き/気の利かない男

    第7章 『新古今和歌集』――王朝文学の終焉 209
    後鳥羽院の思い入れ/王朝絵巻的展開/二重構造――本歌取り/配列の妙味/霧の美学/夢の忘れがたみ

    あとがき(平成二十三年一月 尾崎左永子) [231-232]

  • S910.23-イワ-R1294 300148947

  • 平安時代の古典文学に触れる本です。


    少し古典の知識があって読むと楽しめるかと思います。
    古典はフィーリングと思っていますが、本文で訳がほしいと感じたところもありました。
    古典の授業を爆睡していたら、本書だけじゃあわかりずらいかもです。

    源氏物語にたくさん触れてくれているのが好みです。和歌を使って末摘花や近江の君の無教養さを表現した紫式部はすごいと思います。
    「暮らしの背景」で平安時代の様子も簡単に捉えることができ、マメ知識が増えました。

  • とても分かりやすい。
    新書や古典にまだ慣れていない人にとっては入門書にもなりうる。
    内容としては、仮名成立~紫式部・清少納言~古今和歌集、そして王朝の生活などについてが著者の見解も含めながら、とても易しく解説されていた。
    けれどある程度古典に触れてきた人にとっては少し物足りない印象もある。
    わたしも実際趣味で1年半ほどちまちまと、そしてここ2ヶ月みっちり古典勉強をしただけの身だが、知っている知識の方が多かった気がした。
    なので新たな発見は勿論あったのだが、もう少し掘り下げてあるものが読みたいという気持ちに駆られた。
    けれど、逆に言うと、新書や古典に関して苦手意識を持っている人、又、古典(平安期)に触れていく際にどこから手をつければいいのか悩んでいる方にとっては、うってつけの本なのかな?とも思った。

  • 作品の紹介が分かりやすく情報量も適当で、古典入門に丁度いい印象。敢えて記さなかったというけどやはり出典が気になる話がちらほら。

  • 王朝文学とは、大陸文化の吸収から日本独自の文化を育みだした頃の文学を筆者は指している。だいたい平安時代のこと。
    当時の政治的状況や文化が王朝文学に溶け込んでいることがよくわかる。そして、雅とは何かというのもなんとなくわかったような。

  • 新着図書コーナー展示は、2週間です。
    通常の配架場所は、1階文庫本コーナー 請求記号910.23/O96

  • 古文の読み解き方というか、古典の面白さを紹介した本。途中、「皆ご存知の~」とか「~と言えば~だが」と書かれていたが、全然ご存知なく自分の知識のなさを悔やんだ。が、著者が1927年生まれということを知り、この本で悔やむ人が私以外にも数多くいるのではないかと思った。

    歌はポケベルのようなものだと思った。5・7・5・7・7といった限られた文字の中で今の気持ちを相手に伝え、受け取った方はお返事をする。ポケベルだったら「14106」かしら。そうやって今も昔も愛を育んできたのだと思った。

    尼さんはツルッパゲではなく、今のショートカットくらいにするとか、昔の生活についても触れており、古典を読むときに傍らに置いておく本のひとつになりそうだ。

  • 一般的には「王朝文学=平安時代」と認識されがちだが、著者は、日本の帰属が大陸伝来の文字や詩文を消化して、、宮廷貴族、学者、後宮とその女官等、平安京に住む限られた知識階級の人々が生み出した日本独特の文化特性とそれを象徴する文学的遺産を総称して王朝文化、王朝文学と呼んでいる。
    「古今和歌集」「土佐日記」紀貫之、「和泉式部日記」道綱母、「伊勢物語」「源氏物語」「枕草子」「新古今和歌集」後鳥羽院、などを通して、当時の宮廷界の文化的教養、暮らしぶり、恋愛観や作法、四季の移ろいに対する感受性と表現力の高さを紹介。
    著者は、同じ時代の才女ながら、紫式部は隙がなさすぎて好きになれない。一方、清少納言は、文人の家に生まれちやほやされて育ったせいか、言わなくてもいいことまで言ってしまう鼻っ柱の強い性格ながら、打たれ弱いので親近感がもてる等、単なる書評にとどまらず、作者の人柄や歴史的背景にまで言及しており、文学を読み解く面白さを教えてくれる。

    ■お気に入りの和歌
    物思へば沢の蛍もわが身よりあくがれいづる魂かとぞみゆ
    (和泉式部/後拾遺集)
    「あくがれいづる」は魂がふらふらと外にさまよいでる意で、後世に「憧憬(あこがれ)」の意に転化していくとのこと。

  • 歌人・エッセイストの著者が、王朝文学の魅力について書いています。お勧めです。

  • 古今和歌集から日記文学、歌物語、紫式部と清少納言を経て新古今和歌集まで成立の背景、構造が解説されている。
    日常生活や恋を和歌に託して生きていた平安から鎌倉時代の貴族たち。
    教養として古今集を踏まえているので王朝文学には古今集の知識が欠かせないらしい。
    四季の移ろい、恋心を繊細に表現している貴族たちはヨーロッパの19世紀の貴族たちのように優美である。

  • ある理由から本書を手にしたのですが、古典文学に縁も興味もほとんどなかった僕が楽しく読めたのはどうしたことか。これを読んで王朝文学に手が伸びるところ迄行けば良いのですが。(この頃は和歌がメール、Twitter代わりだったのだな、と思うのは行きすぎでしょうかね。)

    著者が校訂解題された『香道蘭之園』(淡交社)を手にしたことが有りますが、本書にも香りについての記述がちらっとあります。関心有る方は是非。

  • 教養が身につくというのはこういうことでしょうね。王朝文学を楽しみたい・・とは思うのですが、やはり紫式部のように古今集に通じていなくてはならない、清少納言は漢詩に通じて・・・となると、さかのぼってかなりの教養がないと読めないのだろうなぁ。それが気の重くなる原因かも。

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著者プロフィール

一九二七年東京生まれ。歌人。作家。歌集『さるびあ街』(松田さえこ名義)で第四回日本歌人クラブ賞受賞、『源氏の恋文』(求龍堂)で第三二回日本エッセイストクラブ賞受賞、第六歌集『夕霧峠』(砂子屋書房)で迢空賞受賞、『新訳:源氏物語1~4』(小学館)等の活動により神奈川県文化賞受賞。その他、著作多数。近刊に『自伝的短歌論』(砂子屋書房)がある。また「合唱組曲・蔵王」他、多くの作詞を手がける。

「2019年 『神山三輪山歌集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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