ネット大国中国――言論をめぐる攻防 (岩波新書)

著者 :
  • 岩波書店
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レビュー : 22
  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004313076

作品紹介・あらすじ

グーグル撤退騒動から、08憲章、漁船衝突事件と反日デモ、そして中国茉莉花革命まで-。中国のいまを読み解くカギは、四・五億人の「網民(ネット市民)」にある。規制と検閲を強める政府と、網民の攻防を活写し、ネット世代「80后」のメンタリティーにも迫る。役人の腐敗や格差拡大が深刻化する中、「ネット言論」は民主化を導くのか。

感想・レビュー・書評

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  • 2011年の「中国インターネット情報センター」の発表により、中国のネット利用者、すなわち網民の数が4億5700万に達したという。ネットで自由に自分の意見を表明する網民の急増とともに、ネット言論ならではの影響力が中国社会に大きな波紋を起こし始める。本書は、中国のネット上における言論自由のあり方、ネット検閲の実態を分析する上で、網民たちと政府との間でネット世論誘導の主導権争いを描いた本である。

    中国における網民の大半を占めるのが、80年代以降インターネットの普及という背景で、様々な種類の膨大な情報の中で育て上げた「80后・90后」と呼ばれる若者たちである。バラエティに富んだ価値観を持つ彼らは、愛国主義教育によりナショナリスティックな感情を持っていると言っても、決して政府の言う通りは行動しない傾向があり、まさにボトムアップ的精神性を持った群像なのである。

    権利意識に目覚め、役人の腐敗や社会矛盾には非常に敏感な若者たちは、言論統制が厳然として存在する中国においても、ネット検閲の眼をかいくぐり、ネットで社会への不満や批判などを頻繁に書き込み、憲法条文に触れないぎりぎりのラインで言論活動を展開している。本書では、ネットユーザー達の怒りの告発により腐敗した役人達の罪が暴かれ、それが激しい抗議活動を引き起こして役人達が破滅したなどの事例がコンパクトかつ丁寧に紹介されている。

    しかし、中国政府はボトムアップ型の言論を必死に制御しようとしている。なぜかというと、「四億五千万人の網民が共鳴し、政府に『反旗』を翻しでもしたら、政府転覆につながりかねない」からである。そのため、政府が敏感な政治内容や有害キーワードなどを検知しフィルタリングするシステムを構築し、偽の意見領袖を通じて政府に有利な偽のネット世論を形成しようとしている。

    本書を通して、中国における言論統制やインターネット規制のあり方が分かり、「ネット上言論の自由を保障する」と表明している中国政府が、中国のネット世論を暗室で操作されていた舞台裏も垣間見える。中国のインターネット実態と言論の民主化に関連する良質の入門書であると思う。

  •  本書の「中国におけるネット事情」を読んで、現在の中国の複雑な事情が明らかになる思いを持った。
     中国の現状は一般にいわれているような単純な共産党独裁政治とは、明らかに違う。西側世界においても「ネットは世界を変える」と言われていたが、中国においても、西側世界とは違う形で「世界を変えて」いた事が本書でわかった。
     「2008年の東シナ海ガス田開発合意」においては、日本においてもいろいろと議論があったが、当時中国のネット世界で胡錦涛政権に対する「売国奴」というネット言論が「炎上」していたとは驚く。
     中国は、ネットに対応する「万里のファイアーウォール」を築き上げて、それを押さえ込んだというのだ。
     なるほど、中国において、「網民(ネット市民)」は2010年にすでに4億5700万人、人口の34.3%にものぼり、急拡大している以上、言論のコントロールは、そうたやすくできるものではないことには、頷ける。
     それに、1980年代・90年代生まれのわがままいっぱいに育った一人っ子の「小皇帝」の「80后・90后」世代がネット言論を支配する。それを「万里のファイアーウォール」で必死に押さえ込んでいる中国政府の姿が本書で浮き彫りにされている思いがした。
     確かに中国は一党独裁の共産党政権ではあるが、これは民主主義のひとつのありかたかもしれない。
     少なくとも中国の政権指導部は「天安門事件の再来」を非常に恐れている。政治が混迷すれば、中国の現在の繁栄はなくなることは、誰の目にもあきらかだからだ。
     本書を読んで、日本の現在の状況を振り返らざるを得ない思いを持った。デフレ経済はすでに20年を越えても一向に脱却できない。総理大臣はここ10年で何人変わったかすぐに思い出すこともできないほど人数が多く、まともな政治ができていないことは明らかだ。
     それに対し、中国の国家主席は「最低5年、最長10年そのポジションが保証される」という。一体どちらが政治体制として優れているのかとの思いを持った。
     本書は、すでに中国はよく理解できない特殊な国ではなくなったと、教えてくれる良書であると思った。

  • 中国ではジャスミン革命は起こらないだろう。

    想像以上に特殊な国なんだ、中国は。

    それにしても筆者の遠藤さんの経歴が強烈。

  • 著者自身の手による後書きによれば、著者の遠藤さんは戦後、中国内戦時に長春市にて中国共産党により兵糧攻めにあい家族を失った過去があるそうです。

    また、その時の余りにもすさまじい光景により一時期記憶喪失になり、その後、中国人の中で罵られて暮らしながらも中国共産党の理念に深く共鳴を覚えたとも書いたありました。

    しかし、だからと言って、遠藤さんが中国共産党、あるいは日本よりに事実関係をゆがめて認識していると言う訳ではないらしく、本書の内容も(少なくとも私には)おかしいのじゃないかと思う箇所は見あたりませんでした。


    さて、前置きはこれ位にして本書のご紹介に移りたいと思います。

    本書は題名からも分かる様に中国のインターネット事情を取り上げた内容となっております。

    中国では共産党政権による激しい検閲が行われており、その検閲の眼をかいくぐって社会への不満や批判などを書き込むネットユーザー達と政府との間でインターネット上の世論誘導の主導権争いが行われていると言うのが本書の主旨です。

    ネットユーザー達の怒りの告発により腐敗した役人達の罪が暴かれ、それが激しい抗議活動を引き起こして役人達が破滅した等の事例紹介が多くなされており、読んでいて、中国のインターネット事情に関する総論ではなく事例紹介がメインの本なのかなと感じる箇所もありました。

    事例紹介以外に中国のインターネット検閲システムについても書かれており、例えば、自国民に外国のサイトを自由に見せない万里のファイヤーウォール・GFWとは何かと言った簡単な説明やポータルサイトに対する(日本の交通違反罰則制度みたいな)点数制度の導入等が紹介されていました。


    また、中国政府のインターネット対策の方針として以下があるらしいです。

    ・中国政府としては、ネットユーザー達の批判が自分たち中央政府に向かう事は断固阻止するが、地方政府に向かう分には丁度良いガス抜きになると考えているらしく、時に地方政府の腐敗を告発するネットユーザー達と歩調を合わせる様な行動を取る場合がある。

    ・五毛党と蔑まれている、中国政府に都合の良い書き込み一つに対して5毛(1元の半分の金額)の報酬を得るネットユーザーを使ったインターネット世論の誘導。

    ・ネットユーザーの中心である80后(1980年代生まれ)、90后(1990年代生まれ)達を頭から押さえつけるのではなく、中国政府を擁護するインターネット上のオピニオンリーダーを育成し、彼らを使って80后、90后の誘導を謀る。


    この様な各種対策を取って国民を誘導支配しようとしている中国政府ですが、対するネットユーザー達は社会風刺、ブラックユーモア、パロディなどを用いて対抗しているとの事。

    本書ではそれらの実例も紹介されていました。


    これ以外に、若いネットユーザー達の深刻な就職難やインターネットを通じて様々な視点から物事を見る様に習慣などが政府に対する批判の背景にあると指摘。

    しかし、中国人は共産党政権が国家を発展させた事も覚えており、(共産党の代わりがないという自覚も重なり)政権転覆までは考えていない点も記載されていました。


    更にグーグル中国撤退の経過に関する解説やポルノ取り締まりを契機にした検閲システムの強化などについても書かれており、中国って検閲がすごいんだよなあと言う事しか知らない方(つまり、私を含めたほとんどの日本人にとってと言う事になるのでしょうが。。。)にとって色々と参考になる事が多い内容です。


    一読をおすすめします。

  • 移り変わりの早い中国の中で少し前の話になる。グーグルが撤退するに至った経緯やその他、国家としてどのようにネット規制をしていくかについて書かれている。グーグル(谷歌≒谷哥)が撤退する時、グーヂエ(谷姐:www.goojie.com)を即座に作り上げたグーグルファンの話や、河蟹、グリーンダム等々、ネット民のユーモラスなレスポンスについても書かれている。その辺りは洋の東西に関わらず同じような物なのかもしれない。著者はネット上でも現状に批判的な事をよく書いているが、後書きを読むととても熱い想いを持っており、批判的になる心情がとてもよくわかる気がする。以下、必ずしもネット規制に関わった箇所ではないが、興味深かった箇所を抜粋。

    P33.日本では議会制民主主義制度というものが定着している。ただ現在の制度は日本の大衆が渇望してやまずに勝ち取ったものではない。第二次世界大戦の敗北によってアメリカからもたらされたようなものだ。それを受け入れる事を選択しただけに等しい。

    P77.ウェブサイトに一年間分の点数として100点を与え、減点され30点にまでなった時、そのサイトを封鎖して営業停止にする。当該サイトの編集長、編集主幹ら責任ある立場の者の更迭を指示し、その名簿を作成し、再任を禁ずる。更迭された人のリストを政府が保管し、その後の動向を監視するというシステムが動き始めた、という事だ。

    P124.211工程重点大学(21世紀初頭までに100の重点大学を決定し、その100大学に対してのみ国家予算を大幅に投じる)に指定してもらうため、中国全土で大学間の熾烈な競争が始まったが、その選別の基準の中に学生数の規模が入っていたことが災いした。どの大学も吸収合併を繰り返して肥大化し、学生数の大幅増員に心を砕いた。その結果、学生数が爆発的に膨張し、入口しか考えていない施策は出口における市場ニーズを考慮していなかった。

    P136.若者たちはトップダウンにより形成された主文化(メインカルチャー)領域では日本を嫌い、激しい反日運動に燃えるが、自ら選んだボトムアップの次文化(サブカルチャー)領域では日本動漫カルチャーが大好きで日本のファッションも電化製品も愛用するというダブルスタンダードを持っている。普段は次文化の精神領域で気軽に生活しているが、

  • 結局いまいち中国のネットの状況は分からなかった.
    利用者数が多いのと少し厄介な国であることは分かったが.

  • 「網民主」の到来?〜〜数億人のネット利用者を抱え、それが社会に与えるインパクトたるや絶大であることが容易に感じ取られる中国の昨今。ネット利用者の急激な増加が「リアル」な中国社会にもどのような影響を与えているのかを振り返りながら、今後どのような展開を見せていくかを考察した作品です。著者は、『チャイナ・ナイン』などの共産党深部に迫る著作が高い評価を得ている遠藤誉。

    本書を読むに当たっては、著者が執筆を始めるに当たっての意図を記した「あとがき」から読むことをオススメします。インターネットの拡大とそれに伴う市民の情報発信・受信能力の向上が中国という文脈においていかなる意味を持つものなのかが端的に著述されており、「たかが」ネットの影響がとんでもない次元にまで及ぶ可能性があることを感じ取れるかと思います。


    単に情報を上から管理するのではなく、一般の利用者と同じ地平に立って情報を誘導していくという中国の「官」の動き、そしてそれに対抗すべく知恵とユーモアを張り巡らせる「民」の動きにも、それぞれ別の意味で感心させられました。特に「民」の動きについては、それそのものが自己表現や情報への追求の表れとも映り、ネット利用者の大半を占める若者の持つ嗜好の一端を除くことができた気がします。

    〜インターネットの到来という、「時代の子」としての中国は、共産党先制下にありながら、「社会主義国家」という政治体制を崩すことなく、否応なしに、中国独特の「民主」を模索することが余儀なくされているということができよう。〜

    それにしても今の中国の地方の要職にいる人って大変そう☆5つ

  • 2013 12/30読了。借りた本。
    グレート・ファイア・ウォール内の中国におけるネット利用の状況・・・特に4億数千万のネット利用者の中には1980年代、1990年代生まれの若者が多いこと、彼らの持つ権利意識とそれに基づく行動がネットによって拡散されやすいことが社会にどう影響しているかと、一方でどういうラインの書き込みは共産党当局に規制されるのか等を書いている。

    ・国家体制転覆につながるような、西洋的な民主化を求めることにつながる動きは即削除、逮捕の対象
     ⇔・地方政府の腐敗への反発など、現在の枠を維持した上での問題の指摘や権利の主張は実際の改革・改善や腐敗当事者の処分につながっていたりもする。県レベルの役人が特にネットを恐れる

    ・結論としても、共産党体制は現状それに代わるものがないので存続するだろうとしつつ(体制転覆するような民主革命は起こらないとしつつ)、現体制内でのネットを介した民主化・・・人々の意見が政府に反映される形態に変わっていくのでは、という落とし所

    ・中国内のネットの規制ってどんな感じなのか+それでも大きな影響力を社会に持っている点が面白い
     ⇔・出てくる事例が21世紀の大国の話とは思えないエグさ・・・なんなん、幼児誘拐⇒人身売買⇒闇レンガ工場で強制労働、って。「闇レンガ工場」の時点で予想の斜め上に行っている・・・。

  • 中国社会についてにわか勉強

    【覚えておきたい点】
    網民=ネット市民 意見領袖=オピニオンリーダー
    ネット言論は,地方政府の不正是正等に大きな力を持っている。
    政府のネット管理は,監督・検閲から意見領袖を通じての誘導に変わった。
    政府批判が許容されるかどうかは,欧米民主主義の影響下にあるかどうかによる。(影響下になければ許される)

  • 中国で生まれ幼少期は毛沢東を崇拝するように育てられたという筆者が、中国のネット社会を解説する。
    革命以降に生まれ育った80后90后がインターネットやSMSを駆使してボトムアップな行動、デモを起こしていく。中国という国は情報統制があり、また共産党政治と資本主義市場が両立しているという特殊なケースな気もするが、ネットから現実に行動がうつっていくというのは面白い。チュニジアの革命の例もあるし、ほんとに革命おきないかなーと思います。
    日本では一応メディアは第四の権力とか言われてたりしていて、まあそれが機能しているかどうかは別として規制も緩いが、そういった国は実は世界では少ないそうです。

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著者プロフィール

1941年中国吉林省長春市生まれ。1953年帰国。東京福祉大学国際交流センター長。筑波大学名誉教授。理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『チャイナ・セブン 〈紅い皇帝〉習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』(以上、朝日新聞出版)、『完全解読 「中国外交戦略」の狙い』(WAC)、『ネット大国中国――言論をめぐる攻防』(岩波新書)、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』(日経BP社)など多数。

「2015年 『香港バリケード』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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