夢よりも深い覚醒へ――3・11後の哲学 (岩波新書)

著者 :
  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004313564

作品紹介・あらすじ

「不可能性の時代」に起きた3・11の二つの惨事は、私たちに何を問うているのか。日本で、脱原発が一向に進まないのはなぜなのか。そもそもなぜこれほど多数の原発が日本列島において建設されてきたのか。圧倒的な破局を内に秘めた社会を変えていくための方法とは?オリジナルな思考を続ける著者渾身の根源的な考察。

感想・レビュー・書評

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  •  最低限、同著者の『不可能性の時代』(岩波新書)を読んでいないと、まったく理解できないと思われる。相変わらずの衒学趣味とアクロバットな力技には辟易させられることもあるが、さまざまな社会問題に対するちまちました対症療法の繰り返しにうんざりしている向きには魅力的な問題提起ではある。少なくとも第3章と第5章は社会運動論として読むに値する。

  • 東日本大震災と原発事故が問いかけている倫理的な問題について、さまざまな思想的資源を活用しながら、考察をおこなっている本です。

    著者は本書の冒頭で、脱原発という方針を「いきなり結論」として提出します。しかし問題は、これまでもこれからも、原発をめぐる議論がロールズの想定するような民主主義的な議論の枠組みによって正解に到達することができないという点にあります。著者は、バーナード・ウィリアムズの提起した「道徳的運」の概念を用いて、行為の倫理的な価値が偶発的な結果によって遡及的に決定されてしまうという問題や、ロールズの「無知のヴェール」という装置では未来世代との連帯を基礎づけることができないといった問題をあげて、このことを明らかにします。

    そのうえで著者は、ユダヤ・キリスト教における神義論や、マルクスによるプロレタリアートをめぐる議論、さらには江夏の二十一球のエピソードなどを紹介しながら、問題を掘り下げていきます。著者は、この否定的な現実が神の国であるという逆説をバネとすることで、新しい倫理を立ちあげることができるという見通しを語り、さらに真理を知らない社会運動の指導者が、いまだわれわれによっては到達しえないでいる未来の他者との連帯の道筋を切り開くことの可能性が論じられています。

    本書では、原発をめぐる問題が、倫理というフィールドにどのような問題を投影しているのかということについて議論が展開されていますが、中心的な問題はむしろ、ロールズの想定する民主主義によっては連帯することが不可能な他者との連帯の可能性を示すことにあると理解することができます。ただその結論については、アポリアをすべてパフォーマティヴな次元に投げ込んでしまっているだけではないかという疑問も感じます。

  • 夢よりも深い覚醒へ――3・11後の哲学 (岩波新書)
    (和書)2012年07月22日 15:51
    大澤 真幸 岩波書店 2012年3月7日


    原発についてからイエス・ソクラテスへそしてヘーゲルとマルクスの思考方法など思考がなされている。

    ハンナ・アーレントが危険思想はない思考することが危険なのだと言っている。
    そして思考停止こそ悪である。

    そういう意味で、3.11後から神・世界・人間を思考し続けるその姿勢は、それ自体、思考停止することを強烈に批判している。

    見習った方が良い姿勢だと思う。

  • f.2020/8/3
    P.2012/3/26

  • 1「未来の他者」はどのようにしたら、私達の意思決定コミュニティーのメンバーに入れることができるか?

    2「神の国」に近づくためには、現実をどのように位置づけることができればよいのか?

    3自分たち自身を「プロレタリアート」として認識することはできるか?

    同じ頂に登るための3つのアプローチについてのスリリングな論考。
    リーダブルであるが、私には難しいことも多いのが正直なところ。
    要再読か。

  • この話は鮮度が大事で、仮に3.11から数年を経てこの本が出されたのだとしたら大澤氏にしてはあまりに思考が浅いのでは?と思ったけど3.11から1年も経たずに出版されてたことをあとがきで知り、そのスピード感はさすがだなと思った。
    震災・津波や1F事故を宗教的、哲学的観点から捉えて社会構造、意識構造を問うていくのはやはりこの人の持ち味だろうなと思う。けど『虚構の時代〜』から続けて読んできてある種「大澤ワールド」が深化してどんどん氏のフィールドの中だけで話が膨らんでいってるような印象も受ける。読み物としては面白いけど、わたしにはどこかフィクションを読んでるみたいで、実践的かと言われるとうーんと思う。と言いつつやっぱり面白いので、これからも読むと思うのだけど。
    ところどころ、さすがに暴論では?と思う箇所もいくつかあったけど、わたしと氏との思想の違いなのかな。100%賛同はできないけど、読んでよかったと思う。

  • ここに述べられている論考は、特殊で、読みものとしては興味深いが、とても受け入れられるものではない。

  • 哲学
    思索
    東日本大震災

  • 自分では当然と思っている事が、周りには受け入れられない。

    著者にとって、その1つが原子力発電です。危険で廃止するのが自明と思っているのに、3.11にもかかわらず廃止という意見が少ない。

    そんな時、ただ声高に主張するのではなく、どう行動すればよいか?

    著者は持論を展開していきます。それを成功/失敗と批評するより、「では、自分ならどうするか」と読後に各々が行動を工夫する事が、この本の効果になると思います。

  • 【つぶやきブックレビュー】3.11鎮魂の日。あの日から6年・・・

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著者プロフィール

大澤真幸(おおさわ・まさち):1958年、長野県生まれ。東京大学大学院社会学研究科博士課程修了。社会学博士。思想誌『THINKING 「O」』(左右社)主宰。2007年『ナショナリズムの由来』( 講談社)で毎日出版文化賞、2015年『自由という牢獄』(岩波現代文庫)で河合隼雄学芸賞をそれぞれ受賞。他の著書に『不可能性の時代』『夢よりも深い覚醒へ』(以上、岩波新書)、『〈自由〉の条件』(講談社文芸文庫)、『新世紀のコミュニズムへ』(NHK出版新書)、『日本史のなぞ』(朝日新書)、『社会学史』(講談社現代新書)、『〈世界史〉の哲学』シリーズ(講談社)、『増補 虚構の時代の果て』(ちくま学芸文庫)など多数。共著に『ふしぎなキリスト教』『おどろきの中国』(以上、講談社現代新書)、『資本主義という謎』(NHK出版新書)などがある。

「2023年 『資本主義の〈その先〉へ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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