子どもの声を社会へ――子どもオンブズの挑戦 (岩波新書)

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  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004313533

作品紹介・あらすじ

兵庫県川西市の「子どもの人権オンブズパーソン」は、子どもの小さな声に耳を傾け、関係者をつなぎ問題の解決を図り、時には制度改善にまでつなげる。この希有な公的制度の中で、子どもたちの息詰まる状況をつぶさに目にしてきた著者が、その問題解決の思想を紹介し、問題の核心を明らかにして、これからの社会の可能性を提案する。

感想・レビュー・書評

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  • 「子どもの声を聞き、対話を重ね、関係性に働きかけ、子どもの傍らに立つ」子どもオンブズパーソンについて紹介されている一冊です。

    ソーシャルワーカーとしては、同意できる部分が多くあり、また、すぐにでも仕事に取り入れたい部分も多くありました。

    唯一、学力保障に関する部分だけが同意しきれなかったです。
    私の読み込み不足かもしれないのですが。。
    私は学力保障の重要性をとても強く感じています。
    学力がほとんど身についていない、、、日常の読み書きでさえ厳しく、おそらくそのことによって生きづらさが増している子どもと出会うことがあるので、、生きていくために最低限の学力保障は必要だと、私自身は考えています。
    そして、義務教育期間の子どもであれば、学力保障を担うのは学校が中心になるのではないかと思います。(家庭のサポート力のあるところでは、この課題は生じてこないと考えられるので。)

    おそらく地域性のこともあり、本書で取り上げられている「子ども」像と、私がイメージしている「子ども」像が違っているのではないかと思います。

    子どもを「子ども」として論じることの難しさに気付かされました。

    そういうことも含めて、とても学びの多い一冊でした。
    子どもに関わる仕事をされている方にはおすすめの一冊です。

  • 昨年「子どもアドボカシー」というものを知り、それにちなんだ本として読んでみた。兵庫県川西市の「子ども人権オンブズパーソン」制度にかかわる著者が活動の内容から社会のあり方までを綴る。
    川西市の子どもオンブズは子どもの権利を守り寄り添う先進的な仕組みとして、その世界では知られているけど、一方でどうして「子どもオンブズ」がありながら「子どもアドボカシー」というよく似ているけど別の名前の仕組みがいま広がりかけているのかと、ちょっと不思議に思った。そのくらい(この本を読む限りでは)川西市の「子どもオンブズ」の仕組みってよくできているし、実際にも機能している感じがする。なのになぜ?
    一方、子どものついてだけでなく後半は現代社会のあり方についても書いてある。無理を強いたり同調圧力が強かったりする現代日本社会が子どもを苦しめているわけだけど、それは大人をも苦しめているもの。「自立支援」っていうのも社会でいろいろこの名のもとに「支援」がなされているけど、厳しい社会から振るって排除しておいて、その後で包摂する。その包摂が「自立支援」の名のもとに行われるという見方、「排除してから包摂する」(p.174)=自立を強いる支援(?)に落とし込まれるという構図。なるほど、悲しいけれどうなずける。
    そして、こんな社会でより苦しめられるのは子ども。あたりまえのことだけど、現代日本社会において子どもだけのことを考え策を出しても、それは表層の策に過ぎない。社会全体を変えていかなければいけないというわけ……なんだけど。

  • 教員を始め教育や子どもに関わる仕事をしている全員にとっての必読書。

    能力をわかちもつ
    社会の問題構築を知る
    エンパワメントとはゆるめること

    子どもに真の意味で向き合うために大切なことが、この1冊に散りばめられている。

  • 自分とは相いれない思想の本をこれほどしっかり読めたことはない。私は教育はもっと個の能力の開発に焦点を絞るべきだと思っているし、成長を希求することが社会全体の活力につながると信じている。

    でもこの数十年日本にはびこるおかしな「自己責任論」と「個人主義」には強い違和感を覚えている。

    この本はまったく違うアプローチではあるが、同じ問題点をとらえ、個々の事例で具体的に説得してくる。

    この本の主張に簡単には同意できないが、対立項として読むべき価値のある本だ。

    ********
    現在の社会的な価値観でもって「排除」され、力を奪われたまま、社会保障で「包摂」される。その包摂に「自立支援」という発想が色濃くなってきたのだ。「排除されてから包摂する」という現在の社会保障のあり方をとう作業が、私たちの課題として明確になってきた。

    スタートラインが一直線だということが前提の「機会の平等」は、個人の努力だけで人生の課題を乗り越えようという考え方であり、それは個の発達重視の近代教育思想の限界でもある。

  • 川西市の子どもオンブズパーソンにいる著者による、受けた相談とその解決に至る道筋を元にした、社会に対する変革のススメ。
    子どもの気持ちが大人に受け止められていないことが、相談に来る子どもたちの実感にある。子どもと大人の間にコミュニケーションを成立させることをオンブズパーソンが陰から日向から支える。
    なぜ、子どもの気持ちに向き合う時間や心の余裕が持てないのか。相談から直接示された実態や社会理論から示す。
    関係性の中で自らの力を発揮できるようになることで、「能力」を示すことができる。その関係性がなければ、その人の力を測ることはできないそうだ。

  • 問題を抱える子どもたちは、誰もが大人に話を聞いてもらいたがっている。保護者にもそれぞれの悩みがある。
    そんな人たちの話を聞いて、必ずしも解決に導くことを目的とするのではなく、少しでも事態を「ましにする」のがオンブズパーソンの仕事である。少しきっかけを与えれば、自分で解決まで持っていく力が子どもたちには備わっているという考えがあるからだ。
    川西市オンブズパーソンの代表を務める筆者が実際に相談を受けた内容とその対処法を中心に、決して力の強くない子どもたちの声を読者に伝えようという試みが見られる一冊だった。

  • 人間関係を修復すれば、子どもたちは徐々に「力」を取り戻す。
    これがこの本の主要なテーゼだったと思う。
    子どもたちは過度に競争化されたこの社会で、疲れを溜めたり、立ち止まって置いてきぼりにされている。要所要所で立ち止まることは本来成長に必要なはずのことだが、子どもを取り巻く大人たちも余裕をなくしていて、十分にサポートできていない。このようななかで、大人と子ども、子どもと子どもとの関係修復の手助けをするのが子どもオンブズパーソンである。子どもの声を代弁するのだ。
    年々担当区域内での認知度は増し、相談・解決の件数も増えている。こうした個別対応と同時に、子どもの病理を生み出す構造を変えていく提案もしていく。それが、子どもの声を社会に通していくという意味ももつのである。しかしそれにも限界はある。問題の一番の原因は、子どもも大人も余裕を失う(命を削りながら生きることになる)、過度な競争社会であるが、これは提案権のある区域だけでなせる改革ではない。広く社会に訴えていくべきことだ。。
    ―――
    もうすこし解決に至る過程と、その分析を詳しく書いて欲しかったが、全体的にはおもしろいし、読みやすいし、参考になった。
    (星3つは”標準的なプラスの費用対効果”の意である)

  • 子どもが、いじめや子どもをとりまく困難と取り組めるよう助けるために考案された公的な制度「子どもの人権オンブズパーソン」。兵庫県の川西市でオンブズパーソンを務める著者が、その制度について、オンブスパーソンがどのように関係に働きかけ、社会に働きかけていくかを伝える。そして、「問題」のつくられ方にはその社会のありようが反映しており、どう考えていけば問題解決に向かえるだろうかということも書いている。

    オンブズとは、「公正中立の立場に立って行政を監視する機能を持つ市民の代理人の意味で使われ、調査に基づいた勧告などを行う権限がある。」(p.12)

    川西市のオンブズパーソンのページには、条例第1条(目的)を子どもたちにもわかりやすくと書きなおしたこんな文章がある。

    子どもは、みんな人間として大切にされなければなりません。
    子どもを大切にする社会は、みんなが幸せになれる社会です。
    一人ひとりの子どもが人間として大切にされる社会をつくることは、おとなの責任です。
    だから川西市は子どもの権利条約を大切に実行していきます。
    子どもを守る「子どもの人権オンブズパーソン」をつくります。
    そして一人ひとりの子どもの人権を大切にして、たとえば、いじめ、体罰、暴力、虐待などで、子どもが苦しむことのないようにします。

    川西市の条例は、子どもの権利条約の批准をうけてつくられた。条例に定められているオンブズパーソンの職務は、「個別救済」(子ども一人ひとりを助ける)と、「制度改善」(個別救済によって見えてきた市全体の課題について、市の機関へ提言できる)。教育委員会からも独立して権限を付与されている。

    川西オンブズは、対話を重ねていくことに徹し、関係に働きかけていこうとする。その具体的なところは、2章と3章で紹介されている。

    子どもの声をまず無条件で聞く。相談を受けたら、まず話を聞く。そして、子どもの気持ちに添って、当事者(子ども)と対象(たとえば学校の教職員や親)との「関係」に働きかけようとする。子どもに対して加害者になってしまった大人には、責任追及にいくのではなく、理解を求めにいく、子どもはこんな風に感じているのだと伝えにいく。誰か悪者をつくって責めるのではなく、「子どもの気持ちを理解できないくらい余裕のない状況になぜ大人が置かれているのかを考えると、その社会的な構造が浮き彫りになってくることが多い」(p.64)。

    ▼私たちはこのように考えている。
     ひどくなっている事態が深刻にならなければ、それでいい。
     関係が悪くなっている相手の許容度が少し「マシ」になれば、それでいい。
     関係の尖った感じが少しゆるめば、それでいい。
     消極的に思われるだろうか。しかし、少し「マシ」になるとか、少しゆるむと、すべての関係に影響が出てくるということを難度でも強調しておきたい。そこで、関係は徐々に、そしてダイナミックに、つくりなおされていく。(p.68)

    "対話を重ねていくことで「関係」に働きかける"を基本として活動してきた川西オンブズだが、近年は対話で解決していくことが難しい例もあるという。「意見を述べることで事態を良くしていくというイメージを、子どもも親も持てていない」「自分が工夫して事態が少しでも変わったという経験を持ったことがない」(p.103)というのがその要因であり、そこには時代状況の影響も感じられると。

    相談を聞き、次への動きを勧めても、それをためらう親や子どもが目立つようになったと相談員も感じているという。意見を述べることで、地域が学校から「浮く」ことを怖れ、改善よりも現状をやり過ごすことを選ぶ傾向がみられるというのだ。

    「社会とは没交渉でいく」というあきらめの態度をうみだしているのは何か?

    ▼一般論の集合体である世間の視点が、問題は子どもだ、家庭だ、学校だと決めつけた結果、関係する者たちはついに社会とは没交渉でいくといった生き方を選んでいるのである。徐々に他者とは没交渉を選ぶようになった人々は、同時に、対話ややりとりを重ねて、自分たちが安心して暮らせるように社会をつくり変えていく術をも手放しつつある。(pp.105-106)

    ここに希望を伝えていくことができるか?
    ここまで子どもや大人をぎゅうぎゅうと苦しくさせているのは、何だろう?

    終章の「能力を分かちもつ」、とくに後半の「能力の共有という可能性」は、おもしろかった。著者は、能力はひとりのものではない、分かちもたれるものだと言い、しかし、日本を含む先進国では、能力=個人が生きていくためのツールとして理解され、「教育」も「学力」もその線上にあって、落とし穴になっていると示す。小見出しには「高校全入の光と影」「「機会の平等」が招いた競争」「「人権としての教育」の誤算」「「自立支援」という自己責任幻想」などが出てくる。

    能力は個人のものか?
    ▼能力が個に分断されることで、人々には能力がもつ共同性が見えにくくなった。しかし、あなたの「力」は、知恵が分かちもたれてあなたに現れたものであり、それゆえその力は関係的であり共同のものなのだと言えるだろう。そもそも能力とは個に還元できないものなのだ。(pp.192-193)

    エンパワメントとは「ゆるめること」だという著者の話がここに響く。緊張している子どもの緊張がゆるむとき、そして関係性に守られるとき、子どもには力が戻ってくると。学力に"問題"のある子どもを取りだして、放課後や休み時間にせっせと学力保障の指導をしてきたある先生が、休み時間には皆で遊ぶことに方向転換してみたら、「子ども同士の関係が育ち、その子に力がついてきました」(p.188)という話も印象深い。

    「ひとりが充分には「できない人」であっても、力を分かち持つという思想が制度設計に活かされたら」(p.199)という発想、社会的な問題を決して「心構え」の問題にしてはいけないというところ、「子どものケア」ではなく大人にとって「子どもがケア」だと気づいた話が、よかった。

    もうひとつ、読んでいて思ったのは、児童相談所でこんなこまめな働きかけができへんのかなということ。児相も、子どもの相談に乗り、支援しようとする組織なのだと思うが、川西市の規模やオンブズの制度設計、予算などと、児相のそれとでは、どのへんが違うんやろうと思った。この本ではスクールソーシャルワーカーとの違いについては述べられていたが、川西では、児相との役割分担?どんな風になってるんやろうなと思った。

    *川西市子どもの人権オンブズパーソン(条例全文もこのページに)
    http://www.city.kawanishi.hyogo.jp/shimin/jinken/kdm_onbs/

    (6/24了)

  • 前半は「子どもの人権オンブズパーソン」の役割と事例紹介。後半は背景にある能力主義・競争主義社会に対する批判と、社会への提案。

    誰かを責めるのではなく、人間関係へのはたらきかけを通して、子どもの悩みを解いていくきっかけをつくる「調整」と、枠組みにはたらきかける「調査」の2要素を強調して説明している。
    子どもの最善の利益を考えていく姿勢には感銘を受けたし、マクロ経済からの論理分析も交えており読み応えがあった。

    教職寄りの執筆かと思いきや、そうでもない。教養本としてもオススメ。

  •  兵庫の川西市のオンブズパーソンで教育担当となった著者の話である。社会の「減速」と能力の共同性という意見には同感されるものがある。教育現場としてオンブズパーソンが必要であるということが強く感じられる本である。

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著者プロフィール

University of the Philippinesなどを経て、大阪市立大学大学院生活科学研究科博士課程満期退学。博士(学術)。現在、関西学院大学人間福祉研究科教員。専門は教育社会学、社会思想史。主な著書に『子どもの声を社会へ――子どもオンブズの挑戦』(岩波新書、2012年)、『市民社会の家庭教育』(信山社、2005年)、『揺らぐ主体・問われる社会』(広瀬義徳との共編、インパクト出版会、2013年)、『戦争への終止符――未来のための日本の記憶』(グレン・フックとの共編、法律文化社、2016年)、『「民意」と政治的態度のつくられ方』(工藤宏司/桜井智恵子/広瀬義徳/柳沢文昭/水岡俊一/堅田香緒著、太田出版、2020年)、「反自立という相互依存プロジェクト」『自立へ追い立てられる社会』(広瀬義徳/桜井啓太編、インパクト出版会、2020年)など。

「2021年 『教育は社会をどう変えたのか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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