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Amazon.co.jp ・本 (224ページ) / ISBN・EAN: 9784004312994
感想・レビュー・書評
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藤井省造の魯迅論を読むのははじめてである。
魯迅について背景の時代や出生地環境、生い立ち、彼の作品、日本や中国での読まれ方、その後の世界への影響等要点を網羅して豊富な内容をわかりやすくうまくまとめている。時代を追った研究動向も付加し、魯迅という歴史的存在を俯瞰した傑作である。
疑問に思っていたことにも焦点を当て、痒いところに手が届く分析をしている。
竹内好の評価、その後の魯迅論、毛沢東の政治利用、
最近の傾向等々。
自分のなかに出来上がった魯迅像がより深みを増す、その充実感は格別で読後の満足感は半端ではない。
・医学を捨て文学を選ぶきっかけとなる絶望的な民衆の像を語る「幻冬事件」は長い歳月を経て魯迅の胸中に形成された「物語」である。中退までして仙台を離れて東京に戻ったのは「メディア都市での快感興奮を忘れられなかったためではあるまいか」
・同郷の先学である章炳麟の国粋哀惜の論理を学ぶ。
魯迅は最晩年にこの経学の大学者を「学問のある革命家」と評している。
・「光復会」に入り革命運動をやっている時、要人の暗殺を命じられ、残す母のことを言ったら、あとに心が残るようではダメだからやめろと言われ、やめた。
・根深い母親コンプレックス‥‥魯迅は1906年夏に帰国した際母の命に従い朱安と旧式結婚をしている。
彼女は纒足をしており文字も読めなかった。親がすべてを決め本人の意向は一切考慮されない。
魯迅は4ヶ月後彼女を置いて家を出る。
・増田渉が1931年上海に渡る際佐藤春夫が内山完造宛の紹介状を書いた。彼は毎日3時間魯迅のアパートに通って『吶喊』『彷徨』『中国小説史略』などの個人教授を受ける幸運に恵まれた。
魯迅の強烈な人格に打たれて「今の中国にはこのような人のいることを、このような人の出てくる中国の現実とともに日本に報せたい」と願って書いたのが『魯迅伝』である。
・竹内好・武田泰淳・岡崎俊夫らの尽力で主に東大支那文学科の学生・OBを中心に中国文学研究会が発足したのは1934年のことであった。同会は35年から43年にかけて月刊の機関誌『中国文学』全92号を発行、魯迅のほかに周作人、郭沫若、郁達夫、茅盾、老舎、巴金、沈従文などの近代中国文学に代表的作家を紹介、翻訳している。
・太宰治は魯迅を『惜別』で「音痴だが、商家の若旦那の如く小粋」と好感を評するも、竹内好はそれを「おそろしく魯迅の文章を無視して作家の主観だけででっち上げた魯迅像、というより作家の自画像である」と酷評。竹内は『魯迅』で「魯迅の小説はまずい」と断定し「「石鹸」は愚作であり、「薬」は失敗作である。「傷逝」を私は悪作と思う」などと魯迅の作品をこき下ろした。それに対して太宰は「秋の霜の如く厳しい」と評し魯迅に対する作家としての同情を示した。
・竹内好は「政治と文学の対立」という構図で魯迅論を展開するがそれは不毛な観念論であった。
・「竹内魯迅」の戦後の大変貌。1949年の中華人民共和国建国、いわゆる人民革命の成功が大きな影響を与え中国文学者をはじめ多くの日本人が人民共和国に過度の期待を抱き社会主義中国を賛美した。それは蔑視と侵略の半世紀に対する反動であった。
・大胆な意訳と文節化した翻訳文体により竹内好は魯迅文学を戦後日本社会に土着化させるのに成功し、中学国語教科書が国民文学並みに扱うようになった。これは竹内訳の大きな功績といえるだろうが、そのいっぽうで、竹内訳は伝統を否定しながら現代にも深い疑念を抱いて迷走する魯迅文学の原点を見失ってしまったのである。
・・・・。
新書らしい、簡潔で濃密な内容を要領よくまとめている。脱帽である。
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【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/705901 -
魯迅の生涯を語りつつ、魯迅が東アジア各国でどのように読まれ
また中国においては死後どのように利用され、
現在人々に意識されているのかを描く一冊。
読みやすく分かりやすいが、村上春樹に関する記述は
やや過大な印象を受けた。 -
本書の後半は、中国、日本、韓国での魯迅受容について紹介されており、それがやはり貴重で、面白かった。
中国では魯迅は革命の精神を体現する作家として神格化されている。
これは個人的には既に聞いたことがあること。
「故郷」は、「こんなに人民を考えてくれた作家がいたとは」と、感動的な作品として読まれている、と。
本書から知ったのは、そういう中国では、特に若い女性の魯迅離れが進んでいるということ。
思想教育的な要素が敬遠されているとの由。
中国の表の顔と裏の顔を見た気分である。
現在では「個性的読み」の試みが始まっているという話も紹介されていて、今後、中国でのスタンダードな読みはどう変わっていくか、興味が惹かれる。
また、韓国も魯迅の評価が高い国とあった。本書では概略的な紹介だけだったが、このことについてはもっと詳しく知りたい。
また、個人的には魯迅暗殺説(日本人医師に暗殺されたと遺族が書いている!)にショックを受けた。 -
藤井省三が、岩波から魯迅の本を出したとは知りませんでした。
フランツ・ファノンと魯迅のポートレートが貼ってあったのは、高校生の頃の私の部屋です。
どんな新たな魯迅の顔をのぞかせてくれるのか、すごく楽しみです。 -
前半は魯迅の評伝。
後半は東アジアの魯迅受容や教科書にも採用された竹内好訳の問題点について、具体例を挙げつつ指摘する。
魯迅の描いた「阿Q」が、国境を越えて受け継がれているという指摘によって、魯迅の偉大さを改めて認識した。 -
魯迅とはこんなにも影響力を持った人だったのか。これはもっと勉強しないといけないな、と痛感させられた。
著者の竹内好批判も新鮮だった。となると、中国語の読めない私はどの訳本を読めばいいのだろうか。
あと、村上春樹への魯迅の影響も初めて知る。「風の歌を聴け」をもう一度読まないといけないぞ。
なんか、やること一杯にしてくれた一冊だった。いやぁ、面白かった。 -
正直に言ってしまうと、著者訳の光文社古典新訳文庫の訳者あとがきをもう一度読んでいるような気がしてしまいました。
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魯迅に対する肉づけがされた。魯迅の作品も読んでみよう・・・。
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