デスマスク (岩波新書)

著者 :
  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (239ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004313410

作品紹介・あらすじ

私のものでありながら決して自分では見られない「死顔」を、形に留めるデスマスク。人はいったい何を表現すべくそれを作ってきたのか。古代ローマの蝋人形から王と教皇の中世を経て、近代の天才崇拝、「名もなきセーヌの娘」まで。生と死、現実と虚構、聖なるものと呪われたもののあわいに漂う摩訶不思議な世界をたどる。図版多数。

感想・レビュー・書評

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  • 古代ローマのハイパーリアリズム(仮)

    11 老い=権威、英知、名誉

    頭蓋進行

    36 カントーロヴィッチ「王のふたつの身体」
    47 トランジ

    52 遺体処理の方法
    肉と骨の分離

    身体の分離→複数の場所に埋葬

    58 アガンベン
    権力の二重化←天上の神と子イエスの二重化という神学的構造

    80 教皇至上主義=フランス王家への対抗意識

    サケル 聖なると呪われたという両義性

    『イメージの地層』

    技芸ars 職人artisan

    118 パスカル『パンセ』

    ポール・ロワイヤル
    138 レアリテとフィギュール

    人民の友 マラー

    151 ロベスピエール

    フランス革命
    国民的催眠状態ジュリア・クリステヴァ

    176 天才崇拝
    →自律的存在

    ウラジミール・ジャンケレヴィッチ『死とは何か』「ぞっとする風習」批判



    隈取り

  • 「人の手によって描かれたものではない」(p136)故に
    「正統と認められうる唯一のキリストの肖像であり、
    その奇蹟の肖像であ」(p138)るヴェロニカの聖顔布等と
    通じるところがあるというくだりには、
    そうきたか、という印象。
    それゆえ絵画・彫刻等の視覚的なイメージに否定的な一派でも、
    いわば自動的にできるデスマスクは例外なのかと。
    (このあたり同著者の『キリストの身体』(中公新書)の併読をおすすめしたい。)

    また、キリスト教社会において、
    古代オリエントの神像よろしく
    権力者が変わる毎に忙しく飾り替えられる像の話も印象的。

  • 書架でみかけて。

    むかし見た映画で、
    ヨーロッパでは亡くなった人の写真を撮る風習があったと知った。
    随分奇妙な風習だな、とその時思ったが、
    その流れは「デスマスク」からきたものかもしれない。

    ローマでは死者の蝋人形(イマギネス)が先祖崇拝の一種として屋敷に飾られ、
    蝋人形をつくることが高い家柄にのみ認められた権利だったこと、
    子孫の葬列に先祖の人形が持ちだされたこと、
    デスマスクをとってイマギネスを作ったことが明らかにされている。

    その流れをくんで、ヨーロッパの王たちは亡くなるとデスマスクをとられ、
    それをもとに肖像人形をつくり、生きているかのように扱われて、
    壮大なる葬儀の主役を務めたということは初めて知った。
    そう言われてみれば、ヨーロッパの教会の中で、
    生前の姿の大理石彫刻が施されたお墓や、
    もっと生々しい人形があるのを見たことがある気がする。

    (遺体からは心臓と内臓がとりさられて、それぞれ柩に収められるとあった。
    まるでエジプトのミイラ?)

    マダム・タッソーの蝋人形館も行ったことがあるが、
    マダム・タッソーは単なる興行主ではなく、
    蝋人形の製作者だったのを知っておどろいた。
    有名人に生き写しの蝋人形は見て、
    何となく怖いなと感じていたのは、
    その起源、存在が「死」とともにあるからなのかもしれない。

    いろいろ知らなかったことを知れて面白かったが、
    日本では「腐敗」が進むのが早くて一カ月も遺体を保管するのは難しいだろうな、とか、
    デスマスクを取るにも「平たい顔族」では全部同じ顔になってしまうだろうな、
    と余計なことばかりを考えてしまった。

  • ●興味深いテーマだった。「死顔」を形に留めるデスマスクは、何のために作られるのか、その文化に触れる。

  • 新書文庫

  • 新着図書コーナー展示は、2週間です。
    通常の配架場所は、1階文庫本コーナー 請求記号:304//O38

  • 【自分のための読書メモ】
     タイトル『デスマスク』と作者の名「岡田温司」の名にひかれ、ジャケ買い。前作『グランドツアー』が面白かったので期待大。
     内容はといえば、古代ローマから近代にいたるまで、各時代において「デスマスク」が「宗教的、社会的、政治的、文化的、芸術的、あるいは人類学的に、それはいかなる役割を担ってきたのか」(pⅱ)を丁寧に追ってある。
     面白かったのは、第7章。18C末から19Cはじめの観相学、骨相学が「デスマスク」と結びつく。
     ラファーターの観相学から、チェーザレ・ロンブローゾの犯罪人類学。科学的な言説を装う決定的で差別的な言説。これがナチスドイツのホロコーストにつながる流れは、僕の大好きな高山宏の本に書いてあった。その中に、デスマスクが「格好の餌食」として取り込まれていくという指摘。これが一番の収穫。

  • デスマスクという興味深いが、多分にイロモノ的な一ジャンルに限ってのややマニアックな評論——かと思いきや、「裏」西洋美術史とも言うべき、非常に刺激的な快著であった。

    西洋美術と聞かされると、ミロのヴィーナス、モナ=リザ、ダヴィデ像、絢爛華麗な宗教画や、豪奢で権威的な王侯貴族の肖像画などがまず思い浮かぶ。それらのとりすました美しさこそが西洋美術だという私の貧しい固定観念は、本書によってみごとに転覆させられた。
    為政者、富豪、革命家、天才、罪人、自殺者たちの生と死の軌跡を、くっきりと浮かび上がらせた石膏像。あの「お高くとまった」西洋美術に、かくもなまなましく、鮮烈な表現があったとは…これまで敬遠してきたジャンルに親近感が湧いた。
    終章の「名もなきセーヌの娘」など、特に私好み。彼女のことは寡聞にして知らなかったのだが、俄然興味をかきたてられた。

    2012/6/7読了

  • ルネサンスの芸術作品の背景にデスマスクの伝統、習慣があったことを知った。うりふたつ・・というのは、究極にはやはりデスマスクありきだったのはうなづける。
    それにしても、ギロチンで落ちた首を逐一、石膏で固め・・・とした職人にも驚いた。だから後世に残るロウ人形は間違いなく当人の表情なのだ。

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著者プロフィール

岡田 温司(おかだ・あつし):1954年広島県生まれ。京都大学大学院博士課程修了。京都大学名誉教授。現在、京都精華大学大学院特任教授。専門は西洋美術史・思想史。著書『モランディとその時代』(人文書院)で吉田秀和賞、『フロイトのイタリア』(平凡社)で読売文学賞を受賞。ほかに、『反戦と西洋美術』(ちくま新書)、『西洋美術とレイシズム』(ちくまプリマー新書)、『最後の審判』『マグダラのマリア』『アダムとイヴ』(中公新書)、『デスマスク』 『黙示録』(岩波新書)など著書多数。

「2024年 『人新世と芸術』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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