ルポ 良心と義務――「日の丸・君が代」に抗う人びと (岩波新書)

著者 :
  • 岩波書店
3.13
  • (3)
  • (4)
  • (3)
  • (4)
  • (2)
本棚登録 : 68
感想 : 15
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004313625

作品紹介・あらすじ

国旗国歌法の制定から十数年。学校には「日の丸・君が代」が入り込み、掲揚・起立・斉唱が事実上、義務化され、それを拒否した教師たちが処分されている。教育現場はどのように変質したか。大阪、東京、北海道など各地で強制に抗う人びとは、何を訴えているのか。苦悩を抱えながらも良心の自由を希求する教師や生徒、市民の姿を描く。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 「この歌は由緒正しい日本の国の学校を卒業したんだという歌だから」歌いなさいと「由緒正しい国」は強制するのだろうか。



    「日の丸・君が代」が国旗・国歌と法制化されて今年で13年。当時の国会審議で政府は「強制はしない」と明言したが、現場はその政府答弁とは裏腹に「強制」「斉唱しない自由」の否定へと大きく舵を切っている。

    条例とはいえ大阪の「維新の会」による法制化、そして橋下大阪市長による「職務命令を拒否する公務員は出ていけ!」という話題だろう。本書はその10年余りの経緯と昨今の動向を踏まえ、教育現場を丹念に取材したルポルタージュである。

    強制されるのは教師ばかりではない。免職のニュースでついつい大人に視線がむきがちだが、「歌わされる子ども」が存在することも忘れてはならないだろう。

    「この歌が歌えないと一人前じゃないんだよ」
    「この歌は由緒正しい日本の国の学校を卒業したんだという歌だから、前の六年生を見習って歌いなさい」
    「歌いなさい」
    「大きな声で」

    歌うことを拒否した少年は、「その威圧感は、卒業式の足音が近づいてくるに連れて次第に強まり、○さんは就寝中にうなされるようになった」……


    大阪、東京、そして北海道で何が起こっているのか。「良心の自由」を掲げ抗う教師や市民たちの苦悩を生々しく描いており、何かがひとりひとりの「人間」を「圧倒」してく様子とそのスピードには言葉を失ってしまう。

  • 君が代の本当の歴史、意味が
    書かれていませんでした

    反対派の人々の中にも
    本当のことを知らないままの
    人も多いと感じました

  •  「君が代・日の丸」に反発するのはなぜか。反対する人たちの「帝国主義の象徴だから」という説明は、今までどうもしっくりきませんでした。それは、思想信条の自由を振りかざしてわがままを貫き通すことではないかと。

     これは長いあいだ僕の「当たり前」だったわけですが、この本は、政治家や国家にとっての「当たり前」が教育に押し付けられてゆく過程を描き出していると思います。

     儀式の一部である不起立はとんでもないことだとか、日本人としての誇りだとか、そうしたものが法を作り、条例となり、それが人々を拘束してゆく。そして、その拘束を拘束と思わなくなってしまう。

    それは、君が代の賛否を巡る議論さえ生じさせないということ。そして、歌うことありきになったうえで歌いたくない人は別室待機などといった形で対処するということ。

     僕が気になるのは、こうしたルールへの信仰とでもいうべきものです。そのルールが時代に合っているのか、根本を検証すべきなのに、ルールへの信仰はそれさえ阻んでしまう。ルールありきになってしまう。そんな中で過ごした人々はルールに疑問さえ抱かない(ばかな僕は、朝のラッシュだって、こんなシステムおかしいと思っている)。

     この本は、君が代・日の丸に反対の立場を広めるための本ではないと思います。むしろこの本で問題になっているのは、是非に関する議論さえも防ごうとする「当たり前」の圧力であり、それに問題を投げかけようとする少数派が無視されていることなのでしょう。

  • 初めて手に取った、君が代歌唱問題を取り扱った本。
    憲法で保証された、思想の自由を強制的に抑えつける事と、それが引き起こすであろう問題についてまとめたルポルタージュ。
    君が代を強制してまで歌わせるな、という意見はまだ理解出来るが、君が代を「自分の信念を持って」歌いたい人、記載こそされていなかったが、「歌いたいけれど、周りが歌わないと決めた人達だらけで、歌えなかった人」について降れていなかったのは残念だった。もう少し控えめの考え持った人の意見も聞いてみたい。

  • 日本ってこんな国になってたんだ。
    日の丸・君が代は今や強制されているらしい。斉唱中に起立しない教員は処罰されるらしい。どうやらそんな国は世界でも日本と中国だけらしい。これは凄い。
    何故そこまでして躍起になって日の丸掲げて君が代を歌わせたいのかというと、エリート日本人を育てたいからみたい。それって選民思想に通じるものがあるような気もするけど。
    個人的には日の丸については別にって気がしていて、何故ならかつて世界を侵略し植民地支配を打ち立てた大英帝国だって戦後に何か反省して国旗を変えたってこともないし、フランスだってアメリカだってみんなそうだ。看板変えれば何か変わるもんでもないし、むしろ背負い続けたほうがいいと思うから。最近の人たちは背負うといってもポジティブにとらえてるだろうけど。
    ただ、いずれにせよそんなもんを強制してやらせるとかってのはなんともはや。しかし、最近の若者が右傾化しているのも納得。教育の力は恐ろしい。

  • 読み始めるのにちょっと躊躇った。
    記される世界は目を逸らしたい怖い現実ばかりだ。
    だけど本当に書いてあるのは「目を逸らすことは怖いこと」という不変の事実。

    考え方を学ぶはずの教育の場で、教員は考えずに従うことを強いられる。
    それを見ながら子供は育つ。
    歴史を見ると独裁体制を支えるのはいつだって、いじめにおける「傍観者」の位置にいる人たちだ。
    読みながら「百枚のきもの」http://booklog.jp/users/melancholidea/archives/1/400110038Xを頭に浮かべていた。

    ちょっと違うけど、ニュースで原発反対デモの参加者が「このデモには政治色がないから参加した」という内容の発言をしていた。いや政治だろ。
    「政党・党派性」と「政治」だとか、「国」と「国家」と「政府」とか、「議論」と「喧嘩」、「意見に対する反論」と「人格全否定」などの区別がつけられないと、話し合いどころか闘うことすらまともにはできない。
    それを教えるのも教育なんだけどその教育のためにまず戦わなくちゃいけないという…

    永井愛の部分が普通の人の感覚っぽくてホッとした。
    良くも悪くもコミットしていない人の、「よくわかんないけどそれ変じゃない?」というとっさの反応。
    これが普通ならいいんだけど、どうなのかな。
    →紹介されていた作品、『歌わせたい男たち』http://booklog.jp/users/melancholidea/archives/1/4880593478

  •  日本の教育現場のむごい状態である。諸外国の状態を心配している現状ではない。こうした状況が変わらない限り、教育のグローバル化はむりであろう。

  • トップエリートを日本人のできる層がおさえ、優秀な外国人労働者を中間層に置き、できない下層の日本人については自己責任を徹底させる。しかし、教育がその気にならなければ、トップエリートは育てられない、そのためには、言いなりになる教員を作っていかねばならない。


    「政治が、教育を支配しないとできない」
    その際に、
    トップエリートと下層の日本人がばらけないような国家イデオロギーの核となるものがいる。それか、日の丸君が代の担っている役割ではないか。

    難波裁判 を支えた特徴のひとつは、'裁判官の言葉'として歴史認識を語っている点。
    「日の丸 君が代」の果たしてきた役割について、明治から第二次世界大戦終了まで、「皇国史観や軍国主義思想の精神的支柱として」使われてきたのは「否定しがたい歴史的事実」である。そこから、「日の丸君が代」は、国旗国歌法制

  • こういった人々がいるのは何だかなーである。
    幸いにしてこれまで習った先生にはこういった人はいなかった。

    反対している人たちも問題をすり替えているような気がする。


    2012/05/19図書館から借用; 5/27に一日で読了

  • メディアが断片的にしか取り上げないので、このようにしっかりした著書を読まなければ、相変わらず片寄った見解しか持ち得ていないだろう。
    たとえば、国歌が気に入らないと言うのなら、なぜ新しい国歌を作らなかったのか・・・というような考えを持っていた。
    しかし、この問題はそういうことが問題のではないのだ・・・ということが明確に述べられている。
    これは明らかに国家が個人の信条を強制的にゆがめようとしている現実であり、ひとつが許容されると、泥縄式に(つまり、戦時中のように)個人の良心がむしばまれていくという、恐ろしいものなのかもしれない・・・・。

全15件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1941年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部卒業。朝日新聞記者を経て、現在ノンフィクションライター。著書に『ドキュメント・昭和天皇〈全8巻〉』(緑風出版)、『合祀はいやです。』『生と死の肖像』(以上、樹花舎)、『反忠神坂哲の72万字』(一葉社)、『ドキュメント憲法を獲得する人びと』(岩波書店・第8回平和・協同ジャーナリスト基金賞受賞)、『日の丸・君が代の戦後史』『靖国の戦後史』『憲法九条の戦後史』(以上、岩波新書)、『蟻食いを噛み殺したまま死んだ蟻──抵抗の思想と肖像』(佐高信との共著、七つ森書館)他多数。

「2009年 『これに増す悲しきことの何かあらん』 で使われていた紹介文から引用しています。」

田中伸尚の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×